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<わたしたちと音楽 Vol.83>HALCALI “ブランク”と呼ばれた14年で知った、余白のある人生の豊かさ

Interview: Rio Hirai l Photo: Yukitaka Amemiya
米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から"音楽業界における女性"をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。
今回ゲストに迎えたのは、HALCAとYUCALIによるユニット、HALCALI。2003年のアルバム収録曲「おつかれSUMMER」がリリースから22年を経て海外でバイラル・ヒットし、2人は14年ぶりにマイクの前に戻ってきた。母になった2人は、“ブランク”と呼ばれるその時間を「最高でした」と笑う。その言葉の真意を聞いた。
「なんだか、バズってる!」 22年前の曲が、世界で注目されて

――2025年の春、「おつかれSUMMER」が海外でバイラルヒットしていると知ったとき、お二人はどこで何をされていましたか?
HALCA:再生数に動きがあるということを、レコード会社の方がいち早くキャッチしてくれたんです。私は多分、自宅で普通に生活してました。そこにLINEで、「なんかさ、すごい再生数伸びてるよ」って(笑)。
YUCALI:最初は「へえ」っていう、ちょっと他人事のような感覚でした。日本発信でもなければ、私たちが宣伝したわけでもなく、海外からふつふつと沸いてきていると聞いて、「なんか不思議だね」とHALCAとLINEしていました。
――「これはすごいことかもしれない」と実感した瞬間はありましたか?
HALCA:私は2回ありました。1つは、携帯でSNSを開いたときに、自分の曲で踊っている人がたくさん流れてきたとき。私からキャッチしに行かなくても自然と流れてきて、「バズってる!」と思いました(笑)。もう1つは、HALCALIを知らなくても「おつかれSUMMER」は知っている、という方が周りにすごく多かったこと。曲がそれだけ世界中で聴かれているんだって、すごく嬉しかったです。
――「おつかれSUMMER」は、シングルでもMVがあった曲でもない、1stアルバムの中の1曲でした。
YUCALI:リリース当時この曲はアルバムの中の一曲だけど、自分達が大好きな曲だったので、毎年のように夏にはライブのセットリストに入れていました。こうして時代が経っても恥ずかしくない、自信を持ってお届けできる曲があるのは嬉しいし、アルバムを買わないと聴けなかった時代じゃなく、サブスクでたくさんの方が耳にしてくれる今だからこそ、この曲の良さに世界の人が気づいてくれた。誇りに思っています。
――『THE FIRST TAKE』で披露されましたよね。ひさしぶりのパフォーマンスでした。
HALCA:14年ぶりのメディア出演でした。『THE FIRST TAKE』からオファーをいただいて、改めて今のHALCALIを世界に届けられる機会だと思って、「ぜひ、やりたい」とお受けしました。たくさんの人が聴いてくれている今、歌っている姿を見てもらえるのはすごくいいなと。ただ時間が空いているので、ちゃんと歌えるかなという不安はあったし、当日ももちろん緊張していましたが、収録が始まったら一発撮りなので一瞬で過ぎ去りましたね(笑)。
YUCALI:14年ぶりに一緒に歌ったんですけど、今まで見たことがないくらいHALCAが緊張してて。私は逆にそれを見たらちょっと楽しくなってきて(笑)。始まったら、昔の感覚のままのびのび歌えました。
▲ 「おつかれSUMMER / THE FIRST TAKE」MV
「OK、帰ろう。お迎え行こう」 母と父になった4人の再タッグ

――9月2日には新曲「Guin Guin Guin」がリリースされます。『シナぷしゅ』の9月度「つきうた」タイアップです。
YUCALI:「おつかれSUMMER」をきっかけに、「HALCALIで何か新しいことをやるなら、何ができるかな」と考えてみたりして、2人ともお母さんになったので、子どもたちが赤ちゃんのときに大好きだった『シナぷしゅ』とか、「子どもたちが喜ぶ曲が作れたらいいよね」という雑談をよくしていたんです。だから、それが本当に実現してすごく嬉しかったですね。
HALCA:子どもの教育にまつわる何かをしたいと、ずっと思っていて。それが音楽やアートならなおさら私たちがやる意味があると思っていたので、本当に嬉しいお話でした。
――母となったHALCALIのお二人と、父となったO.T.F(RIP SLYMEのRYO-Z、DJ FUMIYA)のお二人による再タッグです。制作現場は、昔と違いましたか?
HALCA:自然とみんな子どもの話題が出るようになりましたし、明らかに変わったのは活動時間ですね。早い時間に集まって、夕方にはレコーディングを終えて、「子どもたちのお迎え行こう」って。昔は夜遅くても何も制限がなかったんですけど、今はみんな子ども中心の生活をしているので。歌詞とリンクするくらいバタバタしてました(笑)。
YUCALI:レコーディングも本当にタイトで、テイクも数回で録り終えて、「OK!帰ろう、お迎えに行こう!」みたいな(笑)。
――月曜日から日曜日まで、1週間を駆け抜ける歌詞は、まさにそのバタバタの毎日ですね。お気に入りのところを教えてください。
HALCA:日々のバタバタ感が、曲の疾走感そのものだなと思っていて。忙しないリズムで一瞬で聴き終わる感じが、まさに日々の生活を物語っている。テンポが速いので、テンションが上がります。
YUCALI:“マンデー”から“サンデー”まで、毎日を描いていく歌詞があるんです。日曜日まで来て、本当に疲れてるんだけど、また来週も来る。"終わらない日々"が描かれていて。でも、その中に楽しさを見つけたり、子どもの“バナナがフォーリン”しちゃう感じとか、お茶目に描いてくれているのがRYO-Zさんっぽくて、HALCALIらしさもちゃんと出ていて。大変なだけじゃなくて、楽しいところも切り取られているのがいいなと。子ども達にも「ママやパパも毎日楽しんでやってるよー!」って伝わるといいなと思います。
"女性ラッパー"という言葉が 物語ってきたもの
――お二人の原点は、小学生時代のダンススクールでの出会いと、2人で受けたオーディションでした。
HALCA:今とそんなに変わってなくて、「楽しいことをしたい」というのが原動力でした。ダンススクールで踊っていて、その延長にオーディションがあって、YUCALIちゃんと「行ってみようよ」って。受かろうが受からなかろう が、全てが経験として楽しかった。その先にO.T.Fとの出会いもありました。脱力感とかリラックス感、遊び心という意味では、今思えばすごく良いマッチングだったなと思います。
YUCALI:オーディションのときから、2人で曲に振り付けをしてビデオを撮って応募したんですよ。それを見て選んでもらって、デビューしてからも振り付けも2人で作らせてもらえた。私たちのユルいダンスを気に入ってもらって、嬉しい出会いでした。当時の私たちはユルいと思っていなくて、一生懸命踊ってたんですけどね(笑)。
――当時のヒップホップシーンは、今よりさらに男性中心の世界でした。10代の女の子2人には、どんな景色に見えていましたか?
HALCA:当時中学生で、今思うと右も左も分からず音楽業界に入ったので、その景色が当たり前だったのが正直なところです。縁にも恵まれて、周りには信頼できるスタッフの方が多かったので、あまり考えることもなくて。ただ、確かに振り返ってみると、ジェンダーバランスのギャップはありましたね。そこは「そういうものだった」というだけで。
YUCALI:スタッフの方の中には“第2の母”のようにそばで守ってくれる方もいましたし、恵まれた環境で、「女の子2人だけで怖いよね」というような話は1度もしたことがなかったです。
HALCA:私たちは女性デュオで、お互いがいたので、スタッフに男性が多くてもあまり気にならなかったのかなと思います。
――"女性ラッパー"などの枠で語られることについては、どうでしたか?
YUCALI:“ガールズヒップホップ”って言われてましたよね。でも当時は全然気にしてなかったと思います。「あ、そういうもんか」って。
HALCA:でも、“女性ラッパー”という言葉は、男性中心の社会がスタンダードにあることを物語っているなと思っていて。アナウンサーは“女子アナ”、医師は“女医”。俳優も少し前まで“女優”と呼ばれていましたよね。女性がその立場にいることがまだ当たり前として扱われていないんだなと。例えば、女偏が付く漢字ってありますよね。“奴隷”も“娯楽”も“婚姻”も“嫉妬”も、全部女偏なんですよ。なんでだろうと紐解いていくと、男性優位な社会の中で生まれた言葉で、今もその価値観を引きずったまま使われ続けている。男女問わず言う側には違和感も罪悪感もないからこそ根深いと思うんです。社会全体が、そういう言葉を作ってしまった。でも、今こうやって「“女性ラッパー”という枠をどう思いますか?」という質問があること自体、少しずつ変わってきているのかもしれないなと思いました。
――当時の曲を、今の視点で聴き直して気付くこともありますか?
HALCA:この前も2人で話してたんです。当時のHALCALIの曲には、“髪がサラサラ”とか……。
YUCALI:“行き交うボイン”とか(笑)。
HALCA:そう。胸が大きい女性がいい、髪がサラサラの女性がいい……というようなルッキズムが歌詞にもあって。当時は言葉遊びとして面白く表現していたのかもしれないけど、今その歌詞を見ると気になる。当時は気付かな かったけど、無意識にそういうものを受け入れていたなって。それに気付けるのは、社会にアップデートを求められ始めているからかなと思っています。
“ブランク”と思われる14年も 最高で必要な日々だった

――女性は、ライフステージの変化が活動に影響しやすい面があると思います。お二人はどう捉えてきましたか?
YUCALI:HALCALIのお休みの期間に結婚したり出産という体験だったり、子どもを育てる中でいろんな気持ちが湧いてくる。そんな幸せも味わっているので、苦労ばかりではないかなと思っています。
HALCA:私は母になって、社会を見る目がすごく変わりました。「娘のために何ができるんだろう」という視点から「この社会のために何ができるんだろう」と考えるようになって。HALCALIで活動していることも、娘が生きていく未来のためにできる選択肢のひとつ、という意味で影響は大きいです。
――世間はこの14年を“ブランク”と呼びます。お二人にとっては、どんな時間でしたか?
HALCA:最高でした(笑)。“ブランク”と呼ばれる時間も、自分とも社会とも向き合う時間という意味では最高だったなと。余白がある人生って、すごくいいなと思うんです。好きなことをやる、趣味を探す、もしくは何も考えない。楽しかったですよ。
YUCALI:HALCALI の活動をしていない期間がブランクという感覚ではなかったのですが、普通に私たちの人生は続いていて。その延長線上でいろんなことを勉強したり、子どもを育てたり、本当に豊かになった気がします。しかも今回の活動再開は、私たち主導で「やろう」ではなくて、求めてもらえてHALCALIをやれる。こんなに幸せなことがあるんだと思いました。私たちが楽しんでいる姿を子どもたちに見せられるのも、すごく嬉しいです。
――14年前の表現と、今の表現に違いはありますか?
HALCA:女性の気持ちに寄り添ったり、連帯するということが自然にできるようになったこと。当事者になってやっと気持ちが分かることって、あると思っています。私が女性であり、母親であることは、同じ立場の人たちをエンパワーメントすることができるかもしれない。そういうことを意識するようになりました。
YUCALI:当時は楽しいことしかなくて、自分のことしか考えていなかったけど、今は子どもたちがいて、守るものがある中での責任感があります。「お母さんはどんなことを発信していくんだろう」って、子供達も見ていますしね。
HALCA:娘に見られても恥ずかしくない自分でいようとは、常に思ってます。
――女性アーティストがより輝くために、必要なことは何だと思いますか?
HALCA:私は、“女性はありのままで美しいもの”、“輝いているもの”だと思っているので、“より輝こうとする必要はない”と思っているんですね。ただ、ここで言う“輝く”が、キャリアアップや社会進出という意味なのであれば、女性自身ではなくて、意思決定の場に女性の割合を増やすとか、社会システムの抜本的な変革が絶対に必要だと思っています。そうすれば、出産後も復帰しやすいし、女性がより働きやすく、休みやすい仕組みができる。当事者の気持ちは、当事者にならないと分からないこともある。そういう点では、やっぱり政策や意思決定の場の多くを占めるのが高齢の男性というのは、とても不自然だなと思いますよね。
YUCALI:私は、女性アーティスト自身が自分のペースを保てることですかね。今回長くお休み期間があってもこうしてまた14年ぶりにメディアに出てきた私達をやさしく迎えてくれる沢山の人達がいてくれること知ることができて本当に嬉しかったんです。今後の活動の原動力にもなりますし、大切なものを守りながら自分のペースで楽しむ姿が輝いていると思ってもらえたらいいですよね。
――デビュー1年目、「タンデム」の頃の自分にアドバイスをするなら?
HALCA:「思ったことは、なんでも言っていいよ」って言ってあげたいですね。大人になってもそうですが、特に若い世代って、言いたくても「私だけマイノリティな意見かもしれないから、いっか」って諦めてしまうことがすごくあると思うんです。思っていることを伝えるのは難しいことだけど、自分なりに表現してみようとするのは、すごく大事。身につけていてほしいなと思います。
YUCALI:本当に楽しくやってきたので、「ありのままのあなたで、そのまま楽しくやっていけ」って言いたいです(笑)。23年経って、こんなに聴いてもらえるときが来るから、「自信持ってやって」って思いますね。
――最後に、これから先の夢を聞かせてください。
HALCA:今すごく楽しくて、幸せで。音楽があって、家族がいて、このまま時間が続けばいいなと思うんです。でもいつか、娘よりも私のほうが先に人生を終えますよね。そのときに娘に手渡す社会が、また娘のその先の世代に手渡す社会が、ジェンダーギャップや分断や貧困や戦争のない時代になっていればいいな、ということを夢とさせていただきます。
YUCALI:「HALCAとYUCALIがいたらHALCALIだよね」と昔から2人の間ではよく言っていました。子育てを軸にしながら自分達にできるタイミングにできることを続けながら、この楽しくて幸せな時間を長く続けられたら。子どもたちに「ママ楽しいよ」っていう姿を見せられたら、それが一番嬉しいですね。
プロフィール
小学生時代に同じダンススクールに通っていたHALCA、YUCALIによるユニット。2002年に開催されたフィメールラッパーオーディションで優勝し、RIP SLYMEのRYO-ZとDJ FUMIYAによるO.T.F(オシャレ・トラック・ファクトリー)全面的にプロデュースのもと2003年1月にシングル「タンデム」でCDデビュー。2025年、海外を中心に初期曲「おつかれSUMMER」がTikTok総再生回数100億回越え、「TikTok Songs of the Summer 2026」のJapanチャートで1位を獲得。ストリーミング総再生数回数2億回を超える大ヒットし再び注目を集め、それをきっかけに2026年8月開催の【SUMMER SONIC 2026】に14年ぶりのフェス出演をした。2026年9月にO.T.Fと再びタッグを組んで新曲「GuinGuinGuin」をリリース。同曲はテレビ東京系『シナぷしゅ』の9月度“つきうた”に採用されている。
衣装クレジット
【YUCALI】
トップス:BLOSSOM
Tシャツ:SEA
パンツ:PHEENY
ジュエリー:KASKM
【HALCA】
トップス:SEA
パンツ:BLOSSOM
ジュエリー:KASKM
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