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<インタビュー>桑田佳祐によるキャリア初のアニソン完全書き下ろし楽曲『人誑し / ひとたらし』×TVアニメ『あかね噺』から紐解く”芸事論” とは【MONTHLY FEATURE】(前編)

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Interview & Text:岡本 貴之


 桑田佳祐が、2026年6月24日にニューシングル『人誑し / ひとたらし』を発売した。表題曲は落語の世界を舞台としたTVアニメ『あかね噺』(テレビ朝日系)のオープニング曲、「AKANE On My Mind~饅頭こわい」はエンディング曲となっている。桑田がアニメ作品へ主題歌を作詞・作曲で完全書き下ろしするのは、意外にもキャリア初のこと。

 落語家もミュージシャンも、芸で人の心を誑かす者──そんな「人誑し」という言葉を、デビュー48年目にして初めてアニソンに挑んだ桑田自身がどう受け止めているのか。前編では、落語、浮世絵、ブルース……時代も国境も越えて連綿と息づく”芸事論”を、桑田ならではの言葉で語り尽くしている。

 音楽がアニメ作品と結びつくことで日本独自のカルチャーとして世界へと発信されている昨今に桑田自身が感じていることとは。さらに、2026年2月に古希を迎え自ら打ち出した “NEW 70ʼ S” と、デビュー当時から憧れた洋楽、自身の作品との関係とは。ツアーを目前に控える中、前編と後編でたっぷりと話を訊かせていただいた。


昭和から令和のビートへ――
自分なりの答えを探して

――ニューシングル『人誑し / ひとたらし』は、TVアニメ『あかね噺』のオープニングとエンディングの主題歌を収録していますが、桑田さんがアニメ主題歌として新曲を作詞・作曲すべてを担当し書き下ろすのはキャリア初とのことですね。どんな経緯で実現したのでしょうか。

桑田佳祐:最初に、まだ話が決まっていない段階でスタッフから「こういう作品があって、アニメ化するにあたり先方から主題歌をぜひお願いしたいとお声がけいただいているのですが、どうでしょうか?」ということで、原作のコミックスを読ませていただいたんですよ。物語の題材が日本の伝統芸能でもある落語ということで、長年音楽をやっている私にシンパシーを感じてくれたのか熱いオファーをしてくださった。落語はそれほど詳しくはないものの好きで度々観に行かせていただいてますし、世界観だけはなんとなく見知ってはいるなと、せっかくのご縁ということでお受けしたんです。



桑田佳祐 - 人誑し / ひとたらし [Anime Lyric Video]

――実際に原作を読んでみて、感じるものがあったということですか。

桑田:僕が理解している落語の範疇の中での話だったこともあり、少し読むだけでも分かりやすかったんです。まずはとにかくやってみようと。ただ、僕は『鉄腕アトム』とか『鉄人28号』とか『巨人の星』で育ってますから、令和のアニメとか今のアニメ音楽の作風みたいなものは、ほとんど知らなかったんですよね。だからどういう曲を作ろうかなと。しかも、オープニングとエンディングを両方やってくださいというオファーだったものだから、「えっ? アニメって普通そうなの?」って。


――普通は、それぞれ別の方が担当する場合が多いと思います。

桑田:そうなんでしょ? だからそこでまたプレッシャーが「ドドンッ」ときまして(笑)。まあでも、それだけこちらに期待していただいているのはありがたいことですから。それで、周りのスタッフが僕のために、「『週刊少年ジャンプ』のこの作品がアニメ化されたときの主題歌は誰のもので、その曲の BPMはこうで」とか、ここ何年かのアニメソングを振り返った資料を作ってくれたんですよ。そこまでやってもらったら、お陰様でだんだんその気になってくるし、アニメの絵なんかも見せてもらいつつ、徐々に温度感とか、オープニングの疾走感とか、雰囲気をなんとなく自分なりに掴んでいきました。「じゃあ曲の展開やテンポ感はこういう感じかな」っていうところから制作に入って行った気がします。

次に落語、女流っていうワードを頼りに、ギターを弾きながらメロディや曲の世界観を思い浮かべた。落語で、女性で、年齢はいくつで、その女性のお父さんはこういう人で、ライバルはこんな顔していて……など、予備知識を少しずつ自分の中に蓄積していって、イメージを固めていきました。


――先ほど『巨人の星』という名前も出ましたけど、お父さんの叶わなかった夢を主人公の星飛雄馬が目指すというところでいうと、『あかね噺』にもちょっと昭和の“スポ根”的な要素が感じられたのではないですか。

桑田:それは感じました。そういうのは僕も好きですし、分かりやすかったですよね。 それが、何か武器を持って戦うとかいう話になると、もっと気後れしてたかもしれません。僕なんかが観ていたアニメの音楽は、軍歌のような2ビートの世界ですから。「ダーン、タタタタ~ン、行くよ、飛雄馬!」みたいな(笑)。そこから脱却して、やっぱり今は 16 ビート的な曲調なんだろうなと思ったり。


――それに、夢を押し付けられてるわけじゃなくて、自分の意思で夢に向かうというところも令和的というか、アップデートされたものがある気がします。

桑田:そうですね。『あかね噺』もただの根性モノじゃないだろうし。そういう意味で音楽も自分が知っている60年代のアニメソングより多様化している分、余白があるというか、自由に泳がせてもらえるんだろうなと思いました。それで、自分なりのイメージとしての曲調を先方に提示してみようかなと思ったんです。曲としては、まず「AKANE On My Mind ~饅頭こわい」の方が先に出来たんですけど、この曲に関してはオープニングとしての緊張感みたいなものとか、令和の時代へのアンサーという役割ではないなという気がしたんです。



TVアニメ『あかね噺』ノンクレジットエンディング映像|桑田佳祐「AKANE On My Mind~饅頭こわい」

「人誑し」誕生の背景、
ミュージシャンと落語家が共有する“誑かす”本能とは

――オープニング曲の「人誑し / ひとたらし」はマイナー調のメロディでスリリングなサウンドになっていますが、オープニングには物語がどうなっていくかの緊張感が必要だと思ったということですか。

桑田:Adoちゃんとか、藤井 風君とか米津玄師君とか、そういう方たちの曲はトーンが「AKANE On My Mind~饅頭こわい」の、のどかな感じとは違って、ある程度緊張感や疾走感のある曲だろうなということは頭にあったので、それも踏まえて、「人誑し / ひとたらし」をオープニング曲として作っていきました。


――その緊張感を生み出す中で、なぜ「人誑し」という言葉が出て来たのでしょうか。

桑田:これが「誑かす(たぶらかす)」っていう漢字だということは、何かで見て知っていて、「“誑かす”という言葉も語感もいいな」と漠然と思っていたんです。よくよく漢字を見ると、ごんべんに狂ってるって字を書くでしょ?我々のような歌舞音曲(かぶおんぎょく)も落語も、ある種、いわゆる社会の秩序とは外れた人間がやるものだと僕は思っているんです。そういう意味では、この「誑かす」という字が、厳めしいんだけど、なんかハマりそうだなと思って。だから最初はね、今時の「タブレット」っていう言葉を当ててたんです。「誑かす人」と書いて、「誑人(タブレット)」ってどうかなと思って。


――おおっ! それはすごく桑田さんらしい発想ですね。

桑田:最終的に「人誑し」にしたんですけどね。日本の古典芸能っていうのは、一般社会とはある種別の世界の人たちの芸だろうっていうことを、ここ最近思っていたんですね。『あかね噺』で17歳の女性が落語の世界に行くっていうのも、親の仇だけの問題じゃなくて、自分自身が誑かす人になるっていうのかな。人を笑わせたり、芸で人の心を掴んだり、一般の民衆に混じってその界隈だけで無礼講というかお祭りをやるような。それは日本人社会の本能的、根源的なことなのかなと。今は令和の世の中になったけど、日本人の奥深くにある芸に対する考え方の本質みたいなものが、この言葉にすごく集約されていると感じたんですよね。それで「人誑し」というタイトルにしたんです。

本来、芸事を司る人というのは一般的な社会生活の中にはいてはならない存在で、さらには今の世の中はコンプライアンスというものがある。でも実はみんな本当は「そういう人たちが必要だと思ってるよね?」っていう深層心理を、主人公の朱音ちゃんはもしかしたら本能的に持ってる人なんじゃないかなって思ったんです。落語家であろうがミュージシャンであろうが、芸に自分のアイデンティティとか本音や毒を加味して客の心をつかむっていうのは、誑かす芸っていうんですかね。歌舞伎なんかもそうですよね。


――その言葉の中には、桑田さんご自身も入っていらっしゃるのではないでしょうか。

桑田:そう、自分もそういう立場の人間でいられたらいいなと。まさに僕も社会性がなくて、他のことが何もできないから、今こういう音楽というものに携わっているんですけど。でもそれは別に後ろめたいことじゃないというか、自分のルーツやアイデンティティとしては誇りを持っていいのかなと思うんですよ。何でも水晶玉を磨くようにツルツルに綺麗にしてお届けする芸能っていうのは、じつはそんなに面白くないんですよね。

でもやっぱり連綿として、今若者が支持している『あかね噺』とかのアニメには、「本音としてはヤバいものが好きでしょ」っていう、失われつつあるもの、本質的なものが根本にあるんじゃないかと思うんですよ。「ヤバいもの」とか「人情」とか「滑稽」とか、そういうものが芸事にはあった方がオモロいよねっていう。



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桑田佳祐 – 人誑し / ひとたらし [Official Music Video]

ロックと落語が共鳴する、
反骨の美学

――昨年リリースされたサザンオールスターズのアルバム『THANK YOU SO MUCH』にも顕著でしたが、近年はそういう昔から日本にあったものへ思いを馳せること、考えることが多いですか。

桑田:まあ年齢もあるんでしょうけどね。あえて言えば、そこに自分の本質から逃れられないものというか、誇りみたいなものを感じるんですかね。「自分は何をやってるんだろう」と思うときに、やっぱりこれは頭で考えたり誰かに教わったりしたものばかりじゃなくて、本能的、遺伝子レベルな解釈で歌舞音曲をやってるんだろうなと。日本人として、日本のお客様の前で演じる中で自然と湧き上がる流儀みたいなものがあると、昨今はよく感じるんですよね。


――そこにきて落語っていう文化はお殿様の行動を笑って権力を風刺したりとか、民衆の暮らしをユーモアを交えて描いていたりとか、ある意味ロック・ミュージシャンの姿勢とも重なる部分があるのではないでしょうか。

桑田:民衆がいて芸があって、じゃあ芸は何のためにあるかというと、やっぱりお上みたいなものを茶化したり揶揄したりっていう役割も大いにあると思うんですよね。

ブルースだって格闘技のカポエイラだって、やっぱり虐げられた人達が作ったものだったり、囚われたものが何かの反発力で築き上げていったものであって、そういうモノにこそ強靭さと美しさがあると思うんですよ。僕自身も、若い頃から何か特別なものを持っていたわけじゃない。友だちがいっぱいいるとか、音楽の才能があるとか、絶対的な安定感の中で音楽を始めたわけじゃないんですね。逆にそういう人の方が多いと思うんですけど。何かにしがみつくように音楽を始めて、自分に自信がないからバンドをやってるとか、友だちがいないから楽器を買って音楽を始めた、寂しいから歌い始めたっていう人はとても多いわけです。まさにそこが歌舞音曲の本質だなと。だから我々のようなミュージシャンはやっぱり、あんまり大衆と乖離しちゃいけないし、「お上」や権力に近くなっちゃいけないんだと思うんです。

人のこと言えないけど、面白いものが書けなくなっちゃうでしょうし。マジメなモノばかりだと世の中は回らないしね。昔の江戸の浮世絵なんかでも、そこに富士山は見えても、江戸城は全然描かれていないとか、そういう作品の方が多いという。江戸時代の庶民たちも、なんだかんだ言いながらそこに自分の思想とかアイロニーとかを埋め込んで、そういうものが浮世絵になったり、歌の世界に化けたりして、それぞれの欲求不満の捌け口であったり楽しみを追求していたっていうのは面白いですよね。


――桑田さんは周りから見れば超大御所なんですけど、ライブでヅラを被ったり、「なんでこの人はこういうことをやっているんだろう(笑)」という特殊な演出をすることが多いと思うのですが、今のお話を聞いていると、大衆から乖離しないためにやっているようにも思えます。

桑田:ああいうのは終わった後にひとりになってすごく落ち込むんですよ……(笑)。


――そうなんですか(笑)。

桑田:あとで映像を編集しているときとかね。ライブ中はなんか変なアドレナリンが出るんでしょうね。「みんなでやっちゃえ!!」とか調子に乗って、つい悪ノリしてヅラかぶったりね。


サブスク時代の新たな可能性と、
予期せぬ反響から見出す音楽の醍醐味

――ご自分の立場との闘いでああいうパフォーマンスが出てくるのでしょうか。

桑田:アタシひとりで闘ってないっていうか。やっぱりこっちはバンドのメンバーやスタッフも含めてライブだって演ってるし、みんなで群れになって勝負してるから。「いいや、束でかかれば怖くはない、やっちゃおうか」っていうズルさはありますよね。でも民衆の心理って非常に厄介でね、「音楽的にもこれはウケるだろう」と思ってやるとウケないし、逆に「これがウケるの?」って驚かされる場合が多々ありますからね。我々の意図したところじゃない部分に引火することは、この仕事をしていて非常に多いですから。それは今でも絶えず気をつけている部分ですよね。それが一番の我々の悩みであり、それが生きがいなのかなという気がしています。


――予期しないことが起こるという意味では、サブスク時代になって、アニメ主題歌をきっかけに海外で反響を呼ぶアーティストが増えていますよね。もし桑田さんが想像してなかったとしても、今回の作品をきっかけに世界へ広がっていく可能性はありますよね。

桑田:日本の国際化は近年勢いを増して進んでると思うし、我々の時代とは違い若い人たちは、YouTubeやTikTokを見ながら世界中の文化や様相を意識しているでしょう。 グローバルな時代の中で、僕もアニメの主題歌をやらせてもらって、すごくありがたいなと思っているし、アニメやストリーミングから海外の人が何かしらリアクションしてくれたら、それはとても嬉しいことだし光栄ですよね。

後編に続く


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