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<インタビュー>プレイリストから女性を支える“インフラ”へ――【Spotify EQUAL】の5年間の歩み

「聴くことは、一つの“行動”です」――そう語るのは、Spotifyが世界で女性アーティストを支援するグローバル・プログラム=EQUALを率いるベル・アスティリア(Bel Aztiria/Lead, Global Music Programs and Social Equity Lead)だ。プレイリスト企画として始まったこの取り組みは、今年で5年を迎え、40を超える市場に広がり、女性たちを支える“インフラ”へと育ってきた。
その節目に東京で開かれたのが、Billboard JapanとSpotifyが共同で手がけた【MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVE Billboard JAPAN | Spotify present Women In Music - EQUAL STAGE】だ。新しい学校のリーダーズ、Awich、羊文学、LANAというジャンルの異なる女性アーティスト4組が一夜に集ったステージは、積み重ねてきた5年の重みを物語っていた。
パンデミックのさなか、自室でロゴを描くところから始めたというプログラム創設者ベルに、EQUALがたどってきた道のり、アーティスト同士のコミュニティづくりがもつ意味、そして「いつか必要とされなくなること」を願う、このプロジェクトの未来について聞いた。(Interview: Mariko O. I Photo: Ryuji Tatsumi)
“ビジビリティ”を超えて、プレイリストからインフラへ
――まずEQUALについて教えてください。開始から5年が経ち、どれくらいの規模に成長したのでしょうか。
ベル・アスティリア:とても大きく成長し、いまではSpotifyの40を超える市場で展開しています。始まりは、1本のグローバル・プレイリストと国・地域別プレイリスト、そして世界中の女性アーティスト/クリエイターが制作・歌唱・作詞した楽曲を集めたプレイリスト「Created by Women」でした。これはプラットフォーム上のハブであり、私たちにとって特別な存在です。加えて、各市場が毎月1組ずつ選ぶアンバサダーアーティストは、ニューヨーク・タイムズスクエアの広告に登場します。多くのアーティストにとって夢のような瞬間で、SNSやエディトリアルの面でもサポートしています。それが出発点でしたが、いまのEQUALは単に“ビジビリティ(存在を知ってもらうこと)”をはるかに超えるものへと育っています。
――おっしゃったように、今では明らかにもっと大きなプログラムへと発展しています。現在のEQUALを、どのように表現されますか。
ベル:実践的なサポートを提供する“インフラ”のような存在です。そう形を変えてきたのは、アーティストの声に耳を傾けてきたから。女性にとってネットワーキングはとても大切ですし、「私たちは互いに支え合っている」というシスターフッドの感覚も同じくらい大切です。だから、女性が安心して創作に向き合えるソングライティング・キャンプや、延べ3万人以上が来場した【EQUALフェスティバル】を開いてきました。もう一つ大事にしているのが“コミットメント(約束)”です。一度EQUALのアーティストになったら、活動をEQUALの中だけに閉じません。ほかのイベントに招き、別のプレイリストに入れ、さまざまな場でプログラムしていく。ひと月だけの取り組みではなく、キャリア全体に寄り添うという約束です。
――さらに、エディトリアル経由で15億回を超えるストリーミングを生み出してきました。その規模のインパクトを、内側からはどのように感じていらっしゃいますか。
ベル:本当に“生きたネットワーク”のように感じます。これまでに約1,400組のアンバサダーを支援し、何千組ものアーティストをプレイリストで紹介してきました。なかでも印象的なのが、EQUALアーティストの再生の59%が海外からのものだという数字です。日本のアーティストが初めてブラジルで聴かれる、そんなグローバルなネットワークを築いてきました。2024年だけでもEQUALのプレイリスト経由で3,000万回を超えるディスカバリーが生まれています。昨夜パフォーマンスしてくれたAwichさんも、この5年で日本国外の再生が約800%、昨年だけでも700%以上伸びました。ある月だけ、一度のイベントだけのために登場するのではない。5年間、地道に取り組んできた成果なんです。
――EQUALが単なるキャンペーンを超えたものになりつつある、と実感した特別な瞬間や節目はありましたか。
ベル:それを証明してくれるのは、EQUALアーティストが参加初月で平均約110万回のストリーミングを得ているという数字です。ただ、プラットフォームを超えたものだと教えてくれたのは、ローンチ3年後にアルゼンチンで開いたフェスティバルでした。2万人が来場してくれたんです。アーティストがこのプログラムを信じてくれているだけでなく、ファンも一緒に成長してきてくれた証でした。というのも、EQUALのミッションは突き詰めれば「もう存在しなくてよくなること」。EQUALを必要としない世界になってほしい。そのために、男女をまったく同じように考えるのが当たり前になるまで、女性にもっと多くのリソースを届け続ける。それが私たちの約束です。
アーティストの声が育てた、シスターフッド

――アーティストからのフィードバックは、EQUALの進化にどのような影響を与えてきましたか。
ベル:とても大きな影響を与えています。チームは世界中で常にアーティストと対話していて、いちばんよく聞くのは「それぞれの市場が本当に必要とする、実践的なリソースがほしい」という声です。インドではプロデュースのワークショップ、アルゼンチンではファイナンスのワークショップ、ブラジルではスタジオでの時間の提供など、その市場が求めるものに合わせてきました。最近はアフリカからも多くの声が届いています。そして価値の多くは「一緒にいること」そのものにあります。バックステージで顔を合わせ、2人の女性が同時にステージに立ってコラボレーションの力を見せる。「みんな同じ課題を抱えている」「友だちにも仲間にもなれる」と気づくこと。それがとても大切なんです。
――女性アーティストの存在感を高めるうえで、特に心躍るような進展を見せた市場はどこでしょうか。
ベル:どの市場もこの5年で良い進展を見せてくれました。日本ではローンチ以来、国内チャートのトップ100に占める女性が31%伸びています。5年でこれはとても大きな数字です。アルゼンチンでもトップ30に多くの女性がランクインしています。いちばん分かりやすいのはイタリアです。5年前、メディアは「このアーティストとあのアーティストが対立している」と描くのを好み、女性たちは互いに競わされていました。でもいまは、EQUALを通じて毎年顔を合わせ、互いを知り、信頼し、コラボレーションも重ねてきた。5年前には存在しなかったシスターフッドを築き、その分だけ強くなったんです。いまでは、メディアが何を言おうと関係ありません。
――このプログラムの成長ぶりで、最も驚かされたことは何でしょうか。
ベル:すべて、です。パンデミックのさなか、自分の部屋でロゴを描いて立ち上げたことを、いまでも覚えています。2週間前にインドを訪れたとき、パンジャブ語で歌う素晴らしいアーティストが衣装にEQUALのロゴを縫い込んでくれていました。この5年で生まれた創造性の多くは、私からではなく関わってくれたみんなから生まれたもの。自分のアイデアより、チームより、Spotifyよりも大きなものになってほしい。そう願ってきたので、それが最大の驚きであり、最大の夢でもありました。ブラジルで休暇中、EQUALのロゴ入りボトルを持っていたら、ホテルでアルゼンチン出身の女性に「あなた、【EQUALフェスティバル】に行ったでしょう!」と声をかけられたこともあります。「人生でいちばん好きなフェスだった」と。ファンにとっても意味を持っているんだと、「ちゃんと役割を果たせた」と思える瞬間です。これは、私たちのためのものではないですから。
- 東京でのライブ、そして日本のリスナーができること
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EQUALの今後、ローカライズとその先

――EQUALの次なる展開について教えてください。このプログラムは、ここからどこへ向かうのでしょうか。
ベル:続けていくことに100%コミットしています。日本では昨夜がキックオフでした。今後の大きな柱の一つが【EQUAL Day】です。市場に合わせたワークショップ、業界の専門家や新進・トップアーティストを交えたパネル、ソングライティング・キャンプ、ネットワーキング、ファンと楽しむパフォーマンスなどを一つの場所に集めたイベントで、メキシコでは2日間で約30組がパフォーマンスを行い、別の場所ではぐっと小規模になることもあります。今年は5周年を記念して、東京、ヨハネスブルグ、ムンバイ、ブエノスアイレス、メキシコシティ、ロンドン、ニューヨークなど9都市で開催しました。次に力を入れるのは「よりローカルなニーズに合わせること」。ビジビリティやプレイリストといったプラットフォーム上の取り組みは続けつつ、アーティストのキャリアを本当に育てる“プラットフォーム外”のサポートに、ますます注力していきます。
――新しいテクノロジーや、変化するファンの行動は、EQUALの未来をどのように形づくっていくと思われますか。
ベル:何より大切なのは、何をするにしてもミッションの“核”を共有していることです。ジャンルも出身国もバラバラな女性たちのプレイリストは、聴く体験としては少し難しく感じられることもある。でも本当に大切なのは、「女性がきちんと社会に受け入れられ、平等に代表されるようにする」というミッションを分かち合うことです。次世代は、どんなテクノロジーを手にしてもサステナビリティや平等を大切にすると、私は信じています。人は本物の心と価値を感じられるものとつながったとき、ちゃんと足を運んでくれる。フェスティバルでも、数々のイベントでも、そして昨夜もそう実感しました。だからこそ、新しいテクノロジーがそのファンの行動を変えてしまわないことを願っています。これは一時的な瞬間ではなく、ミッションに根ざしたものですから。
――業界として、まだ大きく取り組むべきだと感じていらっしゃる領域はありますか。
ベル:たくさんあり、その一部は音楽の枠を完全に超えています。アルゼンチンには、フェスのラインナップに一定割合の女性アーティストを含めることを義務づける法律もあります。アーティストと契約する際のA&Rやレーベルのあり方から、私たちがどれだけ女性をプログラムするかまで、できることは本当にたくさんある。公平性(エクイティ)は、ストリーミングや音楽業界の枠を超えた社会全体の課題です。難しいのは、まとまって取り組むための“共通の目標”が一つもないこと。私が知る唯一の方法は、語り続けることです。以前、Spotifyの音楽チーム全体に「これは私たちにとって本当に大切だ」と話し、一人ひとりに「自分には何ができるだろう」と問いかけてほしいと伝えました。全員に当てはまる一つのKPIはなくても、各チーム、各企業が自分たちなりの目標を持つことはできます。
東京でのライブ、そして日本のリスナーができること

――昨晩行われた【MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVE Billboard JAPAN | Spotify present Women In Music - EQUAL STAGE】の感想を聞かせてください。
ベル:本当に素晴らしい夜でした。私はアルゼンチン出身で、イタリア、スイス、イギリスにも住みましたが、日本は今回が初めて。一晩で4つの異なるジャンルの、しかもすべて女性によるアクトを観られたのは特別な体験で、日本文化の奥深さと、ここで女性たちが生み出す音楽の豊かさを肌で味わえた気がします。なかでもAwichさんには圧倒されました。すべてを心を込めて表現し、自分のストーリーを語ってそれを音楽につなげていく。LANAさんと、ご自身の娘さんをステージに迎えた瞬間は本当に特別でしたね。
――このように女性アーティストたちを一つの“リアルな空間”に集めることの意義は?プレイリストにはできなくて、ライブ・イベントにできることとは何でしょうか。
ベル:プレイリストは“扉を開く”ものです。存在を知ってもらい、Spotifyのエコシステムに入ることができる。私たちは単にアーティストをEQUALに加えるのではなく、EQUALを「より大きなエコシステムへの扉」と考えています。一方ライブは、ファンとより深く、よりまるごとつながれる場所。自分をどう表現するか、どう体を動かすか、振り付けやビジュアルまで、ファンが目にします。はるかに複雑で、ライブならではの感情の高まりが、ファンと音楽とアーティストの関係に本当の価値を加えてくれる。EQUALがその両方に存在していることを、私は嬉しく思っています。
――音楽におけるジェンダー平等を進めるうえで、アーティスト同士のコミュニティづくりは、どれほど重要だと考えていらっしゃいますか。
ベル:非常に重要です。男性のほうがネットワークを築いたり、助けを得たりしやすい一方、女性は数が少ないぶん、業界を進むうえで孤独になりがちです。米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”をもとにした調査では、EQUALを始めた当時トップ・チャートに占める女性は約20%、いまは35%前後ですが、それでも大きな開きがあり、しかもトップ100に限った話です。100人の部屋に女性が20~30人しかいない様子を想像してみてください。ネットワークはずっと小さい。だから広げていく必要があります。まずはローカルで、そしてグローバルにも。ロサンゼルスで約6市場のアーティストを招いたイベントを開いたところ、何組かが実際に一緒に楽曲制作を始めました。孤独が和らぐのは、分かち合えるリソースを得たときや、安心できる場に身を置けたときなんです。
――このイベントはBillboard JapanとSpotifyの共同開催でした。そのパートナーシップは、日本でEQUALが姿を見せていくうえで、どのような意味を持つのでしょうか。
ベル:EQUALはグローバルなサポートの仕組みとチームとともに、ローカライズできるように設計されています。私の役割はEQUALを率いることですが、クィアのクリエイターのためのプログラム「GLOW」、そしてより広い“公平性(エクイティ)”も担当しています。日本のチームが相談に来てくれれば、ブランディングや予算などさまざまな面でサポートします。各市場の専門家はその市場の中にいる。トップダウンでは進められません、うまくいかないからです。たとえばフランスは、新進アーティスト向けの小さな社内イベントを、法律やオンラインでのイメージづくり、レーベルとの付き合い方を相談できるデスクとともに最初に作り上げました。その後アーティストたちが「EQUAL」というWhatsAppグループを作り、アルゼンチンも同じことをして、いまでは何千人もが「いい弁護士を知っている人はいる?」とあらゆる情報を分かち合っています。市場が必要なことを実践するとき、こうしたことは自然と生まれてくるんです。
――日本での今後の取り組みについて、どのような希望や期待をお持ちですか。
ベル:これからもアーティストと会い続け、プレイリストでの紹介を続けたい。タイムズ・スクエアの広告にアンバサダーを送り続けることも、新進から昨夜のAwichさんのような確立されたアーティストまで幅広く支えることも続けます。そして何より、オンラインでもオフラインでも、ここで必要とされる形で姿を見せ続けたい。その形は、この専門家チームがきっと分かっているはずです。特に新進アーティストには「Spotify for Artists」がとても良い場所です。人に声をかけるのが得意でなくても、リソースや学びの動画、キャリアの築き方を見つけられます。それに、イベントを開くときは必ずその国や地域の文化を踏まえて設計し、誰かを居心地の悪い立場に置くようなことは決してしません。"安心できること"は、こうした場所のいちばん大切な要素の一つだと思っています。
――日本のアーティスト、レーベル、そしてファンは、より公平な音楽のエコシステムを築くために、どのように貢献できるでしょうか。
ベル:ファンの皆さんには、いつもこう伝えています。聴くことは、一つの“行動”です。何を聴くかを選ぶ力が、リスナーにはあります。「EQUAL Japan」や「EQUAL Hub」を開いて、日本でも海外でも、もっと女性の音楽を聴いてみてほしい。世の中には想像もつかないほど素晴らしい音楽があふれています。そして、これははっきりお伝えしたいのですが、私たちは「女性だから」という理由だけで選んでいるのではありません。その人が生み出すアートそのものが素晴らしいから選んでいます。ポップスが好きでも、すべてがJ-POPとは限らない。さまざまな女性を発見していく体験のなかで、彼女たちをもっと知っていけばいいんです。業界については、A&R、レーベル、私たちがどれだけ女性をプログラムするか、あらゆる部分で一歩を踏み出せる余地があります。そして、対話を続けること。インドではアーティストだけでなくレーベルやマネジメントのトップも招きました。全員が同じ対話の場で、「次に踏み出せる一歩は何だろう」と問い続ける必要があるからです。




























