Special
<Unbound Japan vol.2>Shuta Shinoda 日本人へのステレオタイプをロンドンで武器に

Interview & Text: Sakika Kumagai
エンタテインメント業界で、海外を拠点に活躍している方や日本の音楽を世界へ発信している方たちをインタビューする連載企画『Unbound Japan』。今回は、ロンドンを拠点に活動している、レコードプロデューサー/エンジニアのShuta Shinodaが登場。ロンドンで20年以上のキャリアを持つ彼に、自身で見つけた日本人としての強みやロンドンと日本の音楽シーンの違いなど、話を聞いた。
ロンドンが拠点になるまでの道のり
――長くロンドンにいらっしゃると思いますが、キャリアのスタートはロンドンだったのでしょうか?
Shuta Shinoda:ロンドンでの生活はもう22、3年ほどになります。高校を卒業した後、1年間、語学留学でロンドンに来て、いろいろな人との出会いがあったのですが、その中にオーディオエンジニアの方もいたんです。僕は音楽が好きな少年時代を過ごしていて、自分の性格にも向いてるなと思い、オーディオエンジニアについて勉強したいと思って。それで一度日本に帰国しお金を貯め、またロンドンに戻ってオーディオエンジニアの学校で学び、再び日本に戻ってスタジオで働き始めました。
――日本から経験が浅い中でロンドンに渡って仕事を見つけるのは大変そうですよね。
Shuta:ビザの問題もあって、どうしてもできる仕事が限られました。日本のスタジオを辞めて最初にロンドンに来たのはワーホリだったのですが、それも一年という期間で、アルバイトのようなことしかできなくて。そういうこともあり、音楽のスタジオ業をするために、ロンドンにあるスタジオへ自分の足で一軒一軒回って行ったりもしていました。ビザや言語の壁もあって、時間はかかりましたが、ある時に、ブライアンというプロデューサーに出会って。彼は80年代、90年代にマイ・ブラッディ・ヴァレンタインやプライマル・スクリームのレコーディングをされた方なのですが、彼のアシスタントのような形で働くことになったんです。これが一番最初でした。でも働くというよりは、ヘルプでスタジオで手伝って、見学するという感じです。
――ロンドンで仕事を始めて、一番大変だったことというと何でしょうか?
Shuta:やっぱりビザの問題ですね。そこが一番苦労したかもしれないです。毎年更新する必要があるのですが、その年は更新できたとしても、次の年に自分がどこにいるのかわからないという状態で。そういった将来の見通しがつかないのが10年ぐらい続いていたので、それは大変でした。
――そういった困難にはどのように対応されていましたか?
Shuta:考え事もたくさんするのですが、悩むことに時間を使うのではなく、解決に時間を費やすことにしています。悩んでも仕方がないことも多いし、その時間でちゃんと考えて、解決の糸口を見つけることですね。
仕事のことだったら、舵の方向を変えてみるというのも一つの手。僕の場合は、最近新しいスタジオに変えてみるということをやったのですが、思い切って自分の生活や仕事内容をガラッと変えるというのも意識してやっていたかもしれないです。あとは、もしお金で解決できるんだったら、お金で解決しちゃうとか。例えば、自分の仕事のレベルが止まってしまったと感じたら新しい機材を買ってみたり。タイムイズマネーですし、それも手っ取り早い、一つの手かもしれないですね。
――確かに、それで解決するなら、その時は惜しいですが、後のお仕事につながるかもしれないですからね。
Shuta:貯金がゼロになる可能性もあるので、ドキドキしますけどね(笑)。でも、音楽でやる、海外に行くと決めた時点で、そういうリスクも覚悟してました。
ロンドンで武器になったものは
――今現在はロンドンでお仕事される中で、ご自身の強みはどこにあると感じてますか?
Shuta:それこそ、世界中からたくさんのプロデューサーやエンジニアが集まるロンドンで、フリーランスでやっていくために強みを考えたんです。そこで一番最初に思いついたのは、日本人としての速さと正確さ。外国人が持つ日本のイメージって、新幹線がすごく速いとか日本人はよく働くなどあると思うんです。そのステレオタイプを頭に置いて、スタジオでのセッションのスピード感や正確さをかなり重点的に意識してやっていました。そのおかげで、今はレコーディングやプロデュースをするときの判断の速さが養われてきているかなと思います。
――仕事のやり方に、日本人としてのアイデンティティが活かされるんですね。
Shuta:こう言っては何ですが、知名度もまだない日本人にお願いするのは相手もメリットがないじゃないですか。僕は日本のスタジオにいた時に叩き込まれたマナーややり方をロンドンで全面に押し出しただけでもあるのですが、海外の方からしたらそれは強みになるのかもしれません。
――お仕事をされる中で、アーティストなどの相手に向き合うときに意識しているアプローチはありますか?
Shuta:そのアーティストの音楽なので、自分のエゴを出すのではなく、スタジオに入る前の段階などにちゃんとミーティングをして、彼らのやりたいことのビジョンをちゃんと理解すること。それがちゃんと頭の中で投影できたら、音は自分の中の70%ぐらいは完成している状態になります。あとはスタジオで頭の中に入っている音を具体化していくだけ。事前のミーティングで相手の意図を理解することがかなり重要ですね。
自分の感性で、好きなものをダイレクトに見つけること

――最近印象的だったお仕事はありますか?
Shuta:僕の好きなアーティストの一人でアナ・メレディスという方がいるんですが、もう何枚か一緒にアルバムも作っていて。少し前に3枚目のアルバムの制作にも関わりました。クラシカルな音楽をベースに、モダンテクノロジーな要素も入れた彼女のシグネチャーのサウンドが好きです。
――Shinodaさんが培われたキャリアの中で独自の音づくりの色は生まれていると思いますが、その中でも影響を受けた音楽はありますか?
Shuta:音楽というよりも、プロデューサーやエンジニアになるのですが、レコーディングで言うなら、スティーヴ・アルビニが好きです。マイケルジャクソンの楽曲を手がけたブルース・スウェディーンのスタイルもすごく好きですね。最近で言うと、ミックスエンジニアのマニー・マロキンやチャド・ブレイクという方からも影響を受けています。
――普段新しい音楽はどこから見つけることが多いですか?
Shuta:本当に地味ですよ。ロンドンのライブベニューでどんなバンドがやっているかラインナップを見たり、音楽を聞いてみて良かったら自分でも足を運んだり、メールやSNSでコンタクトを取ったり。
――ライブがいいっていうのもポイントの一つなんですね。ストリーミングでも聞かれますか?
Shuta:聞きます。聞くけど、プレイリストはあまり聞かないかもしれないですね。第三者の目線で作られたものよりも、自分の感性を信じたいという考えが強いのかも。その分時間がかかって、効率的ではないと思うんですけどね。
――ロンドンに長くいらっしゃる中で、ロンドンと日本の音楽シーンの違いはどのように感じていますか?
Shuta:日本の音楽シーンは、良い意味でも悪い意味でも、国内市場への影響に対する意識が高いと思います。ドメスティックになりがちというか、日本のリスナーに向けて作られている。ただ、それもビジネスモデルとしては間違いではないと思います。
一方で、イギリスなど海外のアーティストやバンドは、自分の好きなことをやって、そこから自然発生的にブームになっていくというのもあって。海外にももちろんトレンドみたいなものもあるんですが、そのトレンドの軸はインターナショナルというか、最近だと、LGBTQについて発信するアーティストの考え方が音楽シーンへ反映されています。そうなると、ヒットしたら広がり方が大きいじゃないですか。でも日本のトレンドは独特で、日本では流行る独自の魅力があるけれど、それが世界的には広がらない。そこが大きな違いかなと思います。
――確かに。日本でLGBTQのような社会的なテーマのメッセージが曲に乗って、それがヒットするというのは、なかなかないですね。
Shuta:そうなんです。だから広い視点で楽曲を広めるというのが、ロンドンや海外のアーティストは上手いのかなと思います。
――イギリスの音楽シーンを見ている中で、日本のアーティストがもっとこうしたら海外に広まるのでは、という部分にも今のお話しはつながりますか?
Shuta:つながるかもしれないですし、僕が思うのは、海外アーティストとコラボレーションをする機会がもっと増えればいいんじゃないかということです。現地で売れているアーティストやレジェンドプロデューサーとレコーディングやセッションをして箔をつけて帰ってくる、というのはよく耳にしますが、箔をつけて帰ってくること自体が、日本のアーティストのポジションを下にしてしまいます。ロンドンにも、現地のA&Rやレコードレーベルもまだ目を付けていない、才能のあるバンドがいっぱいいるんですよ。そういうアーティストを見つけて、海外アーティストと日本のアーティストが対等な関係で、お互いが尊敬して高め合えるのが良いコラボレーションだと思います。それが絶対ヒットするとは限らないので、ビジネスとしてはリスクがあるとは思いますが、もしヒットしたら相乗効果が生まれるのではないかなと思います。それなりに売れているアーティストにリミックスを頼もうとか、売れっ子アーティストにアレンジを頼むことが多いと思いますが、それで成功している例も少ないように感じます。
――やっぱりレジェンドの方にお願いして、すごい方とコラボしましたという方が情報も出しやすいというのもありますからね。
Shuta:記事としてもそうですよね。でも、よく考えたら自分のポジションや、自分の抱えてるアーティストのポジションを下げてしまっている。もったいないです。
――確かに、難しいですね。そういった、このバンドが現地で今きてるっていうことを教えてくれる人もいたらいいのですが。
Shuta:それも難しいところですよね。日本に名前が入ってくる段階で、こっちではもうそれなりに売れていたりとか、第三者のフィルターを通して日本に入ってきている。そうではなくて、自分が日本人アーティストだったら、本当に自分の好きなものを自分の目でダイレクトにピックアップするセンスを養った方がいいんじゃないかなとも思います。
――これから海外で活躍したい、仕事がしたいと思ってる方にアドバイスするとしたら、なんて声をかけますか?
Shuta:やっぱり自分の感性で、好きなものをダイレクトに見つけるのがいいんじゃないかなと思います。イギリスだったらイギリスの、例えば地元のライブベニューでどんなものがやっているかを、雑誌やインターネット媒体やブロガーなど、他の人が見つける前に自分で見つけて、センスと感性を磨くのが大事かなと思います。技術的なことでいうと、日本人はすでに上手いんです。だからそういう他の人とは違ったものをいち早く見つけるとか、見方を変えるというのが重要なのかなと思いますね。
――日本人は技術的に上手いんですか?
Shuta:上手いですよ。演奏とか、レベルが高いです。タイミングもしっかりしてますし。多分音楽の基礎もしっかりしているんじゃないでしょうか。あとは自分の目で見て考えるということですね。
――これから挑戦したいことはありますか?
Shuta:今ももう、好きなことをやっているんですが...でも少し考えているのが、レーベルやA&Rの方と組んで、アーティストの育成やデベロップメントなど、新しいアーティストと一緒にいろんな音楽を作っていきたいということ。その延長で、自分のスタジオを、海沿いや小さな島にできたらいいなと思っています。




























