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<インタビュー>テクノロジーの先にある“人間性”、Apple Music共同責任者が語るアルゴリズム時代の音楽

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「私たちは、リベラルアーツとテクノロジーの交差点に立っている」――Appleが掲げるこの言葉 を最もよく体現しているのが音楽だとレイチェル・ニューマンは語る。オーストラリアでiTunesの担 当として歩み始め、16年を経て、現在ではApple Musicの共同責任者を務める。その彼女が今回 来日したのは、米ビルボード主催の【Global Power Players 2026】で<Impact Award>を受け取る ためだ。同賞は、音楽の発見・体験・共有のあり方を、プラットフォームや国境、文化を越えて変革 してきたエグゼクティブに贈られる。 

グローバルな音楽ビジネスのトップランナーである彼女に、フィジカルとストリーミングが共存す る日本市場の特異さから、アルゴリズムが音楽との出会いを左右する時代にも人の手によるキュ レーションとテイスト(好み)を手放さない理由、そしてテクノロジーの先にある“人間性”まで、幅広 いテーマについて話を聞いた。

 (Interview: Mariko O.)


「音楽が好き」から始まった道 ジャーナリズムを経て、Apple Musicでの16年間

――Appleに入社される前、XYZnetworksでプログラム・ディレクターを3年間務めていらっしゃいました。どのようにして音楽の世界に入られたのですか。

レイチェル・ニューマン:もともと業界で働きたかったわけではないんです。ただ、物心ついた頃からずっと音楽が好きで。曲そのものだけでなく、音楽が“もたらすもの”。その魔法のような力に惹かれてきました。聴く曲ひとつで気分が変わりますし、歴史を振り返れば、音楽は文化や人々の考え方さえ動かしてきた。世界でいちばん身近なアートでありながら、人を、文化を、世界を変える力を持っている。音楽を聴くことそのものと同じくらい、音楽が人類のために何ができるのか。その可能性に、ずっと魅了されてきたんです。

―― 2009年にオーストラリアとニュージーランドのiTunes担当としてAppleに入社され、16年以上が経ちました。現在のApple Musicの共同責任者に至るまでの道のりを振り返って、ご自身を形づくった瞬間はどのようなものでしたか。

レイチェル:入社してすぐに痛感したのは、Appleにとって音楽がいかに大切な存在か、ということでした。ここでは音楽は単なる商品でも道具でもなく、特別な意味を持つもの。スティーブ・ジョブズが復帰して会社を築き直したとき、音楽はその“織物の一部”になりました。だからAppleの中で音楽に携わると、とても利他的に考えられるんです。アーティストが常に思考の中心にいて、長期的な視点で物事を見る。Appleの外では、そうとは限りません。今の音楽ビジネスには大きなプレッシャーがあり、アーティストにとっても、業界で働く多くの人にとっても、経済的に楽な状況ではない。でもAppleの中でなら“正しいこと”ができる。それは大きな特権です。16年前から明らかだったその感覚こそが、私のキャリアを形づくってきました。音楽ビジネスを良い方向へ変えることを、本当に自由な発想で考えられるのですから。

――Appleは常に、自社の取り組みに“ヒューマニティ”を織り込むことを語ってきました。アルゴリズムやデータが音楽の発見にますます中心になっていく世界で、その姿勢はどのように保たれているのでしょうか。

レイチェル:Appleにはたくさんの“合言葉”がありますが、私のお気に入りの一つが「私たちはリベラルアーツとテクノロジーの交差点に立っている」です。社員の誰もがそれぞれの形でこの言葉を体現していて、中でも音楽は、それが分かりやすく表れる領域です。私たちはiPodやiTunesの頃から、ストリーミング以前からずっとテクノロジーを受け入れてきました。でも、それは常に“人の視点”を通してのこと。

Apple Musicも、最初から人によるキュレーションとテイスト(好み)を土台に作りました。ラジオから始めたのも、ストーリーを伝え、アーティストがファンとつながる場をつくるためです。アルゴリズムで差し出すだけでは、結局“エコー・チェンバー(同じ意見が反響すること)”に行き着いてしまう。それはアートを守ることから最も遠い場所です。だから私たちは、テクノロジーの恩恵を受け入れながら、人間性とアートを守ることを大切にしている。これからも、人の手によるプレイリストづくりと、テイストを通した体験を続けていきます。

――リスナーが「聴きたいもの」と「聴きたいと気づいていないもの」の発見との繊細なバランスは、どのようにとっていますか。

レイチェル:そこが腕の見せどころなんです。聴き慣れた心地よい体験を届けながら、同時に、自分一人では見つけられなかった道へとそっと導く。鍵は、その人のテイストのプロフィールを理解すること。「XとYが好きなら、きっとZも」というように。エディトリアルなキュレーションが大切なのは、そこなんです。機械学習だけでは、長年音楽を聴き、理解してきたキャリアから生まれるテイストの感覚までは、なかなか届きませんから。


フィジカルとストリーミング、両方を生きる国~国境を越えはじめた日本語の音楽

――日本語の音楽がかつてないほど世界中のリスナーに届いています。この変化は、音楽の世界がどこへ向かっているのかについて、何を物語っていると思われますか。

レイチェル:日本はとてもユニークな市場で、まさに両方の世界のいいとこ取りをしています。ソーシャルやファンダム、ファンがアーティストとつながる多様な手段という点で最前線にいながら、フィジカルを中心とした驚くほど安定したエコシステムという古き良きものも併せ持っている。この二つを実に独特な形で両立させているんです。でも、それが世界の行く先を示す道標かと言われると、そうとは限りません。アメリカ人が突然またCDを買い始めるとは思えませんから。でも、すでに兆しは見えています。人々はストリーミングを単なる道具としてではなく、愛するアーティストともっと深くつながる手段として使いたいと思っている。国ごとに違う形で起きていますが、日本はフィジカルの売上を伴う安定した市場だからこそ、そうしたファンダムの多くがここから始まっている。日本やアジアから育つトレンドが見えていて、とても興味深いです。

―― 日本語の音楽に対する世界的な関心は、日本のレーベルが実際に投資し、事業を進めるあり方を変えるほど大きくなっているのでしょうか。

レイチェル:日本の音楽は目覚ましく伸びています。特にメキシコやインドネシアでは二桁成長です。もっと広く言えば、音楽にはもう地理的な境界がほとんどない。言語を越えて伝わっていきます。ラテン音楽やK-POPでも見られるように、結局は「その音楽がどんな気持ちにさせてくれるか」が大事で、言語の重みはどんどん小さくなっている。ですから、日本の音楽が、すでに人気のあるアジアを越えて広がる可能性は無限にあると思います。異なる言語が、国境などないかのように音楽を通じて行き交う。こんな時代は、これまでありませんでしたし、本当にワクワクします。

――日本のアーティストが海外でもファンベースを築きつつあります。J-POPはグローバルなブレイクスルーに近づいているのでしょうか。

レイチェル:アメリカでは特に、日本のヒップホップで素晴らしい成功を収めてきました。それから、これは個人的な感覚ですが、ポップが大きく復活していると思います。人々は逃げ場を、幸せな気持ちを求めている。アジアのポップの動きは並外れていて、それが世界中に広がっています。

―― Apple Musicは、日本の音楽を世界のオーディエンスに届けるために、どれほど積極的に取り組んでいるのでしょうか。

レイチェル:その多くは、世界中に、それぞれの市場の文化を代弁する人間がいることに行き着きます。各国の音楽チームが、世界中のチームと日常的にやり取りする仕組みが整っているんです。本社には毎週新しい音楽を聴き込むチームがあり、日本のチームは薦めたいアーティストや楽曲をいつも提案してくれる。アジア域内のつながりも密で、アーティストのキャリアをまずこの地域で築き、北米やヨーロッパへ広げていくことがよくあります。そこから先は、プレイリストやラジオ番組などで育てていく。インタビューやパフォーマンスなど、ラジオ以外のオリジナル・コンテンツも数多く手がけています。ロサンゼルスには大きなスペースを開いたばかりで大規模な取り組みもできるようになりましたし、ロンドンにもスタジオがある。ツアーで立ち寄る日本のアーティストにも来てもらえますし、アーティストと深く関われる手段が整っているんです。

――Apple Musicは2015年に日本でサービスを開始しました。振り返ってみて、初期にもっとも大きかった障壁は何でしたか。

レイチェル:“障壁”というより、グローバル企業として、日本ならではの細やかな機微を理解するのに少し時間がかかった、ということだと思います。日本がいかに違うのか、そして、ここのチームが力を発揮するために何ができるのかを、グローバル・チームが深く理解するまでには時間が必要でした。日本は非常に重要で巨大な音楽市場ですし、私たちは深くコミットしています。時間と集中を重ねた今では、型どおりではなく、ここでは違うやり方をすべきだという点を、チームはしっかり理解している。当初は、必ずしもそうではありませんでした。

いい例が、歌詞の翻訳と発音表記です。最初に対応した言語は、実は日本語でした。日本は国内志向でありながら、海外にも届けたいという思いがある市場だからです。ここではK-POPも人気ですが、多くの方はハングルでは読んだり歌ったりできない。そこで発音と翻訳を加えました。それが、日本の音楽を世界へ届ける良い出発点にもなり、この多言語機能はその後ほかの市場にも広がっています。日本で起きていることから、世界が学べることはたくさんあるんです。

――日本は、デジタル音楽に対してもっとも抵抗の大きかった市場の一つでした。最終的に何が流れを変えたのでしょうか。

レイチェル:2015年の開始当時の障壁は、日本のレーベルがストリーミングに懐疑的だったことです。私たち自身のiTunesダウンロードストアも含めて、既存のビジネスを壊すのではないかと心配されていました。私たちは、両者は競合しないと理解していただけるよう努めました。ダウンロード・サービスは今も誇りに思っていて、運営を続けています。市場はダウンロードからストリーミングへと積み上がるように成長してきました。当初の説得はかなり難しかったのですが、今ではデータをもとに、皆さんと近い関係を築けています。

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  1. アジアのハブである東京から最も速く伸びる地域への備え
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アジアのハブである東京から 最も速く伸びる地域への備え

――アジア太平洋は、2034年にかけて最も成長の速いストリーミング地域になると予測されています。この急速な成長を見据え、Apple Musicはエディトリアル、テクノロジー、ビジネスの各面でどのような備えを進めているのでしょうか。

レイチェル:日本だけでなく、アジア各地に素晴らしいチームがいることを誇りに思っています。今週は、その多くが東京に集まって顔を合わせました。彼らは、ローカルのアーティストを支えるために、地域に根ざした計画を立てている。これはとてもドメスティックなビジネスですから。その土地の文化と、自分たちのアーティストに深く通じたチームがいること。パートナーシップなどを通じて事業を築き続けること。そして同時に、アメリカや世界へ文化と音楽を伝える“伝え手”になること。それが大切なんです。各地の動きを把握する仕組みはすでに整っていて、これからも日本やアジアの市場を支えていきます。長年、特に日本に注力してきました。これは、始めた場所からの“続き”なんです。

――昨年、 Apple Musicは、アジア初となるスタジオを東京に開設しました。

レイチェル:スタジオは、世界中のすべてのチームが使える“場”だと考えています。アジアの他の市場も、すでにこの東京スタジオを活用しています。日本は間違いなく最重要市場の一つ。とても大切な音楽市場で、これからも長く投資を続けます。それこそが、最初のラジオ・スタジオをここに作った理由でもあるんです。

――東京のスタジオから配信されている番組は、日本の音楽文化と、Apple Musicのグローバルなアイデンティティの両方を、どのように映し出しているのでしょうか。

レイチェル:オンデマンドの番組はどれも好評ですし、Apple Music 1を通じて、皆さんのタイムゾーンに合わせた生放送もあります。戦略としては落合健太郎や、みのといった素晴らしいテイストメイカーの番組を続けつつ、この1年取り組んできたように、アーティストによる番組にも投資していく。毎週ゲストを迎えるシリーズもありますし、J-POPの黄金期、平成の時代にも光を当てていきたいですね。

コラボレーションについて言えば、アジアは私たちの大切な仲間です。私たちはアジアのハブですから、ほかのアジアのアーティストを招いて東京スタジオで番組を収録する計画も進めています。日本のアーティストがアジアのアーティストとコラボやフィーチャリングをする動きも増えていて、戦略的にも創造的にも素晴らしい。そうした動きを後押ししていきたいですね。


「自分らしくリードしていい」 次の世代へのメッセージ

――あなたは、グローバルな音楽ビジネスで最も高い地位にいる女性の一人です。業界は、女性のエグゼクティブについて、いまだに何を誤解していると感じますか。

レイチェル:アメリカは男性中心のことが多く、声が大きいケースもあったりします。でも、女性が自分らしいやり方でリードしていい。音楽の世界にありがちな荒っぽく騒々しい環境に合わせて、本来のスタイルを変える必要はないんです。女性は高いEQ(心の知能)を持っています。ありのままの自分としてリードする姿を見せるほど、次の世代の手本になりますし、少しずつ音楽ビジネスそのものも変わっていく。願わくは、もう少し成熟した、よりプロフェッショナルな世界へ。リーダーシップの場で、女性はプラスをもたらし、マイナスにはなりません。“正しく”なった姿とは、最終的には、男性か女性かが関係なくなる日。その人の専門性や経験、仕事ぶりこそがすべて、という日です。でも今はまだ少数派だからこそ、もっとスペースを得て、リーダー層のレプレゼンテーションを高めることが本当に大切なんです。

――最後に、あなたの後に続く女性たちに、あるいは若い頃のご自身に、どんなアドバイスを贈りますか。

レイチェル:進み続けること、です。レプレゼンテーションは本当に大切で、それは後の世代が女性のリーダーに自分を重ねられるように、というだけの理由ではありません。バイアスは実在します。どんな業界でも、とりわけ音楽ではリーダー層に多様性が生まれない限り、不釣り合いなほど大勢の男性がこのビジネスを動かし続けることになる。だから多様性を求め続けなければなりません。女性を“代表”するためだけでなく、次のリーダーを育て、場所を作るために。自分自身に贈るアドバイスがあるとすれば、進み続けること。そして、場所を取ることを恐れないことですね。

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