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<わたしたちと音楽 vol.76>よしながふみ 「面白い漫画を描きたい」と思い30年、長く途切れさせずに続けること

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 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回のゲストは漫画家、よしながふみ。『愛すべき娘たち』『大奥』『きのう何食べた?』など、時代を超えて読み継がれる作品を生み出してきた。「面白い漫画を描きたい、ただそれだけ」と語りながらも、その一作一作にはジェンダーや対等性をめぐる深い問いが宿る。 30年以上にわたって第一線に立ち続け、芸能界を舞台にした新連載『Talent―タレント― 』も好評の彼女に、創作における覚悟と社会の変化について聞いた。(Interview:Rio Hirai)

瞳孔が開いた状態で、
「私、漫画家になったから」

――最新作『Talent―タレント―』は2000年の芸能界を舞台に、4人の新人俳優の出会いと交差を描く群像劇ですね。芸能界をテーマに選ばれたのはどうしてですか。

よしながふみ:私、2時間サスペンスのドラマが好きだったんです。何でこんなに好きなのかなって自分で分析してみたら、中年のおじさんとおばさんがいっぱい出てくるからだと思うんです。女子の方が偉い、男子が補助っていう関係も多くて、たぶんそれを見られるのが2時間サスペンスだけだったんです。


――最近では2時間サスペンスがなくなって、女優さんたちの活躍の場も変わりましたよね。

よしなが:そこで主演を張っていた中年の女優さんの活躍の場が一気になくなっちゃったんですよね。女性の俳優さんは基本的に40歳くらいになるとぱっと主演の話はなくなって、そこからお母さんの役にシフトしていくんですけど、お母さんの役をやる俳優さんっていつも同じ人なんですよ。本当に狭き門なんです。そういう意味でも、2時間サスペンスってすごく時代を先取りしていたジャンルだったと思っています。その裏側を見てみたいという気持ちが、『Talent―タレント―』の出発点にあります。芸能界って才能の行方がとても曖昧な場所じゃないですか。個人の力だけじゃなくて、事務所の力やタイミング、周囲の事情も複雑に絡み合う。その不確かさが極端な形で現れる場所だからこそ、“才能とは何か”を描くのに一番面白い舞台だと思ったんですね。


――よしながさんは、BLというジャンルからキャリアをスタートされました。女性であることは創作にどう影響しましたか。

よしなが:最初に参入したBLというフィールドって、描く人も編集者も女性で、読者も女性なんですよ。女性としての自分が描くものがお客さんの女性たちに届くわけなので、何の制約もない。男性の価値観に合わせなきゃいけないみたいなことも何にもない世界でやってきたので、“女性であること”はもちろん影響しているけれど、制約はないっていう感じですかね。そういう状態で、30歳ぐらいまで仕事をしてきました。


――プロの漫画家になるまでの経緯を教えてください。

よしなが:私が漫画を描き始めた当時はそもそも“BL”って言葉もなくて、最初に描いていたものは“耽美系”と呼ばれていました。そのジャンルはどうも売れそうなのに描き手も編集者も足りないといった状態で、印刷所で働いていたお友達が「描いてみない?」と、とてもカジュアルに誘ってきたんです。同じ時期に、たまたまコミケに来ていた出版社の方にも声をかけていただいて。すぐに「プロになれるかも」と思って、いい気になってしまいました(笑)。

 その道に進むときの心境ってちょっと変で、頭がおかしくなっていたような状態です。漫画家になった人に聞くと、みんな「いや、頭おかしくなってたよね」って言うんですよ。先の見えない仕事で「いけるかもしれない」と思っているときって、瞳孔が開いてるみたいな感じ。もともと絶対なれないと思っていた漫画家に「もしかして私なれるの?」って浮かれて、他の事は全部放り出して漫画家になることに決めました。

 親にも事後報告です。「目指す」じゃなくて「私、漫画家になったから」って。「月1で締め切りが来ると年に2回単行本が出て、印税がこれぐらいもらえるはずだから絶対やっていける」って、自分で計画まで立てて。全く実現してないのに(笑)。それから10年くらいで、“BL”という呼称があっという間に定着していきました。


創作とは、誰かを傷つける覚悟を背負うこと

――よしながさんの過去の作品を読むと、昔から多様性やジェンダーに関する価値観の部分で今の時代の読者の心に響くものがたくさんあると感じるのですが、当時からそういう視点をお持ちだったんですか。

よしなが:いや、そんなことはないですよ。今見ると、良くないものもたくさんあります。漫画はそういう意味でも世につれ、その時代ごとで消費されていくもの。だから、しょうがないことかなと思います。“BLというジャンルがマイノリティの物語を消費してないか?”という問題についても、答えが出ることはありません。逆に言うと、全てを消費してエンタメは成り立っている。マイノリティの方たちに限ったことではなく、自分が見聞きした素敵なことも、悲しいことも、私たちは全部取り入れて作品にして出していくので。もしかしたら身近にいる人が「これ、私のことでは?」と傷ついているかもしれないっていう、恐ろしい作業なんです 。創作って。

 だからこそ考えていかなきゃいけないし、傷つく人が少なくなるように描かなきゃいけないけど、必ず誰かを傷つけているし、けれどもだからと言ってやめることもできない。誰も傷つけたくないならやらなきゃいいのかもしれませんが、“それでも私たちは表現していきたい”という、ある種の業(ごう) を背負っていかなきゃいけないということですかね。


――キャラクターを生み出す際に大切にされていることはありますか?

よしなが:共感できない人間も、“宇宙人”みたいに描かないことですかね。共感はできなくていいんです。最初から最後までできなくても。『大奥』で言ったら徳川治済(はるさだ) みたいな……帯には“怪物”って書きましたけど……でも必ず私たちと同じ人間だと思うようにはしています。犯罪を犯すような人間でも、私たちと全く同じ人間なんだって思って描いています。


働き続けることは、
自然なことだと思っていた

――以前ほかのインタビューで、よしながさん自身がずっと働き続けることを当たり前と思っていた背景にはお母様の影響があるとおっしゃっていましたね。

よしなが:私の親は完全にフルタイムの共働きで、当時はそれがすごく珍しかったんですよ。でも子供心に良い感じに見えて、「絶対に自分も一生働くぞ」って思っていました。その頃は小学校の「将来の夢」で、けっこう多くの女子が、お嫁さんとかお母さんって書いてた時代なので、女の子でそういう子は少なかったと思います。大好きなお友達と揉めたくないからわざわざ人には言わないし、でも、嘘をつくわけにもいかない。どうやって相手を傷つけずに自分のやりたいことを言ったらいいかなということは、小中高とずっと考えていました。


――お母様のどんな姿を見て“良い感じ”と思ったのでしょう。

よしなが:両親は、よく喧嘩していましたね(笑)。物が飛ぶような激しい喧嘩で、原因は父が洗濯物をたたまないとかそういうこと。母は、「揉めるのが面倒くさいから自分でやっちゃおう」とは絶対ならなくて、譲らなかった。でも父と私の前で「お父さんのことを愛しているから、喧嘩をするんだよ」とはっきりと言っていました。日本人らしからぬ言葉にびっくりしましたけど、なるほど筋が通っているなと思いました。父は、家事は全然できない人でしたけど、最終的にちゃんと半分やるようになったので、母は間違ってなかった。母は裏表のない人だったんですよね。だから喧嘩していたけど、2人ともすごく幸せそうでした。


――お母様のそういった考え方は、どこから来たんでしょう。

よしなが:学生時代は学生運動で。ウーマンリブの時代でもあって、中学生くらいになると同じような考えの人が1、2人見つかるような状況だったみたいです。母は中学生くらいからそういう話ができるお友達がいたから、ずっとそういう考え方で生きてきたのだと思います。

 母は新入社員のときに、職場で上司に「お茶入れて」と言われて「嫌です」って言ったような人。最終的に上司がちゃんとお茶を入れるようになったそうです(笑)。そんな姿を見ていて、「これは誰でもできることではないな」と思っていました。私は、自分のためとなると母のようには頑張れないけれど、人のためにはできるかもしれないなと考えて、漫画家になる前は弁護士を志したこともありました。そんな家庭で育っているから、女性が長く働き続けることも別に自然というか、そういうものだと思っていて。むしろ世の中がそうじゃないということに途中で気が付きましたね。


バックラッシュも、BLも
幸せになりたい思いが発露している

――「女性差別がなくならない限り、BLはなくならない」とおっしゃってるのを拝見しました。どういう意味なのでしょう。

よしなが:現実と地続きの男女の恋愛では全くときめかないという異性愛者の人たちは、今の男女の関係が自分にとって快感をもたらすものじゃないということですよね。男女のラブストーリーを想像してもときめかないという人が、BLだとバーってドーパミンが出るのは、やっぱりBLにおける関係の対等性と無縁だからじゃないかと思うんですよね。

 もちろん、BLって受けと攻めがはっきり決まっていて「差別的じゃないのか」という声もあるんですけど、でも、自分が受けになるか攻めになるかは選ぶ事ができるので。どっちでもいけるけど、選択している。女性はもう選択することもできないじゃないかっていう。でももっと男女でも対等で素敵な関係が築けるということがイメージしやすい世の中が来れば、BLの価値は薄くなるかなって思ったりもします。私、『逃げるは恥だが役に立つ』を観たときに、こんなにきちんと論理的に話し合う男女の関係にもちゃんとキュンはあるんだな、世の中ってこうして進んでいくんだなって思いました。


――そういった価値観が浸透する一方で、世界的にバックラッシュが起きている現状もあります。それについてはどう見ていますか。

よしなが:皆さん幸せになりたいだけだと思うんです。バックラッシュというのも、「女性もフルタイムで働いてみたけど、それでは幸せになれないじゃん」って感じた人たちがやっていることなんじゃないのかなって。専業主婦と外で働く夫という形が親世代で、それで仲良しで幸せな家庭もきっとあった。その頃は賃金も高かったですし。それで育ってきた方が、「こんなガムシャラに共働きしているのに、お金もなくって……昔のほうが良かった」と思っても、不思議ではないかなって思います。国なりどこかが幸せなモデルを提供できていないんじゃないですかね。でももう昔には絶対に戻れないとは思うので、新しい形で新しい素敵な人生を考えていくしかないとは思いますけど。


――よしながさん自身が、長く仕事を続けるために大切にされていることを教えてください。

よしなが:健康です。だから仕事は特にやりすぎないこと。フリーランスなので仕事が来ると嬉しくなって、全部やりたくなっちゃうんですけど、勇気を持って断ることですね。引き受けすぎると結局クオリティが下がるので。自分の名前でやる仕事の結果は自分に跳ね返ってくるので、キャパシティを超えずに質の高い仕事すれば必ず次につながる。断った相手ももう1回、またちゃんと来てくださると思うので、それを信じて。


――エンタメ業界を目指す若い女性たちに伝えたいことはありますか?

よしなが:とにかく辞めない方が良いと思います。途中で仕事を少し減らす時期があったとしても、途切れさせないで。お子さんが小さいときとかも、全部の稼ぎをお子さんの保育のために費やしたとしても、キャリアを中断させないほうが絶対にいいと思います。生涯賃金の面でもそうだし、エンタメの方だとしたら、その方にしかできないことがあるはずです。細くてもいいから繋いでやっていれば、どこかで花開く機会が来ると思います。


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