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大井健『Piano Love the Movie~Music Documentary Film~』インタビュー



大井健『Piano Love The Movie~Music DocumentaryFilm~』インタビュー

 例えば森の案内人のような、初めてクラシックに触れる方々に「こちらのほうからどうぞ」と案内できる人になりたい。クラシック界とクラシックに敷居の高さを感じている人々を繋ぐ“鍵盤の貴公子”大井健。ドキュメンタリー映像作品『Piano Love the Movie~Music Documentary Film~』のリリースを記念し、その音楽観やヴィジョンについて語ってもらった。

想像以上に「ピアニストとして活動できる場が限られている」

--大井さんは、子供の頃からクラシック界でピアニストとして活躍しながら、オペラユニットや“鍵盤男子”なるプロジェクトにも挑戦。近年はテレビを中心にメディアにも精力的に登場されていますが、自身ではどんなミュージシャンだと思っていますか?

大井健『Piano Love The Movie ~Music Documentary Film~』
大井健『Piano Love The Movie ~Music Documentary Film~』

大井健:クラシックの音楽というのは本当に広く、突き詰めれば突き詰めるほどまだ先がある、広大な森のようなもの。なので、興味を持っても森に踏み入れた途端に迷うこともあるんですよ。そうすると森に入ること自体を躊躇してしまう。それがすごく勿体ないなと思いまして、例えば森の案内人のような、初めてクラシックに触れる方々に「こちらのほうからどうぞ」と案内できる人になりたいなという感覚で活動していますね。

--どういった経緯で、そのような役割を担いたいと思ったんですか?

大井健:大学を卒業してからすぐ、オペラ歌手5人で結成されたオペラユニット“レジェンド”というグループの専属ピアニストとしてスカウトされまして。ちょうど大学を卒業する年に入り、その活動を10年ぐらい続けているうちに「初めてクラシックホールに足を運んでみた」とか「行ってみたらとても楽しかった」とかそういう声をたくさん耳にするようになって、やり甲斐がすごくありました。なので、ソロの話を頂いたときも、ピアニストとしてそういうピアノコンサートを身近にという普及活動がしたいと思ったんです。

--そもそもクラシックやピアノの世界に踏み入れたきっかけは何だったんでしょう?

大井健:母親がピアノ教師をしていまして、自然とピアノを習っていたんですが、その時点では特に「ピアニストになりたい」とは考えてなかったんです。たまにコンクールで賞を獲らせて頂いたりはしていたものの、ただの特技という感覚だったんですが、中学2年生のときに父親の赴任先のドイツとイギリスに行くことがあり、イギリスのコンクールで賞を頂いたときに、副賞でコンサートのチケットを頂いたんです。そこで観た生演奏にもう涙が出るぐらい感動してしまって。一緒に聴いているお客さんも感動していて、その空気感と言いますか、その体験から「自分もこの仕事がしたい」という想いが急に強くなり。結果的に受験勉強も何もかも辞めてですね(笑)。

--思いっきり人生の舵を切ったんですね。

大井健:親には大反対されました。

--どうやって親を説得したんですか?

大井健:父親はとにかく大反対でしたが、それでも受験で良い成績を残せたら良いと言われたので、入試に1番で合格しまして「これでどうだ?」「じゃあ、しょうがない」ということで押しきりました。

--そうして我が道を突き進んで、いわゆるプロの世界に入ったときはどんな印象を抱かれましたか?

大井健:想像以上に「ピアニストとして活動できる場が限られている」と感じました。僕の大学の同期でピアニストとして卒業した生徒が150人近くいましたが、その中からピアノの勉強を続けていく人だけでも限られてきたり、ソロピアニストとして活動を続けることができる人は僅かになってしまう。なので、何か自分でピアニストという存在を身近な存在に変えなきゃいけないと思いました。

--いわゆるプロのミュージシャンとして生きていける枠というのは……

大井健:厳しいのは確かだと感じます。

--最近はテレビ番組に出て行ったり、時には“鍵盤の貴公子”と呼ばれたりと目立った動きが増えていますが、それもクラシックやピアニストの認知度を高めたい想いがあってこそ?

大井健:そうですね。僕は本来は内向的な人間なのですが、テレビそしてCMに出させて頂く機会があって、そうなると責任が生まれてくるんですよね。チャンスを頂いたからには「真摯にやりたいな」と思っています。

--間口を広げていくという意味では、メディア露出はもちろん、例えばバンドや今流行りのアイドルのステージでピアノを弾くようなことも躊躇わない?

大井健:例えばアイドルそして他ジャンルの方の伴奏でも、訓練を受けたピアノで真摯にお応えして「おー、やっぱり凄いね」とお客さんがなったら、嬉しいですね。クラシックの楽しさを知っていただく枠を広げる活動の一環として、呼ばれれば僕はどこででも弾きたいなと思っています。

--大井さんのコンサートの客層は女性の方が多いんでしょうか?

大井健:そうですね。女性の方が9割以上を占めて下さっています。ただ、最近はピアノを習っているお子さんに音大を志す子もたくさん来てくれるようになりまして、そういう子たちにとって「こういう活動の仕方もあるのか。こんなピアニストになりたいな」という位置付けになれたらなとも思っています。

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「こういうシチュエーションだったら大井健を聴きたい」そういう存在になりたい

--近年はクラシックを主題にして、ピアニストやヴァイオリニストを主人公にした映画やアニメも増えてきていますが、そういうアイコン的な存在が現実の世界にもいる。という状況が出来るとよりクラシックの世界に踏み入れやすくなりますよね。

大井健『Piano Love the Movie~Music Documentary Film~』インタビュー

大井健:いわゆる“ライトクラシック”という括りだけだったところが、もうちょっと具体的になってきたかなと思いますね。ピアニストの中にはもちろんベートーベンのソナタだけを弾き続けている方もいらっしゃいますし、その一方でジャズも弾かれる方もいて。やはり現代は本当にいろんなジャンルがありますから、様々なジャンルの中でいわゆる“現代的なピアニスト”という職業もこれから増えていくと思うので、そこへの案内役も担うことが出来たらなとは思っています。

--大井さんが元々影響を受けていたクラシックアーティストは誰だったんですか?

大井健:グレゴリー・ソコロフというロシアのピアニストがいまして、飛行機が嫌いなので日本には全く来てくれないんですけど(笑)、そういうロシアの音楽家に惹かれていた時期がありまして。でも今現在の僕の活動のきっかけになっているのは、清塚信也さんですね。あの方こそパイオニアかなと思っていまして。自分がこういう活動をすると決めた中で、清塚さんはすごく心強い存在です。実際、たまに相談させて頂いています。

--大井さんも今回新しい試みとして『Piano Love the Movie~Music Documentary Film~』なるドキュメンタリー映像作品をリリースすることになりました。自身では、どんな作品になっているなと感じますか?

大井健:そもそも僕はPVみたいなイメージだと思っていたんですよ。コンサートに足を運べないお客様へ、耳で聴くだけじゃなく弾いている姿も見たいお客様の為に演奏しているシーンを収録するんだろうなと。僕も子供の頃にピアノを演奏しているビデオとか観てすごく楽しかったから。でも今回はドキュメンタリーということで、初挑戦だったんですよね。だから最初はすごく恥ずかしかったんですが、自分の活動は「ピアニストという職業をもっともっと知ってもらうこと」なので、ピアノを弾いていないときにどんなことをしているか。どんなことを考えているのか。という部分を見てもらうことが、そういう活動の一環にもなるのかなと思いまして。だからあんまり気負いはせず、そこに身を投じることが出来ましたね。

--今作には、東京都庭園美術館でのプライベートコンサートの映像が収録されています。こちらはどういった経緯で催されたものなんですか?

大井健:いわゆるクラシックホールで弾くシチュエーションであれば“ザ・クラシック”になってしまう。「普段のピアニストの映像であんまりなかったことをしたい」と思いまして。そこで、美術館というチョイスになりました。あと、緑も見える。そういう場所で演奏をするのは新しいかなと思ったんです。

--今回は庭園美術館でしたが、大井さん的にそういう新しい場所でもっともっと弾いてみたい欲求は強いんですか?

大井健:そうですね。クラシックホールであれば間違いなく成功するものが「ここだったらどうなるんだろうか?」……そういうパイオニア精神みたいなモノを持っていろいろ考えるのはすごく楽しいので。そういった意味では、どこでも弾いてみたいと思っています。

--今、具体的に「ここで弾いてみたい」と思っている場所ってあります?

大井健:野外ですね。例えば、森の中とか。川とか、そういう自然に囲まれた中で弾いてみたいです。クラシックにはそういう自然の中で生まれた曲がたくさんあるんです。そういった曲を実際に自然の中で体験してもらえたらすごく良いんじゃないかな。

--ぜひ実現して頂きたいです。ちなみに初のドキュメンタリー映像作品もリリースされる2018年は、大井さんの中でどんな1年にしたいと思っていますか?

大井健:去年はテレビ番組などいろいろ出させて頂いたのですが、今年はどちらかと言うとライブの1年にしたいですね。

--将来的には、どんなミュージシャンになりたいと思っていますか?

大井健:坂本龍一さんをよく聴くんです。すごく幅広く活動されていますけど、僕は大抵夜に読書のお供として聴いたりするんです。何か自分が行為をするときに、その気持ちを盛り上げたり、その気持ちに浸る為に求められる音楽を作りたいなって。「こういうシチュエーションだったら大井健を聴きたい」そういう存在になりたいですね。あと、同じく憧れているミュージシャンとしてキース・ジャレット。あの人もまた独特で、すごく美しいし、面白いんですよね。そういうアーティストそのものの個性が強い方にはすごく憧れますし、自分もこれからそういう個性を見つけていきたいなと思っています。

Interviewer:平賀哲雄

大井健「Piano Love The Movie」

Piano Love The Movie

2018/02/14 RELEASE
KIXM-312 ¥ 6,050(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.DOCUMENTARY
  2. 02.Fragments of lyric~Piano Love (MUSIC)
  3. 03.ベネチアへの風 (MUSIC)
  4. 04.ノクターン 第1番 Op.9-1 (MUSIC)
  5. 05.ノクターン 第2番 Op.9-2 (MUSIC)
  6. 06.ノクターン 第20番 「遺作」 (MUSIC)
  7. 07.月の光 (MUSIC)
  8. 08.ヒマワリの旅 (MUSIC)
  9. 09.Departure (MUSIC)

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