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<わたしたちと音楽 vol.81>mikako(Nagie Lane) ウィーンで育んだ、多様性の中で生きるためのマインド

米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から"音楽業界における女性"をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。
今回のゲストは、2026年6月9日に東京・SGCホール有明で開催されたBillboard JAPANとSpotifyによるライブイベント【Women In Music – EQUAL STAGE】に、MCとして参加したNagie Laneのmikako。イベントの感想に加え、幼少期をオーストリア・ウィーンで過ごしたという彼女が考えるジェンダーエクイティについて、男女混成グループで活動する上でのマインドセットなどを伺った。(Interview:Naoko Takashima l Photo:Yukitaka Amemiya)
こんな世の中だからこそ
“ハーモニー=調和”を伝えたい

――ライブイベント【Women In Music – EQUAL STAGE】では、mikakoさんにはMCとしてご参加いただきました。まずは当日の感想からお伺いできますか。
mikako:すごく意義深いイベントだなと感じました。まず、自分が女性だから体験してきた「あれ、実はちょっと理不尽だったかも」「心に引っかかっていたな」といったことを振り返る機会になりましたね。個人的に、自分に降りかかってきた嫌なことってすぐ忘れようとしたり、見過ごすことのほうが多いんですけど、今回のイベントで女性のジェンダーエクイティを考えていこうとなったときに、「そういう思いをしてきた人って、もしかしたらほかにもいるのかもしれない」というか、1人じゃないと感じる、すごく良いきっかけになりました。特に、世界でも活躍されているアーティストの皆さんをお呼びしてああいうイベントを行うということ自体が大きな主張というか、良いメッセージになっていくんだろうなと思って。MCを務められて嬉しかったですし、今後も続いていったらいいなと思いました。
――差し支えなければ教えていただきたいのですが、今mikakoさんが「心に引っかかっていた」とおっしゃっていたのは、どんなことだったのですか?
mikako:世の中的に、よく「女性は感情的になりやすい」と言われるなと思っていて。実際、そういうことをテーマとして扱っているドラマを観たこともあります。私自身、例えば大事な話し合いをするときに、ちょっと声が震えたり、泣きそうになる瞬間などがあったんです。でもそうなってしまうと、感情的になってるだけだと見なされて、主張自体を対等な意見として扱ってもらえないかもしれないと思うこともありました。だから、そういう場所では強く振る舞おうとしてきたところがあります。自分が意識し過ぎていたのかもしれないけれども、今まで生きてきて、「女性は感情的になりやすい」というフレーズを聞いたことがあったので、そこに当てはまらないようにと思ってた自分がいたと気が付きましたね。
――【Women In Music – EQUAL STAGE】では、新しい学校のリーダーズ、羊文学、LANAさん、Awichさんの4組にライブパフォーマンスを行っていただきました。皆さんのMCやパフォーマンスなどを通じて、どんなメッセージを受け止められましたか?
mikako:みんなすごくパワフルだったし、それぞれ伝えたいメッセージを持っていたという点で共通していましたよね。新しい学校のリーダーズは「丸出しではなく、はみ出しです」とインタビューでもおっしゃってましたけれども、“ルールはちゃんと守った上で、自分らしくどうはみ出していくか”を、まさに音楽とパフォーマンスで示していました。羊文学は、あえて「私たちも悩みながらですけど」と赤裸々に伝えながら、それをあんなにもパワフルなサウンドでさらけ出してくるところが本当にカッコ良いなと思いましたし、LANAさんはご本人も「飾らない」とおっしゃいましたけど、それをそのまま出していたなと思います。Awichさんはご自身の体験を経験した上での強さと愛情をしっかり伝えていきたいって。本当に4組とも思いを120%ステージで出されているのを感じて、アーティストとしてすごくリスペクトできました。
ああいう方々が「同じ生身の人間なんだな」と思わせてくれる言葉や表情でパフォーマンスを見せてくれるとダイレクトで熱と思いが伝わって、袖ですごく感動しながら観ていました。生きている人の分だけ表現の仕方も全部違うと思いますし、それはアーティストだろうとそうでなかろうと、そういうものだと思うんです。あの1日で4タイプの表現が見られたのは、それだけで1つ大きな意味があるというか。「私は私らしく輝けばいいんだ」ということの示しになったような気がしていて、すごく素敵だったなと思います。
――今後mikakoさんが【Women In Music – EQUAL STAGE】でパフォーマンスを行う機会があるとしたら、お客さんにどういうメッセージを伝えたいと思われますか?
mikako:私がハーモニーグループに魅了されている部分って、「異なる声を持つ3人でも、同時にハモり出すとこんなに一体感が生まれるんだ」というところです。今、社会においても分断がたくさんあるし、戦争も絶えなくて、「なんでこういうふうになってしまうんだろう」っていう世界がまだ続いてる中でも、「こうやって他者とも響き合えるんだ」というのを自分たちで体現できていると感じているんです。だからこそ、ハーモニー……つまり調和ですけれども、それを伝えたいという思いはすごくあります。
私は5歳から11歳までオーストリアのウィーンで育っているのですが、ウィーンに行って間もないとき、周りが話しかけてくれても英語が喋れず、友達ができなくて毎日泣いていました。ただ音楽の授業のときに、何の曲だったか忘れてしまいましたが、日本語でも英語でもある曲があったんです。そのメロディが好きだったので歌ったら、周りのみんなが「この曲知ってるんだ?」みたいになって。そこで初めてみんなと同じことで笑えて。「音楽すご!」「音楽って国境を越えられるんだ」と思った原体験でした。それがきっかけで、国を超えて感動を与えられる何かを作っていきたいと思うようになったし、ハーモニーって、ハモるたびにそれが生まれる。あと、海外から帰ってきて日本に馴染めずいじめを受けた経験もありました。私、いじめと戦争って、規模が違うだけで同じ原理だと思っていて。そういうものに対しても、人間って言葉で言ってもはね返しちゃうけど、凝り固まってしまったり、閉ざしてしまった人間の心の扉の隙間にも、音楽なら、隙間風として入れるような気がしていて。そういう音楽を、ハーモニーで届けていきたいっていうのはずっと思っているんですよね。
女性らしさ・男性らしさより
いかに自分らしさを出していけるか

――Nagie Laneは男女混合のグループですが、活動していく中で、女性であることを意識することはありますか?
mikako:Nagie Laneは今はコーラスグループとして活動していますが、最初はアカペラグループとしてスタートしたんです。最初のメンバー構成は男女3人ずつで、その頃は「“女性らしさ”みたいなものを出したほうがいいのかな」と考えたこともありました。でも私はウィーンで育っていたこともあり、日本で一般的に言う“カワイイ”というものに触れていなかったので、あまり意識していなかった上に「それは自分らしさに紐づかないな」という感覚もあって、早々にその考えは放棄しました。だから最初は自分でも『女性らしさ』を出した方がいいのかな?スカートや可愛い服とか?」なんて思ったこともあったのですが、「でも私、昔から別にそういうのすごい好きだったわけではないな」「自分らしく行こう」と。私はステージ上で踊ったり動き回るのが好きなので、“mikakoらしさ”と言ったらやっぱパンツスタイルだなと思い、衣装はパンツスタイルなんです。
――多感な時期をウィーンで過ごしたことが、現在のmikakoさんの価値観に影響しているんですね。
mikako:形成されたと思うことはすごくたくさんあります。それに、中学、高校は日本の女子校で過ごしていたんですけど、その学校は“女性らしさ”というよりは、人間としてどう強く自分らしさを出していけるかということを考えながら過ごせる環境だったんです。そこで6年過ごしてたことも、あまり性別を意識しない今の考え方につながっていると思っています。
ウィーンから日本に帰ってきて驚いたのが、授業参観に来るのがほぼお母さんだったこと。ウィーンでは、毎日お父さんが迎えに来る友達もいっぱいいたし、お母さんが会社でキャリアを積んでいるような子もたくさんいたんですよね。それくらい“男だから、女だから”っていうのは一切なかったし、お父さんが迎えに来ることも別に特別視はされていませんでした。
――働きながら子育てしやすい環境が整っていたんですね。
mikako:私の周りはそうだったと思います。私は父の仕事の都合でウィーンに行ったのですが、学校と父の職場が近かったこともあり、「今日はパパと帰ろう」といった感じでよく会社に会いに行っていたんです。父の職場の人たちにも「あら、今日も来たの?」「お父さんもうすぐ仕事が終わると思うから、待っててね」と言われたりして。その職場には女性も全然いらっしゃいましたし、そういう意味の性差は感じませんでしたね。
性差や年齢などよりも
大事なのは“その人をどう思いやれるか”

――Nagie Laneは2018年に結成されて、何度かメンバーの変更があった中で、mikakoさんは最初から在籍していますね。続けていくために大切にしてきたことはありますか?
mikako:グループ活動ってやっぱり難しくて。でも、それは当たり前なんですよね。生まれた場所も育った環境も違う人たちが集まっているわけだから、考え方も違うし、同じゴールがあっても、そこへのアプローチの仕方もそれぞれですから。現在は3名で活動していますが、続けてきた中で、これまで常に自分が正しい選択をできてきたと思えることは何かと考えると、“向き合い続けること”だと感じます。ウィーンで通っていた学校って、隣の席の子はスリランカ人、その左隣はアメリカ人、前に中国人、後はイタリア人……と言った感じでいろんな国から来た子たちで成り立っていて、考え方、宗教、肌の色が違う人たちが同じクラスにいたんです。そうすると、「あなたの普通って何?」「あなたの家ではどうするの?」という会話が普通に起こるんですよ。例えば、持ち寄ったお菓子を食べる軽食の時間があるのですが、断食の文化がある家庭の子は、その日は食べられないわけです。そうすると周りの子は「なんで?」なんて訊いて、それで知って学んでいく。「そうなんだ、面白いね。でも大変だね」みたいな。そういうことが当たり前だったので、グループ活動においても、私はそれぞれのメンバーの考え方が違っていて当たり前だと思っているんです。
だから「違いを知った上で、どうやったら私もあなたも気持ちいいと思える答えにたどり着けるかな」と考えるようにしています。どんなに相手が青色、私も赤色の意見を持っていたとしても、向き合い、対話することを諦めさえしなければ、絶対に紫にできる瞬間はある。3人それぞれ年齢も性別も違うので、感じることが違うこともあるのですが、逆に3人が同じ意見を持ち過ぎていても新しい刺激はないかもしれません。例えば同じMVを観たときに、それぞれが訂正したいと思う箇所が必ず違う。それってすごく面白いと思って。三者三様の意見が出るから、きっとグループは上手くなっていく。違いを尊重して認め合うことを常に考えることが必要だと思っていますね。
――メンバー同士でライフステージの変化などについてお話しされることはありますか?
mikako:ちょっとありました。メンバーのmayuは結婚しているのですが、自分も含めて仮に出産や妊娠のタイミングがあったとしたら、やっぱりそれは尊重していきたいですし。ただ、そういったことはそのタイミングにならないと分からないことのほうが多いと思うので、変に悩んでもいませんね。その都度話し合えたらいいと思います。
自分の周りでも、だんだん結婚や出産など新たなライフステージに進んでいる友達が増えてきて、それもすごく素敵だなと思いますし、「私もいつかは」とも思うんです。でも、焦りもありません。それぞれの生き方があって、その人にとってのベストなタイミングがあると思うし、焦ったところで別に何も生まれないし、今目の前にあることにベストを尽くすのが自分にとって一番良い生き方だと思うので。今はもっと歌って音楽をいろいろな人に届けたいし、その自分を愛してあげたいなと思っています。
――出産と言えば、最近では、例えばインタビュー現場などにお子さんを連れてこられるアーティストの方も増えているみたいですね。そういうことがもっと普通に行われる世の中になれば、子育てしながらのキャリア形成の選択の幅が広がりそうです。
mikako:そうですね。みんな自分が子供だった時期があったわけで、もしもそのアーティストのお子さんがそのアーティストと一緒にいなきゃいけないのであれば、変に「仕事だから」なんて考えずに、現場に連れてきたほうが絶対いいだろうし。もちろんマナーは大事ですけど、全てを取っ払ったらみんな1人の人間。私が今一番思ってることがそれで、性別とか云々よりも、みんな1人の人間だから、年齢・性別問わず生きていれば悩むことも嬉しいことも怒ることもある。大事なのは、その人をどう思えるか、思いやれるかというところなんじゃないかな、と。そういうマインドにもっと楽にみんながなれたら、もうちょっといろんなことがスムーズに進むのかなと思ったりはしています。
――情報が溢れ過ぎていて、「こうしたらダメなんじゃないか」「こういうことを言っちゃいけないんじゃないか」など難しく考えすぎてしまう部分もありますが、mikakoさんがおっしゃるように、“目の前にいる人をいかに思いやれるか”と考えるとシンプルです。
mikako:ジェンダーエクイティって、何でも平等にしていくというより、「本来受けられるはずの思いやりなどをちゃんと受けられるところまで持っていこうね」っていうマインドだと思うんです。それさえできていれば、変に異性を特別扱いする必要はないんじゃないかなと思います。私個人としては、例えば、活動を続けていく上で接する男性には、「自分に対して“女性だから”という考えをそんなに持たないでほしいかな」と思うこともありました。人として見てもらうっていうのが一番ですから。そのためには、“知っていくこと”も大切です。女性にも男性にも、それぞれの性別ならではの体の変化などがありますよね。純粋にそういったものをお互いが知れば、“女性だから”とかではなく、「あ、この人は今こういう状況なんだな」と理解できることも増えていくと思う。
年齢による変化だったり、性別や性的指向、性自認など、それぞれの立場で感じることだったり……そういうことを知ることができる書籍もありますし、発信されてる方もいらっしゃるので、見てみたり、聞いてみたりするのは、みんながみんなを思いやるための大事な1歩だと思います。今でも、LGBTQという言葉を知らない人も実はまだまだいますからね。
プロフィール
コーラスグループ、Nagie Laneのメンバーとして、2021年9月にアルバム『Interview』でメジャーデビュー。グループが2024年にア・カペラグループからコーラスグループへと進化すると、ギターも担当することに。グループでの活動に加え、ソロライブも精力的に行っている。7月に行われる【FUJI ROCK FESTIVAL ’26】には、忌野清志郎 PEACE SONGSのメンバーとして参加することが決定している。最新作は6月にリリースされたデジタルシングル「白い色は恋人の色」。
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