Billboard JAPAN


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<わたしたちと音楽 Vol.12> ちゃんみな 自分の気持ちに正直なリリックでこれからも戦い続ける

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。


 今回はゲストにトリリンガルラッパー/シンガーのちゃんみなが登場。『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』で一躍注目を集めてから早7年。“女子高生ラッパー”の肩書きを脱ぎ捨て、日本という枠を飛び越えて世界を舞台に1人のアーティストとして成長を続けている。「3カ国語を全部使ってやっとフルパワーで話せる」と話す彼女が、自分の気持ちを丁寧に答えてくれた。 (Interview & Text:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Photo: Takahiro Otsuji l Make-up: Yuko Nozaki l Hair: Yuta Kitamura l Styling: Risa Kato)

詩を書くことで、自分の心と向き合ってきた

――ちゃんみなさんは幼少期にピアノやバレエ、ダンスや歌を始めたとのことですが、幼い頃に憧れていた女性はいますか。

ちゃんみな:バレリーナだった母が、幼い頃の私の一番の理想像でした。母親が仕事に出かける時に髪を結って、ステージメイクをして出ていったり、自分の稼ぎで買った宝石を身につけていたりする姿に憧れていましたね。父親も仕事熱心な人でしたが、母はそれに頼らずに、自分の得意なことを見つけて自らの良さを引き出し、信念を貫いてそれらを仕事に繋げている。その姿勢に幼心ながら感銘を受けていたのだと思います。もう少し大きくなってからはアヴリル・ラヴィーンを知ってファンになり、今でもずっと好きで、勇気を出したい時にはよく聴いています。自分のやりたいことを貫いて輝く姿に憧れるのは、母に憧れたのと同じ感覚ですね。


――お母さまとアヴリル・ラヴィーンという女性たちへの憧れがあったからこそ、今のちゃんみなさん自身も、自分のスタイルや信念を貫いているのですね。

ちゃんみな:もともと私は、“自分の心の声”をよく聞くことができないタイプだったんですよ。休みが必要なのについ無理をしてしまったり、それで体を壊した経験もあって……でも音楽を通じて、ノートに詩を書きながら“今、何を感じているのか”、”何を欲していて、何が要らないのか”と、自分の心のチクチクしている部分にも向き合うようにしています。私にとって詩を書くのは“セラピー”に近いのかもしれません。詩自体は、7、8歳のときから書いていたんですよ。学校の授業に集中できなくって、自分が感じていることを書き留めるようになったんです。それが習慣化していて、デビューして多くの人に歌を聴いてもらうようになって、中には共感してくれるような人も出てきた。そのとき、自分では気にも留めていなかったけれど、「私が感じていたことを言葉にしていただけなのに、同じような気持ちになってくれる人がいるんだな」と感じて。だったらなおさら“人に求められていること”を書くのではなく、”自分が本当に感じたこと”を書きたいと思った。そうしてそれまで無意識にやっていた詩を書く行為に向き合ってみて、改めて、自分にとってはこれが日課でありセラピーであり、人生のようなものなのだなと思ったんです。


憤りやコンプレックスは、歌に込めるのが自分のルール

――ちゃんみなさんは日本語・英語・韓国語の3カ国語を使い分けていますが、歌詞を書くのがセラピーならば、使う言語によって思考も変化するようなことはあるのでしょうか。

ちゃんみな:私、それぞれの言葉だとちょっとずつ足りないというか……3カ国語全てでやっと一人前という感覚なんですよ。それぞれの言語にしかないニュアンスがあるし、本当は全部使って話したい。それでやっとフルパワーなんです。寝言も、頭の中で考え事をするときも、いつも3カ国語がごちゃ混ぜ。父から習った日本語は男言葉的で、母から習った韓国語は女言葉的、テレビやドラマで学んだ英語はフランクな喋り方で、考え方もきっと少しずつ違うのでしょうけれど、私の中には全部あるイメージです。


――すごく面白いですね。でもそれだけちゃんみなさんにとって言葉は繊細で、重要なんですね。フリースタイルラップはまさに語彙力で戦うジャンルですが、そこでの活躍が注目され”女子高生ラッパー”と紹介されることも多かったと思います。そのときはどう感じていらっしゃいましたか。

ちゃんみな: 女子高生ラッパーと呼ばれて、対戦相手のフィメールラッパーとラップ以外のところで比べられることに対しては強い憤りがありましたね。どちらが可愛いだとかセクシーだとかで揶揄されて、それまで積み上げてきた実績が、なかったことにされてしまう。でもそのことに対してはSNSなどで反論するのではなく、歌で返すと自分でルールとして決めていました。そうして、「美人」や「Princess」「Doctor」といった曲ができた。そうやって憤りやコンプレックスを音楽に昇華することができていなかったら、私の人生はもっと色々なことを諦めたものになっていたと思います。


過去の女性たちが切り拓いた世界で、これからも歌で戦い続ける

――ヒップホップ界隈では女性であるだけでマイノリティだったかと思うのですが、その点で不自由を感じることはありませんでしたか。

ちゃんみな:幸いにも、先ほど述べたこと以外の部分では、女性であることをネガティブに感じるような場面はありませんでした。シーンで無視されることもなかったし、ヒップホップ界隈でマイノリティな分だけ注目もされたと思うし、そう考えるとラッキーだったと思う部分もあるくらい。それにこれから結婚や妊娠、出産を経験したら、歌詞の内容や表現できることも広がっていくかもしれない。ただ、私が今こう感じられているのは、過去に女性たちが戦ってきたおかげだと思うんです。だからこそありがたいと思うと同時に、私たちもずっと戦っていかなきゃいけないし、逆に、そこにあぐらをかいて男性を差別するようなこともあってはいけない。


――“過去の女性たちが戦い切り拓いたところに今立っている”というその感覚は、どういったときに得たのでしょうか。

ちゃんみな:色々な国に行って、色々な人々と出会ったことは大きいですね。日本で暮らしていても家事は女性がやるものだという感覚が残っていたり、「肌出して媚び売ってれば稼げるじゃん」と言ってくるような輩もいて、女性差別がないとは全く言えないけれど、それでも世界的に見たらもっと状況が良くない国もある。実際、私の周りにはジェンダーバイアスを持っていないフラットな考えの人々が多くて、私自身が「女性だから」「男性だから」ということをあまり考えずにここまで生きてきました。それは日本で過去に女性たちが問題と向き合って、男女が歩み寄ってきた結果ですよね。私はとにかくみんな平等であってほしいと願うばかりで、問題点には向き合い続けながら、改善された点にも目を向けたいと思います。アーティストとしては、24歳の女性として今生きていて何を感じているかを、地に足をつけて音楽にしていきたいです。


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