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2026/06/12 15:00

【Book Insight】『多類婚姻譚』発売週、凪良ゆうの作品5作が文芸チャート100位以内へ――旧作まで波及した熱量の正体

 凪良ゆうの新作短編集『多類婚姻譚(たるいこんいんたん)』が、5月27日に講談社から発売された。本作は『流浪の月』(【第17回本屋大賞】)・『汝、星のごとく』(【第20回本屋大賞】)で2度の本屋大賞を受賞した凪良ゆうの、文芸書としては『星を編む』から2年半ぶりの新刊。「今そこにある愛のかたち」を描いた5編の連作で構成され、セクシュアリティやジェンダー、金銭感覚、世代格差などの価値観の対立の中で現代の結婚を描いている。本作が発売された5月25日~31日集計分の総合文芸チャート"Hot Bungei"では総合2位を記録。各指標別でも店舗・EC・SNSで2位、電子書籍で4位と高順位を記録した。

 チャートに記録されていたのは、『多類婚姻譚』がヒットしたという事実だけではなかった。実は本作が発売前からチャートに姿を現していたことは、あまり知られていない。4月6日の『多類婚姻譚』発売発表と同時に、4月6日~12日の集計分の"Hot Bungei"の42位に初登場した。発売前であることから書店などの指標はチャート圏外で、唯一動いていたのがSNS指標6位だった。その後いったんチャート圏外になるものの、発売直前の5月18日~24日集計分では76位(SNS指標14位)と再浮上。「新刊情報が出た瞬間から、ファンの間で話題になり、SNSの口コミの熱量で発売後のインパクトを先読みしていた」ことが、このデータから読める。(【図1】を参照)

 音楽の世界では、アーティストの新作発売が旧作の人気を押し上げることがある。「新作を出したら、10年前の楽曲も聴かれていた」という話だ。Billboard JAPANの書籍チャートでも、同様の動きが起きていた。

 『汝、星のごとく』(講談社)は、11月24日~30日集計分の"Hot Bungei"から総合20位以内に留まり続けた「鉄板ロングセラー」だ。3月までは図書館・SNSを中心に支持を集めていたが、4月6日の『多類婚姻譚』発売発表と4月13日の映画公開日(10月9日)発表が重なると、4月13日~19日集計分の"Hot Bungei"では店舗指標が9位に急上昇し、総合でも過去最高の2位を記録した。発売週の5月25日~31日集計分でも引き続き総合4位と高順位を維持している。

 さらに劇的な動きを見せたのが、2019年刊行の『流浪の月』(東京創元社)だ。発売前週の5月18日~24日集計分では総合99位だったが、発売週には図書館指標が前週ランク外から40位に急上昇し、総合31位へと躍進。さらに同週の"Hot Bungei"には、『星を編む』(講談社)が総合43位、『滅びの前のシャングリラ』が総合61位と、凪良ゆうの作品が5作100位圏内に挙がる形となった。(【図2】を参照)

 これは「1冊だけが売れている作家」ではなく、作家自身にファンがつき「複数の本が同時に読まれ続けている作家」の姿だ。人気のある著者の新刊発売は、単独タイトルのヒットだけではなく、著者の作品全体への関心の再点火として機能する。チャートはその「著者エコシステムの再起動」を、週単位で記録していった。

 10月9日には、横浜流星と広瀬すずのダブル主演、藤井道人監督による映画『汝、星のごとく』の公開も予定されている。映画を観た人が原作を手に取り、原作を読んだ人が「同じ作者の別の本」を探す。その連鎖が、『多類婚姻譚』や旧作『流浪の月』にも波及することが予想される。5月25日~31日集計分のチャートは、その「予告編」として読めるかもしれない。


Text By 張ヶ谷 碧


◎書籍情報
『多類婚姻譚』
著:凪良ゆう
2026年5月27日(水)発売
2,090円(tax in.)
出版社:講談社

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