「あ、私もスティーヴン・タイラーになれるかもしれない！」

－－今日は「雪乃って何者？」って思ってる人に届けるインタビューにしたいなと思っているんですが、雪乃って何者なんですか？

雪乃：（笑）。雪乃は……年齢に合わない声を持っているシンガーですかね。今年23歳なんですけど、それより年上に勘違いされることが多いです。あと、年齢にそぐわない音楽の趣味を持っている。50代のプロデューサーとめちゃくちゃ話が合うっていう。だから同年代の女の子と音楽の話をしていても「それって新しいお菓子の名前？」とか言われてしまう。

－－プロフィール見たら「エアロスミスなどを口ずさんでいた幼少期」とあったんですが、どんな環境で育ったらそんな子になるんですか？

雪乃：ハハハ！ テレビがなかったんですよ。だからラジオを聴いていたんですけど、エアロスミスが『ジェイデッド』を発売したぐらいのときに聴いて好きになったんです。その頃に応募すると抽選で当たるみたいなキャンペーンでCSチューナーが当たっちゃって、テレビを買わざるを得なくなって。いろんな音楽番組が観れるようになったら、エアロスミス特集が組まれていて、初めてスティーヴン・タイラーの姿を観たんですよね。そしたら憧れちゃって、お母さんに買ってもらったジーパンをダメージジーンズにしたくて、でもやり方が分からないからハサミで切り刻んでめっちゃお母さんに怒られて。あと、ソバージュを作る為にめっちゃ細かく編み込みして、ビーサンみたいなサンダル履いて、タンクトップ着て……

－－ちょっとヒッピーっぽい感じですよね。

雪乃：一歩間違ったらめちゃくちゃ汚い人みたいな（笑）。で、おばあちゃんの形見の杖にスカーフを巻きつけて、それをマイクスタンド代わりにモノマネして、よく引っ叩かれてました。小学校2年生ぐらいですかね。

－－スティーヴン・タイラーのコスプレしてる小学校2年生なんて可愛いじゃないですか。

雪乃：いや、でもお母さんは本当にヒヤヒヤしていたと思います。

－－「こんな子供に育てるつもりは……」っていう（笑）。

雪乃：まぁでもお腹にいるときからアース・ウィンド・アンド・ファイアーとか聴かされていたので……

－－お母さんはお母さんでファンキーだったんですね。

雪乃：なんですけど、違うファンキーに行っちゃったからちょっと心配されていたと思います（笑）。でも未だにあの大きな口に憧れていて。だから小さい頃は毎日朝起きたら、口の両サイドを引っ張って「スティーヴン・タイラー、スティーヴン・タイラー」って言ってたんですけど、お母さんに「お願いだからやめてちょうだい！」って泣きながら言われたときは「ちょっとやめようかな」って。

－－実際、口は広がったんですか？

雪乃：広がらなかったですね。ちょっとヨダレが溜まりやすくなったぐらいで。

－－何にも良いことないじゃん（笑）！ でもそんなに憧れてたんですね。

雪乃：すごくなりたかったです。だからリヴ・タイラーが羨ましくて。「私も娘になりたい！」ってずっと言っていました。

－－まぁでもリヴ・タイラーはお父さんがスティーヴン・タイラーってしばらく知らなかった訳ですからね。雪乃さんにもチャンスは……

雪乃：私も実はタイラーだったとかありますかね？

－－雪乃・タイラー。

雪乃：雪乃・タイラー、格好良いと思うんですけど！

－－若干、芸人っぽいですが（笑）。そこからどんな音楽を聴いて育ってきたんですか？

雪乃：エアロスミスを知っているんだったら他のロックも知らないと格好悪いなと思って、ザ・ローリング・ストーンズとかレッド・ホット・チリ・ペッパーズとかZZトップとかボン・ジョヴィとか、王道はいろいろ聴いてきたんですけど「やっぱりロックは男性なんだな。女性にはできないんだな。なんで男の子に生まれなかったんだろう？」って思い始めて。でも中学のときにクリスティーナ・アギレラが『バック・トゥ・ベーシックス』を出して、絶妙なシャウト感とかパワフルな感じで歌う女性って私はそれまで知らなかったので、すごく衝撃的で。「あ、私もスティーヴン・タイラーになれるかもしれない！」って（笑）。

－－チャンス到来ですね。

雪乃：そこから本格的に「歌、やろうかな」と思って。家でボイトレとかもやり出して。あと、アギレラの『バック・トゥ・ベーシックス』は昔のアメリカのアーティストから影響を受けて作ったアルバムだったので、そのルーツを辿っているうちにジャズに入っていって。マリーナ・ショウとか、デヴィッド・サンボーンとかマーカス・ミラーとかフュージョン/ジャズ系の人たちを聴くようになって。だからすごくいっぱい聴きました。中学生なのに山野楽器のプラチナカードとか持っていました。

－－山野楽器のプラチナカードという存在を初めて知りました。

雪乃：アハハ！1年に何枚以上買うと……みたいな条件があって、普通は一年会員なんですけど、それだと永久会員になるみたいなカードがあって、子供なのにそんなの持ってました。だから「また来た、この子」「子供がジャズコーナー漁ってる」みたいな感じで（笑）。お年玉やお小遣いは全部CDに使ってましたねー。

－－では、もう音楽の道へ進むべくして進んだと？

雪乃：ただ、私は自分の声が嫌いだったんですよ。中学校のときに、未だに仲の良い唯一の友達がいて、その子と一緒にカラオケへ行ったときに「雪乃の声良いから歌うたいになってよ！」みたいなことを言ってくれて。やっぱり歌をうたっているときが一番楽しかったので、その子の後押しもあって「よし、目指そうかな」ってなりましたね。

－－そこからどういうストーリーがあってデビューに至るんでしょう？

雪乃：高校のときにバイトを始めて、ボイトレにも通うようになって。そしたらボイトレの先生がスタジオを持っていたのでデモを録らせてもらったんです。エイミー・ワインハウスの「リハブ」を。それをスタジオで流しているときに偶然今のマネージャーが来ていて、「この娘に会いたい」って言って下さったらしいんです。で、何回か会ううちに「一緒にやっていかない？」って言って下さって、それから音源を配信させてもらったりして、二十歳のときにやっとデビューしたっていう感じですかね。

キュートorセクシー～
アイドルみたいなことをしているな（笑）

－－そんな雪乃さんの新ミニアルバム『A -エース-』が完成しました。自身では仕上がりにどんな印象や感想を？

雪乃：ミニアルバムっていう感じがしないですね。今までで一番自分らしい一枚が出来たんじゃないかなと思うのと、テクニカルな部分とキャッチーな部分がすごく上手く混ざっているので、どんな方でもすごく楽しんで聴いて頂ける一枚になったんじゃないかなと思います。24分ぐらいのコンパクトな作品なんですけど、24分しか聴いてない感覚には絶対ならない。結構充実した時間を送って頂けるんじゃないかと。

－－今作『A -エース-』の表題曲のPVは、CUTE ver.とSEXY ver.がありますけど、それぞれ自身でご覧になってどんな印象を？

▲A -エース-【CUTE ver.】 / 雪乃

雪乃：いやー、もう恥ずかしいですね（笑）。

－－キュート！セクシー！って言い切ってますからね。

雪乃：ビックリしましたねー。最初はひとつにまとめるはずだったんですよ。でも「分けたほうがいいんじゃないか」って監督がすごく張り切って言って下さって、「え？」みたいな。なんか、どこぞのアイドルみたいなことをしているなと思って（笑）すごく恥ずかしくて。

－－面白い発想だと思いますよ。

雪乃：私、タイトルに『A -エース-』って付けた理由が、実は結構目立つのが苦手で、副リーダーとか副班長とかが大好きなポジションだったんですよ。縁の下の力持ちみたいな。ただ、歌でもそうなっちゃうところがあったんで、「歌ではエースになろう」と思って付けたんです。でもさすがにPV分けられてキュートとセクシーのどっちがいいか選んでもらうぐらいの自信はなかったんで（笑）もうビックリですよ。だから私は平等に毎日一回ずつ見ています。

－－何の拘りかよく分かんないですけど（笑）。

▲A -エース-【SEXY ver.】 / 雪乃

雪乃：なんか嫌じゃないですか。セクシーな自分のほうが好きと思って、そっちばっかり観てるのって！

－－誰にも気付かれないじゃないですか。

雪乃：いやぁー、もう恥ずかしいじゃないですか。ハッキングとかされて「雪乃、セクシーばっかり観てる」とかバレたら！

－－誰もその為にハッキングなんかしませんよ！

雪乃：でもそれぐらい恥ずかしくて！ ですけど、意外と皆さん頑張って再生してくれてるんですよ！

－－頑張って再生してる訳じゃないでしょ（笑）。

雪乃：友達とかから何の前触れも無く「俺はセクシーのほうが好きだ」とか連絡があると、「もうやめて！」と思って（笑）。私、セクシーかキュートかオヤジかで言ったらオヤジなんですよ！

－－オヤジ ver.も用意したかったぐらいなんですね。

雪乃：酒呑んで、ホッピー呑んでみたいな感じが合うんで！ それを知ってる友達から「俺はセクシーのほうが好きだ」とか言われると……今回はまた初体験をたくさんさせて頂きましたね（笑）

－－じゃあ、キュートorセクシーの企画が盛り上がりきったらオヤジ ver.も作ればいいじゃないですか。

雪乃：そうですね！ ひとりで焼き鳥屋行って。

－－「これが本当の私です」って（笑）。まぁでも面白いもので、雪乃さんの表情や格好が違うだけで曲の響き方が変わりますよね。キュートなサウンドにもセクシーなサウンドにも聴こえる。

雪乃：おー！凄い。それ、キャッチコピーに頂いてもいいですか？

－－どうぞどうぞ（笑）。

雪乃：不思議ですよね。見えているものによって聴こえ方が全然変わってきちゃうっていう。例えばSEXY ver.はベースとか低いほうに耳が行きますもんね。私の低音の部分だとか。

－－あと、単純にメイクやファッションひとつでここまで女は変身するのかと、少し怖くなりました（笑）。完全に別人ですもん。キュートのほうはアイドルと言っても通用するけど、セクシーはちゃんとスモーキーというか、めちゃくちゃ酒強そう。

雪乃：そうですよね！ 酒強そうですよね！ 自分が自分じゃないみたいでしたよ、今回のPVは。CUTE ver.観て「こんなに可愛い表情できるんだ？」って驚いたりしましたもん。自分に対して新鮮な気持ちでPVが観れました、初めて。

－－ちなみにキュートとセクシー、どちらが素の雪乃に近いんでしょうか？

雪乃：あー……それはちょっと（笑）。

－－恋愛においてはどちらを使うことが多いですか？

雪乃：恋愛ですか？ 私、本当に恋愛ベタなんですよ。音楽が旦那なんで、イケメンとご飯行くよりも、ひとりでライブ行ってお酒飲んでるほうが好きなんですよねー（笑）。まぁでも結構ありのままを見せるのでキュートのほうが近いかもしれないですね。普通にゲラゲラ笑いますし、すまして恋愛するよりはああやって等身大で恋愛をしているときのほうが多いんじゃないでしょうか（笑）。

－－また、今作には「A -エース-」以外にも多種多様なナンバーが収録されていますけど、2曲目「Betty」はまさに雪乃が打ち出してる“ネオ・ヴィンテージ・サウンド”という感じですけれども、こういう質感の楽曲が好きなんですか？

雪乃：大好きですね！ 最近は出かけるときの1曲目は大体「Betty」で。私、ベースが大好きなんですけど……今回ビルボードさんにインタビューしてもらえて本当に嬉しいんですけど、その理由がビルボード大好きなんですよ。ビルボードライブ東京とかめちゃくちゃ良く行ってて、マーカス・ミラーとか大好きなんですよ。で、そのマーカス・ミラーより好きなんじゃないかと思うぐらいのベーシストの方に弾いて頂いてるんですけど、その方のベースがブンブンいっちゃってて。それ以外の楽器の個性も凄く出てるんですよね、この曲は。なので、私みたいなコアな音楽ファンの人も楽しんで頂けますし、サビが凄く耳に残る曲でもあるので、そのへんがネオ・ヴィンテージなのかなって思いますね。

JUJUさん、追いつくので、それまで待っててください

－－今、ヴィンテージ感のあるロックをやってるバンドとかいますけど、これをポップスに昇華している人って少ないですよね。王道っぽいけど、最近は珍しさや新しさばかりを求めるサブカルが増えすぎて、逆にこういう楽曲を聴けなくなっている印象を受けます。雪乃さんはどう思われますか？

雪乃：面白い質問。私はサブカルも聴きますし、古いのも新しいのも好きなんですけど、たしかに今回こういうアルバムを作ろうと思ったのは、今と昔の良さを知ってもらいたいなって思ったところがあって。私、70年代とか80年代が大好きなんですよ。そのときの曲って私の世代ぐらいになってくると知らなかったりして、サウンド的にも古いって感じると思うんですけど、今流行っているサウンドとか曲の編成とかコード進行とかと上手く合わせたら、逆に新しいものになるんじゃないかなと思ったんです。そこを誰もやってないなら、私が行っちゃおうかなと思って（笑）。

－－僕は「恋しくて」とかもそうですけど、サウンド的には“ネオ・ヴィンテージ・サウンド”で様々な遊びや拘りを見せつつも、ちゃんと口ずさみたくなるポップスをやっているところに雪乃のオリジナリティを感じます。

雪乃：おー！ 私はやっぱり手の込んだサウンドが好きなんですよ。あと、レコーディング現場ではみんな一発録りなんです。ドラムもピアノもギターもベースも一緒に録っているんで、それのおかげっていうところもあると思います。毎回皆さんがいろんなことをやってくれますし。歌に関しては自分の声が新しいものにあんまりマッチしなくて、全部が新しいと……私の声は大人っぽいというか、スモーキーな部分があるので。昔はそれが嫌だったんですけど、最近は自分がやりたいことに自分の声はすごく合っているんだなって気付けたんです。なので、キャッチーなものをネオ・ヴィンテージ・サウンドにまとめて頂いて、そこで私の歌が映えるっていうのは良いトライアングルだなと思ってます。

－－あと、今作には「My Girl」。テンプテーションズのカバーが収録されています。さすが幼少期からエアロスミスを口ずさんでいただけあって、洋楽カバーはお手の物ですね。上手すぎて笑いました（笑）。

雪乃：本当ですか！？

－－モータウンも好きなの？

雪乃：大好きですね！ボーイズIIメンが数年前にモータウンのカバーアルバムを出したんですけど、それでさらに好きになって。それが本当にネオ・ヴィンテージな感じだったんですよ。上手く新しいサウンドとモータウン感をバシっと融合していて、ずっとあのアルバムの曲は口ずさんでましたよ。あと、テンプテーションズの「My Girl」は、シンプルなんですけど声で構成されていく感じとか、シンプルだからこそ出来る声の遊びとかがすごく格好良くて、それでカバーしたいと思ったんですよね。

－－あと、モータウンっぽいと言えば、最後の「恋はやめられない」はまさにモータウンビートになっていますが、竹内まりや的でもあるし、これを今の時代に若手が打ち出すのは面白いと思います。自身ではどんな印象や感想を？

雪乃：「恋はやめられない」は本当にキャッチーで懐かしい感じなんですけど、私は特に歌詞が好きで。視点が面白い。2番目とか本当にいろいろ匂ってきて「あなた、本当は……」っていう感じがあるじゃないですか。で、歌っていて思ったんですけど、叶わないって分かってて、でも「恋はやめられない」って言ってるその心境がすごく切ないなって。切ないけど、この娘はそれで幸せなんだなと思ったらもっと切なくなっちゃって！ 個人的なツボをすべて刺激してくれた曲です。

－－これだけ多種多様な曲を楽しげに歌えているポップシンガー、最近はなかなかいないと思うんですが、作詞作曲をしない雪乃さんにとって“やっていきたい音楽表現”ってどんなものなんでしょう？

雪乃：今回のアルバムを聴いてもらったら分かると思うんですけど、ジャンルには捕らわれたくなくて。ジャンルで聴く方って多いと思うんです。でも私はいろんな音楽を知ってもらいたいので、オルタナティブな部分がたくさんある今の時代を利用して、どんどんどんどんいろんな音楽をやっていきたいなって思います。私はビッグバンドに夢見てたタイプなので、いつかそういう曲もやってみたいなと思いますし、どんどんどんどん自分のレベルを上げていくような曲と出逢っていきたい。あと、異彩を放っていきたいですね。ジャズシンガーじゃないのにジャズ歌っちゃったりとか、カバーに関しても「雪乃ちゃんが歌ってるから聴いてみよう」って思ってもらえる架け橋になりたいとも思ってます。

－－それを今日本で実践してる先輩って誰だったりするんですかね？

雪乃：JUJUさんはジャズも歌ってますし、ポップスも王道なものからコアなものまで歌ってらっしゃるじゃないですか。すごく素敵だなと思いますね。なので、JUJUさん、私、もうちょっとしたら追いつくので、それまで待っててください。そのうちご挨拶しに行きます（笑）。

－－雪乃の最終目標、夢って何だったりするんでしょう？

雪乃：ナチュラルな自分でいれて、音楽が常にそばにいてくれて、周りがずっと笑ってくれていることが夢ですかね。本当に私は人の笑顔に支えられて生きているので、みんなにもっと笑ってもらう為に上を目指していきたいと思ってます。

－－自分なりの人生設計とかってあるんですか？ 例えば、あと何年以内にブレイクして、ブレイクしたら素敵な旦那様を見つけて結婚して、でも子供が生まれても歌い続ける！的なヴィジョン。あったら聞かせてほしいんですけど。

雪乃：ありますよ！ ブレイクは25歳までにしたいんですよ。あと2,3年で決めて、みんなをホクホクさせてあげたいじゃないですか。ホクホクさせて、自分もホクホクして、マンション買うじゃないですか。

－－（笑）

雪乃：マンション買って、猫飼って、30歳ぐらいまでには旦那さんを見つけて子供を生みたいんですよ。だから25歳までにブレイクしたいんです！ 理想の旦那さんはイケメンで、背が高くて、お金持ってて、エアロスミスが好きな人！ で、またマンション買うじゃないですか。

－－どれだけマンション買うんですか！

雪乃：いや、最初のマンションは一人暮らし用なんで、次は家族用。で、あとはマネージャー孝行して、私もボイトレの教室とか始めて、歌を好きな子たちの手助けをして、その子たちと帰りに呑みに行って、楽しい毎日を送りたいですね！

－－じゃあ、その夢を叶える為にも、この音楽シーンにおける「A -エース-」になって頂いて……最後におじさんっぽいこと言っちゃいましたけど。

雪乃：ありがとうございます（笑）。頑張ります！