Billboard JAPAN


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<わたしたちと音楽 vol.77>羊文学 そぎ落として見つけた等身大のカッコ良さ

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回は、Billboard JAPANとSpotifyが2026年6月9日に開催する一夜限りのスペシャルライブ【Women In Music – EQUAL STAGE】を記念し、出演アーティストの羊文学のインタビューをお届けする。2025年末に塩塚モエカと河西ゆりかの2人体制となったが、その歩みは止まらない。2025年には初の日本武道館2DAYSやヨーロッパ7都市ツアーを経て、2026年にはNetflixシリーズ『九条の大罪』主題歌「Dogs」を発表。「わたしたちと音楽」には2度目の登場となる今回、新曲に込めた本質、3年間で変わったマインド、そして6月9日への意気込みを聞いた。(Interview:Rio Hirai l Photo:Yukitaka Amemiya)

綺麗なだけじゃないのも
荒々しさも、自分たちの姿の1つ

――2026年ももう上半期が終わろうとしていますが、振り返っていかがですか。

河西:「Dogs」を出して、SPRING TOURを回って。あとはリーガルリリーやTempalay、D.A.N.とツーマンイベントをやらせていただいたりもしました。


塩塚:カッコ良いバンドとのツーマンに呼んでもらうことが多かったですね。リーガルリリーはこれまでにも何度か呼んでくれてすごく嬉しかった。


――まさにNetflixシリーズ『九条の大罪』の主題歌「Dogs」が話題ですが、これまでとは異なる荒々しいロックナンバーでした。どのようにして生まれたのですか?

塩塚:『九条の大罪』による影響が大きいかもしれません。「Dogs」で表現した荒々しさは、私たちがもともと持っている性質ではあるけど、最近は表現する機会がなかった曲調だったので。


――実際にやってみていかがでしたか。

塩塚:すごくよかったです。これまでライブやテレビで何度も演奏させていただいているんですけど、すごく今の自分たちにフィットしている感じがあって、嘘がない。綺麗なものをやっているときに嘘をついているとは思ってなかったけど、綺麗なだけじゃない、暮らしや自分の考えなど、そういう部分にちょっと違和感みたいな気持ちもあったりしたんです。悪いところも含めて出せるからこそ、いいところとセットで生きてくるというか。


河西:やっぱりこういう曲をやっているときが、自分たちがありのままで演奏できるというのは、ずっと感じていました。


――Netflixシリーズの主題歌ということで、海外からの反応も楽しみですね。MVでは石井岳龍監督と初タッグを組みました。

塩塚:最初はMVも、もっと荒々しいものを想像していたんですけど、石井監督は私たちを”別の宇宙の魔術師”みたいな存在として話を組み立ててくださいました。「この曲には祈りがあるよね」とも言ってくれて、自分ではそう意識して書いたわけじゃないけど、確かにそうだなと。監督も現場をすごく楽しんでいらっしゃる様子で、スタッフさんとの信頼関係もある素敵なチームでした。


河西:想像の斜め上より、もっとさらに上を行っちゃうぐらいの発想の柔軟さがあって。巨匠なのに、クリエイティブを始めたての頃の心を持っている方がいるんだなと思いました。すごく勉強になりましたし、ああやってずっと長く続けていける方の姿を見せてもらった気がします。


デニムを履いて深呼吸
今は力を抜いて、楽しめている

――前回のインタビューで衣装をパンツスタイルに変えたことで「バンドの表現としてしっくりきた」とおっしゃっていましたが、あれから3年経って変わったことはありますか。

塩塚:ライブのテーマはいつも“等身大でいること”や“深呼吸”なんです。リラックスしたいなという気持ちはずっとあって。今年からはデニムを衣装にしているんですけど、それによってもすごく吹っ切れたというか、あまり飾りすぎなくてもいいかなと、より思えるようになりました。SPRING TOURのクリエイティブを一緒に作ったHUGというチームからの提案もあって、ずっと挑戦したかったけど想像がつかなかったデニムスタイルを、彼女たちの力も借りて見つけました。


河西:楽だよね。衣装に強いメッセージ性を頼らないというか、自分たちのそのままを衣装に乗せる。衣装でメッセージを出すんじゃなくて、一番シンプルで、一番自分たちを見せられる衣装になったと思います


――シンプルなスタイルに回帰したのは、心境の変化もあるのでしょうか。

塩塚:やってきたことが積み重なってきたし、年齢も重ねて、昔よりどっしりできるようになりました。いい意味で必死さがなくなって、瞬間瞬間を楽しむ向き合い方が少しずつできるようになってきたのかな。ピラティスの先生に「力が入っていてもいいことないよ」って言われたんですよ。肩にすごく力が入ってるから抜いてやってみなって。それはピラティスについてだったんですけど、いろんなことに当てはまるなって気づきました。


――日々の体のケアが心にも効いているんですね。河西さんはこの3年間で何か変化はありましたか?

河西:初めての経験をしたときに、発見のほうに注目するようになりました。緊張するんじゃなくて、こういうステージはこうできてるんだなって俯瞰で見られるようになった。3年前はそういうことを考えてもいなかったかもしれないですね。あと最近早起きしてるんですけど、一日の始まりが安定すると、その後はリラックスしてすべてのことに向き合える。リズムが大事だなって思います。


塩塚:以前は初めてのチャンスで「絶対成功させなきゃ」と体がこわばっていたけど、今は「これがダメでも死ぬわけじゃないし」くらいのスタンスでいくと、力が抜けてもっといいものができる。ケアの方法はあまり変わらないけど、そもそも消耗しない生き方ができるようになってきたかな。自分の時間はすごく大事。体づくりも大事だなって思っています。


性別を超えて、カッコ良いと
思ってもらえる存在に

――前回のインタビューでは、音楽業界で女性として活動する中での率直な思いを語ってくださいました。3年経って、ジェンダーギャップに対する意識に変化はありますか?

塩塚:昔はいろいろ考えていたんですけど、もう性別を超えてカッコ良いと思ってもらえる存在として、日々音楽やライブをしていくしかないかなと。それを見て「私もやりたい」っていう人がいてくれたら、一番ハッピーだなって思います。自分たちがイメージしてたミュージシャン像に、自分たちが追いついてきたというのもあるのかもしれません。年齢を重ねて、海外ツアーにも行って、堂々とできるようになった。重ねてきたものだと思います。


――海外での活動も増える中で、何か発見はありましたか?

塩塚:衣装を考えるときに、日本では「ここ、こう見えるかな」とかいろいろ考えなきゃいけないことがあるんですけど、海外の衣装を考えるときは、表現の幅がすごく広いなと。1人の人として受け入れられている感覚がありました。海外はまっさらな場所だから、新しい自分たちを描く時にそうしたいなって。それで服だけじゃなく、こびを売ったり可愛らしさを無理に出す必要もなくなって。海外でそぎ落とすことをやっていたら、それが自然と日本でもできるようになって、バンドにとってすごくいい影響でした。


河西:海外は全部がチャレンジみたいな感覚。まず自分たちのやりたいことを全部出していける。それでどっしり構える体制もついたかもしれないですね。


塩塚:それを受け入れてくれる場所の雰囲気も感じたなって思います。


――前回のインタビューで「ミュージシャンである前に一人の人間」とおっしゃっていましたが、今の向き合い方は?

塩塚:ミュージシャンである自分と個人としての自分が、100%一緒じゃなくてもいいのかなと思うようになりました。演技をしてるとか嘘をついてるわけじゃないんですけど、みなさんがそれぞれ理想や期待を重ねてくださる中で、それに全部応えた完璧な自分じゃなきゃって思っていた時もある。でも、自分の時間にちゃんと境界線を引けるようになったから、自由になりつつある気がします。


河西:理想の自分は自分が作って、それが一番いいと思ってるっていう感じですかね。


――長く活動を続けるために、今大切にしていることはありますか?

塩塚:ライフステージの変化については、よりリアルに考えるようになりました。まだやりたいことも残っているし、良い年の重ね方をしたい。若さや勢いだけじゃない、もっと深みのある表現ができるようになりたい。それは女性だからというわけじゃなく、ミュージシャンとして、アーティストとしての成長を考えている感じがします。最近、2人でもよく話すんですよ。音楽でもっと何ができるのかなって。


河西:やっぱり生活とのバランスが一番大事。バランスが崩れると一気に何が何だかわからなくなっちゃうので。経験や年齢を重ねて、うまく自分でコントロールできるようになってきたかもしれないですね。


バンドをやっていて良かった
女性たちにも挑戦してほしい

――6月9日の【Women In Music – EQUAL STAGE】では、新しい学校のリーダーズさん、Awichさん、LANAさんと共演されます。楽しみにしていることを教えてください。

塩塚:まずは、他の3組のステージを見られるのが楽しみです。どの方の音楽も聴いていて、本当に力強くてカッコ良い。さっきもお話ししたことと重なるんですけど、性別に括られないカッコ良さがあるので。ロックフェスに出ても男性ミュージシャンのほうが多かったりして、カッコ良い女性がたくさん集まるイベントはなかなかないし、しかも、ちゃんとカッコ良いイベントというか、健やかなイベントで、すごくいいですよね。


河西:いろんなジャンルの方と共演できるのも楽しみですし、皆さんには人間力というか、大きい存在であるべくしてなった生命力みたいなものを感じる方ばかりなので、すごく楽しみです。


塩塚: Awichさんはお子さんを育てながら音楽をされていたりするし、そういうお話も聞いてみたいですね。


――これから表現を始めたいと思っている人に、何かアドバイスをいただけますか。

塩塚:バンドをやってほしいです。フェスを見ていてもカッコ良い方が増えてきてるんですけど、女性メンバーで構成されるバンドはまだまだ少ないなと。大変な面もあるけど、楽しいことがいっぱいあるので、ぜひ一緒にロックフェスに出たいです。


河西:バンドは生音だから、メンバーと合わせた時に化学反応というか、知らなかった音を受け取れることがやっぱり一番楽しいですよね。


――音楽からエンパワーメントされることはありますか。

塩塚:歩きながら音楽を聴いていて、景色とぴったり合ったらすごく綺麗だなって思う瞬間があったりして。そういう体験が癒やしになっていますね。あとはライブを観に行って面白いことをやっている人がいると、ステージにはまだこんな可能性があるんだって思わせてもらえる。気持ち良さそうに歌っている人を見ると、それだけでパワーが湧いてくる感じがします。


河西:ライブ会場の雰囲気と自分の状態が全部マッチしたときに、本当にエネルギーをもらう感覚があります。解放される感じというか。


――最後に、6月9日に向けて、意気込みを聞かせてください。

塩塚:最近の羊文学は飾らないライブができるようになってきて、どんどん洗練されてきている気がします。今のその良い状態を楽しんでもらいたい。新曲の「Dogs」は絶対演奏したいし、今の私たちの気分をすごく反映している曲でもあるので、1曲聴いてきてくれるなら、それを聴いてきてほしいです。


河西:羊文学はフィジカルに生の音を鳴らすので、そこから出るパワーを感じてほしい。このイベントに向けてセットリストも考えて、特別なものにできたらなと思っています。


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