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<インタビュー>今井美樹が時代も変化もすべて受け入れて再びステージに 笑顔を取り戻せた理由は

インタビューバナー

Text & Interview: 服部のり子

 今井美樹の8年ぶりの新作アルバム『smile』。この間にコロナ禍に代表されるように価値観が変わるような出来事が世界を襲った。ロンドンに住む彼女は、世界情勢を身近なこととして受け止める一方で、80年代、90年代の音楽界を支えた人たちの急死にショックを受けるなか、閉塞感に陥っていったという。何を歌ったらいいのか、そう苦悶した。そんな時期を経ての『smile』とタイトルされた新作。ここにどんな想いが込められているのか、お話をうかがった。

──事前にオフィシャル・インタビューを読むなかで、印象的だったのが「アルバムを制作する意味ははっきりしている」という言葉でした。この“意味”から聞かせていただけますか?

今井美樹:アルバムとしては8年ぶり。「そんなに経っているの?」という感じでした。アルバム制作の時期はスタッフ間ではイメージがあったんですが、内容に関して、私はまだ見えない状態。それが具体的になったのは、23年と24年に行った全国ツアーを終えてから。2023年、5年ぶりに全国をまわるホールツアーを行ったんです。【Our Songs!!】というタイトルで。どうしてもツアーがやりたかったんです。私がみんなのところに行って、ありがとう!を言いたい!どういうカタチでもいいから、「私が全国のみんなのところに行くライブをやりたい!」という思いから【Our Songs!!】が始まったんですね。

そんな思いの背景には、コロナ禍はもちろん大きく影響がありましたけれど、ロンドンにいるとウクライナ戦争もテロもいろんなことが身近に感じられるし、私も私で、55歳頃からちょっとずつ体の変化を実感するようになって。ケガとか、もともと持っていた体のトラブルが大きくなったり。さらに娘が大学を目指す年齢になって家族の形態も変わったり。コロナ禍についてもっと言えば、夫は細心の注意を払いながら日本でライブを行っていたんですけれども、そうすると、ロンドンには帰って来られなくなるんですよね。

──そうでしたよね。当時は渡航に関して、さまざまな規制がありましたから。

今井美樹:いろんなことがどんどん変化している最中に、なんか泥沼に入っちゃったみたいに、閉塞感に縛られていってしまったんですね。そういう状況のなかで、私は今、何を歌ったらいいのか、全然わからなくなってしまって。歌を歌う自分を全くイメージできなくなってしまいました。このまま歌わなくなってしまうのかも、きっとこのままフェードアウトするだろうな、とまで思ってしまい、ステージに立つことすらイメージできなくなっていたんです。

──そこからどうやってモチベーションを持ち直していったんでしょうか?

今井美樹:どんな距離感になっても今もずっと待っていてくれる人達に、ちゃんと、「ありがとう!」を言ってからじゃないと終われないと思いました。私がみんなのところに感謝を伝えに行く。だからどうしてもライブをやりたいと思ったんです。待ってくれている人たちのところに行って、ありがとうと言って、音楽でお返しができたら、それで終わってもいいと。ピリオドを打つために、どうしてもやりたいと思っていました。

──それが2023年に全国12会場で行われた5年ぶりのツアーだったんですね。でも、そのツアーに【Our Songs!!】というタイトルを付けたのはどういう理由からですか?

今井美樹:私たちが若かった頃の80年代、90年代は、すっごくいい音楽を浴びて、みんな一生懸命にその先を目指し歩いていたと思うんですね。私にとってあの頃は青春だったし、ファンの人たちもそうだったと思います。そのファンの人たちから、あの頃の今井美樹の音楽が自分の支えになっているという声をたくさん聞くんですね。「私の」でもなく「みなさんの」でもない、きっと「私たちの」大切な曲たち、それぞれの日々を一生懸命生きている「私たち」のためにそれをみんなで楽しみたい!と思い、【Our Songs!!】と名付けました。そして、ツアーをやったことでみんながすごくハッピーになれて、私は開き直ったんです。

──開き直ったとは、どういうことですか?

今井美樹:この10年くらい、昔の曲をやる時は、サウンドを変えてみたり、アレンジを変えてみたり、いろいろ試したけれど、オリジナルだけが持つ光があるんですよね。そう思っても、80年代、90年代のあの頃のようにはもう歌えない。それが私を苦しめていたことのひとつでもありました。過去の自分と比べてしまう。でも、あの頃と同じことはできない。であれば、とにかく楽しかったあの頃の気持ちを歌おう! それはきっとお客さんにも、あの頃のように、きっと自分自身を楽しんでもらえると、どこか確信的に思いました。蓋を開けたら、本当にあっという間に、皆さんそれぞれの思い出に旅しているような感じでした。コンサートは何十年ぶりの同窓会のようで温かくて芯があってすごく楽しくて。ピリオドにしてもいいと思っていたのに、逆にそこからものすごく力をもらったんですね。あぁ、こんなに素敵な場所を離れられない……と。翌年もまた【Our Songs!!ツアー】を敢行。その時に私たちのこれからの“Our Songs” を作りたい、と思ったんです。それが新しいアルバムに繋がりました。

──具体的にアルバム制作は、どのように進んでいったのでしょうか?

今井美樹:いろいろな事情やタイミングもあって、あらかじめ10曲前後を用意して、「さぁ、アルバムを作りましょう」というやり方が今回はできなかったんですね。最初手元にあったのは川江美奈子ちゃんの「ワンスマイル」と「Life is a journey」の2曲。その後、ディレクターと膨大な曲を聴くなかで、諸見里修さんの「私のアリア」と、カワノミチオさんの「VOICE」の2曲と出会い、新しい作家とも出会えていくわけです。

たとえるなら、お弁当作りでこの隙間のどんなおかずを詰めようかと、冷蔵庫から食材を取り出して、ということを続けていたら、色とりどりの美味しそうなお弁当になりましたという感じ(笑)。わかりにくいか(笑)。だから、完成まで時間がかかったんです。そのなかで布袋さんもフレキシブルに、「こういうタイプの曲が足りなさそうだから、ちょっと僕が書いてみるね」と言ってくれたりして。

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──収録曲の歌詞で、とても印象的なのがカワノミチオさんのメロディーに岩里祐穂さんが歌詞を書いた「VOICE」です。〈自分を許そうと思った〉という一行が心に刺さります。

今井美樹:なんかメモっていたんですよね、私。普段日記は書かないんだけれど、ある時期、いろいろメモしたものが見つかって、そこに「私を助けてくれなかったのは自分だ」って書いてあって。なんかいろんな言葉が書き連ねてあるんだけど、良くも悪くも力があるんですよ。だから、そんな思いをちゃんと残したいと思って、岩里祐穂さんに長々と聞いてもらったんです。そんな会話の中の温度と、カワノさんの曲を聴いた時のイメージ、深い森のなか、暗がりで靄もかかっていて、光が見えなくて、出口を求めて彷徨っている感じなんだけれど、途中でパーッと視野が広がって、希望というか、遠くに差す光が見える感じがするって話したんですね。その体温をそのまま歌ってもらいたいという責務のような想いを持って、祐穂さんは、あの歌詞を書いてくれたんだと思います。

──NHKの『みんなのうた』に書き下ろした新曲「青空とオスカー・ピーターソン」も意表を突くタイトルですが、この歌詞も岩里さんが書かれていますよね。

今井美樹:祐穂さんが今回このアルバムに与えた影響は大きいですね。彼女とはずっと作詞家とシンガーという間柄で、個人的には会ったことはなかったんですが、長きにわたって私を見つめてくれながら、その都度一緒に何かを超えてきた間柄。「60歳の今ようやく深い霧が晴れた気がする、祐穂さんにいろいろ話を聞いてほしいんです。ご飯食べに行きましょう!」と連絡して、3回ほど会っているんですね。その時の会話のなかで、たまたま我が家の話が出て。初めての水上スキーで父にしごかれたとか、キャンピングカーで各地をまわったとか。その話を彼女が喜んでくれたというか、今井美樹がなんで今井美樹なのか、やっと腑に落ちたって言ってくれて。

 

『みんなのうた』をお願いすることにしたら、彼女はすぐに、「私の子供時代の家族のストーリーをベースに書きたい!」と言い、私は、あまりに個人的すぎるストーリーじゃないかと躊躇したのですが、そのストーリーの奥に今の時代に大切なことが詰まってるから、どうしてもそれを書きたいと、珍しく譲らなかったんです。だからあの曲は、彼女がこだわってくれたことで生まれた曲です。


 

──タイトルのジャズピアニスト、オスカー・ピーターソンと今井さんの関係は?

今井美樹:我が家ではいつもオスカー・ピーターソンの曲が流れていたんです。父が私に聴かせるように車の中ではいつも彼の音楽がかかっていました。歌詞とタイトルにこの固有名詞を使うなんて、本当に祐穂さんの強いこだわりでした。あんな彼女のゴリ押しは初めてです(笑)。祐穂さんは、人生の先輩であり、私にとって力強い相棒でいてくれたような気がします。

──布袋さんが作詞・作曲された「あの頃の自分」の最後の〈Lu lu lu~♪〉にはどんな想いを込めて歌っていますか? 楽しそうで、歌詞だけでは伝えきれない感情が凝縮されているように思います。

今井美樹:ただのLu lu luですよ(笑)。でも、言葉がないところで楽しそうと感じてもらえたのは、声がちゃんと思いを拾って、その温度になってくれた意味だから、一番うれしいことかもしれない。よかったです。

──声のその温度とは?

今井美樹:私は、とにかく音楽ファンです。歌も声という楽器のように思っています。だから歌のうまさというより、声の個性というか声という楽器が持つ音頭や色合いに影響を受けています。自分ももし歌を歌うとしたら、歌詞を届けるにはこんな感じの声が好きとか無意識のうちに持っていたんだと思います。自分にはない、クールでパキッとした硬質な声が羨ましかったこともあった。でも自分の声という楽器も年齢とともにカタチも音色も変わって、“あの頃の音色”を求めて苦しんだ時もありました。だから、今、楽しいと感じてもらえる温度感になっていたのならば、よかったです。

──さだまさしさんが初めて提供した「美しい場所~Final Destination~」という曲もありますが……。

今井美樹:何が起きるかわからない時代に、何を歌いたいのかと思った時にさだまさしさんに曲を書いてもらいたいと思ったんです。2024年12月にさださんのツアー最終日の東京公演を観たのですが、圧倒的に歌が素晴らしかった。軽やかで爽やかな声なのに、歌はとっても骨太で。軽やかにみせて、言いたいことをしっかり歌に込めて伝えるそのパフォーマンスに心が揺さぶられました。それで曲を書いていただきたいとお願いしました。その後、さださんの長崎公演にゲスト出演させてもらったり、さらにお会いする機会もあって、会話が弾んだ楽しい時間も持ちました。それで、リクエストはせず、さださんから出てくるものを待ちたいと思いました。そして出てきたのが「美しい場所~Final Destination~」です。


──レコーディングには、さださんもヴァイオリンとコーラスで参加されていますよね。

今井美樹:先行してストリングスとピアノを録っていて、そこにさださんにヴァイオリンで入っていただきました。おそらくさださんがイメージしたサウンドは、それだったのかもしれませんが、私は美しい世界観だけでなく、ユニセックスで凛とした佇まいのイメージで書きたくて、布袋さんと相談してバンドサウンドで土台を作ってもらいました。ドラムの吉田たかしさんとベースの根岸孝旨さんの演奏が入ったことで、より体温を感じるような世界に仕上がったと思います。そこに歌うことで、今井美樹の歌になったんじゃないかと思っています。

──いろいろお話をありがとうございました。5月からの【今井美樹 40th Anniversary “Our Songs!!” TOUR 2026 〜smile〜】も楽しみにしています!

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