Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>人はやがて消え去るのに、なぜ思い出を残すのか――星野源に光をもたらした「光の跡」



星野源インタビュー

Interview & Text: 森朋之

 星野源から約2年半ぶりとなるシングル『光の跡/生命体』が届けられた。「光の跡」(『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』エンディング主題歌)、「生命体」(世界陸上・アジア大会のTBS系テーマ曲)に加え、「おともだち」(【オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム】主題歌)、インスト曲「Beyond the Sequence」(『UCC COFFEE CREATION』テーマ曲)が収録された本作。サウンドメイク、歌詞の世界観を含め、星野源の音楽がさらに広がり、変化を続けている楽曲ばかりだ。

 Billboard JAPANでは星野へのインタビューを実施。収録曲の制作エピソードを通し、現在の彼のモードを感じ取ってほしい。

――「光の跡」は『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』のエンディング主題歌。オファーを受けたときは、どう感じましたか?

星野源:まず、映画公開の初日にエンディング主題歌が明かされるというのが面白いなと思いました。「喜劇」(TVアニメ『SPY×FAMILY』Season 1第1クール エンディング主題歌)は2000年代のヒップホップのサウンドをイメージしながら制作した楽曲だったので、映画の主題歌のお話をいただいたときに、音楽の感覚が根底でつながっているものにしたいなと思って。「光の跡」では遡って、90’s前半のR&B/ヒップホップのビートに、80’s後半のR&Bミディアムバラードが合わさったサウンドをテーマに制作しました。


――80’s後半~90’s前半のR&B、ヒップホップは星野さんのルーツの一つですよね?

星野源:青春時代の音楽というほうが近いかもしれないです。あ、でも、80年代後半はルーツに近いかな。僕が子供の頃に聴いていたアニメソングって洋楽に影響受けまくってるものが多かったので、あの感覚を今やりたかったんです。例えば、『ドラゴンボール』の「ロマンティックあげるよ」でいうと、オープニング曲は元気いっぱいで子供にも理解できるんだけど、エンディング曲はいきなり大人っぽい恋愛ソングで、急に理解できなくなるあの感じ。でも切なさだけはものすごく残っていて、大人になって歌詞の意味が理解できる感じ。両親が好きで聴いていたジャズや同時代のR&Bも耳にしていたので、自分のなかで同じ音楽として残ってるんですよ。90年代のヒップホップには80年代R&Bの楽曲をサンプリングしている曲も多いし、そういうつながりをイメージして作ろうと思ったのが(「光の跡」制作の)最初ですね。

――「光の跡」は懐かしい雰囲気もありつつ、同時にまったく新しい音楽にも聴こえます。そのあたりのバランスは、星野さんのなかでどう意識されていたんでしょうか?

星野源:「この時期の音楽をイメージして作りたい」と思ってはじめても、なんか“まんま”にならないんです。リファレンス楽曲を改めて聴き直して、緻密に作っていくのではなくて、自分の頭の中にあるイメージに沿って作る。そうすると、今の自分の音楽になっていくんです。そこからさらに飛躍させて――“工夫”と言えば聞こえがいいんですけど(笑)――ねじってねじって、よくわからないところに着地することもあって。最近「ねじりすぎかな?」と思うこともあったし、「光の跡」の裏テーマとして「なるべく素直に」というは意識していました。

――ヒネり過ぎず、シンプルに作ってもいいのではないか、と。

星野源:そうですね。今年(2023年)はアルバム1枚分くらいの曲を書いて発表したんですけど、全部に工夫に工夫を重ねまくる作業をやっていると疲れちゃって(笑)、「今回は自分からねじらなくてもいいのかな」と。なので素直に素直に、って思いながら作りました。とはいえ、工夫は詰まっちゃってるんですけどね。

――なるほど。「光の跡」の歌詞は、“人はやがて消え去る”を前提にして、“それでもなぜ、思い出を増やそうとするのだろう”という問いがテーマになっています。

星野源:サウンドのイメージは2000年代から80~90年代に遡ってるんですが、歌詞は「喜劇」の“その後”を描こうと決めました。映画が旅行の話なので、自分も実際に旅行してみたんです。一人で金沢に行って、鈴木大拙館で過ごした時間、街のなかを歩いた時間から、いろいろなものを得られた気がして……。今年は、気持ちが激しく落ち込んでたんですよ。希望というか、前向きな気持ちがまったく感じられなくて。おそらく考えるに、コロナ禍の3年間があって、そのなかで必死に頑張ってきたことへの揺り戻し、バックラッシュみたいなものだったのかなと。

――今年に入ってコロナが明けたということになり、3年間の精神的な疲れが出てきたのかもしれないですね。

星野源:“無”みたいな状態だったし、何を書いても「違うな」という感じになってしまって。金沢に旅行した後、とりあえずタイアップみたいなことを何も考えないで書いてみようと思って、最初に出てきたのが「光の跡」の1番のAメロだったんです。それが本当にしっくり来たし、そこから自分自身が置かれている状況――悩みや試練、超えていきたいもの――が映画とリンクしてきたんですよね。人はいつか死ぬし、何千年、何万年レベルで考えると、人間社会も必ず崩壊する。そう考えると、誰が何を残そうが、何を頑張ろうが、なんの意味もない。でも、自分はなぜ、金沢で見た夕陽にあんなに感動したんだろう? 鈴木大拙館で水の波紋を見て、どうしておもしろいと思ったんだろう? 人はどうして旅行に行くと、写真を撮って思い出を残そうとするのだろう? そういう思いが『SPY×FAMILY』の、それぞれにトラウマを抱えた3人と1匹が家族として一緒にいることにつながっていったというか。


――「光の跡」を書いたことで、星野さん自身の気持ちも変化したんでしょうか?

星野源:そうですね。今はだいぶ元気になったし、落ち着いています。「光の跡」ができたことはすごく大きいです。この曲を生み出すための試練だったのかもしれないなと。そう思えるほどの曲ができたし、次に行けるなと思っています。あと、“今のうちに”という感覚もあるんですよ。「光の跡」のミュージック・ビデオには鎌倉で撮ったシーンがあるんですが、そのときに見た夕陽もめちゃくちゃきれいだったんです。「これは有限なんだろうな」という怖さ、「これだけいろんなものが発展したけど、夕陽が沈む綺麗さには敵わないんだな」という思い、それを大勢の人たちと一緒に見ている連帯感。相反する感情が同時にあって、それも“今のうちに”という思いにつながっているのかなと。

――「生命体」は心と身体をグッと引き上げてくれるようなパワーを持った楽曲ですが、「光の跡」とのつながりも感じました。

星野源:つなげる意図はまったくなかったんですけどね(笑)。「光の跡」はもっとカラッとした歌詞になるのかなと思っていたけど、書いているうちにいろいろな思いが入ってきた。もともとこの2曲をシングルとして出そうと計画していたわけじゃなかったので、出来上がってみるとたまたまつながった感じですね。


――音楽的にはゴスペルというテーマがあったそうですね。ドラムやサックスの生々しい音もそうですが、人間が演奏すること、歌うことの根源的なパワーも込められていて。

星野源:身体性のある音って、ストレートに伝わってきますからね。それプラス、僕は打ち込みやエディットもすごく好きで。打ち込みだから生命力が出ないなんて、まったく思ってないです。30代前半くらいまではフィジカルを重視していて、「ミスとかエラーを含めて、人間がやるのがいい」という考えだったんですが、その後、打ち込みやシンセサイザーに魅力を感じるようになって。打ち込みから出てくるエナジーが絶対にあるんですよ。ドラムは、僕が打ち込んだものを石若駿くんが叩いてくれて。機械を真似て越えようとする人間の演奏のエモさもあると思うし、人間的なものと機械的なものが混ざっている感覚ですね。

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僕にしかできない曲を作れるだろうという自信もあった

――カップリング曲についても聞かせてください。「おともだち」は【オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム】の主題歌。オードリー(若林正恭・春日俊彰)と星野さんの関係性もあるし、楽しく制作できたのではないですか?

星野源:『オードリーのオールナイトニッポン』は、リスナーと番組の関係が密接だし、イベントのテーマソングを作ることにプレッシャーは感じていました。同時に、たぶん、僕にしかできない曲を作れるだろうという自信もあったんですよ。ラジオを長くやっている自分にしかできないアプローチがあるだろうなと。

――「おともだち」のサウンドはユーモアの感覚も感じられて。音自体がオードリーみたいだな、と。

星野源:よかった。イントロから作り始めたんですけど、わりとふざけながら作っていって。まずは打ち込みで作って、それをバンドメンバーに聴いてもらって、リハして、その場で録音するというやり方だったんです。なので、打ち込みの音はバンドサウンドに変換されてるんですけど、それは『LIGHTHOUSE』(Netflixシリーズ『LIGHTHOUSE』に書き下ろした6曲を収録したEP)と同じ方法ですね。

――〈闇の中もくだらない話だけが/僕ら 続く理由だから〉という歌詞も印象的でした。やはりオードリーのお二人の関係性を反映しているんでしょうか?

星野源:二つの軸があるんですよね。あの二人のことを知らない人が聴いたときに、「いろんな友達がいるけど、こういう関係の友達っているよな」と解釈ができるのが一つ。もう一つは二人を知っている人が聴いて「すごくオードリーだな」と思ってもらえたらいいなと。歌詞を書く前に、若林さんにどんな感じで東京ドーム公演をやろうとしているのか聞いたことがあるんです。そのときに「学生のとき(春日と)夜中に長電話してゲラゲラ笑ってた。それが今も続いている感じなんですよね」という話を聞いて、これで歌詞は大丈夫そうだなと思いました。

――そこには星野さん自身の“友達”に対する価値観も反映されているんですか?

星野源:どうだろう? 学生の頃はたぶん、同じような関係の友達がいたんですよね。2番の〈いつまで続くかわからないほど/夜を喋り 倒してきたんだ〉という歌詞の“喋り”と“倒して”の間があいているのは、友達と話すことで、夜を倒してきた感覚があったからなんです。不安だったんですよ、夜が。自分が何者になるかもわからない不安があったからこそ、どうでもいい悩みごとを話したり、くだらない話をしてゲラゲラ笑ったりして、夜の闇を超えようとしていたんだろうなと。「おまえのおかげだよ」みたいなことは一生言わないし、友達っていう意識もなくて、むしろウザいくらいに思ってるんだけど(笑)、傍からは「かけがえのない友達」みたいに見えているっていう。

――『オードリーのオールナイトニッポン』で「おともだち」が初解禁されたときのお二人の反応も素敵でした。

星野源:二人の「いやぁー」「オーッ」という声からいろいろ伝わってきて。グッと来てくれたんだなって思ったし、すごくうれしかったですね。

――さらにインスト曲「Beyond the Sequence」を収録。星野さんが出演している『UCC COFFEE CREATION』のテーマ曲ですね。

星野源:もともと作っていた曲があって、「CMに合いそうだな」と思って。作ったのはけっこう前だから、今回収録するにあたって、トラックとかも微妙に変えているんですよ。今の自分の感じとちょっと違うなと思って、リズムを作り直して。

――メインのメロディの音色も印象的でした。ちなみにコーヒーは以前から好きなんですか?

星野源:昔は苦手だったんですよ、じつは。両親が喫茶店をやっていたんですけど、こだわりのコーヒーを味わうこともなく(笑)。でも、20代後半から急に好きになって、やっぱり遺伝ってあるのかなと。

――シングル以外の話題を一つだけ。今年の【SUMMER SONIC 2023】で星野さんがキュレーションした「"so sad so happy" Curated by Gen Hoshino at SUMMER SONIC BEACH STAGE」の収録映像が、12月29日20:00よりTwitchのAmazon Music Japanチャンネルで配信されます。今振り返ってみると、どんなイベントになりましたか?

星野源:今年の前半はずっと家にこもって曲を作ったりしていた日々だったので、急に外に出て、めちゃくちゃ暑かったです(笑)。なんとか乗り越えられたし、夏のいい思い出ですね。【サマーソニック】のステージの一つを自分の好きなようにできるなんて、こんなにありがたいことはないなって。カミーロ以外は全員、面識があったんですよ。友達を呼んだので1日のステージの連なりがあるし、一般的なフェスとは見え方が違っていたんじゃないかなって。しかも全員が素晴らしいパフォーマンスをしてくれて、グッと来ちゃいました。

――星野さんが好きなアーティストを紹介したいという気持ちも?

星野源:それよりも自分が観たいというか、「生でライブが観られてうれしい」という感じかも(笑)。たとえばUMIは一緒に曲を作ったことがあったけど、ライブを観たことがなかったんですよ。紹介したいと思っていたのは、松重豊さん(DJ豊豊)かな。松重さんは本当に“好き”だけで音楽を語れる人で、そういう人は少ないと思うんですよ。役者としての知名度があり、ご本人のパーソナリティの素敵さがあって、なおかつ本当に音楽を愛している。そんな人、あんまりいないですからね。

――確かに! 2023年は星野さんにとってきつい1年だったと思いますが、来年はもっと良い年になるといいですね……。

星野源:いい年にします! きっといい年になると思います。

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2003/08/06

[CD]

¥3,024(税込)