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<コラム>SPYAIR アルバム『RE-BIRTH』が示す“再誕”の証明――激動の3年を越え、新体制で刻んだバンドの現在地

Text:蜂須賀ちなみ
SPYAIRが3月18日にリリースした、ボーカルYOSUKE加入後初のアルバム『RE-BIRTH』。4人が今作に至るまでには、まさに「RE-BIRTH」――“再誕”という名がつくにふさわしいストーリーがあった。
2022年3月、SPYAIRに試練が訪れた。バンドの顔ともいえるボーカリストの脱退。「サムライハート (Some Like It Hot!!)」「イマジネーション」などのヒット曲を世に送り出し、ライブでは最大1万5,000人を動員するまでに成長していたバンドが、重要なピースを失った瞬間だった。解散か、それとも存続か。問われたのは、SPYAIRというバンドそのものの意志だった。
UZ(Gt. / Programming)、MOMIKEN(Ba.)、KENTA(Dr.)が選んだのは、SPYAIRを続ける道だった。「まだロックバンドをやっていたい」というシンプルな気持ちと、これまでに生み出してきた数々の楽曲を自分たちの手で未来に繋げたいという想いが、「形を変えながらもバンドを続けていこう」という決断に繋がった。新たなボーカリストを探し始めた3人は、2022年8月にYouTubeチャンネル『スパイエアー、ボーカル探してます。』を開設。一見ストレートすぎるそのタイトルには、奇をてらわず、まっすぐ前を向こうとする3人の覚悟が滲んでいた。
その頃、音楽の道を諦めかけていた青年がいた。学生時代に組んだバンドが解散し、ソロ活動を始めるもうまくいかない。音楽をやめて別の道に進むことを考えていた当時24歳の彼こそ、のちにSPYAIRのボーカリストとなるYOSUKEである。ある日、YouTubeで昔聴いていた音楽を聴き返しているうちに、SPYAIRの楽曲「0 GAME」に辿り着いた。そのおすすめ欄に『スパイエアー、ボーカル探してます。』が現れたのだ。「ダメ元でチャレンジしてみよう。これでダメだったらそれまでだ」。そう思って応募したオーディションで、1,000人におよぶ応募者の中から彼が選ばれた。
2023年4月、YOSUKEが正式にSPYAIRの新ボーカルに就任。そして同年7月、新体制として初の楽曲「RE-BIRTH」がリリースされた。YOSUKEが作詞と作曲にも参加したこの曲は、まさに新たな門出を告げる一曲だ。楽曲全体を貫くギターリフが火蓋を切り、YOSUKEのスクリームが加わると同時に、ヘビーなラウドロックサウンドが鳴り響く。歌詞には再起の前の孤独や痛みも刻まれているが、やがて答えを持たないまま前を向く姿勢が示されていく。
曲が進むなかで一人称は〈I〉に加えて〈We〉も登場し、孤独な再起は“仲間との再起”へと広がっていく。楽曲終盤、初めて二人称が用いられる〈One more time, I’ll be your light/We can start again〉というフレーズは、ファンへの宣言だろう。シンガロングパートとして設計されたこのフレーズが、楽曲のクライマックスを形成している。
「RE-BIRTH」は、YOSUKEのボーカルの魅力が凝縮された楽曲でもある。冒頭のスクリームで感情を爆発させた直後、Aメロでは美しいファルセットを披露。みずみずしさと力強さを併せ持つ歌声で、YOSUKEはバンドの中心に立っている。
RE-BIRTH / SPYAIR
「RE-BIRTH」リリースの1か月後、2023年8月にはSPYAIR恒例の野外ワンマンライブ【JUST LIKE THIS 2023】が開催。YOSUKEは加入からわずか4か月で、山梨・富士急ハイランド コニファーフォレストの大舞台に立つことになった。知名度も歴史もあるバンドのフロントマンに抜擢された彼は、その後も様々な経験を急速に重ねていく。その環境の中で目覚ましく進化していった。SPYAIRの歴史を丁寧に継ぎながら、新たな息吹をもたらす清冽な歌声。ラウドからポップまで、楽曲を的確に響かせる表現の振れ幅。そしてライブハウス仕込みの情熱的なパフォーマンス。ラウドロックイベントからアニソンイベントまで、どんな場所でも度胸と熱量でフロアを掌握してきた。
【JUST LIKE THIS 2023】 -digest- / SPYAIR
2024年2月には、映画『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の主題歌「オレンジ」がリリースされた。「イマジネーション」(2014年)、「アイム・ア・ビリーバー」(2015年)、「One Day」(2020年)と歴史を重ねてきたSPYAIRと『ハイキュー!!』シリーズのタッグが待望の復活。主題歌担当が発表された段階からアニメファンの間では大きな話題となり、リリース後は国内外で大きな反響を呼んだ。
「オレンジ」はストリーミング再生数2億回を突破し、Billboard JAPANストリーミング・ソング・チャート“Streaming Songs”に初のチャートイン、そして最高6位を記録。同チャートにSPYAIRの楽曲が初めてチャートインしたことは、バンドがまた新しい形で支持されるきっかけが生まれたとも言えるだろう。ボーカリスト脱退という危機を乗り越えた先に待っていた、新たな代表曲の誕生。メンバーは、この出来事をのちにこう振り返っている――「ボーカルを代えてまでバンドを続けるからには、今のSPYAIRが広まって、もっと知ってもらわないと意味がない」「『オレンジ』がヒットしたことで、『これでまた続けられるな』という感じがあった」(※)。
オレンジ / SPYAIR
そしてこのたび、YOSUKE加入後初となるフルアルバム『RE-BIRTH』がリリースされた。2年半前の楽曲と同名のタイトルを掲げたのは、ここでSPYAIRの再誕を改めて宣言するためだろう。ボーカル脱退という危機。YOSUKEの加入という転機。新風を追い風に変えながら、「オレンジ」をヒットさせた。激動の3年間を経た彼らが、その経験をひとつの作品として結晶化させたのが本作だ。そして彼らは自らの経験を根拠に、今度はリスナー一人ひとりを鼓舞しようとしている。アルバムを通して、SPYAIRは一貫して“あなた”に語りかけ続ける。
アルバムは、先述の「RE-BIRTH」から幕開ける。2曲目は、ボートレース2025 TVCMタイアップソングとして書き下ろされた「Chase the Shine」。レース、コース、ゴールといった競技にまつわる言葉を人生のメタファーとして散りばめたこの曲は、スポーツ賛歌に留まらない。誰しもの日常に蔓延る、惰性を揺さぶる一曲だ。〈It’s never too late to start/なりたい自分に 手が届くまで〉というフレーズは、年齢やタイミングを問わない挑戦を肯定している。
Chase the Shine / SPYAIR
3曲目の「オレンジ」では、今この瞬間の輝きを愛おしむ気持ちと、前進を促す言葉が共存する。夕日と果実のイメージが重なる「オレンジ」をモチーフに別れの場面を描いた楽曲だが、そこにあるのは喪失感だけではない。自らの道を歩み続ければ、いつか再会できると信じる気持ちが歌われている。『ハイキュー!!』の世界観と深く共鳴する一方で、卒業や旅立ちの歌としての普遍性も備えている。だからこそ、様々なリスナーの心に届いたのだろう。
葛藤を抱えたまま進む人の心の声を歌った「青」。そしてスリリングなサウンドの中で後悔を振り払い、何度でも立ち向かおうとする「Kill the Noise」。いずれもアニメ主題歌だが、そのメッセージはSPYAIR自身の経験とも深く響き合う。
青 / SPYAIR
Kill the Noise / SPYAIR
6曲目の「Darling」は、YOSUKEが初めて単独で作詞を手掛けた楽曲だ。アルバム全体を見渡すと、人生や挑戦、仲間をテーマにした曲が多いが、この曲では日常の景色に重ねて恋愛の揺らぎが歌われている。アルバムの中で異彩を放つ一曲であり、パワーポップ調のサウンドと切ない歌詞の組み合わせも絶妙だ。
〈生まれ変わってく音/聴こえてるかい?〉と投げかけ、その音でリスナーの体を直接揺らす「FEEL SO GOOD」は、野外ワンマン【Just Like This 2024】に向けて制作された楽曲。翌2025年の【JUST LIKE THIS 2025】のテーマソングである「Bring the Beat Back」は、ブレイクビーツ×グランジロック的なサウンドが新鮮だ。ルーツミュージックを愛しながらも、現在進行形のバンドとして刷新を重ねていくSPYAIRの姿勢がダイレクトに感じられる。サウンドと歌詞、そしてタイトルが見事に三位一体となっている。
そしてアルバムは終盤へ。「Buddy」の〈ねぇ、顔をあげて/さぁ、この手を取って〉というフレーズに辿り着く頃、冒頭から一貫して注がれていた“あなた”への眼差しは、一層温かく、鮮明な輪郭を結ぶ。
Buddy / SPYAIR
そんな今作を引っさげた、新体制後最大規模となるホールツアー【SPYAIR TOUR 2026 -RE-BIRTH-】も駆け抜けた彼ら。恒例の単独野外ライブ【JUST LIKE THIS】は、2026年は9月に、日本に加え韓国での開催も決定している。
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