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2022/08/16

シドのShinjiとRayflowerの田澤孝介によるfuzzy knot、初の全国ツアー開始<ライブレポ>

 シドのShinji(Gt.)とRayflowerの田澤孝介(Vo、ex. Waive)からなるfuzzy knotが8月11日より初の全国ツアーを開始、その初日公演のオフィシャルライプレポートが届いたので下記にお届けする。


fuzzy knot Tour 2022 ~BLACK SWAN~
8月11日(木・祝)@HEAVEN’S ROCKさいたま新都心VJ-3

「自分のやりたいことをやっているだけじゃダメだと思っている。
目指しているのがアンダーグラウンドじゃないので、自分の好みだけを通していたんじゃ多くの人に伝わらない」。
これは2011年のインタビューで発したShinjiの発言である。
彼はメジャーアーティストとして、より多くの大衆に届く音楽を追求してきた。
これまで頑としてシド以外の活動はしない、と決めていたShinjiだったが
20年近いキャリアを重ねて、心境の変化が訪れた。
「ベテランの域に足を突っ込んでいる自分の状況を見て、
改めて『自分に何ができるのか』『自分の持ち味はなんなのか』を制限なしでやりたい思ったんです」。
そこで新しいプロジェクトを立ち上げようと決意する。
Shinjiの中で、相方は以前からその歌声に惹かれていたRayflowerの田澤孝介以外に考えられなかった。

2人が共通の知人を介して出会ったのは2019年のこと。
早くからシドの音楽に注目していた田澤は、Shinjiの誘いを受けてユニットを組むことに決めた。
名前は「曖昧な結び目」という意味を込めて、“fuzzy knot”。
ジャンルに縛られることなく、自分達の好きな音楽を表現する。1曲1曲に対して明確なメッセージは込めているが、
曲の解釈はあくまで聞き手に委ねる。そんな2人の思いをユニット名に投影した。

デビューライブは、2021年11月に東京・Zepp Tokyoで開催した<fuzzy knot Live 2021 ~Beginning of knot~>。
初めて観客の前で楽曲を披露し、大勢の拍手に包まれて幕を閉じた。
終演後、関係者の前でShinjiは清々しい表情を浮かべて言った。
「周りから古いと言われようが、ダサいと言われようが、自分のやりたいことをしたい。それこそがfuzzy knotなんです」。

同年12月末、2人は東京・日本武道館のステージにいた。
MAVERICK DC GROUP恒例の年末ライブ・イベント<JACK IN THE BOX 2021>に出演したのだ。
日本武道館で演奏した経験は、大きな収穫となり、Shinjiはfuzzy knotのYouTubeチャンネル内で今後の目標を口にした。
「僕らは各々バンドがあって、派生で生まれたグループなんだけど、やっぱりやるからには真剣に。
上へ行けば行くほど、多くの人が聴いてくれると思うから上を目指したい。ということで、
日本武道館単独公演を目指します」。そして今年1月から東阪ライブ<fuzzy knot Live 2022 ~S.T.F.~>を行ない、
バンドとしてより強固な結束とグルーヴを手に入れた。

作品に関して言えば、これまでもレンジの広い楽曲を次々発表してきたが、
今年7月にリリースした1stミニアルバム『BLACK SWAN』でさらに覚醒。
90年代のヴィジュアル系バンドを意識した出立ちからも分かるように、
楽曲もゴシックロックやハードロックなど、ダークな世界観を体現した。
そして今回『BLACK SWAN』を引っ提げた初めての全国ツアー<fuzzy knot Tour 2022 ~BLACK SWAN~>の開催に至る。

8月11日、初日公演を目撃するべく、埼玉・HEAVEN'S ROCKさいたま新都心VJ-3へ足を運んだ。
会場の前には「SOLD OUT」と書かれた看板が立っている。
重厚なドアを開けて場内へ入ると、満員の観客が今か今かと本番を待っていた。
SEではBOOWYの「季節が君だけを変える」、安全地帯の「あの頃へ」、平沢進の「BERSERK -Forces-」など、
青年時代に2人が夢中になって聴いていた曲が流れている。

開演時間になり、まずはサポートメンバーの工藤嶺(Ba)と与野裕史(Dr)が姿を現し、
続いて『BLACK SWAN』のジャケット同様のアイシャドウを施したShinjiと銀髪姿の田澤が登場。
薄暗いステージの上で、Shinjiが高々と手を上げたと同時に演奏が始まった。
1音目から引き込まれるイントロと、圧倒的かつ完成された楽曲の雰囲気に、誰もがリズムに乗ることを忘れてステージを見つめた。
大量に焚かれたスモークの中から、田澤の表情がチラリと見える。
気迫に満ちたその眼差しは、こちらが身を震わすほど鋭い。
もはや神々しささえ感じるムードで記念すべきツアー初日は幕を開けた。

1stアルバム『fuzzy knot』のリード曲「Joker & Joker」では、
演奏序盤からクルクルと自由に回って見せる田澤につられて、観客も体を揺らし手を叩く。
この日、いつもよりメロディを立たせた田澤の歌声を聴いて、個人的には新しい発見があった。
これまではスカとファンクを感じていたが、実はムード歌謡のメロディラインではないか、と。
僕がそう感じたのは、楽曲自体が1年の間に成長したということなのかもしれない。

ここで田澤は笑みを浮かべて「会いたかったっす!」と声を飛ばした。観客もやっと会えた2人に惜しみない拍手を送る。
そんな気持ちの昂りを表すかのように、アッパーな楽曲でフロアの熱気を上昇させていった。

怒涛の勢いで楽曲を披露し、自身のメイクに合わせてデーモン閣下風の「ワーハッハッハ!」という笑い声で会場を沸かすShinjiに、
すかさずツッコミを入れる田澤。
この両者のリズミカルな言葉の掛け合いも、歳月を経て板についてきた。再びマイクを握り、田澤が観客に声をかける。
「fuzzy knotを始めて気づけば18曲くらい作詞をしてきまして。1曲1曲にそれぞれの表情やストーリーをブチ込んでいるわけですけど、
こうやってセットリストとして並べてみると、意外と意図していなかったところで繋がりができていたり、新しい表情があったり。
単体では成し得なかった楽曲の表情が塗り替えられていくのも、ライブの醍醐味かなと思っております。それじゃあ、次のブロックはこの曲から……」。

その瞬間、ステージの灯りが静かに落ちてShinjiの静かでメロディアスなリフが始まる。
そして息を吹き返したように、ヘヴィなサウンドへ昇華し、情熱的な赤い照明と共にShinjiのハードなギターが火を吹いた。
それに呼応するように、田澤の屈強な歌声が会場の雰囲気を掌握する。
ラストでは夕焼け色の優しい明かりの中、田澤の放つウェットな歌声は儚さと優しさを孕んでいた。
それはまるで映画のワンシーンを見ているようだった。
そこからの「哀歌 -elegy-」も素晴らしかった。失った恋人に想いを馳せるバラードは、
とても悲しい色を纏っていて、女性の哀しくも美しい歌に聴こえる。
アグレッシブな展開から、色気を包んだブルージーな構成へと表情を変えていた。

「こういう世界観をごそっと持ってこられる楽曲が揃ったことも、そんなプロジェクトをやらせていただけることも嬉しく思います。
表現者冥利に尽きるというか、すごく楽しいです」と言って田澤はShinjiに「ありがとう」と感謝の想いを伝えた。
そのまま話を続けていると、「あの、田澤さん」とShinjiが話に割って入る。
「今チューニング中なんだけど、ちょっと話したくてさ。さっき“ありがとう”と言ってくれたじゃん。こちらこそありがとう」。
屈託のない純粋な一言に、観客から温かい拍手が起きた。

「運命なんて後付けみたいで言うのは嫌やけどさ、やっぱり思うのよ。コロナ禍になっていろんなものを奪われたけど、
もしコロナになっていなかったら、fuzzy knotをやっていたのかなって? そんなことを思うんですよね」。
その瞬間、Shinjiはニヤッと口角を上げて「ちょっと、ホットな話をしてもいい?」と切り出した。
「実は、この場所は田澤氏と私が初めて出会った場所なんです」
「え、本当? 刺身の美味しい居酒屋じゃなくて?」「違う違う、もっと前。初めてお話をしたのが、ここの楽屋だったんだよ」。
Shinji曰く、田澤に会いたくてSakuraに「Rayflowerのライブを観に行かせてほしい」と連絡をし、観客として訪れたそうだ。
そして本番前に楽屋へ挨拶に行き、初めて田澤と言葉を交わした。わずか数分、いや数秒の出来事だった。

「そうだったんや! じゃあ、ここが始まりの地やん」「うん。ライブ制作の方は俺の地元が埼玉ということで、
ここをツアーの皮切りに選んでくれたと思うんだけど、実はこの2人が出会った場所っていう。だから大事な場所なんですよ」。
……ここで話を終えて次の曲へ行けば感動的だったのだが、そこは一筋縄では行かない2人の“らしさ”を見せた。
「あかん。挨拶したことを俺が全然覚えてないわ」と田澤が言うと、子供のような寂しい表情を見せるShinji。
「違う! 覚えてる覚えてる! ラーメンの話をしたかな!? “ラーメン好きですよね?”言うてさ」
「ひどいよね! とりあえずラーメンって言っておけばいいかな、みたいな」
「違うやん! まだ会話する前に入ってくる情報としては、“ギターが上手い”と“ラーメンが好き”しかないわけよ」
「ま……そうだね」「怖っ! 笑顔が逆に怖っ!」と、まるで記念日を忘れた彼氏に迫る彼女のような掛け合い。
楽曲は一流の演奏と歌で魅了して、トークでは笑いを生む。このバランスが心地いい。
改めて田澤が感慨深そうに言った。「つまりここは始まりの始まりやん。
fuzzy knotでやるのは初めてやし、ツアーの初日やし、俺らの始まりの地やし。すごいじゃない! 
そりゃあ、楽しい1日になるに決まってるやん」。

この日、ハイライトの1つと言えば「キミに降る雨」だ。会場が暗くなり、ゆっくりと回り出すミラーボール。
「あの日のふたり 覚えてるかな 雨の午後」と優しく歌い出した瞬間、ゆらゆらと揺れる白い光はまるで雨粒のようで、
その1滴1滴には曲中の2人が過ごしてきた日々が映っている。
観客が演奏以上の何かを掴んでいる様がマスク越しにも分かる。
良いライブというのは、ステージ以上の情景を見せてくれるのだ。
こちらが感傷に浸っているところで、メンバー紹介になり、Shinjiがなぜか古畑任三郎のモノマネを披露。
他にも何かできるのかと聞かれて、銭形警部のモノマネはできるが数々のホールで滑ってきたことを打ち明ける。
「でもそれは意外じゃないもんな。クレヨンしんちゃんとかはでけへんの?」と田澤にお題を振られて、
野原しんのすけを挑戦すると、それまでMCで沸いていた観客がなんとも言えない空気を出す。
にも関わらず、2人の野原しんのすけモノマネ合戦が始まり、Shinjiは野原しんのすけというよりも銭形警部になっていて、
田澤は志村けん寄りになっていた。男子高校生の休み時間のような会話が、なんとも微笑ましい。

後半戦では、「ジャンプはしても良いらしいぜ!」という田澤の一言から、「Set The Fire !」で観客全員が一斉に飛び跳ねた。
リリース時のインタビューで「今はライブでジャンプとか自由に盛り上がれないですけど、
近い将来お客さんが跳んでる姿を見たいなと思って作りました」とShinjiが話していたことが今、ようやく実現。
みんなが気持ちのおもむくままに全身で音楽を堪能している。
その後も目まぐるしいダンスナンバーを立て続けに演奏し、盛り上がりの最高潮を更新し続けた。

気づけばライブは終盤に差し掛かっていた。「そっちから俺たちを見て良い景色だと思ってくれたなら、ステージに立っている冥利に尽きるんです。
俺らも、ここから見た景色がとてつもなく絶景なんですよ。自分達のために始めた音楽がさ、
こんなにたくさんの人のためになっているんだって、それを実感する瞬間っていうのはライブを置いて他にないんですよね。
俺らは音楽を仕事にしてて、もちろん好きなことなんですけど、楽しい瞬間なんて2割なのよ。
でもね、この2割で報われんねん。だから俺たちはどんなことがあっても走り続けるけど、愛してくれる人がたくさんいればいるほど、
その形は様々なわけで。愛することがしんどいとなってしまう人がいるわけよ。
そういう人にも届くようにずっとやっていればさ、いつか巡り合えるでしょ。それを本気で信じてる。
改めて、すごく楽しい時間でした。ツアー初日は俺たちだけの都合でさ、今日が最後の人もいると思う。
だから今日がファイナルでも良いなって、そう言えるぐらいの音楽ができたなと自負しております。ありがとうございました」。
田澤がShinjiに目線を配ると、Shinjiは強く拳を握ってガッツポーズをした。
何かを察したように「うん」と頷き、最後の演奏を始めた。
眩いスポットライトがステージを照らし、盛大なコーラスと共に演奏が鳴り、フロアからみんなの拳が上がる。
田澤が観客に向かって手を差し出すと、一人ひとりがそれを掴むように手を伸ばした。
繋がることが許されないこの時代に、今僕らの心は1つになっている。

最後の曲が終わりを迎える頃、田澤が声を掛けた。
「時代が変わっても、みんなが愛したそれは、形を変えずに同じところで光り続けています。
それを信じて、また笑い合える日を待ちましょう。ありがとうございました!」。
鳴り止まない拍手の中、Shinjiが「初日が埼玉で良かったぞ! ツアー行ってきます!」と声高らかに叫んで袖へとはけた。
ステージ上で1人になった田澤が深々とお辞儀をして、記念すべき1公演目は幕を閉じた。

終演後、楽屋を訪ねるとステージと同じメイク姿の2人がいた。僕は「ありがとうございました」と挨拶をした後、それ以上の言葉が見つからなかった。
「今日の手応えは?」と聞くのは野暮に感じたし、会場を後にした観客の表情が全てを物語っていたからだ。
ふと、田澤が口を開いた。「なんかね……さっきも言ったけど、ステージへ上がる時にファイナルになるかもしれないと思って歌うんですよ、
最近は。後悔なんて1つも残したくない。俺の全部を出し切ろうってね」。そう言って田澤は屈託のない笑みをこぼした。
すべての公演が集大成。これから2人はどんな景色を見せてくれるのだろう? 
fuzzy knotの旅路はまだ始まったばかりだ。


Text by 真貝聡

 

◎ツアー情報
【fuzzy knot Tour 2022 ~BLACK SWAN~】
2022年8月11日(木・祝) HEAVEN'S ROCKさいたま新都心VJ-3(埼玉県)
2022年8月20日(土) 仙台darwin(宮城県)
2022年8月27日(土) 福岡DRUM Be-1(福岡県)
2022年8月28日(日) 梅田CLUB QUATTRO(大阪府)
2022年9月11日(日) 名古屋ElectricLadyLand(愛知県)
2022年9月25日(日) 新横浜NEW SIDE BEACH!!(神奈川県)
2022年10月9日(日) 新宿BLAZE(東京都)

<チケット一般発売中>
ローソンチケット https://l-tike.com/fuzzyknot-tour2022
イープラス https://eplus.jp/fuzzyknot-tour2022/
チケットぴあ https://w.pia.jp/t/fuzzyknot-tour2022
https://www.fuzzyknot.com/news/term/live/

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