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<インタビュー>「バカバカしいものしか作らない」――『ねこいる!』シリーズを手がける たなかひかるが明かす、“頭が良くならない絵本”の作り方【WITH BOOKS】

Interview & Text: 伊藤 美咲
Photo: SHUN ITABA
書籍や文筆と縁深いアーティスト、また音楽と縁深い作家へ、自身の書籍や音楽とのかかわりについて訊くインタビュー企画【WITH BOOKS】。今回登場するのは、絵本作家・お笑い芸人のたなかひかる。
2022年に刊行した絵本『ねこいる!』は、さまざまな場所からねこが飛び出すという仕掛けのおもしろさがSNSで広がり、大ヒットを記録。その第2弾となる『ねこいる! いる!』では、前作のフォーマットを引き継ぎながらも、随所に新たな工夫が盛り込まれている。
続編制作の舞台裏と創作へのこだわり、そして絵本づくりに深く結びついている音楽との関係について、じっくりと話を聞いた。
ユニークなフォーマットを引き継ぎながら、第2弾で差別化したもの
――『ねこいる!』の第2弾となる『ねこいる! いる!』を制作することになったきっかけや経緯を教えてください。
たなかひかる:第2弾を作りたいという気持ちは前々からありました。これまでシリーズものを手がけたことがなく、そういう作品があってもいいかなと。ねこがいろんなところから飛び出すパターンは無限につくれると思っていたので、編集者ともそんな話はしていたのですが、1作目の終わり方がかなり奇抜で。最初から文字の中にもねこが隠れていた、という仕掛けですね。2作目を出すとしてもまったく同じことは繰り返せないし、何かしら差別化を図らないといけない。その「最後をどうするか」が定まらないまま、なかなか着手できずにいました。
――前作と同じ「ねこがいる」というシンプルな構造を引き継ぎながら、第2弾として新しく挑戦したことや、前作との違いで意識したのはどんな点でしょうか?
たなか:明確な違いとしては、飛び出してくるねこの量が増えたことでしょうか。集合体恐怖症の方からは、「ちょっとゾッとしました」と言われますね(笑)。それと、前作でルールの説明がある程度できた分、今回は説明パートを少なめにしています。ただ、2冊目から手に取ってくださった方にもちゃんと伝わるよう、必要最低限の説明で完結するような調整はしました。

――登場するねこのシチュエーションは、どのように考えているのでしょうか?ネタ出しの過程で苦労した部分はありますか?
たなか:まずiPhoneのメモに、思いついたものをひたすら書き出していきます。1冊あたり20〜30個は出しますね。似たようなネタが重なっていたらどちらかに絞ったり、「これとこれをつなげたら派生もできるな」と広げていったりする作業でまた時間がかかるんですが、純粋なアイデア出しだけでいえば大体1〜2時間といったところです。
ネタ出し自体に苦労することはあまりないですね。お笑いを始めた頃からずっとやってきた作業なので、スイッチが入るとわりとすぐ出せる方だと思います。後から見返すと「よくこんなの思いついたな」と自分でも驚くことがあります。
――実際にアイデアを形にしていく作業はどのように進めていますか?
たなか:メモ上でページ数を振って並べたあと、紙に見開きのラフを描きます。そのあと、全体を見たときのバランスや絵面の被りを確認しながら入れ替えを重ねて、仕上げていきます。

――前作がヒットしただけに第2弾の制作にはプレッシャーがあったかもしれませんが、制作中の心境はいかがでしたか?
たなか:プレッシャーはありました。一般的に2冊目は1冊目より部数が落ちることが多いので、そこにいちいちショックを受けなくてもいいかなとは思っていたんですが、やっぱりまったく売れなかったらと考えると怖いです。
一番心配していたのは、1作目を読んだ子どもたちが最初から「文字の中に何かいる」とわかった状態で読んでしまうこと。それをかわすために、今回は文字の中にいるのをねこ以外にしたんです。
それと、1冊の中に「どうしてもこのページは描きたい」というものが必ずあって、それがちゃんと伝わるかどうかというプレッシャーもありました。今作でいうと、テニスボールのページがそうで。ずっと「ババーン」という効果音が続く中に、無音のような静かな時間を1ページ挟みたかったんです。その後、ねこが結合してテニスボールに戻る瞬間を描いてもよかったかもしれないですね。
――前作はSNSで爆発的に広まりましたが、読者から届いた感想で一番印象に残っているものを教えてください。
たなか:SNSの感想だけでなく、本についているハガキで感想を送ってくださる方も多くいて。子どもたちが、ねこがいろんなところから飛び出している絵を描いてくれるんです。描かずにはいられない衝動があったんでしょうね。子どもたちの創作意欲というか、クリエイティブな部分を少し刺激できたんだなと感じて、とても嬉しかったです。次の時代に何かをつなげられた気がします。
心地よい現象が起きる絵本をつくりたい

――今後、ねこ以外のテーマで絵本を作るとしたら、どんなものを考えますか?
たなか:今作も「頭が良くならない絵本」と謳っているように、今後もバカバカしいものしか作っていかないと思います。
次のチャレンジとしては、もっと抽象的なものを作りたいです。大人が見たら「これは何だろう」となるけど、子どもは興味を持って見ている、1〜3歳くらいの赤ちゃん向け絵本のイメージです。ただ、赤ちゃんは形をどこまで認識できているのか、影という概念がまだないといった難しさもあって。それでも、言葉を話し始めたくらいの子どもたちから楽しめるような作品に挑戦したいんです。
『ねこいる!』シリーズはねこや人といった具体的なものが出てきますが、それをさらに抽象化して、人でも動物でもない、心地よい形や動き、組み合わさり方をするものを描いていきたい。意味はないけど、何か心地よい現象が起きている。そういう絵本を作りたいですね。
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――たなかさんと音楽の関係についても伺えればと思います。普段、どんな音楽を聴いていますか?好きなジャンルやアーティストを教えてください。
たなか:割と何でも聴くんですが、ロック、特にシューゲイザー系の音楽が好きですね。ダンスミュージックに影響を受けることもありますし、インスト音楽も好きです。
自分の世代でいうと、BLANKEY JET CITY、NUMBER GIRL、ゆらゆら帝国、くるり、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、SUPERCARあたりはベタに通ってきました。
あと、KING BROTHERSという西宮を拠点に活動しているバンドがいて。「東のミッシェル、西のキンブラ」と言われた時代もありましたね。そのバンドに今ドラムで参加しているメンバーと、昔バイト仲間だったんです。当時は「早く好きなことで飯食いたいよな」と言い合いながらバイトしていて、今でも時々会っています。
――幅広いジャンルの音楽を聴いている印象ですが、その中で特に思い出深いアーティストや曲はありますか?
たなか:世代的にはレディオヘッドになりますね。大学生の頃にどハマりしていて、来日したときはライブにも行っていました。当時はまだ7,500円くらいで観られましたが、今となっては信じられない値段ですよね。
あとは、ハンバート ハンバートの「虎」という曲が印象深いです。まだお笑いでどの方向に進めばいいかわからなかった頃、ネタの方向性に行き詰まったり、舞台でスベったり、書き始めても乗れずにやめてしまう自分に嫌気がさしていた時期がありました。
メンバーの佐藤良成さんが作詞作曲されているんですが、「光るコトバ見つからない 酒だ、酒だ、飲んでしまえ 虎にもなれずに溺れる」という歌詞があって。いろんなものを作っている人でもそういう日があるんだと思えて、ずいぶん楽になりました。あのままダメだダメだと思い続けていたら本当にダメになっていた気がするので、救われました。

――新しい音楽はどのように探していますか?
たなか:昔はタワレコやHMVで試聴しながら買っていましたが、そういう機会はどんどん減りましたね。ジャケ買いもあまりできなくなったなと感じています。
今はSNSで見つけることもありますし、Apple Musicのおすすめで「いいな」と思うものが流れてくることもあって。あとは、フジロックのような大きなフェスも出会いの場になっています。自分から探していてはたどり着かなかったようなアーティスト、たとえばサウジアラビアのバンドに出会えたりして、フェスならではの発見がありますね。
>――ご家族や友人から音楽を教えてもらったり、逆にご自身が周りに勧めることはありますか?
たなか:ありますよ。音楽好きの仲間内で、いいものを見つけたらシェアし合っています。飲み仲間なんですが、一人は同い年のIT関係の友人で、もう一人は5〜6歳上の方でバンド経験もあって音楽に詳しくて。そんな仲間とグループLINEで情報交換しています。
――音楽はどんなシチュエーションで聴くことが多いですか?
たなか:仕事中や移動中はだいたい聴いています。作業中に聴くのは、インストや四つ打ちが多いかもしれません。フローティング・ポインツやフォー・テットのような、同じリズムがずっと続いていて没入できるものがいいですね。締め切りが迫っているときはアップテンポの激しいロックをかけると勢いで描き進められて、その粗さが良い結果につながることもあります。ただ絵本の色塗りのようにじっくり向き合いたい作業のときは、インストやダンスミュージックのほうが集中できます。
ケミカル・ブラザーズのライブから絵本が誕生

――音楽からインスピレーションを受けて、創作に繋がる瞬間はありますか?
たなか:あります。『えっさほいさ』という絵本はまさにそれで、ケミカル・ブラザーズのライブを観に行ったときに創作意欲をすごく掻き立てられました。映像も含めてとにかく圧倒的で。なかでもマーチングマンがたくさん行進する場面があって、細かい人型の何かが蠢いている世界を描きたいという気持ちになったんです。ライブ中はほぼ絵本のことを考えていました。
――最後に、Billboard JAPANブックチャートをご覧になった感想をお聞かせください。
たなか:『BUTTER』はとにかく書影がかっこよくて、音楽アルバムのジャケットになっていてもおかしくないなと思いました。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は映画化もされていましたが観逃してしまったので、気になっています。最近は本を読む時間がなかなか取れなくなってきたので、ちゃんと読まなければと思いますね。今後は絵本のチャートもできたら嬉しいです。



























