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2026/08/17 19:00

<ライブレポート>高中正義/菊池ひみこ/八神純子が出演 ロンドン開催【Palace Bowl Presents City Pop Waves】大盛況で終幕

 南ロンドン、緑豊かなクリスタル・パレス・パークでこの夏スタートした野外音楽フェスティバル「Palace Bowl Presents」。7~8月の計12日間にわたり、ロック、ソウル、ゴスペル、アフロビーツ、エレクトロニック、さらには日本のシティポップまで、ジャンルを超えた多彩なライブが堪能できるのがこのフェスの大きな魅力だ。歴史を遡ると、クリスタル・パレス・パーク内のこのパフォーマンス・スペースでは、1世紀以上にわたってライブ・イベントが開催されてきた。その中でも特に有名なのが、1980年6月7日のボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズだ。ロンドン最後にして最大規模の公演の一つとなったこのライブは、現在も会場の歴史を象徴する出来事として記憶され、園内には記念のブルー・プラークも設置されている。

 「Palace Bowl Presents」は、長い音楽史を持つCrystal Palace Bowlに新たに誕生したフェスティバル・シリーズだが、英国初となるシティポップ・コンサート【City Pop Waves】で、ステージを飾った日本アーティストが、高中正義、八神純子、菊池ひみこの3組だ。他の日程のヘッドライナーが、グレース・ジョーンズ、トム・ジョーンズ、レニー・クラビッツといった世界的なトップ・アーティストたちであることからも分かるように、このロンドンの大舞台に立つこと自体が、世界の音楽シーンにおいて確かな存在感を獲得していることの証左と言えるだろう。

 会場に到着すると(実は開場が16時にもかかわらず、正午にはすでにかなりの列ができていたという)、目を引くのが赤のスーツやカラフルなアロハシャツに身を包んだ観客たちだ。なかでも「赤スーツ・コスプレイヤー」たちは、ところどころで写真を求められ、嬉しそうに応じている。面白いのは、個人で訪れた赤スーツが、まるで磁石のように他の赤スーツへと吸い寄せられていく。同じミュージシャンを愛する者同士だからこそ生まれる、言葉を交わさずとも通じ合う同胞意識。その光景は、実に微笑ましいものだった。

 太陽が照りつけるステージに、丸いレンズのサングラスをかけた菊池ひみこが登場。ハモンド・オルガンの前に腰を下ろすと、ライブは「Ducky Ducky」で幕を開けた。ステージ前方には、アルト、テナー、バリトンの3本のサックス、2本のトランペット、そしてトロンボーンという強力なホーンセクションがずらり。菊池が鍵盤を力強く叩き出すと、まるでビッグバンドさながらの厚みのあるサウンドがCrystal Palace Bowlを包み込んでいく。「今日は『FLYING BEAGLE』からの曲を演奏します」と菊池が告げ、自ら着ているTシャツの背中を観客に見せる。そこには同アルバムの印象的なビーグル犬のジャケットがプリントされていた。さらに目を凝らすと、なんとバンドメンバー全員が同じTシャツを着ている。

 『FLYING BEAGLE』の魅力は、派手な物語性や壮大なコンセプトを前面に押し出さず、ピアノとキーボード、ギター、ホーンが互いに呼応しながら、心地よいグルーヴを積み重ねていく、その洗練されたアンサンブルにある。しかし、1987年にオリジナル・リリースされたこの作品が、遠く離れたイギリスの地で新たな生命を吹き込まれ、20代のオーディエンスが「FLUFFY!」と声援を上げている光景や、会場から「ヒミコ! ヒミコ!」の歓声が上がる場面を目の当たりにすると、音楽が時代や国境、世代を軽々と越えていくことを改めて実感させられる。

 洗練されたピアノ演奏と軽やかなグルーヴが心地よく絡み合う「Baby Talk」は都会の夏を彩り、フリューゲル・ホルンの旋律が美しい「A Seagull & Clouds」は、内陸の都市ロンドンに海の香りを運んできた。

 「もう時間なので、これが最後の曲になります」と菊池が告げると、観客からはすかさず「One more song!」の声が飛ぶ。その歓声に応えるように披露されたのは「Look Your Back!」。ローズ・ピアノを存分にフィーチャーした演奏、ブラスセクションの壮大かつ疾走感あふれる展開は、ドラマチックな追跡劇を思わせる。菊池ひみこの音楽が持つ遊び心と大胆さを存分に味わわせる、強烈な締めくくりだった。

 続いてステージに登場したのは八神純子。ブルーのきらびやかなワンピースに、大きなブルーの石をあしらったネックレス、そして着物のようなブルー&ブラックのシルクのコートという煌びやかかつ上品な装いだ。ステージ奥に広がる青空とも見事に呼応し、まるでこの日のために用意されたかのような爽やかな佇まいである。

 「Hello! London!」。八神が晴れやかな表情でオーディエンスに呼びかける。堂々とした立ち振る舞いと自然な笑顔からは、海外経験のある彼女ならではの落ち着きと、異国のステージを楽しむ余裕が感じられる。そんな彼女の歌声は、言葉の壁を越えて、会場に集まったさまざまな国のファンにも確かに届いている。というのも、「黄昏のベイ・シティ」で、筆者の隣にいた白人男性が完全シンガロングしていたからだ。オランダからこの日のために訪れたという彼は、半年ほど前にこの曲に出会い、それ以来、日本語の歌詞を猛特訓して覚えたという。

 続いて披露された「TERRA - here we will stay」は、コロナ禍に書かれたという11分を超える壮大な楽曲。ラテン語で「地球」を意味するタイトルの通り、地球の誕生から終焉までを見つめながら、温暖化や戦争といった現代社会の問題を描いている。「私たちは戦争に対して『NO』と言います」。八神が流暢な英語でそう告げると、会場からは大きな拍手が巻き起こった。「温暖化により、地球は悲鳴を上げています」と語る彼女は、わずか1週間前に祖母になったことにも触れ、「この歌は私の孫の未来のために」と、その思いを観客に託した。スクリーンには美しい地球の映像と、英語で表示された「TERRA」の歌詞。そのメッセージは確実にロンドンの観客へと届いていた。

 そして代表曲「みずいろの雨」。何より圧倒されたのが、全盛期から変わらない、いや、それ以上に深みと迫力を増した八神のハイトーン・ボイスだ。その歌声とバンドの洗練された演奏が見事に融合し、王道のポップスを基盤としながら、1970年代後半の日本のシティポップ黄金期を思い出させるサウンドが広がっていく。

 披露されたのは4曲と決して多くはなかったが、名曲を歌い継ぐだけでなく、いまを生きるアーティストとして、世界情勢や気候変動に触れた新たなメッセージを発信するパワフルなパフォーマンスを披露した八神純子。時代の変化に目を向けながらも、音楽そのもののエネルギーを失わない彼女のステージは、シティポップが単なる「懐かしい音楽」ではなく、現在進行形の表現として世界に響き得ることを証明していた。

 本日のヘッドライナーである高中正義がステージに上がる時間が近づくと、オーディエンスから「タ・カ・ナ・カ!」コールが沸き起こり、ライブ開始前から会場はすでに莫大な期待の渦が巻き起こっていた。そんな中、高中が満面の笑みで大きく手を振りながら登場。「BRASILIAN SKIES」の軽快なリフを弾き始めると、会場は一気に熱狂の渦に包まれた。

 トレードマークとなった赤のスーツに黒の蝶ネクタイという出で立ちの高中は、コーラスの二人を従え、パパイヤを半分に切ったユニークなカットアウトを携えてステージを闊歩する。1970年代からの盟友であるパーカッショニスト、斉藤ノブも、コンガをはじめとするさまざまなハンド・パーカッションを駆使し、セット全体にトロピカルなリズムを織り込んでいく。

 高中の演奏は、驚異的なテクニックと、そこから生まれるメロディが見事に融合したものだ。スタジオ録音で聴き慣れた楽曲が、ライブという空間で、よりダイナミックで一体感のある音楽体験へと姿を変えていく。バンドが力強い演奏で土台を支える一方、高中は時折笑顔を浮かべながら、ギターそのものに「語り」を委ねる。長尺のギターソロや表現力豊かなフレーズの一つひとつが、楽器そのものを主役へと押し上げていた。

 興味深いのは、その音楽が世代を超えて観客を惹きつけていることだ。彼の代表作の多くが、会場にいる20代、30代の観客が生まれる前に発表された楽曲であることを考えると、彼らがステージ上のギターリフに呼応する光景は実に印象的だった。インストゥルメンタルが中心であるにもかかわらず、代表的なフレーズになると、皆がそろって「トゥ・トゥ・トゥル」と口ずさむのだ。

 「伊豆甘夏納豆売り」では、ギターのペグに風鈴を下げて演奏。日本の夏の風物詩を、ここイギリスの空の下で聴くという不思議な感覚に包まれた。高中が動くたびに「ちりん」と鳴る風鈴の音は、会場に響く虫の声とも呼応する。それにつられるように、オーディエンスは携帯電話のライトをゆっくりと左右に振り始めた。無数の光が揺れる光景は、まるでホタルが舞っているようで、幻想的なひとときとなった。

 続いて高中が「ゴブリン!」と叫ぶと、オーディエンスも「ゴブリン! ゴブリン!」と呼応。今回のライブで驚かされたことのひとつが、オーディエンスの入念な予習ぶりだ。演奏された楽曲は、ほぼすべてにおいてイントロの最初の1フレーズが鳴った瞬間から歓声が上がる。わずかな音の入りだけで何の曲かを察し、喜びを爆発させる。さらに興味深かったのが、オーディエンスの国籍の多様さだ。会場の各所から聞こえてくる言葉は英語だけではない。このライブのためだけに、ヨーロッパ各地から、さらには世界各国からファンがイギリスへと集まってきているようだ。

 個人的に深く感動したのは、「エピダウロスの風」をライブで聴けたことだ。リリース当時、爽やかなイントロのギターリフから、ミステリアスなコーラスへの流れが強く耳に焼き付いたと同時に、高中正義の楽曲の良さが理解できる年齢に達した自分を、妙に大人だと感じたものだった。

 MCは多くなかったが、メンバー紹介ではユーモアも飛び出した。パーカッションの斉藤ノブの名前を読み上げる前に、高中が「My brain is too old」と冗談を飛ばすと、会場からは「NOOOO!」という大きなレスポンスが起こり、笑いに包まれる。そして最後に斉藤が「高中正義!」と叫ぶと、オーディエンスからも大きな拍手が沸き起こった。多くを語らずとも、こうしたシーンからステージ上のメンバー同士の長年の信頼関係が伝わってくる。そして、イギリスでも大人気曲「READY TO FLY」では、井上薫がショルダー・キーボードを手にステージ前方へ。存在感のあるプレイで観客を沸かせ、この夜のハイライトの一つとなるパフォーマンスを披露し本編は終了した。

 バンドは一旦ステージを離れたものの、オーディエンスにはまだ「見るべきもの」が残されていた。そう、あのサーフボード・ギターだ。アンコールを待つ間、会場は、三拍子のクラップとともに「サーフボード!」コールの波が起こる。やがて高中が、「JUMPING TAKE OFF」のイントロにのせて、あのサーフボード・ギターを抱えて再びステージに登場すると、観客は狂ったように歓声を上げた。美しく輝く赤のサーフボード・ギターを見せつけるように、ステージの端から端まで歩く。

 まるでその姿を目に焼き付けるかのように、高中の一挙手一投足を食い入るように見つめ、身じろぎひとつせず立ち尽くすオーディエンスの姿も一部に見受けられた。さらに、高中の口から、「来年、ウェンブリーで会いましょう!」という予期せぬアナウンスが飛び出すという嬉しいサプライズも!これはここにいるオーディエンスにとっても、また今回のソールドアウト・ショーに足を運ぶことのできなかったファンにとっても最高の贈り物となったに違いない。そして最終曲「YOU CAN NEVER COME TO THIS PLACE」でライブを締めくくり、高中は「アリガトウ!!」と観客に告げた。演奏後にメンバー全員で深々と一礼すると、会場からは惜しみない拍手と歓声が送られた。

 約2時間にわたるショーは、単なる代表曲の披露にとどまらず、高中正義という類まれなギタープレイヤーの魅力を存分に浮かび上がらせるものだった。緻密に構成されたステージでありながら、随所に遊び心が散りばめられ、その自由さがライブならではの魅力を生み出していた。極めてリラックスした雰囲気と、圧倒的なエネルギーが同居するステージ。ライブ・パフォーマンスという枠を超えた、壮大なエンターテインメント。そして何より、この夜のライブを特別なものにしていたのは、ステージと観客の間に生まれた一体感だろう。高中のギターが生み出す音楽と、それを全身で受け止めるオーディエンス。その両者が一体となって完成した約2時間のステージは、ロンドンの夜に強烈な余韻を残した。

 『City Pop Waves』は、日本人アーティストの海外公演という枠を超え、日本の音楽が国境や世代を越えて共有される瞬間を目の当たりにする場となった。単なるノスタルジアに陥らず、海外のファンを巻き込んで一つのムーブメントを作り上げたシティポップ。これが一過性のブームではなく、今後も新たなリスナーを獲得し続ける音楽であることを、今回のショーが何より雄弁に物語っていた。

Text:近藤麻美
Photo:Jamie MacMillan


◎公演情報
【Palace Bowl Presents City Pop Waves】
2026年8月7日(金)※現地時間
イギリス・ロンドン Crystal Palace Bowl

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