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<コラム>上白石萌音、10年目に贈る『bouquet』~そして凱旋ライブと主催フェスへ~(前編)



コラム

Text: 佐藤優奈

2016年10月、上白石萌音は歌手としての一歩を踏み出した。それから10年、俳優として数々の作品に出演しながら、彼女はずっと歌うことも続けてきた。演じた役、出会った人と作品、託された楽曲。1つひとつが少しずつつながって、2026年の上白石萌音がある。

はじまりの一曲

上白石が歌うことを覚えたのは、2、3歳の頃だという。本人曰く「海を見たら海の歌を、チューリップが咲いていたらチューリップの歌を歌うほど」の“ずっと歌っている子”だった。

小学校3年生から5年生までの3年間を過ごしたメキシコでの経験も、彼女に大きな影響を与えた。日常に歌や踊りがあふれた国で過ごす中で、「歌があればいろんな人とつながれる」と感じるようになったのかもしれない。

芸能界入りのきっかけは2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディションだった。<審査員特別賞>を受賞し、彼女は芸能の道を歩み始めた。

歌い手としての転機となったのは、映画『舞妓はレディ』だ。オーディションで「何か歌えますか?」と尋ねられ、迷わず歌ったのはミュージカル『レ・ミゼラブル』の劇中歌「On My Own」。この曲が、歌手活動のはじまりの一曲といえるだろう。本人は当時を振り返り、「この作品に出演できていなかったら、今の私は何をしていたんだろう?と思うくらい人生が変わった」と語っている。


歌うように演じて、演じるように歌いたい

2016年8月、上白石はアニメーション映画『君の名は。』で主人公の声を担当。興行収入250億円を超える大ヒットとなり、彼女の名も一気に広まった。

そして同作の舞台挨拶に、主題歌を担当した野田洋次郎(RADWIMPS)がサプライズ登壇。野田に促されるまま、彼女はギター伴奏で「なんでもないや(movie ver.)」を歌った。この一幕が話題となり、彼女の歌声は世間に広く知られることになる。

10月5日、上白石萌音としてミニアルバムをリリースし、歌手デビューを飾った。メジャーデビューアルバムのタイトルに選んだのは、仏語で「お気に入り」を意味する『chouchou』。その名の通り、お気に入りの映画音楽6曲をカバーした。「On My Own」「なんでもないや(movie ver.)」など、自身に縁がある楽曲を丁寧に歌い上げた、彼女らしい1枚だ。

デビュー当時、彼女は自身の表現について「歌うように演じて、演じるように歌いたい」と語っている。確かに、表現のジャンルは違っても、思いを伝えるという本質は変わらない。この姿勢は、10年間の歌手活動にも表れている。彼女はのちに出演するミュージカルや舞台の楽曲を、その後のライブでも歌っている。この頃すでに彼女は、演じることと歌うことを行き来しながら歩んでいく未来を描いていたのかもしれない。


コロナ禍のなかで

2017年2月、初のワンマンライブ【Live THEATRE〜chouchou〜】を開催。同年7月には初のオリジナルアルバム『and...』をリリースし、11月には自身初の全国ツアーで福岡・大阪・東京を巡った。

順調だった活動に、少しずつ影を落としたのが新型コロナだった。

2020年8月、初のオリジナルフルアルバム『note』を発売。翌9月、その発売にあわせてオンラインライブ【i note】を開催した。約3年ぶりのワンマンライブだが、会場は無観客で配信のみ。なぜなら当時は新型コロナの感染拡大期だ。ライブハウスやホールでの有観客公演は軒並み中止or延期されており、もちろん彼女も例外ではなかった。それでもこの夜、彼女の表情には、ファンに直接歌を届けられる喜びがにじんでいた。

彼女は先の見えないコロナ禍にあっても、歩みを止めなかった。翌2021年にはカバーアルバム『あの歌-1・2-』をリリース。そして同年7月、ワンマンツアー【Mone Kamishiraishi『yattokosa』Tour 2021】をスタートさせた。「やっとこさ」という軽やかな語感の奥には、制約の多い期間を経て、ようやくステージにたどり着いた実感が込められている。「やっとこさみんなに会える」「4年間で作り上げたものをやっとこさ披露できる」。そんな彼女の思いは、ツアー名だけでなく、パフォーマンスにも表れていた。

ツアー最終日の東京・ガーデンシアター公演で、彼女は観客に向けてこう語りかけた。「ひさしぶりにカメラではなくお客様の顔を、皆さんの目をみながら歌って、歌を聴きながら楽しそうにされている顔を見ることができて本当に幸せです」。そして最後に「この我慢ばかりの日々の中で、少しでも心の解放ができますように、癒しになれますように」とささやかな願いを口にした。以降、この『yattokosa』ツアーは毎年恒例となり、彼女の歌手活動に欠かせないものとなっていく。


紅白に出場

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で初代ヒロインを務めた上白石にとって、2021年は特別な年だった。その締めくくりとなったのが、大晦日の【第72回 NHK紅白歌合戦】だ。初出場が決まった際の会見では、こう語っている。「今年1年は本当に、私にとって大きな1年になりました。これまでお仕事を始めてから出会った方々への感謝の思いをたくさんこめて、大切に歌わせていただきます」。

年の瀬の大舞台で歌ったのは、2020年にリリースしたオリジナル曲「夜明けをくちずさめたら」。誰もが抱える孤独や、愛されたいという気持ちに寄り添うバラードで、水野良樹(いきものがかり)が作詞作曲を手がけた。

この曲は、後年のライブのセットリストにも名を連ねている。一曲一曲を大切に歌い継いでいくのが、彼女の歌に対する向き合い方だ。そして水野との縁も、この一曲だけでは終わらない。この後も、彼から新たな楽曲たちが贈られている。


武道館、そしてその先へ

紅白出場から約1年後、日本武道館という舞台が現実になった。【Mone Kamishiraishi『yattokosa』Tour 2022】の千秋楽で武道館公演決定が発表されると観客から大きな歓声が上がった。

迎えた2023年1月25日、武道館ライブ【Mone Kamishiraishi 2023 at BUDOKAN】を開催。セットリストは、”デビューミニアルバムからおおよそ順番通り”で組まれていた。これまでのオリジナル曲・カバー曲に加え、自身が出演した映画・舞台の楽曲も披露し、彼女の歩みをともに振り返れるような内容だった。

「舞台の上で、役として歌うことが私の人生のなかですごく大切なんです」。彼女は武道館のステージでそう語り、2019年に出演した音楽劇『組曲虐殺』から「豊多摩の低い月」を歌唱した。デビュー当時に語っていた「歌うように演じて、演じるように歌いたい」という言葉が、この一曲にそのまま重なる。さらに『組曲虐殺』をはじめ様々な舞台で共演した井上芳雄がサプライズ登場。かつてともに舞台で歌ったミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』『ナイツ・テイル―騎士物語―』の劇中歌を再びデュエットした。役として大切に歌ってきた楽曲たちが、武道館という晴れ舞台の上に並んだ。


同年11月には【Mone Kamishiraishi『yattokosa』Tour 2023】で全国を巡り、2024年11月には2年4か月ぶりとなるオリジナルアルバム『kibi』を発売。同年12月からは、自身最大規模のライブツアー【Mone Kamishiraishi ”yattokosa” Tour 2024-25《kibi》】で全国10か所を回った。『kibi』のコンセプトは「ある1日の時間の流れの中にある、様々な情景や感情の機微」。日常の小さな機微をすくい取り、楽曲を通して聴き手に手渡すことは、そう簡単ではない。彼女はいつのまにか、それだけのことができる豊かさを備えた歌い手になっていた。

その豊かさは、彼女ひとりだけで育んだものではないだろう。この時期、彼女の活動の幅は音楽シーンの中でも着実に広がっていた。井上芳雄や海宝直人、島田歌穂、夏木マリといった、音楽・舞台の先輩たちのステージにも積極的に参加。さらには、いきものがかりのライブ【こんにつあー2024】、【ap bank fes '25 at TOKYO DOME】にも参加。こうした共演の1つひとつが、彼女の音楽に少しずつ幅を与えてきたのかもしれない。

そして10周年イヤーへ

2026年、上白石は歌手デビュー10周年を迎える。アニバーサリーイヤーの第一弾は、2月にリリースされたアルバム『texte』。映像作品にまつわる楽曲を集めるというコンセプトは、デビュー作『chouchou』と共通しているが、収録曲(「アルデバラン」(『カムカムエヴリバディ』主題歌)、「なんでもないや (movie ver.) texte ver.」)を見れば、10年という時間が刻まれているとわかる。同じコンセプトの中に、役者としての10年分の景色も重ねてみせた。

今年4月に開催されたツアー【Mone Kamishiraishi “yattokosa” 26《texte》】では、あの「On My Own」も歌われている。10年前に人生を変えたこの曲を、今もう一度歌う。そこには、これまでの歳月を確かめるような意味もあったかもしれない。

ツアー最終日、東京ガーデンシアター公演で、10周年記念オリジナルアルバム『bouquet』のリリースが発表された。このアルバムには、androp・内澤崇仁、大橋トリオ、角舘健悟、水野良樹、藤原さくらといった、これまで楽曲を提供してきた面々が集まっている。アニバーサリーイヤーを飾るアルバムの制作に際して、彼女はこう語っている。「楽曲提供していただくことは、一輪ずつ花を、命を託していただいているようなこと。それをキュッと束ねて皆さんの元に感謝を込めてお返しするという意味で、アルバムに『bouquet』という名前をつけました」。



集大成は、故郷と初めての野外で

この10年、上白石萌音は演じることと歌うことを行き来しながら、出会った人や楽曲、経験してきた舞台を、大切に歌い継いできた。紅白で歌った曲も、武道館で歌った曲も、オーディションで歌った曲だって、今も変わらず歌い続けている。

この秋、10年間の集大成ともいえる2つのステージが控えている。ひとつは9月20日・21日、地元・鹿児島での凱旋ライブ【Mone Kamishiraishi 10th Live《bouquet》for HOME】。もうひとつは10月3日・4日、自身初となる主催野外フェス【Mone Kamishiraishi 10th Live《bouquet》for ALL】だ。出演者には、androp、大橋トリオ、角舘健悟。これまでの10年で何度も名前が出てきた面々が、再び顔を揃える。上白石は「10年でこんなにも沢山出会いがあって、沢山の方が力を貸してくださって、本当に夢のようなことが起きています」と、感謝の思いを口にしている。

10年間、彼女はたくさんの人や楽曲、作品と出会ってきた。その一つひとつが束ねられ、この秋、大きな花束になる。

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