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ハーツ来日記念特集 ~艶やかにエモーショナルに進化するシンセポップ・デュオの歩みを振り返る。

 まさに待望の来日公演だと言えるだろう。80年代のシンセ・ポップ/ロックから多大な影響を体現しつつ、2010年に鮮烈なデビューを飾った英国出身のエレポップ・デュオ、ハーツ。以来、その美意識を貫き続ける二人組が、1月29日、マイナビBLITZ赤坂にて一夜限りの来日公演を行う。単独公演としては7年ぶりという貴重なライブだ。

 彼らの前回の来日は2013年の【FUJI ROCK FESTIVAL】。アルバムとしては2ndにあたる『エグザイル ~孤高~』がリリースされた直後であった。バンドはそこから2枚のアルバムをリリース。2017年には4枚目のスタジオアルバム『デザイア~衝動~』を発表している(国内盤は2018年1月にリリース)。デビューから7年という、長くもあり短くもある期間で、バンドは常に進化し、そのサウンドの表情を華麗に変え続け、また一方で、変わらないものも保ち続けてきた。来日公演という絶好の機会を前に、唯一無二の存在感を放つ二人の歩みを改めて振り返ってみよう。

“人々の歌”としてのポップ・ミュージック

 ハーツ(Hurts)。直訳すると「(心や精神が)傷つく・痛む」という、ナイーブ過ぎる名前を冠したこのデュオのライブは、その名前が体現している通りの誠実さ、エモーショナルさが最大の魅力だ。彼らは、敬愛するデペッシュ・モードと同じように、アリーナやスタジアムのような大会場でも、親密な一体感を生み出すことができる。その最大の理由は、セオ・ハッチクラフトの情感豊かな歌声と、美しく親しみやすいメロディを備えた楽曲。たとえ激しい曲でも、彼らは決して聴き手を突き放さない。ハーツが自分たちの音楽を“ポップ・ミュージック”だと言い切るのは、単に流行歌的な意味合い以上に、自分たちが歌っているのは、まさしく“人々の歌”なのだ、という自負によってなのだろう。


▲Hurts - Evelyn (Live From Berlin)(2011)

 ハーツの二人、セオ・ハッチソンとアダム・アンダーソンは、2005年に地元マンチェスターのクラブで出会った。マンチェスターと言えば、ニュー・オーダー/ジョイ・ディビジョンはをはじめとする英国ニューウェーブ・バンドを生んだ聖地。二人はBureau、Daggersという、当時の流行であった“ニューウェーブ・リバイバル”系のバンドで活動を共にした後、2008年からハーツとして作曲活動を開始した。

 ハーツとして最初の“ヒット曲”となったのは「Wonderful Life」だった。2009年、まだレコード契約もないタイミングで、わずか20ポンドの予算で作られたMV をYouTubeにアップし口コミで話題を呼んだ。このMVは今でもYouTubeで試聴できるが、この時点から彼らがバンドのビジュアル・コンセプトをしっかりと構築していることは見逃せない点だろう。その後、バンドはメジャー契約を獲得。瞬く間に注目バンドの仲間入りを果たし、2010年初頭には、英BBCが注目新人を紹介する【Sound Of 2010】の候補として、トゥー・ドア・シネマ・クラブやエリー・ゴールディングらと並んで選出された。


▲Hurts - Wonderful Life

 日本で、その名前が広く知られるようになったのも、ちょうどこの頃から。同年8月に発表されたデビュー・アルバム『ハピネス』は、新人としては破格とも言える全英チャート4位の大成功。また、本国での躍進以上に注目すべきはヨーロッパでの人気の加熱ぶりで、ギリシャ、ドイツ、スイス、デンマーク、フィンランドなど、各地で目覚ましいチャート成績とアテンションを獲得した。まさに異例ずくめのデビューだったと言えるが、早い段階でイギリス外でのファン・ベースを築いたことは、その後のバンドの活動に大きな影響をもたらすことになった。

『ハピネス』~『エグザイル』を支えた、耽美的で仄暗い個性


▲『ハピネス』

 その『ハピネス』は、いま聴き返しても印象的な作品だ。リリース当時、シンセサイザーを多用したサウンドから80s的なニューウェーブ・テイストを強調されることが多かった彼らだが、いま聴き返すと、その音楽的な多面性にも気付かされる。ポップでダークな先行シングル「Better Than Love」は、ジョルジオ・モロダー直系のディスコ・サウンドの一曲。同じくシングルの「Wonderful Life」もニューウェーブ風だが、こちらはどこかR&Bテイストをも備えている。一方で、今でもライブのクライマックスを飾ることの多い「Stay」では、ゴスペル・コーラスを大々的にフィーチャー。また、“80sミュージックの女神”とも言えるカイリー・ミノーグをフィーチャーした「Devotion」は、焦げ付くようなセオの歌と、インダストリアルなビートのインパクトが絶大な一曲だ。


▲Hurts - Stay (Official Music Video)

 モノトーンにクラシカルなスーツ&ヘアカットで固めたビジュアル面も含めて、このデビュー作の時点で彼らは、圧倒的なオリジナリティを確立していた。それは、悪く言えば周囲からはかなり浮いたセンスだったとも言えるだろう。だが、デペッシュ・モードやニュー・オーダーと同時に、ジャック・ブレルやスコット・ウォーカーをフェイバリットに挙げる耽美的で仄暗い個性こそ、彼らの音楽がヨーロッパで熱狂的に受け入れられた大きな理由でもあったのだろう。そして何より、そのポップで美しいメロディが人々を惹きつけたのだ。


▲『エグザイル』

 2013年には2ndアルバム『エグザイル ~孤高~』をリリース。ナイン・インチ・ネイルズのようなインダストリアル・ミュージックや、クラウトロックの影響を受けた本作で、バンドは持ち味のダークさにさらにドライブを掛けた。本作もフィンランドとスウェーデンでの2位という高順位を筆頭に、ヨーロッパ各国やイギリスでヒットを記録。よりライブ感に溢れたワイルドさがウリの本作からは「Miracle」や「Sandman」が、近年の定番レパートリーとなっている。


▲Hurts - Miracle (HD LIVE at the Echo 2013 Awards)

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EDMシーンとの関わりと『サレンダー』のオープンさ

 2013年10月には、カルヴィン・ハリス&アレッソの「Under Control」にハーツがフィーチャリングされる。当時、全盛期を極めていたEDMの花形選手にセオの歌唱力が評価された形だが、ロック・ファンとEDMファンが重複することが少ない日本の感覚からすると、やや不思議にも感じられる。だが、よくよく考えてみれば、シンセサイザーを多用したダンス・ミュージックに基づく音楽を作っているという点で、カルヴィン&アレッソとハーツは、ルーツを共にする親戚のようなもの。しかも、いわゆる“UKロック”的な半ばドメスティックなシーンから切り離され、ヨーロッパ各地でアリーナ規模のライブを成功させるまでに成長していたハーツは、同じく世界規模のマーケットへと成長したEDMシーンと見合う、まさに適役だったと言えるだろう。


▲Calvin Harris & Alesso - Under Control ft. Hurts


▲『サレンダー』

 また、反対側から見れば、この時点でハーツの二人が次のモードに移行しつつあったことも分かる。それはより大胆で開けたモードだ。同じくセオ(ハーツ)が参加したカルヴィン・ハリスのアルバム(『Motion』2014年)をはさみ、2015年、バンドは3rdアルバム『サレンダー』を発表。イビザ島、ロサンゼルス、ニューヨークなど、マンチェスターを離れ、世界各地でレコーディングされた本作は、ダークでアグレッシブな『エグザイル』から一転、開放的なムードに包まれた一枚になった。

 その象徴とも言えるのが、ハーツ流のEDMソングである「Nothing Will Be Bigger than Us」。この曲のプロデュースを務めたのはマドンナ、ザ・キラーズ等との仕事でも知られるスチュアート・プライスで、ドラマチックなメロディを、彼の最大の特徴でもあるキラキラとしたシンセサイザー・サウンドで彩り、バンドの新たなアンセムを生み出した。


▲Hurts - Nothing Will Be Bigger Than Us (Live - Surrender Tour 2016)

 プライスの他には、ハイムやスカイ・フェレイラ、ヴァンパイア・ウィークエンドを手掛けるアリエル・レヒトシェイドも「Lights」のプロデュースで参加。こちらはミドルテンポながら、グルーヴィなドラム&ベースが最高に気持ちの良い一曲で、バンドの新境地を感じさせる仕上がりとなった。


▲Hurts - Lights (Official Video)

さらに開けた最新作『デザイア』とハーツのライブ体験


▲『デザイア』

 そして2017年、『サレンダー』よりも、さらにポップに開けた“新生ハーツ・サウンド”を届けてくれたのが、最新作『デザイア~衝動~』だ。アルバムとして、バンドにとっては初のセルフ・プロデュース作(一部楽曲は、ツアー・メンバーでもあるギタリスト、リアル・ゴールドバーグも参加)。痛ましくも美しいMVも印象的な先行シングル「Beautiful Ones」では、いわゆる“ライトハンド奏法”を思わせるギター・ソロがモダンなシンセ・ポップのサウンドと融合している。少し前であれば、あるいは時代遅れな印象さえ残したかも知れないギター・パートをあえてフィーチャーしたことは“音楽面に置いてNGは無い”という現在のバンドのオープンなスタンスを表現しているとともに、(たとえ他人から受け入れられなくても)「僕たちは美しい一人一人なんだ」という楽曲のメッセージとも呼応している、と深読みもできる。


▲Hurts - Beautiful Ones

 2曲目の「Ready to Go」はスラップ・ベースをフィーチャーしたファンク・ポップ。こちらは前作の「Lights」の路線とも言えるが、よりエモーショナルな表現に昇華してきたのがいかにもハーツらしい。3曲目の「People Like Us」はラテン・テイストの1曲で、エド・シーランの「Shape Of You」やデュア・リパの「New Rules」が大ヒットを記録する2017年らしい1曲。とは言え、“ハーツ版”ではディープなコーラスも忘れてはいない。メロディの美しさやメッセージの誠実さは守りつつ、トレンドとも柔軟に向き合っているという点は、彼らのポップ・バンドとしての魅力の一つだろう。他にも軽快なビートでダンスへと誘う「Walk Away」など、聴きどころにあふれた一枚だ。


▲Hurts - Ready to Go


▲Hurts - Walk Away (Official Audio)

 充実の最新作、そしてファンが体感することを望んで止まない珠玉の名曲の数々を携えて、ハーツがまた日本にやってくる。果たして、そのライブの内容はどのようなものになるのだろう。最近のライブ映像を確認すると、バンドはドラムスやベースに加えてコーラス隊も従えたもののようで、ハーツの心の底から沸き立つようなパワフルなメロディの数々が、セオ+コーラスという万全の編成で表現されると思うと今からワクワクが止まらない。

 だが、ハーツの音楽を本当に表現するには、実はそれだけでは足りない。そう、聴き手である観客自身の歌こそが、彼らの音楽の魅力を最大限に引き立てることは、野暮は承知で最後に強調しておきたい。だから、ここまで挙げきた曲の一つでも良いので、ぜひ彼らと一緒に口ずさむ準備をして会場に向かって欲しい。そうやって真の“ポップ・ミュージック=人々の歌”になった時に、ハーツの音楽は力強く輝く。それはきっと忘れられない一夜になるはずだ。

ハーツ「デザイア ~衝動~」

デザイア ~衝動~

2018/01/24 RELEASE
SICP-5657 ¥ 2,420(税込)

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Disc01
  1. 01.ビューティフル・ワンズ
  2. 02.レディー・トゥー・ゴー
  3. 03.ピープル・ライク・アス
  4. 04.サムシング・アイ・ニード・トゥー・ノウ
  5. 05.シンキング・オブ・ユウ
  6. 06.ホエヴァー・ユウ・ゴー
  7. 07.シャペロン
  8. 08.ボーイフレンド
  9. 09.ウォーク・アウェイ
  10. 10.ウェイト・アップ
  11. 11.スポットライツ
  12. 12.ホールド・オン・トゥー・ミー
  13. 13.マグニフィセント
  14. 14.ビューティフル・ワンズ (アコースティック) <国内盤ボーナス・トラック>
  15. 15.レディー・トゥー・ゴー (ライヴ@デラックス・ミュージック・セッション) <国内盤ボーナス・トラック>
  16. 16.ワンダフル・ライフ (ライヴ@デラックス・ミュージック・セッション) <国内盤ボーナス・トラック>

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