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<わたしたちと音楽 Vol.82>中根さや香 自分の心に従い、感情を映像にする

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回ゲストに迎えたのは、東京とロサンゼルスを拠点に、MVやCM、短編映画を手がける映像監督の中根さや香。“感情を映像にすること”を追求し続けてきた彼女は、海外での活動を通して、それまで抱えてきた違和感の正体に気がついたという。音楽を映像にする仕事の面白さから、女性クリエイターを取り巻く環境まで、率直に語ってくれた。(Interview:Rio Hirai l Photo:Yukitaka Amemiya)

「絵と音楽が合体してるじゃん」
映像という手段を見つけた

――大学では油絵を専攻されていたそうですね。絵画から映像へ、そしてMVの世界へ、どんな道のりだったのでしょうか。

中根さや香:大学で油絵をやっていて、当時は画家として生きていこうと思っていたんですけど、卒業するといきなり生活できなくなるので(笑)、グラフィック・デザインの会社に就職したんですね。でも、あまり合わなくて。いろんな業種を見ていく中で、知り合いがいたCGの会社を受けてみたんです。何の経験もないので会社の方も困惑されて、「3か月くらい、夜インターンで勉強しに来て、それで大丈夫だったら採りましょう」と。昼はグラフィックの会社に行って、夜はCGの会社に行く生活を3、4か月続けて、採用してもらいました。もともと父親がジャズのドラマーで、小さい頃から音楽をずっと聴いて育ったんです。CGをやっているときに、「この映像って、絵と音楽が合体してるじゃん」ということに気づいて、うわっとなったんですよ。「これが、私が求めていたものかも」と思って、その分野でアーティストになりたいと願うようになりました。

――音楽と映像の面白さに気づくきっかけになった作品はあるのですか?

中根:MVではないんですけど、父親が小学校のときに観せてくれた『ロッキー・ホラー・ショー』という映画です。ダンスと音楽と映像が全部揃っているものをいきなりバンと観せられて、「もう好き!」ってなって(笑)。学校から帰ってきて毎日観ていました。音を“聴く”だけじゃなくて、映像を通して“音を体験する”という初めての経験で、すごい衝撃だったんです。

――そこからMVを手がけるようになるまでには、どんな過程があったのでしょう。

中根:監督になりたいとは思っていたんですけど、撮影の経験も知識もゼロだったので、最初はデザインや絵、CGを使った作品を作り続けていました。そんな中で一度、ショート・フィルムを作ったことがあって。制限のないものだったので、「表現したいものを全部入れよう」と思って、脚本も書いて、キャスティングもして。出来上がったときに、「あ、好きなものを全部詰められた」という感覚があったんですね。そこからずっと追求しているのが、感情を映像にするということです。

――最初の作品で、すでに自分のスタイルを見つけた手応えがあったんですね。

中根:「これだ」というのはありましたね。今でも、企画を作って、撮影して、編集が終わったときに「あ、感情見えてる」となったときは「キタ!」となります(笑)。

原作のある映画を撮るように
すべては曲次第

――新しい曲を受け取って映像化を考えるとき、最初に何を考えますか?

中根:普段は、その楽曲の雰囲気や空気感を感じて、そこから「今、この人は何を感じてるのかな」「何が言いたいのかな」ということを考えていくと、自然とストーリーができてきて、色やデザインがそれに付随してくる感じですね。でも、曲によって全然違って。色やデザインがパパパッと浮かんでくるときもあって、そういうときはそれをベースにストーリーを組み立てていく。本当に、曲次第です。

――MVは音楽が主役の映像だと思います。監督としての作家性とアーティストの世界観は、どう合わせているのでしょう。

中根:まず、アーティストがどういうことを表現したいのか、何を大切にしているのかを理解することから始めます。実際に対話して探ることもありますし、曲を聴いて「こういう感じなのかな」と提案することもある。原作のある映画を作っている感じ、というか。その原作を私なりに解釈して、映像化するという感覚だと思います。

――ご自身の作品を自由に作るのとは、また違う面白さがありますか?

中根:ありますね。2つのものが合わさっていくので、「私1人だったら、こっちに行かなかったかも」ということがあって。それがすごく面白いです。



▲ 「Gold Unbalance feat. 中島健人」MV / Mori Calliope

――直近では、中島健人さんとMori Calliopeさんのコラボ曲のMVも手掛けられました。

中根:生身のアイドルの中島さんと、Mori Calliopeさんというバーチャルのアイドルの方をどう共存させるかという挑戦で、本当にいい経験になりました。挑戦されると燃えちゃうんで(笑)、いっぱい考えました。楽しかったですね。

――アナログな手法をあえて選ぶこともあるそうですね。新しい技術と、手触りのバランスはどう考えていますか?

中根:作品によって何を伝えるかが一番大事なことで、アナログか、新しい手法かというのは、伝え方の手段でしかないと思うんです。だから、バランスを取ろうという感覚はなくて、「どの伝え方が一番伝わるのか」を考えています。私は作品によっていろんな作り方をしますが、それは曲を聴いて「どう出していくのが伝わるかな」という作業をしているから。「これが伝わる」「これがもっと伝わる」と探っていってるんだと思います。

――いろいろな手法を使う中で、“変わらないもの”はありますか。

中根:やっぱり、“心に従う”ということですかね。

「あなた、ピッチ取れないでしょ」
気付きをくれたひと言

――短編映画『Story To Tell』は、ロンドンやロサンゼルスなど海外の映画祭で高く評価されました。この経験は、キャリアにとってどんな意味がありましたか?

中根:海外で評価されたとき、作品そのものを観てもらえた感覚があって、確実に自信につながりましたね。これをきっかけに海外のレップ(エージェント)との話がどんどん進んで、いろんなフィルムメーカーに会えて、気持ちがすごくリフレッシュされました。再び自分の力を信じることができたんです。

――日本と海外の制作現場には、大きな違いがあるということでしょうか。

中根:日本だと、やっぱり“女性映像作家”“ 女性監督” “女性クリエイター”というところから入るんですけど、海外だと作品そのものを観てくれる。その作品を作っている映像監督、映画監督という見方になるんです。この違いは大きいと思います。

――以前、クリエイターが力を発揮するためには心理的安全性が必要だとお話しされていました。現場での心理的安全性とは、具体的にどういうことだと思いますか?

中根:“安心して挑戦できる環境がある”ということだと思います。日本は同調圧力が強いですし、特に女性は、“こうあるべき”と押し付けられて生きてきたことが、知らない間に染み込んでいたりする。私も実際、撮影が大好きなのに、撮影現場でめちゃくちゃ居づらいと思っていて。しかも、その居づらさを自分のせいだとずっと思っていたんです。私のコミュニケーション能力が足りないんだ、と縮こまっていた。意見が言いづらいとか、言っても聞いてもらえないとか、長時間の撮影で生理のときにトイレに行きにくいとか──女性監督同士で話すと、そういう話がよく出るんですね。そういう状況で最高のパフォーマンスは絶対に出ないと思うので、1人ひとりが安心して実力を発揮できる環境を作っていかないといけないと思っています。

――「居づらさは自分のせいじゃなかった」と気づいたきっかけは、何だったのでしょう。

中根:アメリカで最初に、女性のフィルムメーカーをフックアップする団体に所属したんですけど、最初の面談で言われたのが、「あなた、ピッチ取れないでしょ」だったんです。CMは全部コンペで、選んでいる側に男性が多いから、女性が取りにくいという現状があって。私はずっと「私のアイデアがいけなかったのかな」と考えていたんですけど、ひと言目がそれだったので、「みんなそれを経験して、今ここにいるんだな」って。そのひと言で、全部が現れた感じがしましたね。

――女性であることが、生き方そのものに影響してきたと感じますか?

中根:めちゃくちゃあると思います。私は気づかずに、自分のせいだと思って生きてきたので。本当は、そんな思いをする必要は全くないじゃないですか? でもそれは、女性だからしてきた思い。ただ、気付けて良かったなと思います。

――環境を変えていくためには、何が必要だと思いますか?

中根:女性の数が圧倒的に違うんです。アメリカは女性プロデューサーもすごく多い。日本は監督は増えてきましたけど、プロデューサーは少ないし、代理店やクライアントにも女性が少ない。数が少ないことが一番の問題だと思います。よく「機材が重いから女性は難しいんじゃない」と言われるんですけど、その重い機材を作っているのも男性。機材とかシステムとかから変えていかないと、対等にはならないんだろうなと思います。それから、入ってくる方は多いんですよ。でも、辞めていく方もすごく多くて、続かない。だから私は、自分が働きやすい現場を自分で作っていくことが後にも繋がるのかなと思ってやっています。知り合いに“ポリシーブック”を作っている方がいます。これはプロジェクトが始まる前に現場で配るもので、ジェンダーや人種、障害に対して気を付けたい言葉が全部書いてあるんです。すごく素敵な取り組みだなと思っていて、撮影のたびに毎回配れないかと、今相談しているんです。

――そういった環境の中で、ご自身が長く続けてこられた理由は何だと思いますか?

中根:最初は気付いていなかったから、ただ頑張るしかないと思っていました。アメリカに行ってからは、それがスパンと剥がれた感じがして、「自分らしくやろう」ということに集中しています。辞める人は、“居づらい”“できない”と自分で思って辞めてしまっている人が多いと思う。そこに気付いてもらえるように、皆さんと話していきたいなと思いますね。話すのって、とても大事。でも日本には、そういう場が全くないんですよ。アメリカの私のプロダクションは、プロデューサーがほぼ女性で、ディレクターにも女性が何人もいるので話しやすいし、現場の雰囲気も全然違う。それを体感している分だけ、返したいなという気持ちはあります。

自分の心に従うことが
一番の近道

――女性クリエイター同士で集まると、話題はどんな感じになるのですか?

中根:どこまで“ノー”と言っていいのか、とか(笑)。クライアントやプロデューサーから言われたことを、どこまで断って自分の意思を貫き通していいのか。あとは、逆境に燃えて「やるぞ」となる人もいれば、静かな空間で感性を紡ぐ人もいる。いろんなタイプの方がいらっしゃるので、強い女性だけが残るんじゃなくて、ありのままの姿で残れる環境を作らないとね、という話はよくします。

――日本では、キャリアのある女性というと“強さ”がイメージされがちです。ロサンゼルスでは違いますか?

中根:まず、“女性”というより“クリエイター”なので。男女問わず、強い人もいればゆっくりの人もいるし、それぞれのクリエイターがいるという感覚だと思います。

――そういう環境を体感してから日本に戻ると、ギャップを感じることもありますか?

中根:帰ってくると、ドキッとすることが多いです。例えば、今まで気にも留めていなかったんですけど、クライアントとの会議の中で、名刺をもらうのが最後。その話をすると、みんな「私もだ」ってなるんですよね。つまり全員、気にしていないんですよ。でも、そうやって会話の中で気付けることがある。

――キャリア1年目の自分に、今の自分がアドバイスをするなら?

中根声を掛けるなら、「そのまま折れないで」。「作品も生き方も、心に従うこと」。それって遠回りに見えるんですけど、実は一番の近道。最初の頃は他人からのリクエストに対して、ただ寄り添うようにしてました。それだけが近道だと思っていたから。でも長くやってきて、「遠回りだったかもしれない」と思うようになりました。結局、監督として自分が正しいと思うことをやらないと、作品にはならないんですよね。人のリクエストに応えることを続けて、自分が作品だと思えないものを作っていたら、いつか破綻する。だから、その時は手間がかかっても、自分が正しいと思うことをちゃんと説明して、理解してもらいながらやり続ける。一見遠回りに見えるけど、それが結局、一番の近道なんだと思います。だから、今はできる限り自分の心に従うようにしています。

――期待に応えたい気持ちが、本来のご自身の心を邪魔することもあると思います。どうやって自分の心を素直に受け止められるようになったのでしょう。

中根:私はクリエイターで、ディレクションする立場なので、「こうしたらもっと伝わるよ」ということを大事に、はしょらないで、分かってもらえるようにちゃんと説明する。もちろん人の話は聞きますし、良いものはピックアップして取り入れます。でも、自分が正しいと思っていることからは外さない。それを守っていくのが大事なんじゃないでしょうか。

――本連載では、ゲストの皆さんが音楽からエンパワーメントされることもお聞きしています。中根さんにとって、音楽はどんな力を持っていますか?

中根:音楽って本当に創造の源。私、ショート・フィルムやストーリーを作るときも、音楽をミックステープみたいに並べて、そこからストーリーを紡いでいくんです。脚本を書くというより、曲を並べてストーリーを繋げていく作り方をしていますね。

――これから挑戦したいこと、夢を聞かせてください。

中根:ずっと作りたいのに、まだ作れていない長編映画は絶対やってみたいなと思っています。同時に、次の世代の女性クリエイターたちが自然に活躍できるような場所を作りたい。私もLAで、女性としてではなく1人のクリエイターとして受け入れてもらったことで、すごく気持ちが楽になって今も作り続けられている。そういう環境を日本にも作りたい。プロダクションなのかレップなのか、形は分かりませんが、いつかはチャレンジしたいです。

――読者へメッセージをお願いします。

中根:女性の方は、「思い詰めないで周りの人と話してほしい」というのが一番。あとは、「女性クリエイターも性別関係なく1人のクリエイターなので、クリエイターとして扱って、みんなで良いものを作っていければいいな」と思っています。


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