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<コラム>なぜ「mosi mosi?」は世界でトレンドになったのか?――楽音のSNS戦略と拡散の軌跡を紐解く

コラム

Text:矢島由佳子

 今、「mosi mosi?」というタイトルの楽曲が世界中に広がっている。

 歌っているのは、日本を拠点に活動する、楽音(ささね)。今年2026年3月に高校を卒業したばかりの18歳。2020年からモデル活動を開始し、すでに世界的認知のある企業の広告に起用された実績もある。現在はジュエリーの専門学校に通うという、マルチなクリエイティブセンスを持っている存在だ。

 4月22日に初のオリジナル曲「mosi mosi?」が配信リリースされると、日本のみならず、韓国、台湾、ベトナム、香港のSpotifyバイラルチャート「Viral50」にランクインを果たした。この記事を書いている6月25日時点では、「mosi mosi?」のオリジナルバージョンと韓国語バージョンの2曲しか発表していないにもかかわらず、ストリーミングのデイリー再生数はピークで60万を記録し、Spotify月間リスナーは150万を超える。

 「mosi mosi?」が世界的に広がったきっかけは、TikTokだ。「mosi mosi?」を使ったTikTok内のUGC投稿本数は330万本以上、累計楽曲再生数は34億回以上(7月1日時点)と、驚異的な数字を生み出している。これらは国内ヒットだけではなかなか到達できない数字であり、現象が海を超えている証拠だ。楽音のTikTokアカウントのフォロワー層を分析すると、日本の他にも、タイ、フィリピン、アメリカ、フランス、ブラジル、インドネシアなど、世界各地にファンがいる状況ができあがっている。こちらの記事によると、国/地域別ストリーミングシェアは日本が48.7%で、続いて韓国が38.8%というデータが出ているとのことだ。

 この記事では、「どんな経緯でTikTokトレンドになったのか?」「どのように海外へと広がったのか?」「勝因はどこにあったのか?」という3つのポイントから、「mosi mosi?」のヒットを分析する。


どんな経緯でTikTokトレンドになったのか?

 まずは、TikTokでトレンドが生まれた流れを具体的に追ってみたい。

 3月4日、楽音は自身のTikTokアカウントに、初めて「mosi mosi?」のサビ音源をつけた動画を投稿した。その一発目の動画から、ムーブメントは始まった(7月1日時点で163万回も再生されている)。


@sasasasasasa078 Got scratched after that...🐈 And this was for my first original song. rude#mosimosi? ♬ mosi mosi - 楽音- sasane

 それまでは、2025年3月から、アコースティックギターによる弾き語りのカバーをTikTokに投稿していた。1年間に積み上げた「5つの要素」が、「mosi mosi?」の爆発の下地になっていたと分析できるので紹介したい。

 1点目は、2025年6月2日から、「英語字幕欲しいっていっぱいきてたから!!!!」と視聴者のリクエストに応える形で、日本語詞の英語訳を動画に乗せてカバーを投稿していたこと。そういった発信によって、「mosi mosi?」を投稿する前からTikTokフォロワー数は50万を超えており、タイ、アメリカ、フィリピンのフォロワーが3割を占めるほど海外にもファンベースを広げていた。2点目は、初投稿からずっと、前髪ぱっつんスタイルを貫いていたこと。そのビジュアルが、国内外の視聴者の印象に残るトレードマークになっていた(これが海外ファンに愛される要素になっていたことについては後述する)。3点目は、1年に渡って色々な楽曲をカバーする中で、自分の声にはどの音域・キーや歌い方が合っているのかを掴んでいたこと。RADWIMPS、クリープハイプ、神聖かまってちゃんなど男性ボーカリストの楽曲もカバーしているが、ハナエ、cinnamons、相対性理論、大森靖子、アカシックなどのカバーが比較的伸びており、そういった視聴者の反応から見えた自分の声の個性を、初のオリジナル楽曲でズレなく活かすことができたのだろう。4点目は、カバー動画においても、歌い始める前に楽音が何か一言を言うのが人気フォーマットになっていて、それを引き継ぐ形で「mosi mosi?」もサビ前に「もしもーし、聞こえてる?」というセリフを入れる発想が生まれたこと。結果的に、その一言がキャッチーなフックとなり、楽曲がここまで広がる要素のひとつになった。そして5点目は、3月4日に初めて「mosi mosi?」を投稿する前の1週間は、カバー期間の1年で特にバズった曲(ハナエ「神様はじめました」、cinnamons×evening cinema「summertime」など)をもう一度歌って投稿していたこと。それらが狙い通り、再度爆発的に伸びている中で、自分の勝負曲である「mosi mosi?」を投稿するという巧みな戦略がなされていた。

 3月4日の「mosi mosi?」の初投稿以降も、楽音は、世界に向けた発信を止めなかった。2日後の6日にはフォトモードを使用した日本語と英語による自己紹介画像、8日には「mosi mosi?」の1番Aメロ、9日にはSped upバージョン、13日にはもう一度自己紹介画像を投稿するなど、興味を深めるコンテンツを連続して公開した。




@sasasasasasa078 Signal up!!!!!!!! Speed up!!!!!!!!!!!#mosimosi? ♬ mosi mosi sped up - 楽音- sasane

 そうすると同時にUGCも広がっていった。まずは3月9日、楽音の友人であるアカウントがリップシンク動画を投稿。15日には、フォロワー12万の「くろいろ」が猫と撮影した動画を投稿した。楽音もその動画に、(くろいろの「この方18歳っておととい知って今月一驚いた」という言葉に対して)自ら「何歳にみえました??」とコメントを書き込んでいるのもいい。友達に話しかけるように投稿主へコメントしているところからも、楽音はSNSや動画プラットフォームをプロモーションツールではなくコミュニケーションツールとして使っていることがわかる。それこそが、今の時代にTikTokやSNSをマーケティングに使う際の最重要なポイントだ。


@kuroiro.1 @楽音-sasane ♬ mosi mosi? - 楽音

 そして18日には、「いぬ」という、フォロワー3桁台の顔出しをしていないアカウントが2人組の振付動画を投稿した。2日後には、楽音本人がその振付を踊った動画を投稿。さらに翌日には、1人でも踊れるように1人バージョンを楽音自身が投稿した。この動画にアーティスト自ら乗っかったこと、しかもその反応速度が凄まじかったことも、「mosi mosi?」がここまで広がった重要な要因である。


@buriburiwanwan タイパンツを履いたんす@楽音-sasane #mosimosi? #タイパンツ#フレブル #おそゃれ#fyp ♬ mosi mosi? - 楽音


@sasasasasasa078 kawaiiiiiiiiii dance!!!!!!.!! Can you guys do it? 💕🕺dc:@いぬ #mosimosi? ♬ mosi mosi? - 楽音

 その後、フォロワー数320万を超えるクリエイターの桜、ABEMAの恋愛リアリティショー『今日、好きになりました。』で大人気の長浜広奈などが、動画を投稿したことがきっかけで、他のクリエイターやユーザーよるUGC投稿が爆増した。

どのように海外へと広がったのか?

 そこから、どのようにして海外まで広がったのか?

 最初のきっかけは、3月31日、『Girls Planet 999』『SHOW ME THE MONEY』などのサバイバル番組に出演していた韓国のソロアーティスト、ユ・ダヨンによるダンスとコーデ紹介を組み合わせた動画だった。これが現在は363万回も再生されている(7月1日時点)。


@dayeon_you_ ( ͜♡・ω・) ͜♡ #유다연 #YOUDAYEON #ユダヨン #柳多恋 ♬ 오리지널 사운드 - 유다연

 その後、4月10日、TWSがダンス動画を投稿。この影響を受けて翌日11日には、TikTok内の「mosi mosi?」再生数が前日比の2倍まで伸びている。その後1か月間に、NCT WISH、IVE、SEVENTEEN、TWICE、TOMORROW X TOGETHER、LE SSERAFIM、ENHYPEN、Stray Kidsなど、大型K-POPスターたちが次々とダンス動画を投稿した。


@tws_pledis mosi mosi👊😉✊ #JIHOON #DOHOON #TWS #투어스 #247WithUs ♬ mosi mosi? - 楽音

 4月22日に「mosi mosi?」のフル尺が、TikTokが提供するディストリビューションサービス「SoundOn」を通じて配信スタートすると、日本のTikTokランキング「トップ50」「バイラル50」での首位獲得に加え、韓国の同ランキングでも同時に首位を獲得した。5月11日には、Spotifyバイラルチャートで日本1位、韓国1位、台湾4位にランクイン。5月14日付けのビルボードジャパン“Japan Songs(South Korea)”(韓国で聴かれている日本の曲ランキング)では、Official髭男dism「Pretender」、米津玄師「IRIS OUT」に次いで、新人のデビュー曲が3位に入り込むという快挙を成し遂げた。

 そういった火種にさらにガソリンを注ぐように、4月27日、韓国料理屋で撮影した、韓国語で歌う「mosi mosi?」の動画を投稿。その約2週間半後の5月15日には、全編韓国語詞の「mosi mosi? (Korean ver.)」をフル尺で配信リリースした。さらに翌週には韓国へ飛んで、ソウルの女子校でライブを披露したり、30組にも及ぶ韓国のクリエイターとそれぞれコラボ撮影したりと、現地でのプロモーションを迅速に行った。


@sasasasasasa078 한국어 버전💖 너무 어려워!! 근데 진짜 재밌어!! ㅠㅠㅋㅋ 韓国語バージョン💖 難しい難しい!!楽しい楽しい!😖✨ Korean ver. 💖 It’s so hard!! but it’s so fun!! 😂✨ #mosimosi? #koreanversion #NewMusic video by @Ricky ♬ オリジナル楽曲 - 楽音-sasane - 楽音- sasane

 日本と韓国を巻き込んだ「mosi mosi?」の現象は、次にUSへと広がった。この要因については「mosi mosi?」が「SoundOn」からリリースされていることにも注目すべきだ。

 5月に入ってから、USに住むアジア系ユーザーによるダンス動画の再生数が伸び、その動画にインドネシア語・タイ語など東南アジアの地域の言語によるコメントが多く書き込まれるという現象が起きた。その広がりを受けて、SoundOnはUSでのプロモーション展開を行った。6月11日〜6月24日にかけてはクリエイターキャンペーンが開催され、その結果、USでのTikTokのUGC数や動画再生回数が伸長。以下の動画が、それぞれ3000万〜1億再生まで伸びているのは、SoundOnとの取り組みがあってこそ出せた数字だと考えるのが妥当だろう。その影響でUSにおける「mosi mosi?」のストリーミング再生数は、クリエイターキャンペーン実施前と比較すると1.2倍に成長した。



@teeniesha

I filmed two povs because I couldn’t pick which one to use haha

♬ mosi mosi? - 楽音

※そのほかTikTok投稿
https://www.tiktok.com/@moushicaa/video/7642192060300184846 https://www.tiktok.com/@daneeyelllll/video/7644352927867391262 https://www.tiktok.com/@teeniesha/video/7646350356850560278 https://www.tiktok.com/@cosmic.tokki/video/7643488523328212238 https://www.tiktok.com/@yanh_yi/video/7642073597594389790

勝因はどこにあったのか?

 最後に、「mosi mosi?」という楽曲や、楽音のSNS発信のどこに勝因があったのかを、もう一歩踏み込んで分析したい。

 まず、音楽性や楽音の世界観について。「mosi mosi?」の楽曲プロデュース・作詞作曲編曲を手がけたのは、向田民子。彼女は、自身のプロフィールに「未だ平成を生きる音楽家」と掲げており、平成のJ-POPや映像などの魅力を現代的な感覚で再構築することを持ち味としているアーティストだ。向田のサウンドや美学に楽音の声と世界観が掛け合わさると、「渋谷系」や「シティポップ」と呼ばれるジャンル、ノスタルジックな「国産ゲームミュージック」、ASOBI SYSTEMやKAWAII LAB.が牽引してきた「KAWAIIカルチャー」、もしくは「電波系」が織り混ざったような音楽表現が生まれている。さらに、カバー時代から海外のフォロワーからは、「アニメから出てきたような女の子だ」という声があったそうだ。前髪ぱっつんのヘアスタイルや個性的なファッションから、そう感じ取るのだろう。

 「渋谷系」「シティポップ」「電波系」「ゲーム」「KAWAII」「アニメ」と、海外にいるジャパニーズ・カルチャー好きの人たちが憧れる「日本っぽさ」が詰め込まれているのが、楽音と「mosi mosi?」だと言えるのではないか。楽音の雰囲気を「アニメ」の文脈で捉えて投稿を楽しんでいる人もいれば、「渋谷系」の文脈で音楽を聴いている人もいるのだろう。海外のジャパニーズ・カルチャー好きのさまざまな層の人たちを一気に惹きつけることができたからこそ、楽音と「mosi mosi?」の世界的トレンドはここまで大きくなったと私は分析している。

 ここまでも楽音のTikTokの使い方の上手さについてはいくつも挙げてきたが、成功要因を一言で言うならば、ユーザーが「mosi mosi?」で遊べる要素を次々と自ら発信したことにある。しかも、スピード感を持って。

 先述したように、初投稿から1週間以内に、サビだけでなく1番AメロやSped Upバージョンも投稿したという計画性と実行力は、目を見張るものがある。振付考案者の「いぬ」の投稿から2日後には自らも踊ったこと、誰かが音源を使った投稿をするとすぐに自らのアカウントで「再投稿」を行っていること、そして韓国での広がりを受けてすぐに飛行機に乗ったことも含めて、こういったスピード感は「今はTikTokやSNSが最優先事項である」という認識が本人やスタッフにあってこそ実現できるものだ。

 「遊べる要素を次々と自ら発信していた」という点について大事なことを補足すると、「mosi mosi?」は、手書きの落書きを動画に載せる遊び方も人気になった。これが流行ったきっかけは、4月2日、楽音自身が同内容の動画を投稿したこと。その後、学生が同じフォーマットで投稿したところ、現在は165万回も再生されているほど拡散された。この遊び方が流行った要因としては、第一に、レトロなサウンドに手書き装飾がハマったことが挙げられる。それに加えて、動画編集アプリ「CapCut」にワンタップで撮影・編集できる落書きテンプレートが存在しているものの、「あえて少し手間のかかる編集を自分もトライしてみたい」「その中で自分の個性を出したい」といったTikTokユーザーの投稿欲をくすぐるものになっていたのだと考えられる。


@sasasasasasa078 I’m going to sleep now!!!!!! Spam the comments with cats 🐱💞😽💃💃💃💃💃 Good nighttttt!!!!!! 😴✨#mosimosi? ♬ mosi mosi? - 楽音

 4月8日に「Rainbow stars」というアプリ内のエフェクトを使って投稿したことも、この曲を使ったひとつの撮影の仕方として広まった。


@sasasasasasa078 I LITERALLY DID NOT STEP OUTSIDE EVEN ONCE TODAY!!!!!!!!!!!! JUST ME AND MY COMPUTER ALL DAY CLICK CLICK CLICK!!!!!!!!!!!! 😭💻💥#mosimosi? #speedup ♬ mosi mosi? (Sped up) - 楽音

 また、4月21日にはアカペラ音源を投稿し「sample this」と促したことで、「電波が悪すぎるmosi mosi」や、「もしもし」ではなく「しもしも」から始まる「ダンシングmosi mosi」など、おふざけの入ったリミックス動画がユーザーから投稿された。楽音自身が積極的に楽しい動画を投稿しているからこそ、「この曲で遊んでいいんだ」という空気がユーザーに伝染していたことも、ネットウケするリミックスがユーザーから生まれたことにつながっているだろう。その後は、それらのリミックス音源を使ったUGCも増えていった。同時に、TikTok振付クリエイターのレジェンドとも呼べるローカルカンピオーネが考案した、サビ以外のパートに乗せた振付も広まった。


@manimani_mima0425 これで社会現象目指しますか #mosimosi #ダンシングヒーロー #ダンシングmosimosi #おすすめ #バズれ ♬ ダンシングmosi mosi - MIMA

 ミームは、流行るときはものすごいスピードで広がるが、ユーザーや視聴者に飽きられるのも早い。そんな中で、「mosi mosi?」は次から次へと新しいミームが誕生したことで、楽曲がTikTokを席巻する期間がここまで長くなった。6月26日には韓国のガールズグループ・KiiiKiiiのメンバーであるLEESOLとのコラボリミックスがリリースされたため、まだまだ「mosi mosi?」はTikTok内で鳴り響きそうだ。

 こう書くと、楽音が投稿したすべてのアイデアが上手くいっているように感じるかもしれないが、決してそうではない。アコギ弾き語りでコード進行を載せた動画を発信したこともあるが、ギター弾き語りカバーの方向性ではさほどUGCが増えなかった。ひとつが上手くいかなくとも、あらゆることをトライし、様々な種を蒔き続けたことこそが「mosi mosi?」をヒットへと導いたのだ。

 楽音と同じような音楽性やマーケティングに取り組めば、どんなアーティストも世界トレンドを作れるというわけではないのが、音楽の届け方の難しくも面白いところ。楽音は、実はTikTokのサブアカウントも持っていて、そこにはVlogやふざけているような動画を気軽にアップしている。SNSへの向き合い方はアーティストそれぞれだが、きっと楽音は日常的に使いこなしているタイプなのだろう。しかもファッション・メイク、絵など、視覚的要素のクリエイティブセンスも持ちながら。だからこそこのようなマーケティングが功を奏したのだ。つまり「mosi mosi?」の一番の成功要因は、アーティスト本人が持っている素質や魅力と表現・発信方法が、見事にハマっていたことにある。



楽音 - mosi mosi? [Official Video]


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