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<インタビュー>桑田佳祐×『あかね噺』主題歌『人誑し / ひとたらし』──古希を迎えたパイオニアが語る、洋楽への憧れと”和洋折衷”の美学【MONTHLY FEATURE】(後編)

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Interview & Text:岡本 貴之


 前編のインタビューでは、『人誑し / ひとたらし』と『あかね噺』を通じて日本の“芸事論”を紐解いた。後編では、さらに桑田佳祐にしか語れない言葉が続く。

 昔のTV司会者のそろばんさばきは「ラップ以外の何物でもなかった」──そう笑いながら語る桑田の言葉に、「日本のポップスがどう生まれてきたか」という本質が凝縮されている。歌謡曲の時代に洋楽の響きを日本語へ持ち込み、J-POPの礎を築いたパイオニアが、古希(“NEW 70ʼ S”)を迎えた今だから話せる音楽観とは何か。リトル・フィート、レオン・ラッセル、ビートルズ周辺への偏愛から、サザンを支え続けた原 由子の存在、そして彼が50年近くステージに立ち続ける理由と”桑田佳祐”のこれからの音楽活動について語っていただいた。

最も日本人にとって魅力的な、
和洋折衷という名の「洋食文化」

――新曲のカップリング曲についても訊かせてください。「南谷ミュージック・シティー」 はどういう曲なのか、ご紹介いただけますか?

桑田佳祐:“南谷”というのは、南谷成功さんという舞台監督で、私と同い年でもう40数年仕事でお付き合いしてる人なんです。僕は割と、歌の中で身近な人の名前を出すのがすごく好きなんですよ。例えばサザンの曲で「メリージェーンと琢磨仁」とかね(※琢磨仁:KUWATA BANDのベーシスト)。「いとしのエリー」も、エリーはうちの実姉のえり子なのか、エリック・クラプトンなのか、それは曖昧なんですけど。あとは「吉田拓郎の唄」(『KAMAKURA』収録)とかね。僕はザ・ビートルズの影響がすごくあって、ビートルズの曲の中にボブ・ディランとか、エルヴィス・プレスリーの名前が出てくることに影響を受けていたんですよね。

それから身内の家族ね。〈Mother Mary comes to me〉(「Let It Be」の歌詞)はポール・マッカートニーのママのことだし、ジョン・レノンの「Mother」にしてもそうだけど、やっぱり一番題材にしやすいものって幼少期からの思いを含めた家族なんですよ。僕にとってもそうだし、かのジョンやポールにとってもそれが愛でありコンプレックスだったと思うんです。〈Mother Mary comes to me〉って「Let It Be」に出てきたときに、僕は聖母マリア様だと思ったんだけど、「いやそうじゃない。実はうちの母ちゃんなんだよね」っていうポールの話を最近聞いて。それに彼らは母親なんかと結構悲しい別れ方をしてるでしょ? ジョンはミミおばさん(育ての母)がいながらも、最愛の実母のために「Mother」を作ったり。一番身近な人のことを歌詞に認めるとすごく心に響くのは、やっぱり生々しいほどのリアルだからだとすごく思うんです。

ちょっと南谷さんから話が逸れたけど、僕が今思いを持って歌詞を書くなら、まず周りにいる人間のことだったら形にしやすいなっていうのもあったんですよ。あと、この“なんや”っていう語感が、字数的にも“in the”みたな響きを狙っていたんですね(笑)。最初に〈ミュージック・シティー〉という歌詞が仮歌の中で浮かんできたんですけど、〈イン・ザ・ミュージック・シティー〉なのか、〈ホワット・ア・ミュージックシティ〉なのか……あれこれ逡巡しつつ。でもこれじゃあつまんねえな、歌詞の世界が広がらないなって、そこで何度も悩むわけです。我々が憧れた洋楽のメロディに日本語を乗せなくちゃいけないという、いつもながらの「闘い」の中で、「あ、“なんや” だ!!」と。「これは南谷さんに捧げよう」と思って書いたのがそもそもの始まりです。


――それぐらいパッと浮かんでくるぐらいの関係であると。

桑田:そう、しかも身内ウケっていうのは大事で(笑)。やっぱり我々の一番の喜びっていうのは、もちろんマジョリティを相手にすることなんだけど、その中のどこかで身内ウケっていうか、身内をいじったりすることも、ひとつの喜びかなって思うんですよね。ステージに上がる人間だけで成り立っている仕事ではありませんからね。「南谷ミュージック・シティー」なんだと思います。



桑田佳祐 - “NEW 70'S ここからが始まりでしょ” [Teaser]

――この曲にしても、『あかね噺』の2曲にしても、歌っている内容とは別に、曲調やサウンドには、音楽を始めた頃の洋楽への憧れがきっとあるんだろうなと常々思います。古希を迎えて“NEW 70ʼ S”というコンセプトを打ち出しているというのも、そういった思いがあるのかなと思ったんですけど、いかがですか。

桑田:学生の頃に音楽をやろうかなと思っていたときに、英語を勉強して、ロスやニューヨークに住んで、みたいに妄想していたことがあったんです。結局そういうこともせずに、NEW 70ʼ Sを迎えたんですけど、どこかでやっぱり洋楽的なもの、海外に対する憧れはずっとあって。でも、ここまで日本のお客様に育ててもらったし、なんといってもそこが我々の一番大切な部分ですからね。一方で我々の世代の中には独特の“和洋折衷”という感覚があって。昔のテレビ番組で、トニー谷っていう司会者がいたんですよ。角の尖った眼鏡にチョビヒゲでそろばんを持ってチャチャチャチャって指ではじきながら、「あなたのお名前なんてえの?」「山田太郎と申します」って、今で言うところの『フリースタイルダンジョン』みたいなことを素人のゲスト相手にやるんですよ。あれはもはやラップ以外の何物でもなかった(笑)。リズム感は抜群だし、パーカッションとしてのそろばんの弾(はじ)き方もカッコ良くて、僕らも小学校のときにすごく夢中になったんですけど、それと今のラップがそんなに乖離してるとは思わないんですよ。

変な話、日本人の作るスパゲッティ・ナポリタンとか、ハンバーグとかオムライスとか、いわゆる「洋食文化」みたいなものが僕も含めた日本人は元来好きなわけですね。ホンモノのビートルズにはなれないし、本場のイタリアンは作れないんだけど、加工文化としての、お醤油をちょっと足したような、日本人好みのナポリタンが我々は大好物であり生きがいにしている。その一方で、自宅の近所にある和風出汁をとったラーメン屋には、最近外国人の方々が行列を作ったりしている。まるで江戸時代の浮世絵の価値をヨーロッパ人が見出したみたいにね。我々の音楽もそうなったらいいなって(笑)。もちろん、日本人向けに醤油を入れたり、カツオで出汁をとってるんだけど、思わぬところで外国の方が行列を作ってくれたらいいなとか思いますね。トニー谷とか、クレイジーキャッツにしても、我々が育った60年代にテレビで見たもの、あれは最も日本人にとって魅力的な、和洋折衷という名の「洋食文化」そのものだったと思います。


――そういう和洋折衷で桑田さんが作ってきた音楽から、洋楽アーティストの存在を知ったリスナーやミュージシャンも決して少なくないと思いますし、落語と同じように文化継承されているところはあると思います。例えばサザンの「いとしのフィート」(アルバム『熱い胸騒ぎ』に収録)でリトル・フィートを知った人も多いのではないでしょうか。ライブでもスライド・ギターでソロを弾いてるのはきっとローウェル・ジョージ(※リトル・フィートのボーカル兼ギタリスト)への憧れが今もあるんだろうなと想像できますし、直接的じゃないにしても桑田さんが表現してきた音楽から若い世代のアーティストたちに受け継がれてるものもあると思うんですよね。

桑田:それならいいんですけどね。あの当時、1974、75年ぐらいで学生の頃、僕は楽器がヘタだからフュージョンには行けないし、ホンモノのブラック・ミュージックにもそれほどのめり込めなくて。青学の学生たちの中でも、だいたいいくつかに分派していたんですけど、リトル・フィートって一部のマニア以外あんまりメジャーではなかったんですよ。だけど彼らはかなりファンキーで、ロックンロールも演るし、ディキシーランド・ジャズもあるし、それでいて演奏の仕方はちょっと変態チックだったんですよね(笑)。だからあんまり他の「流派」から舐められなかったっていうか、僕らにとっては旗頭としてはとっても良い素材だったし、ちょうどいいやと思ってリトル・フィートを追っかけていったんです。ただ、掘れば掘るほどあんなに凄腕の人たちはいないと後から打ちのめされましたけど。

まあ、アタシのスライド・ギターはいまだに真似してるだけなんです(笑)。まさかね、あのときの「いとしのフィート」をそう言っていただけるっていうもありがたいですよ。だからだいたい、そのときの都合によって好きになったり聴いたものを、無意識に寄せ集めて作っていったんじゃないかと思うんですよね。

例えばレオン・ラッセルだって、その当時周りには僕以外にそんなに好きな人はいなかったんだけど、ジョージ・ハリスンの「バングラデシュ・コンサート」に出ていたのを観て、すぐにあの泥臭い歌い方の虜になった。だいたいビートルズ周辺にあるものから好きになっていったから、ボブ・ディランだって、あのコンサートで初めて観て知ったようなものです。ザ・バンドにしても、エリック・クラプトンが良いって言うから聴いてみようとかね。だから自分の音楽は、だいたい何かと何かの「受け売り」や「折衷」で出来上がっているんですよね。


――なるほど。シングルCDの中には、カンロのCM曲が4曲入ってますが、それこそまさに桑田さんがそのときどきで聴いてきた音楽をエディットしてるというか。

桑田:そうですね、それがすごく面白いところではあると思います。


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桑田佳祐 – 人誑し / ひとたらし [Official Music Video]

若者が新陳代謝してくれた――
世代を超えてアンテナを張り続ける理由

――今年はポール・マッカートニーが新作を出したり、ローリング・ストーンズも7月にアルバム出したり、世界のレジェンド・ミュージシャンが意欲的に活動する中で、日本では桑田さんがTVアニメの主題歌を世に出すというのはすごく興味深く感じます。桑田さんのように半世紀近いキャリアを持ち、これだけ長い間第一線でバンドでもソロでも活動し続けている音楽人は世界的に見ても稀有な存在ではないでしょうか。

桑田:まあ本当にありがたいことです。長く続けるということをあまり意識せずにやってこれたっていうのが、一番幸せだったのかなって思いますね。

サザンオールスターズは原(由子)さんという人生のパートナーになった人もそこにいてくれて、何かあったときは彼女に聞いてみるとか、相談してみることができたんですね。それがやっぱりサザンがやりやすかった1つの要因でしょうね。何かある時に必ずクッションになって間に入ってくれる人がいろんな場面でいる。自分はメンバーやスタッフを信頼しておまかせしちゃうところがあるので。「わかんないのでおまかせします」っていうのが僕の座右の銘ですから(笑)。歴代のスタッフを含めて、原さんをはじめとする人たちが周りにいてくれたことがよかったのかなと思っています。


――一方で、桑田さんは新しい世代のミュージシャンのこと、今どういう音楽が世の中に伝わってるんだろうっていうことを、すごく気にしてらっしゃるように思えます。

桑田:詳しくはないですけど、周りにいるスタッフが若いので、この多様化する世の中で、今何がバズるのか、トレンドたり得るのかっていう情報がなんとなく聞き取れるというのがありますね。古株のマネージャーと一緒にずっと50年近くやってきていたら、もう少し事情は違ったんでしょうけど、そういう意味では新陳代謝を周りがしてくれてきたことが、一番大きかったですね。


――自分から湧き出るものだけじゃなく、周りから耳にする情報も刺激やモチベーションになっていますか。

桑田:そうですね。今若い人たちの間で何が起きているんだろうとか、正直自分じゃわからないことの方が多いですもんね。ただ、日本における世代の人口構成も、(逆ピラミッド形を手で描きながら)上には年寄りばっかりいるし、若くなるとどんどんパイが小さくなるでしょ。この世代構成の中で、中年世代以上に向けての発信の仕方や、若い人たちに売れてるものをどう捉えればいいのかっていうこともある。その辺りは周りのスタッフも常にアンテナを張っているところなんだろうなと思います。


“NEW 70ʼ S”の先にある未来へ――
桑田佳祐が届け続けるライブへの想い

――桑田さんは、自分の音楽を一生懸命作りながらツアーにもまた出ていくということですね。

桑田:本当にそういうことをマイペースでやらせてもらえるっていうのが一番ありがたいですよね。コンサートとかツアーって、お客さんが来てくれるからということも含めて、自らケツを叩いてそこに向かうという、音楽だけでなく自分の人生にはすごく重要なことで。ただ意外と思われるでしょうけど、僕はどちらかと言えばレコーディングの方が好きで、ライブを演ること自体あまり得意ではないんです。だから、そんな自分を掻き立てながらステージに立って、すべてが終わった後に、「よくやった!!」っていうのが一番のカタルシスなんでしょうね。創作の悦びとは違う、ある種ワーク(仕事)として、普段の自分より少し背伸びをするような特別な時間がライブだなと。何せ、相手が目の前にいるわけですから、ライブって、僕にとってはすごく未知の世界なんですよね。


――50年近くやってきて、いまだにですか?

桑田:いまだに、緊張します。ライブはやってみないとわからないし、常にプレッシャーは感じているんですけど、もしかしたらみなさんも、そういう僕自身の感情も受け取りながら、ステージを観てくれているのかもしれないですね。これからのライブは、ファンの皆さんはじめ、ここまで育ててもらった人たちに恩返しするためにやるつもりです。


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