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<インタビュー>Billboard Global Power Players vol.16 藤倉尚 ユニバーサル ミュージック合同会社 社長兼CEO

6年連続、通算7度目となる【Billboard Global Power Players】に選出されたユニバーサル ミュージック合同会社 社長兼最高経営責任者(CEO)藤倉尚氏。今年のインタビューでは、推し活という日本独自の文化や海外展開における日本の課題、そしてまもなく開催される【MUSIC AWARDS JAPAN】について、話を聞いた。(Interviw:高嶋直子/Text:Sakika Kumagai/Photo:興梠真穂)
日本には、昔からファン同士またはファンとアーティストの
コミュニケーションという文化がある
――2025年は、Mrs. GREEN APPLEがビルボードジャパン年間チャートの“Hot 100”と“Artist 100”では首位に、IFPIのグローバル・アーティスト・チャートでは13位という素晴らしい記録を打ち立てました。
藤倉尚:2025年のMrs. GREEN APPLEは、日本のファンの皆さんに対して、世代を越える多くの方に聞いてもらいたいという想いで活動していたと思います。その結果、テイラー・スウィフトやレディー・ガガといった世界で活躍するアーティストが並ぶチャートで13位を獲得したというのは、すごいことだと思っています。音楽の市場規模は、日本が世界で2番目に大きいですが、その強さや魅力が伝わるきっかけになったかなと。今のMrs. GREEN APPLEは国内での活動が中心ですが、この先どのような広がりを見せていくのか、非常に楽しみです。

――IFPIでは、グローバル全体で 2025年は前年より6.4%の成長、そして日本はそれを超す8.9%の成長が発表されました。有料のストリーミング会員が全世界で増えたことが世界の成長に影響しているのと同時に、フィジカルにおいては日本のマーケットの復調が、世界にも大きな影響を与えています。
藤倉:社長に就任した当初、世界はストリーミングに一気にシフトしていました。そうした流れのなかでも、私は変わらずフィジカルにも可能性を感じていたので、両立を目指し続けていました。ストリーミングは、自宅でも車の中でもどこでも聴けますし、いつでも新しい音楽に出会えて非常に便利なサービスです。一方、CDやレコードは音楽だけじゃなく、ライナーノーツなどのパッケージ全てにアーティストの想いが詰まっている、アーティストの分身だと思っています。ファンは、1枚を通じてアーティストの想いを受け取りますし、それを手に取ることがアーティストを支えることにもつながっています。こうしたアーティストとファンの関係性と文化は、よくスーパーファンや推し活といわれますが、日本と海外では大きく異なるとも感じています。
――どう異なりますか?
藤倉:海外のスーパーファンは、何度も作品をリピートして聴く、マーチャンダイズを購入するなど熱量の高い消費行動をするファンの方たちという印象があります。一方で日本の推し活は、アーティストの成長過程で、他のファンと一緒にアーティストをより大きな舞台に押し上げている人達だと捉えています。なので、スーパーファンをそのまま推し活と訳すのは、少し引っ掛かりを感じますね。
推し活という言葉が生まれたのは最近ですが、日本には昔から贔屓文化があります。歌舞伎や相撲の世界では、タニマチのようにスポンサーとして支援する存在がありましたし、江戸時代に庶民の方たちは役者絵や番付表を購入して楽しむ文化がありました。そういう娯楽としてのファン活動だったり、ファン同士またはファンとアーティストのコミュニケーションという文化が、時代にあわせて形を変えながら今の推し活につながっているのだと思います。
――海外においても、スーパーファンの熱量を高めて、日本の推し活くらい貢献度を高めていくことは可能なのでしょうか。
藤倉:そもそも、ファンクラブビジネスも日本で独自に発展してきた側面があると思います。海外のアーティストは、SNSなどを通じてプライベートな一面も比較的オープンに発信することが多いですよね。一方で、日本や韓国では、限定コンテンツやチケットの先行、イベント、グッズなどを通じてファンの皆さんが継続的にアーティストとつながり「自分もその活動を支えている」と感じられる仕組みが発展してきました。海外でもファンクラブビジネスの立ち上げには何度も挑戦していますが、日本と同じ形で根づかせるのは簡単ではありません。それは日本のファンクラブが単なる情報の提供の場ではなく、ファン同士のつながりや「自分たちは特別な仲間として一緒にアーティストを支えている」という意識を生み出す場として機能しているからだと思います。
新しい才能や作品は、市場を活性化させるために不可欠
――日本の音楽の輸出についても質問させていただきます。経済産業省が掲げる2033年までに日本発のコンテンツの輸出額を20兆円規模に引き上げるという目標に対して、どのような課題があると考えていますか。
藤倉:まず自動車や鉄鋼といった輸出産業に、コンテンツが並んで基幹産業として定められたというのは非常に喜ばしいことだと思っています。コンテンツの中には、音楽、アニメ、映画、ゲームなど様々な領域がありますが、みんなで一体になって取り組むことが重要だと思います。
日本人は、自分達のクリエイティビティを過小評価しがちですが当社でも藤井 風や久石譲、高中正義など各国から非常に多くの問い合わせが寄せられており、海外からの関心の高さを感じます。一方で、今の日本はその魅力を海外で継続的に広げていく力をまだ十分に持ち切れていないとも感じています。どこの国に届けたいのかを明確にして、その市場に合ったパートナーやマーケティング力、実際に動ける人材を揃えていく。そうやって戦略的に広げていく体制を、まだまだ強化していく必要があるでしょう。
日本の、特にアニメのタイアップ楽曲が世界で評価されているのは非常に喜ばしいことです。ただ、アニメというコンテンツを切り離したとき、アーティスト単体として世界的な認知や評価をどう高めていくかは、まだ大きな課題だと思っています。多くの人が「楽曲を届けること」に意識が向きがちですが、本当に必要なのはアーティストそのものを届けること。楽曲・ライブ・ファンコミュニティを含めて、海外でもアーティストを育てていくことが重要です。K-POPがコミュニティ形成を軸に世界で成功したように、従来型のファンクラブという形に限らず、熱量あるコミュニティをどう作っていくかが、今後の鍵になると思います。

――韓国は、複数のダンス&ヴォーカルグループを次々とヒットさせたことによって、K-POPというジャンルを世界に定着していきました。J-POPというジャンルを世界に定着させるには、どのような見せ方が必要なのでしょうか。
藤倉:J-POPという、一つの括りに閉じなくてもいいのかもしれませんね。韓国のアーティストがK-POPというジャンルで突き抜けたのとは違う見せ方が必要なのかなと。ただ、スポーツの世界でも、強い選手が1人でなく次々に活躍することで、海外から「日本には、こんなに素晴らしい選手がいるんだ」と気づいてもらうことができたように、複数のアーティストの成功を積み重ねていくことは重要だと思います。
――高中正義さんが海外で人気を高めているように、カタログ楽曲の再燃も注目されています。
藤倉:そうですね。海外では、これまでと状況が大きく変化し、新曲より旧譜のストリーミング数の方が多くなっている地域もあります。一方で、日本ではまだまだ新曲が聴かれていて、新人でもヒットチャートに入ることが可能です。やはり新しい才能や作品は、市場を活性化させるために不可欠です。ですから、新人アーティストの発掘や新曲のプロモーションには、これからも注力していきたいと思っています。ただ、それと同時に新曲をリリースする際には、楽曲単体ではなく、アーティスト全体をプロモーションすることで、他のカタログ曲も全て聴いてもらうことを常に意識をしています。他にも、それぞれの楽曲を季節の歌として定着させることに注力していますね。「桜が咲く時期に聴く曲」や「夏の定番曲」として愛されるようになると、時代を越えて聴き続けられますから。
高中正義「SUPER TAKANAKA WORLD LIVE 2026」ライブ・オーディエンス・インタビュー
――当社ではチャートの新陳代謝を促すために2025年の下半期から、一定期間チャートインし続けている楽曲のポイントを減算するリカレントルールを導入しました。御社内で、反発はありましたか。
藤倉:ビルボードのデータは、【MUSIC AWARDS JAPAN】にエントリーする曲を決めるためにも使われていますし、いま日本で最も信頼されているチャートの一つだと思っています。ただリカレントルールに関しては、スタートされた当初、社内から「長く聴かれ続けている曲は、ちゃんと評価してほしい」という率直な意見が挙がっていたのも事実です。長く愛される楽曲を育てていくことは、レーベルとしても非常に大切なことですから。一方で、チャートが新しい曲やアーティストとの出会いの場であることも重要です。そういう意味では、リカレントルールの採用は意義があるとも思っています。今では社内でも、その趣旨は理解されているのではないかと思います。
――まもなく2回目となる【MUSIC AWARDS JAPAN】が開催されます。どのような期待を寄せていますか。
藤倉:このアワードは権威をもちながらも、開かれた賞であるべきだと思っています。開かれているという意味には大きく2つあります。一つはあらゆるアーティストに門戸が開かれていることです。ザ・チェインスモーカーズがグラミー賞を受賞したとき、多くの人が驚いたように、インディーズでも、どんなジャンルでも素晴らしい曲は素晴らしいと評価されるようなアワードであってほしいと思います。もう一つは、日本以外に開かれていること。世界中のアーティストや音楽関係者が「この賞に出たい」と自ら望んで来てくれるような存在になることが大切だと思います。まだ2回目ですが回数を重ねるとどうしても内向きになったり閉鎖的になったりすることもあります。多くの人が応援してくださっているからこそ、「開かれたアワード」であり続けることは絶対に大切にしたいですし、日本の音楽の魅力を国内外に発信する場として唯一無二の存在として成長していくことを期待しています。

























