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<インタビュー>レイチェル・ニューマン(Apple Music)×STUTS特別対談 アーティストとプラットフォームの理想的な関係とは?

Apple Musicの共同責任者レイチェル・ニューマンと、STUTSによる特別対談が実現。ストリーミング時代におけるアーティストとプラットフォームの理想的な関係性、独自の進化を遂げる日本の音楽市場、国境や言語の壁を超えて音楽が届く新しい時代の魅力、そしてAIとクリエイティビティの共存まで、2人がそれぞれの視点から語り合った。(Interview: 渡辺志保)
レイチェル「正直、私たちはストリーミング・サービスがあまり好きじゃなかった」
――今日はまたとない機会をありがとうございます。まず、レイチェルさんから日本の読者に向けて自己紹介をお願いします。
レイチェル・ニューマン:ありがとうございます。まずは基本的なところから。レイチェル・ニューマンと申します。オーストラリア出身です。Apple Musicには16年半勤めています。もともとオーストラリアでAppleに入社して、そこではオーストラリアとニュージーランドの音楽を担当し、そのあとはオーストラリアでサービスをしていました。それから8年半くらい前にアメリカに異動して、世界中のコンテンツとエディトリアルを担当していたんです。その後、現役職に移ってから1年半くらい経ちます。
――Apple Musicの入社前から音楽業界で働いていたのですか?
レイチェル:そうですね。他の仕事をしたこともありますけど、基本的には音楽の仕事でした。ジャーナリズムを専攻していて、最初は音楽ジャーナリストとしてキャリアをスタートしたんですよ。そのあと、昔からある雑誌とか新聞社、ウェブサイトなど様々なメディアで働いてきたんです。最終的にはテレビ業界に移って、オーストラリアの音楽チャンネルなどを運営してからApple Musicに移りました。
――オーストラリアからアメリカに移った際、カルチャーショックのような体験はありましたか?音楽業界のダイナミズムも、オーストラリアに比べるとアメリカはかなり強いですよね。
レイチェル:ありました。音楽業界もそうだし、カルチャーも違うし、エリア的にも全く異なる場所だし、慣れるまでに時間がかかりましたね。Appleの本社で働くのも、また違う経験でしたし。もっと楽しくやらなきゃ、って思いましたね。慣れるまでちょっと時間が掛かりましたけど、今は「まるでここがホームだ」って感じます。
▲ Apple WWDC: Drake Announces Apple Music
――私は、2015年にドレイクがApple Musicのプレゼンをした時のWWDCをずっと覚えているんです。音楽ストリーミング・サービスがいよいよ日本にも来るんだ!とすごく興奮しましたから。サービス立ち上げの時期、特に苦労したことなどありましたか?
レイチェル:いえ、特にはなかったと思いますね。というのは、Apple Musicは他社よりも少し遅れてストリーミング事業に参入したから。正直、私たちはストリーミング・サービスがあまり好きじゃなかったんですよ。あまりいいビジネスモデルとは思えず、ゆえに市場に参入することに躊躇していたの。もともと、我々の価値観は“アーティストを支援し、音楽ビジネスの将来のために素晴らしく繁栄した事業を築くこと”だったんです。その観点から言うと、ストリーミング・サービスは好きになれない部分も多くあったし、最善のモデルだと思っていません。 多くの懸念がありましたけど、市場の流れがそうだったので最終的に参入しました。そして、できる限り既存のルールを書き換えることに成功したと思います。Apple Musicとしてアーティストを中心に据えたプラットフォームを作れたと思いますし、我々は引き続きヒューマニティやアーティスト性の保護を非常に重視しています。そして、Apple Musicにはラジオ局のようなサービスもあって、そこではアルバム作品のサポートも行っていますし、アーティストも才能に投資しています。単調になりがちなストリーミング体験に深みを持たせるために多くのことをしていてそこに注力していますし、今後もその分野に投資し、革新を続けていくつもりです。
――サービスの開始から10年以上が経ちますが、どのように振り返りますか?
レイチェル:この10年間で私たちが成し遂げたことは、最初からは想像もできなかったことだと思っていますし、本当に誇りに思っています。サービスの質に投資している素晴らしい例でもありますし。そして、ビジネス自体は非常に順調に進んでいると感じています。私たちは、アーティストやアーティストコミュニティ、そしてライトなリスナーから熱心なファンまで、どこにいてもサービスを提供するという基本的な柱に基づいて自分たちを評価しているのですが、その点でも非常にうまくやっていると思います。
- STUTS「Apple Music for Artistsは定期的にチェックしている」
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STUTS「Apple Music for Artistsは定期的にチェックしている」

――実際にアーティストとしてApple Musicに触れているSTUTSさんにも伺いたいのですが、ご自身の曲がグローバルなレベルで色々なリスナーに届いているな、と感じることはありますか?
STUTS:僕自身、Apple Music for Artistsのアナリティクスは定期的にチェックしています。「この地域ではこの曲がよく聴かれているな」とか、「アメリカでも聴かれているんだ」といったことがわかるので、そういうときに海外にも音楽が届いているんだと実感しますね。そういう意味では、ストリーミングサービスだからこそ、CDを販売していた時代にはなかなかリーチできなかったようなリスナーにも、自分の音楽を届けられていると強く感じます。世界中の人たちに作品を届けられる環境があることは、すごいいいなと感じていて。
――そもそも、ご自身が音楽活動を始めた頃、「世界中の人に届けたい」という思いはありましたか?
STUTS: 音楽を始めたのは高校1年生、15〜16歳くらいの頃だったので、その時はそこまで先のことを考えてなかったですけど、でも、自分がビート提供をして作品がリリースされるようになったりとか、あと、大きかったのは自分がMPCを叩いている動画をYouTubeにアップしたら日本より海外のコメントの方が多かったんですよ。だから、そういう時に「自分の音楽がこうやって世界に広まっていく、っていうことがあるんだ」とふわっと思って。もっとそうなればいいな、と思っていますね。
――レイチェルさんに伺いたいのですが、日本の音楽市場をどのように見ていらっしゃいますか?他の地域と比べてユニークだと思う点などがあれば伺いたいです。
レイチェル:日本の市場は完全に独特だと思います。他のどのマーケットとも異なっていると感じますね。まだ大きなタワーレコードもあるし、みんながまだCDやレコードを買っている。
――先ほど、最初はストリーミング・サービスの参入に懐疑的だともおっしゃっていました。ストリーミング・プラットフォームとアーティストにおける健全な関係性とは、どんなものだと思いますか?
レイチェル:私たちのことだけで言えば、一番大切にしているのは、世界中のアーティストとの直接的な関係を築いていくことです。実際に、世界各地にアーティスト・リレーションの専任チームがいて、日々アーティストとの関係づくりを行っています。私たちは、アーティストのみなさんから「こういうサポートがあると助かる」といった声を直接聞きたいと思っていますし、単にメタデータや楽曲を受け取るだけではなくて、アルバムのリリースから、その後のライフサイクル全体をどうサポートできるかを常に考えているんです。例えば、ラジオやライブ、インタビューなども含めて、と。そうした取り組みを通じて、より多くの人に音楽を知ってもらい、Apple Musicで音楽を楽しんでもらえるきっかけをつくっていきたいと思っているんです。ストリーミングの時代だからこそ、アーティストと直接つながりお互いにコミュニケーションを取りながら関係を築いていくことが、とても重要だと考えています。
――アーティストが収入を得るシステムもどんどん変化していますよね。ストリーミングも、場合によっては不利益だと感じるアーティストもいるわけで。STUTSさんはストリーミング・サービスとどのように付き合っていますか?
STUTS:自分にとっては、ストリーミングが完全にベーシックなインフラになっています。1stアルバム『Pushin'』をリリースしたのが2016年で、まだ日本ではApple Musicが上陸し始めた頃だったんです。だから、僕のキャリア的にいうと、ちょうどCDとストリーミングの過渡期だったというか、CDがメインだったビジネスからストリーミングに移行していく時期だった。なので、「ストリーミング以前が良かった」ということは全然分からないんですけど、ストリーミング・サービスだと、昔の曲でもずっと聴かれ続けて、それがアーティストの収入になるということ。その可能性はCDの時代よりもあるんじゃないかって思います。僕としては単純に、アーティストとしてもリスナーとしても自分の音楽を届けることができる境界線みたいなものがなくなって、もっと色んなところで自分の音楽を聴いてもらえるようになった。リスナーとしても、どこに行っても色んな音楽をすぐに聴くことができる。こんなに素晴らしいことはない、と思うので、個人的にはストリーミングのいいところしか見えてないかもしれないですね。
――STUTSさんの目から見て、Apple Musicならではの取り組みを感じる点はありますか?
STUTS:例えばアルバムが出た時に、Apple Musicオリジナルのライナーノーツを掲載されるのとかとてもいいなと思いますし、みのさんが担当している『Tokyo Highway Radio』も、メディアとしてアーティストのことを考えてくれているんだなと感じます。僕としては、UIもアルバム単位で曲が聴きやすい設計になっていて使いやすいですし、自分もずっとiPodを使ってきたので、当時からのライブラリも含め、iTunesからApple Musicまで、全てがシームレスにつながっているところもすごくアクセスしやすいです。他にもいっぱいあって(笑)。楽曲のクレジットもしっかりしているし、歌詞の翻訳機能もすごい。昨年、Apple Music Radioのスタジオが東京にオープンした時に、エブロ (Ebro Darden)さんの番組に出演する機会があったんです。その時に、「数々の素晴らしいラッパーさんと話してきたエブロさんからは、日本のヒップホップはこうやって見えてるんだ」と知ることができたのもめちゃくちゃいい機会でした。もっとそういう機会にも恵まれるといいなと思いますね。
――台湾のジュリア・ウーやオーストラリアのジョーダン・ラカイなど、近年のSTUTSさんは海外アーティストとのコラボレーションも盛んですよね。よりグローバルな地点を目指す、ということについても伺いたいです。
STUTS:それぞれの境界線みたいなものがだいぶ薄くなったなと感じていて、すごくいいことだなって思いますね。
――文化や言語の壁を感じることはありますか?
STUTS:あまり感じていないかもしれないです。個人的な思考として、一つのところにあまり留まりたくないという気持ちがあるんです。自分がいいと思ったら、日本も海外も関係なく、コラボレーションしたり一緒にライブしたりできたらなって思っているので。なので、「グローバルに活躍する」ということにおける意味とかはあまり考えたことはないですね。逆に、今は自分にとってめちゃくちゃ理想的な環境になっていると思いますし、「グローバルに活躍していますね」と言われると、まだまだそんな感じもしないような気がします。もっと頑張りたいな、という気持ちですね。
- STUTS「タイラー・ザ・クリエイターが最近、Shazamした音楽に、Daichi Yamamoto君と作った「Breeze」という曲を挙げてくれた」
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STUTS「タイラー・ザ・クリエイターが最近、Shazamした音楽に、Daichi Yamamoto君と作った「Breeze」という曲を挙げてくれた」

――レイチェルさんはいかがですか?アーティストがグローバル・レベルで成功するということについて。日本国内の立場からだと、まだその目標に対する明確な答えやツールを手にしている人はまだまだ少なくて、みんなが模索中である、とも感じます。
レイチェル: そうですね。でも、こんな時代はこれまでになかったと感じていますし、言語の壁も関係なくなってきているのかなとも思います。ヒップホップやラテン、そしてポップ・ミュージックにも、それが顕著ですよね。ただし、誰もがグローバルに進出できるわけではないとも思う。心に響くアーティストや曲というのは確かに存在すると思います。そして、私たちの心はどこにいても変わらない。その感覚や、人と繋がることができるのは、ムードやそれぞれの体験に関わるもので、言葉では説明しきれないものですよね。それが共鳴しあって、グローバルなヒットへ繋がるんだと思います。
――日々、音楽業界やテクノロジーも変化していますが、今一番ワクワクしている変化は何ですか?
レイチェル:境界や国境が存在しないことに本当にワクワクしています。今やどこからでもヒット曲が生まれる時代で、これはこれまでのポピュラー音楽ではありえなかったこと。まさに新しい世界だと感じています。
STUTS:先日、ちょうどライブを見せてもらったんですけど高中正義さんが世界中でライブをやって、言語も関係なく、世界中の音楽が好きな人にその魅力が伝わっているような状況はすごくワクワクするなと思っています。しかも、それがレーベルの力などではなく自然発生的に生まれている。こういう事例は、今後ももっと起こっていってほしいですね。高中さんの場合は、地域だけではなく年代も超えて多くの人に愛されている。70年代の日本の音楽もここ最近、再発見されて海外で聴かれていることも多い。すごくエキサイティングですよね。数年前に、タイラー・ザ・クリエイターがインタビューで「最近、Shazamした音楽は何ですか?」と聞かれた時に、僕とDaichi Yamamoto君とで作った「Breeze」という曲を挙げてくれていたんです。すごくびっくりして。「どこかのレストランで流れていて、それ以降はあんまり聴いてない 」と言っていたんですけど(笑)、そういうことって、今の時代にしか起こらないんだろうなと思って。
――反対に、我々が解決していかねばならない課題はどういったところにあるとお考えですか?
レイチェル:音楽業界って非常に多様で豊かな場所。そして、アーティストたちは他の市場では不可能な方法で成功することが可能になっている。だからこそ、アーティストが収入を得る方法を引き続き見つけていく必要があると思います。ストリーミングの世界では、楽曲から得られる収入には限界があると感じています。現代のアーティストは、ツアーやグッズ販売だけで生計を立てている人もいるし、それはそれでいいことだと思う。でも、楽曲そのものからもっと多くの収入が得られないのは寂しいことだとも思います。だからこそ、さらなる収益源を見つけることが課題であり、解決しなければならない問題だと考えています。
STUTS::特に日本のヒップホップはインディペンデントで活動している人が多いので、そこに限った話で言うと、ここ10年くらいで音楽だけで生活できている人がとても増えていると感じます。今の時代、別にメジャーレーベルからリリースをしなくても、ソーシャルのサービスを使って自分の楽曲を配信して、その再生回数に応じた収益をダイレクトに受け取ることができる。レーベル側の問題だと思うんですけど、メジャーだと既存のCDビジネスのモデルのまま契約をすることが多いから、アーティストにそのお金が入ってこないんですよね。だから、そこはレーベルが変わらなきゃいけないんじゃないかな、って僕は思います。
――この機会に、個人的にレイチェルさんに伺いたいことがあって。2023年から、Apple Musicはスーパーボウルのハーフタイム・ショーをスポンサードしています。今や、一つの音楽パフォーマンスの域を超えて文化的にも非常に意義深いイベントとなっているわけですが、御社にとってそうしたイベントの一部を担う、ということはどんな意味を持つのでしょうか。
レイチェル:そう感じてくれて嬉しいです。Apple Music、NFL、Roc Nationの3社の間には、本当に素晴らしいパートナーシップが生まれていると思います。私たちは皆、これは単なるパフォーマンスではなく、非常に大きな文化的な意味を持つものだという点で強く一致しているんです。そして、スーパーボウルが音楽面のパートナーを持つのはこれが初めてなんですよね。その甲斐あって、これまでのパートナーではできなかった多くのことを実現できていると感じています。ハーフタイム・ショーのキャンペーン全体を通じて、本当に多くのことを語ることができているのでは、と。その結果、アメリカだけではなく日本でも、こうしてイベントの文化的意義に関心を持ってくれる人がいる。それは私たちにとって非常に重要なことですし、世界でハーフタイム・ショー以上に大きな音楽のステージはないと思いますから。
――まさに私も、国外から毎年パフォーマンスの素晴らしさに心を打たれているわけなのですが、やはり毎年話題になるのは、誰がそのステージに立つか、と言うことですよね。バッド・バニーにケンドリック・ラマー、リアーナ…その裏側はどうなっているのでしょうか。
レイチェル:やっぱり、ジェイ・Zの力でしょうね。我々はパートナーシップを組んでいるけど、やっぱり、彼は素晴らしいA&Rでもある。ゆえに、スペシャルなことが実現できているんですよね。
――近年だと、AIとクリエイティヴィティをどう共存させるか、ということも喫緊の課題かなと思います。STUTSさんはどのようにお考えですか?
STUTS:技術の進歩だなと思っていますが、結局、その技術を使うのは人間なんですよね。AIによって作られた音楽も、何かしら、人間が生み出したプロンプトを使用して作っているわけじゃないですか。そう言う意味では、結局、人が作り出したものと言っていいんじゃないかなとも思っていて。僕はやっぱり、人が生み出すものって、受け手に届いた時に心を動かす何かがある、ということを信じているんです。だから、AI的なものを道具として使って、それで面白いものが生まれた、それはそれですごくエキサイティングなことだと思います。実際に(AIを)試したこともあるんですけど、面白いなと思いつつ、作っていて楽しくないんですよね。なので、別に僕はAIをまだ敵だとは思っていなくて。便利な道具として使えるんだろうなと思っています。 でも、これも現時点の技術力に対してそう感じているというだけで、今後、たぶんもっと想像のつかない進化をしていくと思うんですよね。そうなった時にどう感じるのかっていうのは、その時代になってみないと分からないですね。
――最後にレイチェルさんに伺いたいのですが、次世代のアーティストに対してメッセージを送るなら?
レイチェル: ずっと変わらないことだと思うのですが、自分に正直でいることが大切だと思います。周りの人々や国境を超えた人々から共感を得る唯一の方法は、それだと思う。私は、AIはクリエイターにとって素晴らしい道具になり得ると思う。でも、あなたがアーティストとしてスタートしたばかりなら、まずは自分らしさを大切にし続けることですね。
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