Billboard JAPAN


Special

<わたしたちと音楽 Vol.10>UA プライベートからギフトを受け取って、ステージに立ち続ける

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。


 今回のゲストは、UA。1995年にデビューしてから『情熱』など数々のヒット曲を世の中に送り出し、今もアーティストとして新しいチャレンジを続けながら、プライベートでは4人の子供たちの母としてカナダで暮らす生活を続けている。アーティストとしての自分と、家庭で過ごす自分を自由に行き来しながら、彼女が今考えていることとは。 (Interview & Text:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Live Photo:田中聖太郎)

夢を見せてくれた憧れの女性たち

――UAさんが幼少期に憧れていた“女性像”を教えてください。

UA:テレビに出ている人はたくさん見ていたけれど、幼い頃はもっと身近な存在……例えば、いっとき私の面倒を見てくれていた叔母のような人に憧れていました。面白くってチャーミングで、そんな彼女の存在に救われていましたね。

アーティストとして最初にファンになったのは、アレサ・フランクリンやジャニス・ジョプリン。アレサのことは10代の頃に知って、その歌声にメロメロになり、レコードを買い集めていました。当時はまだ情報が簡単に手に入るような時代ではなかったので、彼女がどんな人生を送ってきたかは全く知らないままに、歌声や歌唱力に強く惹かれて憧れましたね。ジャニスは、大きなフェスで歌っている映像を映画館で観て知ったんです。雷に打たれたような衝撃を受けて、その場で号泣してしまいました。彼女たちから、世の中にはステージに立って歌う人とそれを見る人の2種類がいると思い知り、「できるならば、自分は、ステージの上に立って歌えるようになりたい」と思うようになりました。そういった“ファン心理”は私にもあるのですが、どこかで「本当のこの人を知っているわけじゃない」とも思っているんです。だからファンではあるけれど、パーソナリティに100%憧れを持っていると言い切れる人は実はいないなと長い間思っています。


――具体的な人物ではなくとも、UAさん自身の“理想の女性像”はあるのでしょうか。

UA:人は脆くて日々移ろいやすいし、現実世界に完璧な人なんていない。だからこそ“受け止める力”や“聞く力”を備えていて、それを楽しんでいるような人に出会うと私まで心が安らぎます。なので、憧れるのはそういう女性かな。家族や友人といる自分と、表現をしているUAとは、向かっていく方向も異なるので、個人として目指す女性像と、UAとして憧れる女性像とは、もしかしたらちょっと違うのかもしれないですね。


家庭でのUAとステージに立つUAの2面がある

――家庭のUAさんとステージに立つUAさんの向かう方向が異なる、というのは興味深いお話ですね。

UA:そのバランスがうまく取れている状態ってどんなふうなんだろうって、自分もこの27、8年かけてずっと向き合ってきたわけなんですけど、今もなおその取り組みの最中という感じがします。


――10代の頃にアレサ・フランクリンやジャニス・ジョプリンに憧れて、そこからデビューして“ステージに立って歌う側”になり、ヒット・シングル『情熱』が発売されたのが1996年。その次の年に長男・村上虹郎さんを出産していらっしゃいます。さらに2000年には、浅井健一さんとAJICOを結成するなど、タイムラインだけ見るとすごく色々なことが起きた時期だったのではないかと思うのですが、妊娠や出産は活動にどう影響しましたか。

UA:そうやって時系列で振り返ると、確かに激動の時代ですね(笑)。でもまあ、そうは言っても、実は私は結構しっかりと休暇を取ることを主張する人間で、アルバムを作ってツアーを回ったあとはきちんと休みを取らせてもらっていたんです。ずっとやり続けると破裂しそうになるのは、最初からわかっていたので。虹郎の出産の時はまだ若かったので、3か月くらい休んだらぼちぼち仕事に戻っていたと思うのですが……自分自身が、“新しい命”というものすごくピュアな、美しく、清らかなものを目の当たりにして……またさらに、当時は凄惨な事件があった時代で、急速に世界が変わっていっているような気がしていたんですね。出産前のシングルが『甘い運命』で、「スウィートな運命に任せていたい」という趣旨のことを歌った曲だったのですが、産後はディストピアな世界を生々しく歌いたくなって、『悲しみジョニー』ができました。妊娠・出産の経験やそのために使えた時間は、私にとってはギフトのようなものでしたね。1人目の子供だったので、子育ては本当に大変でした。虹郎には迷惑かけたなという思いもあり、今では謝りたいようなこともあります。いずれにしても、自分自身も子供のまま、親になる練習をさせてもらっていたような体験でしたね。


妊娠・出産を経験して曲もがらりと変わった

――妊娠・出産でキャリアが途絶えてしまうことはネガティブに捉えられることもありますが、UAさんの場合、“ギフト”としてプラスに働いたというのはすごく素敵ですね。そのほかにも、“女性であること”がUAさんに影響を与えたことはありますか。

UA:私は「生まれ変わっても女がいいな」と思っているタイプなんです。今だって、女だからこそ歌えているような気さえします。なったことがないからわからないけれど、もしも男に生まれていたら歌っていなかったかもしれない。それくらい男性は自分にとって未知な存在で、パートナーからも、いつも何かしらテーマを受け取っています。


――そんなUAさんが、男の子を産み、育ててきた中で発見は?

UA:私には子供が4名いて、1人は女の子、あとの3人は男の子なんです。でも男の子だからと言って、「男の子なんだから」「お兄ちゃんなんだから」という理不尽なことは言わないようにしていて、性別よりも、“人として”どうしたら良いかと伝えるようにしています。ただ、女の子に対しては特別な共感もあると思います。


――先ほど、「自分は女性だから歌っている」というお話もありましたが、逆にアーティストとして「女性だからやりづらい」、それ以外の部分で「女性だから生きづらい」と思うようなことはありましたか。

UA:私、全くないんです。なんでだろう……でも、そう思ったことは一度もないですね。アーティストとして私はすごく恵まれているのだと思います。ろくに“アマチュア時代”もなく、音楽に本格的に携わるのとデビューをするのが同時だったような状態だったので、全てがわからなかった。だから毎回、作品を作ることに必死でした。プレッシャーもあって、いつも緊張していたし、でもそれに向き合って克服して、また次の真っ白い紙を目の前に広げて歌を作って……今振り返ってみても、そうするしかなかったな。でも、歩んできた道のりは1つも間違っていなかったように思えますね。


妊娠・出産がネガティブにならないようにサポートが必要

――2022年のBillboard Japanの年間チャートでは、100位の中で58組が男性で、27組が女性、15組が男女混合のグループという結果でした。国内にも素晴らしい女性アーティストはたくさんいると思うのですが、この結果をどうお考えになりますか。。

UA:この結果は、女性アーティストの力が足りないのではなく、“異性を推す”女性のパワーが強かったとも読み取れるかもしれないですね。周りを見ていても、世代を超えて“推し”をサポートする力が強い女性って、多い気がします。


――なるほど! そう考えることもできますね。ここまでを踏まえて、音楽業界やエンターテインメントの業界で、女性がもっと活躍しやすくなるには何が必要だと思いますか。

UA:音楽業界に限ったことではないけれど、男女それぞれの体の機能性は今のところ変えられないですよね。人生は選べることがあるけれど、自分の持っている体の機能は選べないし、簡単には変えられない。キャリアによって「子供を産むのをやめよう」という選択肢が浮上してしまうのは、国が子供を産む・育てる期間のサポートや保証が不十分だからだと思うんです。私自身が出産や妊娠を経験できて良かったと思っているからこそ、女性たちが産む選択についてもっとポジティブになれるような環境が整うと良いのにと思います。妊娠・出産=キャリアが途絶える、と考えるのではなく、その経験をしながら次のステップに進めるような制度があると良いですよね。これは、音楽業界ではなく、国の問題なのではないでしょうか。


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