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<インタビュー>米津玄師 2026 NHK サッカーテーマ「烏」で吹かせた“隙間風”――団結でも献身でもなく、個として生まれた言葉

Interview & Text:柴那典
米津玄師が、新曲「烏」をリリースした。
新曲は、NHKのワールドカップやサッカー中継などで使用される「2026 NHKサッカーテーマ」として書き下ろされたナンバー。ストリングスやフルートを用いた爽やかな曲調と、米津自身の半生を振り返るような思いを綴った歌詞の言葉が印象的だ。
さらに、昨年9月に劇場版『チェンソーマン レゼ篇』主題歌としてリリースされ国内外で記録的なヒットとなった「IRIS OUT」は、2026年の上半期Billboard JAPAN総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”および“Global Japan Songs Excl. Japan”でも首位を獲得。メガヒットを改めて振り返ってもらいつつ、新曲に込めた思いを語ってもらった。
「IRIS OUT」が届いて感じた “「Lemon」の頃の感じ”
――まずは「IRIS OUT」の話を聞かせてください。まず、ここまでのメガヒットになったことをどのように受け止めていらっしゃいますか。
米津玄師:本当にこういうのは時の運ですよね。いろんな要因が重なり合った結果として生まれることなんで、別に自分の手柄だとは全く思ってないですし。ポップスをやっている人間として、そういう機会が一度ならず二度までも来るのは本当に幸運なことだなと思います。『チェンソーマン』やMAPPAさんのおかげというのも含めて、幸運なミュージシャン人生だなというのに尽きますね。
――チャートのインパクトとしては「Lemon」がヒットした時と同じくらいのスケールがあるとも思います。「Lemon」がヒットした8年前と今とで、米津さんが感じることにはどんな違いがありますか。
米津:あの頃と違うことがあるとすれば、日本以外の人たちのリアクションがすごく大きく届くことになったということですね。それこそ韓国とか、「IRIS OUT」をきっかけに知ってくれた人も多くて。「Lemon」でいろんな人に知られ始めた頃の感じがあって、なんだか懐かしいなと思いました。日本の中ではもう到底新人ではないし、「昔からいる人」みたいな認識に変わっていて。でも、そうじゃないところから初めて知って聴いてくれる人がいる。そういうのをSNSとかで眺めていると、そうだそうだ、こんな感じだったなって。また辿り直すような気もしましたね。
――『紅白歌合戦』でのパフォーマンスもインパクトが大きかったです。振り返っていかがでしたか。
米津:派手にやらせてくれてありがとうございますという感じです。最初は『紅白』みたいな場所でやる曲なのかな?みたいに思っていたところがあって。どうしようかなと思ったんですけれど、スタッフさんたちのいろんな助言によって作り上げることができて、あの場で披露できた。すごく面白かったですね。
IRIS OUT「第76回NHK紅白歌合戦」 / 米津玄師
――HANAのメンバーとも共演されていましたね。
米津:急なオファーにも応えてくれてありがたかったです。『メダリスト』というアニメでHANAの皆さんが主題歌を担当されたということもあって、バトンを渡すじゃないですけれど、個人的にグッとくるものもありました。
――「IRIS OUT」について、もう少し聞かせてください。ビルボードジャパンで先日朝井リョウさんのインタビューをおこなったんですが、そこで朝井さんが米津さんのインタビューを興味深く読んだとおっしゃっていました。朝井さんが書いた『イン・ザ・メガチャーチ』という小説も「推し」がテーマであり、同じく「視野を狭める」というキーワードがある。同世代で別のジャンルで活躍されている方が同じようなことをテーマにして同じようなモチーフを選んでいたことに勇気づけられると仰っていました。そういう話を聞いてどう感じますか。
米津:すごく嬉しいですね。朝井リョウさんにお会いしたことはないですし、メディアに出ている姿しか知らないんですけど。おそらく似たような景色を見ているんだろうし、掘り進めているうちに地下で通じるものがあるというか、どこかそばにいるようなところがある方なんだろうなっていうのはすごく感じます。
――ちなみに「IRIS OUT」の歌詞には「蕩尽」というフレーズがありますよね。以前にも「YELLOW GHOST」についての話でバタイユからの影響について語っていましたし、これはバタイユの『呪われた部分』からの引用なのではないかと思いました。曲の中でもキーになるフレーズだと思うんですが、改めてどういう意図があったんでしょうか。
米津:制作的には何の気なしだったんです。自分にとってバタイユって、気の合う思想家という感じがあるんですよね。なので、そこから間接的な影響があるのは、まず間違いないです。でも、そこに何かを込めたという作為的な意識があったかと言われると、なかったという感じです。

――それでは「烏」について聞かせてください。米津さんはサッカー好きということも知られていますが、改めて、どんな由来だったんでしょうか?
米津:10年前くらいにひょんなきっかけからサッカーにハマって。小学校1年生ぐらいの頃にちょっとだけサッカーをやっていたんですけど、その時は集団で何かをするのが性に合わず、1年にも満たないくらいでやめちゃったんです。それ以来サッカーに注目することもなかったんですけど、ふと見てみたら「サッカーってこんなに面白かったんだ」っていうことを改めて発見したんですよね。そこから趣味としてサッカー観戦が続いていて。常日頃生きていて、いろんな趣味がほとんど全部、音楽制作とか自分の活動に吸収されていくような感じがある中で、サッカーだけは自分の活動と全く関係のない、純粋たる趣味として自分の生活の中にあるものだったんですよね。というのも、自分の生活の中には全くない興奮がサッカーにはある。集団でやるスポーツというのもそうだし、全身全霊を尽くして選手がピッチの中を駆け回って、点を決めた瞬間にはスタジアムも含めてうわーっという高揚感に包まれる。あの類の興奮は、少なくとも自分の音楽活動の中には存在しないと思う。いちばん近しいのはライブだと思うんですけど、にしたってあんな風に我を忘れて喜ぶような、瞬間的な熱量みたいなものはそこにはない。なので、ある意味で自分とすごく遠いところにあるから、それがより一層美しく見える。そういうところもあってサッカーが好きになったのかなとは思います。
――ということは、NHKのサッカーテーマソングというのは逆に難易度の高い依頼でもあったという感じでしょうか。
米津:もちろん、サッカーに対して何らかのテーマソングを作るというのは、子供の頃からテレビで観たり聞いたりしてきたので、自分もそういう役割を担えるのかな、やってみたいなという気持ちはありました。それこそ友達のKing Gnuがやっていたし、自分がやるならどういう曲になるんだろうみたいな興味もすごくあった。機会をいただいて本当に光栄ですね。
――サッカーという文化の中では、いろんなアンセム、いろんなサッカーソングが愛されてきたわけで。サッカーにハマると、サッカーと音楽の結びつきについても当然詳しくなっていくのではないかと思います。そのあたりについてはどんな風に見ていましたか?
米津:(2026年)年始ぐらいにイングランドに行って、マンチェスター・シティとリバプールの重要な試合を見たんです。リバプールでは「You'll Never Walk Alone」がクラブチームの国歌のような扱いをされていて、実際に試合が始まる前にもその曲が流れる。その時にみんながタオルとかを掲げている姿を見て、凄みを感じましたね。あの1曲にリバプールのこれまでの歴史がギュッと凝縮されて詰まっている。かつ、やっぱり音楽は非日常を演出するのにすごく適したものであって、それひとつで大きく人の感情を揺さぶるものである。興奮状態に陥らせることもできるし、その逆もしかりで。実際にスタジアムでその曲が流れているのを見て、音楽はものすごい大きな力を持っているんだなと、改めて感じましたね。
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「自分が」やるうえで考えたこと
――これだけ米津さんがサッカーを詳しく見てこられて、いろんなアンセムがあるのも体感してきたがゆえに、じゃあ自分がNHKサッカーテーマソングを書くとなったらどういう選択肢をとるか、相当考えることがあったのではないかと思います。まず曲を作るにあたっては、どんなことを思いましたか?
米津:どういうふうに話せばいいか難しいのですが、まず第一に、今のきな臭い世の中において、団結とか献身とか、あるいは「敵に打ち勝て」とか、そういうものを素直にテーマに据えて曲を書く気になれなかったというのがひとつ大きくあります。それがワールドカップのような国際的行事であればこそ。とはいえサッカーはあくまでエンタメだし、自分自身サッカーというスポーツを愛している。そこで活躍している人々をあくまで肯定したいという気持ちも強くある。スポーツにおいて勝つことは構造的至上命題であり、勝つことをそのまま肯定すれば手っ取り早いけれど、どうにもそれだけで済ましたくなかった。とはいえ負けてもいいなんて曲を書くわけにもいかない。それじゃあどういうやり方をすればいいのかを考えたところ、やっぱり一人ひとりの個人としての在り方、生き様みたいなものを狭い範囲で肯定するやり方がベターだろうなと思ったんですね。要するに、サッカーでは国対国、あるいはクラブ対クラブの試合がある。試合は競争であり、打ち負かし合いであり、そこには勝敗が生まれる。サッカーというスポーツを選んだ人間にとってはどうあがいても逃れられない宿命である。とはいえ、それはスポーツ全体における構造の話でしかなくて、選手個人との間には少なからず距離がある。だとすれば、それは個人が自分の内側、内面からいくらでも解体することが可能なのではないか。勝敗がある、勝たなければいけないという宿命と、そことは距離をとった個人の在り方は矛盾せず同居し得る、という感覚というか。「勝つ」という同じ目標を掲げる集団に属しながらも、みんなが賭けたものを奪わずに、独立した個人でいる。そういうことができないか。今、サッカーのテーマソングを自分がやるのであれば、そういう形で構造と人とのあいだにちょっとした“隙間風”みたいなものを吹かせられないかなという。そういう気持ちで作りました。
――今おっしゃった「隙間風」のイメージって、サウンドにもすごく表現されているように思いました。とても爽やかな曲で、風通しがよくて、汗や熱気のイメージというよりは、光景として緑や自然の風景が見える。ストリングスやフルートやチェンバロなど生楽器の印象も強いと思います。このあたりについてはどうでしょうか?
米津:そもそもまず、やっぱサッカーのテーマソングって、自分の中ではわりとロックのイメージがあって。それこそ「Seven Nation Army」のような感じというか。
――ザ・ホワイト・ストライプスの「Seven Nation Army」は雄々しい曲調で、力強いギターリフが鳴っていて、それをみんなで大合唱するというアンセムで。あれがまさに団結の曲ですよね。
米津:そうですね。そのイメージがすごくあるんですよ。そうなった時に、さっき話していたこととも繋がるかもしれないですけど、やっぱり少なくとも今の自分が作るものとしては、雄々しく、ともすれば攻撃的な音で構成する気になれなかったというのはすごくあります。あくまで「ちょっとそこまで行ってみようぜ」みたいなもので積み上げていきたい。そういうところから始めていった気がしますね。

――おっしゃったように、歌詞ではすごく狭い言葉が歌われています。それだけでなく、聴いた印象として、米津さん自身のことを綴った言葉が歌われているような感触がしました。歌詞に関してはどんなことを考えましたか?
米津:もちろんサッカーテーマソングということを軸に作ってはいたんですけど、おっしゃる通り、一方で極めて個人的な歌詞になったと思います。歌詞の中で散文的に書き連ねられている出来事は、ほとんど実体験か、自分が狭い範囲の中で見聞きして体験した出来事ばかりですね。それは最近の自分のモードと合流した結果でもあって。自分も年々大人になってきて、複雑性を獲得して、どこか固い人間になってきている。だけど子供の頃の自分がいなくなったわけじゃない。それは大人にならないとわからないことだったし、「大人ってこんなにガキだったんだ」みたいなことを初めて実感できる年齢になってきた。去年あたりから、子供に戻るようなことをよくやっているんです。昔やっていたゲームの攻略本を買ってきて読んだり、昔使っていた携帯電話を引っ張り出してみたり。そういうことを去年からずっとやっていたんですよね。ある意味、自分の人生を辿り直すようなことをやってきたというか。
――なるほど。
米津:それは懐古主義とかそういう話ではなくて。辿り直してみても同じような道筋は辿れないし、その結果として新たな景色が見えてくることが往々にしてある。そういうことを、去年から今年にかけてよく感じたんですよね。なので、最初の一個みたいなものをすごく大事にしたいと思うようになった。レゴブロックを積み上げて大きなモニュメントを作っていくと、情報量も増えるし、サイズもどんどん大きくなって、最初のブロックは埋もれて見えなくなる。けれども、その最初の一個は決して消えてなくなったわけではない。そういう感じを今回の曲に落とし込みたいなというのがありました。
烏 (Short Anime) / 米津玄師
――曲名の「烏」についても聞かせてください。このカラスという言葉から、多くの人は日本サッカー協会のエンブレムである三本足の烏、いわゆる八咫烏をイメージすると思います。米津さんとしては、このモチーフをどういうところから選んできたんでしょうか?
米津:もちろん代表のエンブレムにカラスがいるっていうのは、モチーフに選んだ大きな要因ではありますけど、それと同時にカラスはただ個人的に好きなんですよね。何回かインタビューでも話したことがあるんですけど、昔、カラスと友達になろうとしていたことがあって。その時に住んでいた家の屋上にカラスがいて、そいつとコミュニケーションをとるようになったんです。カラスは頭がいいからコミュニケーションがとれるんですよね。そういう日常を送っていたら、ある日、自分の部屋で寝ていたらトントントンってカラスが窓ガラスを叩いてくるようなこともあった。カーテンも閉めているのに、よくここにいるのがわかったなって。そういう気安い友達みたいなイメージが自分にとってのカラスにあって。カラスっていいなっていう、無邪気な想いかもしれないですね。
――何かを背負っていない、気ままな生き物であるみたいなイメージもありましたか?
米津:そうですね。いわゆるスカベンジャーというか、ともすれば嫌われ者だったりするところも含めて。でも実際、カラスって、間近で見るとすごくきれいなんですよね。漆黒の中にうっすらと七色っぽい光が反射したりする。キラキラしたものが好きっていう無邪気なところもある。ただひたすら美しいと思われていない感じにも、なんだか自分好みな感じがありますね。
烏 / 米津玄師
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