2016/10/26 16:00
6人のバンドによる心地好いギター・カッティングとホーンの響き、そして躍動的なリズムがステージに華やかな空気を振りまく。
「ここに来られて嬉しいよ! 夢が叶った――」。
そうオーディエンスに喋りかけると、いきなり今年のサマー・アンセムになった「ワン・エン・オンリー」が繰り出される。2曲目にはオリジナルのナンバーにプリンスの「アイ・ワナ・ビー・ユア・ラヴァー」を織り込み、ソウル・フリークのツボを突いた演奏を聴かせる。
ボビー・コールドウェルを“21世紀仕様”にアップデートしたクール・アンクル、アーバンなダンスサウンドを確信犯的に再構築したタキシード、甘く切ない味がウリのジャック・ムーヴスなどが人気を博す最近のミュージック・シーン。いわゆる“ブルー・アイド・ソウル”のユニットがトレンドだが、そんなシーンにまた、頼もしい新星が現れた。
ロス・ステラリアンズ――。南カリフォルニアから登場してきたこのユニットは、心地好いヴィンテージ・ソウルを奏でる、まさに歌心溢れる2人組だ。アルバムでは軽快なギター・カッティングに乗せてオリジナルだけでなく、ザ・スミスの「ヘヴン・ノウズ・アイム・ミズラブル・ナウ」といった80年代英国ギター・ポップの名曲もカヴァーし、柔軟な音楽性を示している彼ら。メンバーの311のSAマルチネスとライアン・シーゲルが紡ぎだすサウンドは、やや線が細いが、メロウで爽やかな印象を聴き手に与えてくれる。
2本のギターの絡みによる軽快なリズムと柑橘系メロディのコンビネーション。よく練り上げられた曲想としっかりした演奏は安定感を発揮している。どの曲にも70年代ソウルのフレーヴァーがたっぷり散りばめられ、デジャヴな感覚に溢れている。30代以上のオーディエンスにとっては、甘酸っぱい記憶をやわらかく刺激してくれるサウンド。ソフトで人懐っこいファルセット・ヴォイスを支える演奏に反応して、立ち上がって身体を揺らす観客が増えていく。時間経過と共に会場全体が、まるで身体が火照っていくような、やさしい高揚感に満ちていく。
くつろいだ空気を充満させたあとの終盤は、前述したザ・スミスのカヴァーを皮切りに、矢継ぎ早なソウル・クラシックの応酬。身体に染み渡る乾いたリズムとピュアで青臭い旋律に、気分が心底リラックスしていく。彼らの音楽から滲んでいるのは、20世紀のソウル・ミュージックへの熱いオマージュだ。音楽は世代を超えて受け継がれていくという事実を美しく体現しているロス・ステラリアンズの歌心溢れるナンバーは、21世紀のソウル・スタンダードになるのではないかと感じられるほど、聴き手の気分をゆったりと高揚させてくれた。
◎公演情報
ロス・ステラリアンズ
2016年10月7日 ビルボードライブ東京
2016年10月9日 ビルボードライブ大阪
Photo:Kenju Uyama
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。ちょっと不順な天候が続いた今秋だけど、ワインはそろそろ新酒の季節。11月の第三木曜日(今年は11月17日)にリリースされるフランスのボジョレ・ヌーヴォーは有名だけど、それだけが新酒じゃない。今年はぜひ、イタリアのノヴェッロ(11月6日解禁)やドイツのデア・ノイエ(11月1日解禁)、オーストリアのホイリゲ(11月11日解禁)など、ヨーロッパ各地の新酒を楽しみたい。どれも軽快で口当たりのよさが身上なので、天気のいい日にはデイ・タイムから気軽に楽しめる。近年、日本のリカー・ショップでも入手できるようになってきた各国の新酒で、あなたの“ワイン地図”を広げてみて!
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