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<インタビュー>Billboard Global Power Players vol. 17 エイベックス株式会社代表取締役社長CEO 黒岩克巳

インタビューバナー


 米Billboard誌が、アメリカ以外の国で音楽ビジネスの成功を牽引しているリーダーを称える【Billboard Global Power Players】。各国から音楽業界を牽引するリーダーが並ぶ中、エイベックス株式会社の代表取締役社長CEO 黒岩克巳が選ばれた。今回、本選出を記念し黒岩氏へインタビュー。ブルーノ・マーズとの契約や、グローバル音楽カタログ取得プロジェクトの展望、そして海外展開への課題について話を聞いた。(Interview: 高嶋 直子 / Text: Mariko Ikitake / Photo: 辰巳隆二)


アメリカマーケットにおいてインパクトを残すには

――エイベックス・ミュージック・グループ(AMGL)とブルーノ・マーズのグローバル音楽出版パートナーシップの発表には非常に大きなインパクトを受けました。現在のAMGLの事業内容について、お伺いできますでしょうか。

黒岩克巳:AMGLの事業内容は大きく分けて、レーベルビジネスと音楽出版になります。我々がアメリカマーケットにおいてインパクトを残すには、ユニークなクリエイティブを作ることが第一だと考えました。まずは楽曲や出版ビジネスから参入し、権利を取得しながら現地との強固なシステムを構築してきました。

 今後AMGLが目指すのは、日本やアジアのアーティストと世界の架け橋になることです。AMGLのネットワークには、ジャスティン・ビーバーやドレイクといった世界的トップスターから、ILLIT、LE SSERAFIMなどの最前線で活躍するK-POPグループまで、多岐にわたるアーティストを手がける優秀な作家たちが数多く所属しています。 重要なのは、そうしたトップクリエイターたちが集い、クリエイティブが蓄積される「ハブ」があるということです。この環境があるからこそ、BE:FIRSTやONE OR EIGHT、XGといったアーティストたちに世界基準の楽曲をコンスタントに提供し、新しいものを生み出していく循環が形になってきました。

 日本のアーティストが単身で海外へ進出するのは簡単ではありません。だからこそ我々は現地に「エイベックス・ハウス」や「エイベックス・スタジオ」といった音楽制作の拠点を構えています。この独自の環境があるからこそ、本格的なソングキャンプという共創の場を日常的に作り出し、世界のトップクリエイターたちと日本の才能をダイレクトに結びつける足がかりを作れています。これが機能すれば、自社だけでなく他社のアーティストも含めてグローバルへ羽ばたいていけるはずです。現地の中心で築いてきたこのユニークなネットワークを活かし、これからも様々な展開を行っていきます。

――現地の作家と契約したり、カタログを保有したりすることによって、日本のアーティストの可能性も広げていくということですね。

黒岩:ブランドンとブルーノ・マーズのマネージャーは、家族ぐるみの付き合いをしていて、私も去年9月ぐらいにロサンゼルスで一緒に食事をしました。ブルーノは日本も韓国も大好きです。世界的スーパースターである彼は、常にいろんな挑戦や新しいことに対する意欲に溢れています。今回、音楽出版管理に関するグローバル契約が始まりましたが、具体的にこれからどう発展していくのか、彼自身もものすごく期待してくれています。そうした中で、我々は「APT.」のようなコラボレーションも作りたいし、日本ならではのカルチャーとブルーノを組み合わせ、グローバル規模で仕掛けられたら面白いことが起こりそう、といった構想も考えています。これからグローバルマーケットに直接アプローチできる機会が増えるので、音楽出版管理パートナーシップをきっかけに挑戦していきたいと考えています。

――他には、今年の【グラミー賞】では、AMGL所属の作家カマル・ウィルソンさんがケラーニの「Folded」で〈最優秀R&Bソング賞〉を受賞されました。

黒岩:我々が契約する作家が【グラミー賞】を取るのは初めてです。こうした世界最高峰の実績を持つ作家が我々のチームにいるということは、今後のビジネスに計り知れないポジティブな影響を与えます。

 AMGLの作家であるカマルが楽曲を提供し、アーティストのケラーニと強固な信頼関係を築いているからこそ、彼らの日常的な楽曲制作の中から、「AMGLのネットワークを使って、ケラーニとエイベックスのアーティストをコラボさせたらどうかな?」といった話が自然かつスピーディに生まれてきます。ビジネスライクにセッティングしたコラボではなく、クリエイター同士の信頼と社内ネットワークのつながりから、自然発生的にグローバルな仕掛けが生まれる体制。優秀な作家の権利を抑え、彼らの活躍をバックアップしていくことが、結果として我々のアーティストを世界へ押し上げる非常に良い循環が作れていると感じています。



▲「Folded」MV / ケラーニ

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  1. 「アーティスト輸出を本気で進めるための本当の課題」
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アーティスト輸出を本気で進めるための本当の課題


――総額1億ドル規模のグローバル音楽カタログ取得プロジェクトも発表されました。今後はそういったカタログ取得にも力を入れていくのでしょうか。

黒岩:カタログビジネスは、ストリーミングの時代になったからこそ、その価値が世界的に証明された堅実なビジネスモデルです。過去の名曲は、安定した収益を生み出す極めて価値の高い資産として市場からも非常に注目されています。 ただここで強調したいのは、カタログの売買そのものが我々の目的(ゴール)ではないということです。売買はあくまで「手段」の1つに過ぎません。

 我々が本当にやりたいことは、ブランドンや彼のチームが持つ優れた目利きと人脈(ネットワーク)を徹底的に活かしてカタログを取得し、その価値を最大限に高め、そこから新たなクリエイティブや新しい音楽を生み出していくことです。単に権利を保有するだけでなく、ブランドンとのユニークな取り組みや、これまでにないコラボレーションを通じて楽曲に新しい命を吹き込んでいく。この前向きで創造的なサイクルを作ることこそが、我々の最大の狙いです。

 今回の1億ドル規模の枠組みも、我々が描くこのビジョンに、現地のアメリカ市場が強い共感と信頼を寄せてくれたからこそ実現しました。

――XGが去年の【コーチェラ】で日本人として初めてサハラステージのトリを務めたことも大きな話題になりました。今年もワールドツアーを開催されますし、XGも含めた日本のアーティストの輸出という点で、これからの課題はなんだと思われますか。

黒岩:政府が日本のコンテンツ産業を基幹産業に定め、2033年までに輸出額を20兆円に伸ばすという目標を掲げたことは大きな前進です。これまでエンタメは、ゲーム、アニメ、映画、音楽など、それぞれの業界がバラバラに海外事業を動かしていました。それを政府が「コンテンツ産業」として一つにまとめ、グローバルで稼ぐ力が日本に必要だと示してくれました。これから国が本腰を入れて動いてくれることには非常に期待しています。ただ、日本のアーティスト輸出を本気で進めるための本当の課題は、エンタテインメントがもたらす巨大な波及効果を視野に入れた、国レベルでの強力な仕組みづくりにあると考えています。

 現状、海外公演などのグローバル展開は民間企業がすべてのリスクを負っています。最近だと浜崎あゆみの中国公演がキャンセルになり、多大な資金と時間を投じて準備してきたものが全てゼロになりました。現地の情勢や突発的な不可抗力によって公演が中止になった際、民間企業だけが全ての損失を負担せざるを得ない現状には、まだ改善の余地があると感じています。一企業の損失補填という次元ではなく、エンタテインメントが国にもたらす莫大な波及効果への視点です。例えば、我々が以前テイラー・スウィフトの来日公演を招聘した際、チケットの4割から5割は海外からのファンが購入していました。彼らは飛行機に乗り、ホテルに泊まり、観光をして日本にお金を落としていきます。その経済波及効果は数百億、数千億規模になり、結果として国に莫大な税収をもたらすのです。

 海外に目を向ければ、政府が数十億規模の公的支援やインフラ面のバックアップを戦略的に行い、それ以上の巨大な税収や経済効果を得て国全体を潤している成功事例がいくつもあります。「民間企業が儲かるから」ではなく、外貨を獲得して日本という国全体の経済を活性化させるための投資として、国と民間が一体となって、サイクルを回していくための政策目線が、これからの日本には不可欠だと感じています。



▲「XG WORLD TOUR: THE CORE” Kick Off」

――IFPIの去年の発表では、グローバル全体の音楽市場の成長は6.4%で、日本国内はそれを上回る8.9%に成長しました。特に2025年はフィジカルセールスが好調で、2019年以上のマーケットの成長になったと言われています。デジタルとフィジカルの成長について、御社の2025年の結果はいかがでしたか。

黒岩:当社はこれまでどちらかというとフィジカルに強い会社でしたが、ここ数年でデジタルシフトのナレッジが蓄積され、ようやくデジタルの成長率が市場全体を上回る推移で拡大し、追い越しつつあります。ストリーミングがスタートした当初は試行錯誤の毎日でしたが、積み重ねたナレッジが着実に芽を出し始めています。

――日本ではファンクラブビジネスが確立されているように、アーティストを推す習慣がかなり前からありました。海外はスーパーファンと呼ばれる存在が音楽産業を支え、1人当たりの単価を上げていくとみています。

黒岩:日本には古くからファンクラブの文化が根付いており、現在の「推し活」に代表されるようなスーパーファンが数多く存在します。ファンがアーティストを力強く支えるその熱量があるからこそ、世界的に見てもフィジカル(パッケージ)の大きな伸びに繋がっているのだと思います。 日本だけでも、パッケージとデジタルの売上で3,000~4,000億円、ライヴ市場は6,000〜7,000億円規模になる巨大なマーケットです。デジタルで音楽に触れて好きになり、ライヴに足を運び、グッズやフィジカルを買い、またデジタルで聴くというサイクルが定着しています。

 これからの時代は、ただ良い曲であること以上に、その背景にあるストーリーがファンを動かします。ファンはその物語を信じ、大切にしてくれているからこそ、ライヴへと足を運んでくれるのです。だからこそ、彼らの思いをしっかりと汲み取り、一緒にストーリーを歩んでいくこと。それが、アーティストのファンベース構築における最大の鍵だと考えています。

――最後に、6月に開催される【MUSIC AWARDS JAPAN】についてお伺いします。どのような部分に期待されていますか?

黒岩:透明性と公平性を担保した新しいアワードとして、非常に期待を寄せています。ただ、日本のトップアーティストだけを中心としたドメスティックな展開では、世界的な広がりを持たせることは難しいでしょう。今後は【MUSIC AWARDS JAPAN】自体が、世界の権威あるアワードと肩を並べるような価値を持てるよう、グローバルな視点でポジションを獲得するための戦略的な施策が必要不可欠だと考えています。

 


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