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<インタビュー>神谷浩史が語る、読書がくれた想像力という武器【WITH BOOKS】

インタビューバナー

Interview & Text: 榑林史章

 書籍や文筆と縁深いアーティスト、また音楽と縁深い作家へ、自身の書籍や音楽とのかかわりについて訊くインタビュー企画【WITH BOOKS】、今回登場するのは声優・神谷浩史。

 声優として日々台本や原作本と向き合う日々を送る彼は、今年15周年を迎える朗読劇【Kiramune Presents READING LIVE】シリーズで脚本協力として関わることもある。想像力こそがエンターテインメントの一番の肝であり、その想像力を育てるのが読書だと話す神谷。また“知らないことは恐怖”であり、それに対処する術を教えてくれるのもまた、本の役目だという。そんな神谷にとって、さまざまな“きっかけ”となった作品とは? そして、読書にハマるきっかけになったミステリーの魅力など話してくれた。

「本を読むのが大嫌いだった」

――幼いときは読書少年でしたか?

神谷浩史:いえ、本を読むのが大嫌いでした。文章を読むのも書くのも嫌いで、読書感想文の宿題なんてもってのほかでした。

――いつから読むようになったのですか?

神谷:役者を志して養成所に通うようになったころからです。実家から都心に出て来るのに電車で1時間以上かかったので、今なら携帯がありますけど当時はまだ無くて、時間をつぶすといったら音楽を聴くか本を読むしかなくて。幸い父親が本を読む人で、実家には本がたくさんあったので、よく勝手に拝借していました。

――本が面白いと思ったり、自分で買ったりするようになった、きっかけとなった本はありましたか?

神谷:面白いと思って読むようになった最初はミステリーでした。小学校の図書館に江戸川乱歩のハードカバーの『少年探偵団』シリーズがあって、すごく人気でみんなこぞって読んでいたんです。ただそのころの僕は、本を読むのが大嫌いだったから読んだことはなかったんですけど、表紙の絵がすごく怖かったことだけは覚えていて。大きくなって、ふと「みんなは何であんなに読んでいたのだろう?」と、江戸川乱歩の文庫本を読むことから始めたんです。

――読んだら面白くて、当時の子供たちが読んでいた理由がわかったと。

神谷:ただ、小学校に置いてあったのは児童向けの『少年探偵団』シリーズで、実際に僕が買って読んだのは大人の『明智小五郎』シリーズだったので、子供だった当時のみんなの気持ちがわかったわけではなかったけど、そのときに思ったのが「もっと本を読んでおけば良かった」でした。とにかくマンガばかり読んで、ゲームばかりやっていた子供だったから、役者を志すようになって「本を読んでおかなきゃいけなかったな」と反省して読むようになったわけです。

――今でも書店に足を運ぶことは多いですか?

神谷:本屋さんは好きです。当時は地元の本屋さんの場所、どの本屋さんは何系が強いなど本屋さんごとの傾向も、すべてデータが頭に入っていました。近くに無ければ自転車を飛ばして隣町まで買いに行ったし、当時はレンタルビデオのコーナーもあったから映画のビデオも見て回ったりして、いくらでも時間がつぶせる場所。それくらい、本屋さんは僕にとって遊び場で楽しい場所でした。

――目的無く本屋さんに行って、書店員さんが書いたポップなどを見て買うこともあったり?

神谷:いつもそういう感じで買っていました。インターネットなど情報を得る手段は無かったので、まず本屋さんに行くのが基本で。各出版社が定期的に開催する「文庫本フェア」が好きで、冊子を持ち帰って次はどの作品を読もうか考えることも楽しかったです。

――最近はインターネットで買ったり、電子書籍で読むことも増えましたか?

神谷:そうですね。紙の本のほうが好きではあるけど、やっぱり電子書籍は便利なので増えました。というのも、仕事で使った紙の台本をある程度取ってあって、さらに自分がこの何十年で買った本をしまっておくだけで本棚がもういっぱいで、これ以上置いておけるスペースが無いんです。無限に置けるのだったら迷わず紙の本を買いますけど、そういった事情で電子書籍がどんどん増えていっている状況です。

――最近買う本の傾向としては?

神谷:自分が物語に関わる仕事をしているが故に、物語性のある小説をあまり手に取らなくなってしまっていて、それは自分でも良くないと思っています。最近はドキュメンタリーや、カメラを始めたのでその専門書やレンズのカタログなどを好んで買っています。

――今回神谷さんには3作品を挙げていただき、そのうち2作品はどちらもミステリーでした。江戸川乱歩のお話も出ましたが、やはりミステリーは子供から大人まで世代性別を問わず人気ですね。

神谷:はい。江戸川乱歩や横溝正史などの古典的なミステリーに始まり、松本清張に代表される「社会派ミステリー」にも手を出すのですが、僕は、そこにはあまり興味が無くて。その後、島田荘司さんが口火を切った「新本格派ミステリー」が流行って、そこで綾辻行人先生の『十角館の殺人』に巡り会い、「何だこれは!」と衝撃を受けました。「めちゃくちゃ面白いじゃん!」と。本という文字情報の媒体であることを逆手に取った、本という1冊のなかでこそ楽しめる最大限のエンターテインメントが詰まっていると感じました。だから「映像化不可能」と呼ばれていて、Huluで映像化されたときも面白かったのですが、紙の本で初めて読んだときに感じた衝撃は忘れられません。

――綾辻先生はアニメ化された『Another』など、ホラー系ミステリーもお得意ですよね。

神谷:『殺人鬼』も読みましたけど、めちゃくちゃグロくて怖いですよね! 文字だけで、どうしてあんなに怖がらせられるのか不思議です! 一時期は綾辻先生の作品ばかり読んでいて、『館』シリーズも全て読みました。その後プレイステーションで綾辻先生の原作・原案による『YAKATA』(1998年)というゲームが発売されたのですが、一言二言のセリフしか無かったけど、実は僕も声で参加させていただいているんです。そのとき綾辻先生がアフレコ現場に見学にいらしていて、サインしていただいた『十角館の殺人』は今も宝物です!

――『十角館の殺人』は約39年前の作品ですが、ビルボードジャパンの“Showa Books”で3週連続1位になるなど未だ根強い人気です。そもそもミステリーは時代を経ても魅力が失われることがない、どんな時代の人が読んでも同じように楽しめる。そういう意味ではエンターテインメントとしての最高峰と言えますが、どういうところがポイントだと思いますか?

神谷:特に『十角館の殺人』はミステリー入門書としてオススメしやすいうえに、古典ミステリーにも手を広げたくなるんです。というのも登場人物には有名なミステリー作家の名前がついていて、アガサ(・クリスティー)やポウ(エドガー・アラン・ポー)、エラリィ(エラリー・クイーン)など。この名前の作家はどういう作品を書いているのか気になって、気づけばその作家の作品を読んでいたわけですけど、古い時代のそれも海外の舞台設定のミステリーを読む困難さたるやなかったですね(笑)。



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朗読劇と読書に共通する「想像力のお手伝い」

――それも含めて面白いし楽しいのがミステリーであると。もう1作品は、『ブラックボックス、誰が解く?』というオムニバス形式のミステリー作品集で、そのなかから相沢沙呼さんの『屋上の雪解け』を挙げていただきました。

神谷:沙呼先生とはご縁があり、15年前から開催している朗読劇【Kiramune Presents READING LIVE】で、2019年の【密室の中の亡霊 幻視探偵】と、2024年の【幻視探偵 -笹嘉神島の殺人-】の脚本を書いていただいて。その2本の主人公が、『屋上の雪解け』にも出てくる探偵・暁玄十朗なんです。つまり、もともと朗読劇のために書いたシナリオに登場するキャラクターを使って、小説を書いてくださったという逆輸入的な手法で、読んだときは「沙呼先生やったな!」と(笑)。しかも朗読劇のときに僕が演じるにあたって肉付けした暁玄十朗を、『屋上の雪解け』の暁玄十朗にフィードバックして書いてくださっていて、それを読むというのはとても特別で贅沢な経験でした。このときほど【READING LIVE】を、長くやってきて良かったと思ったことはありませんでした。

――主人公が女子高生・斗真藍莉で、探偵・暁玄十朗は最後に颯爽と現れ謎解きのお手伝いをする。ミステリーのジャンルの一つ「ハウダニット」をテーマにしています。テンポも軽妙で、キャラクター性やセリフ回しも、確かにアニメになっても良さそうと思いました。

神谷:藍莉は『笹嘉神島の殺人』で初登場したキャラクターで、【READING LIVE】で佐倉綾音さんが演じた藍莉が『屋上の雪解け』にも反映されています。個人的に面白かったのは、最後にドーナツが出てくるくだりです。【READING LIVE】の脚本に「暁玄十朗はドーナツが好き」という設定は無いのですが、僕が毎回リハーサルの差し入れでドーナツを持って行っていたので、おそらくそれを暁玄十朗の設定に取り入れてくださったのだと思います。もともとの設定にそれを演じた僕自身のことを取り入れることで、暁玄十朗というキャラクターをより立体的にしてくださった。そういう経験は初めてで、とても新鮮で面白いと思いました。

――【READING LIVE】を観たファンの方は、「あの暁玄十朗が!」と、神谷さんの声を想像しながら読んで、さぞうれしかったでしょうね!

神谷:そうだったらうれしいですね。【READING LIVE】を観た人は、この本を読んで「あっ!」と、きっと唯一無二の特別な経験を得ることができたはずです。これはきっと【READING LIVE】を観た方のためだけに用意された、特別なトリックだったと言えるのではないでしょうか。

――10月には、その【READING LIVE】の15周年記念作品【Kiramune Presents READING LIVE 2026「Phantom Beauty」】が開催されます。神谷さんはこれまでも脚本に参加されていますが、本を読んできた経験はやはり生かされているでしょうね。

神谷:そうですね。本だけでなく、映画などの映像作品、自分が出演させていただいた作品、観劇も好きなので舞台を観た経験、最近では落語に通っていて、そういうエンターテインメント全般にまつわる経験を、朗読というものに変換したらどうなるか、という思考で日々生きている感じです。


▲【予告】READING LIVE 15周年記念作品「Phantom Beauty」

――朗読劇と読書では、どんなところに通じる部分があるとお考えですか?

神谷:朗読劇はそこにモノがある体で話が進むという点で、お客さんの想像力に頼る部分も大きいのですが、想像力こそがエンターテインメントの一番の肝であり、そこは読書と同じだと考えています。読書も文字情報を頭のなかでビジュアルに変換しながら読み進めるわけで、朗読劇もそういう想像力を大切にしています。大きなセットや体全部を使った演技は無いけれど、セリフに加えてちょっとした目線の動きや顔の角度などの最低限のアクトによって、お客さんの頭のなかで最適なビジュアルを想像して物語を楽しんでもらう。つまり「想像力のお手伝い」をするのが朗読のポイントであり、読書との共通項かなと。とは言え舞台エンターテインメントですから、その場でしか味わえない楽しみをどう提案できるか、それを探っていくことも我々演者の仕事だと思っています。

――ちなみに今回はどういった内容になりますか?

神谷:今回は、佐藤亜美先生に脚本を書いていただきましたが、僕も脚本協力というかたちで携わらせていただきました。内容は、贋作師のお話です。昨今はディープフェイクやAIが話題になっていますが、役者が肉体を使ってリアルに何かを演じることと、AIを使ってフェイクや作品を作っていくことの差って何なのか。本物を見極める目が大事であることを、この作品を通じて感じていただけたらと。

――今という時代だからこそのテーマで、面白いものになりそうですね。あと、原田宗典さんの『十九、二十』も挙げていただいています。この作品はロックバンドのクリープハイプの「二十九、三十」という曲の元ネタとして、邦ロックファンの間では有名です。何歳で読んだかで受け取り方も変わりそうですけど。

神谷:本を読むようになってしばらくして、それこそ二十歳前後のときに読みました。もともと原田宗典さんの書くエッセイが好きで、原田さんのことは完全にエッセイストとして認識していたので、「小説も書いているのか!」と思って興味が湧いて手にしたのが、『優しくって少しばか』や『十九、二十』でした。

――現代の二十歳くらいの人にも、『十九、二十』はオススメしたいですか?

神谷:どうでしょうね。読んだとしても、古典作品として読むんじゃないかな。主人公がネコヤ氏のところでアルバイトして、時給がたしか600円なんて今じゃ考えられないし。「そういう時代だったんだな」と。僕が時代小説をファンタジー感覚で読んでいるように、ある種のファンタジー作品のように受け取るかもしれないですね。

――『十九、二十』は青春譚ではあるけど、決してキラキラしたものではなくて。主人公は、けっこうダーティーで薄暗い感じの体験をしていきますよね。それを読んで、神谷さんはどのように受け止めたのですか?

神谷:当時どういう気持ちになったか記憶は曖昧ですけど、自分より十歳以上も年上の原田宗典さんが、きっとご自身も似たような経験をされて書かれたんだろうなと感じて。教科書とも違うけど、「そういう青春もあるんだ」「そういう生き方もあるんだ」と、教えてもらった気がして、少し背伸びして読んでいた感覚がありました。

――自分の経験していないことを、読むことで擬似的に経験させてくれたと。

神谷:そうです。でもそれが小説や本の醍醐味だと、最近になって思うようになりました。今ってコスパやタイパばかりを意識して、小説を読むのはタイパが悪いと言う方もいらっしゃいますけれど、読んでいる時間は絶対無駄にはならないし、何かしらその人の脳に刻み込まれていくと思うんです。「こういう生き方もある」「こういう感情になることもある」「その感情を文字にするとこうなる」と。だから実際に自分が、今まで陥ったことのない感情になったとき、本で読んでいれば対処できるわけです。

――わからないと怖いですからね。

神谷:そう。わからないこと、知らないことは恐怖です。それをあらかじめ文字にしてくれているのが、小説やエッセイなどの本で、他人の人生を一冊に短縮して疑似体験させてくれるわけですから、これ以上にコスパ・タイパのいいことって他には無いなって思います。そういう意味でも、本は読んだほうがいいです。ただ、僕がそう気づいたのは、二十歳前後になってからでしたけど。



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