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<わたしたちと音楽 Vol.29>羊文学 約1年半ぶりのアルバムに込めた、自分たちらしい12曲

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回のゲストは、塩塚モエカ(Vo./Gt.)、河西ゆりか(B.)、フクダヒロア(Dr.)からなるオルタナティブロックバンドの羊文学。「more than words」がテレビアニメ『呪術廻戦』のエンディングテーマに採用され、【FUJI ROCK FESTIVAL ’23】では、日中の<GREEN STAGE>としては異例の動員数を記録。12月6日にメジャー3枚目となるアルバム『12 hugs (like butterflies)』を発表し、勢いに乗る3人が、男女混合グループとして本企画に登場する。(Interview & Text:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING]/ Photo: Megumi Omori)

自分自身を抱きしめるような、12曲を集めたアルバム

――新アルバム『12 hugs (like butterflies)』の発売おめでとうございます。塩塚モエカさんがバタフライハグと言われるポーズをとっているジャケットが印象的です。アルバムはプライベートなムードも感じるアコースティック系の一曲でスタートしますが、このような構成にした理由は?

塩塚モエカ(以下、塩塚):はじめは、アコースティック系の楽曲で終わるアルバムにしようと考えていたんです。そうしてできた「Hug.m4a」という曲を最後に置いてみたらすごく繊細な印象になり、「こういうことじゃないな」と思って、最後は『FOOL』という曲で力強く終わらせることにしました。そして「Hug.m4a」を試しに一曲目に置いてみたら、歌詞自体がアルバム全体を象徴するようなものに思えて、イントロとしてすごく良かった。なのでその構成でいくことにしたんです。


フクダヒロア(以下、フクダ):タイトルと構成のアイデアを塩塚から共有されたときに、塩塚のワードチョイスが秀逸だと思いました。僕は今回初めて「バタフライハグ」という言葉を知ったのですが、このアルバムに収録される12曲の一つひとつに“自分を抱きしめるようなムード”を感じたのでぴったりだな、と。個人的にすごく好きな曲も多いし、初期の羊文学がアップデートされたような作品だと感じます。


河西ゆりか(以下、河西):「バタフライハグ」、良い言葉ですよね。私自身、色々悩みはあるけれど、悩んでいるところまで自分だと受け入れているというか……その上で、どう生きていくかを考えれば良いのかなって、考えられるようになりました。12曲それぞれ色が違う楽曲なので、“12”という数字にフォーカスしているところも好きですね。


大衆性を持ちたいという願望を叶えながら、自分たちがやりたいことをやった

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――このアルバムが1年半ぶりのフルアルバムとなりますね。飛躍的に多くの人に羊文学の楽曲が届いた1年半だったのではないかと思います。

塩塚:音楽フェスやテレビなど、これまで私たちのやっているような音楽に触れてこなかった人たちにも届けられる機会が増えたのは嬉しく思っています。例えば、複数アーティストが出演するフェスで、あまりノッていないお客さんが見えたら「絶対にあの人を笑顔にしたい」って気持ちになったりする(笑)。一人ひとり全てじゃなくても、少しでも「この曲は好きかも」っていう思ってもらって広がっていったら嬉しいな。


フクダ:大衆性を持つことは、活動初期から掲げていた羊文学の目標でもあったんです。メインストリームとアンダーグラウンドの両立ですね。僕らの音楽って、オルタナティブロックやシューゲイザー、ポストロックなど様々なジャンルから影響を受けていて、それらのジャンルを知らない人にも知っていただきたい、という思いがあるんです。だから今回のアルバムにも入っているテレビアニメ『呪術廻戦』のエンディングテーマになった「more than words」をきっかけに僕らを知った人が、他の曲も聴いてくれるのはとても嬉しいです。


河西:メディアに出させてもらう機会も増えて、私たち自身も様々なジャンルのアーティストと出会うことができました。外の世界から影響されることも大きいし、“外に向けて”発信する意識が生まれて、ステージングにも反映されていると思います。


塩塚:前回は、あえてポップに作ろうと思ったアルバムだったのですが、今回は好きなようにやっていこうという意識がありましたね。自分が良いと思うクオリティになるまで、何も譲りたくなかった。


フクダ:僕も、原点回帰みたいな気持ちがあったかもしれないですね。斜に構えて、手グセで演奏せずに、尖ったことも自由にやろう、みたいな。


女性がマイノリティな現場で感じている不自由さ

――届く範囲が広くなっているこのタイミングで、そういう気持ちでアルバムを作れているのはすごく健やかな状態なのではないですか? ちなみにこのインタビューシリーズは、チャート内におけるジェンダーギャップに着目したものです。塩塚さんと河西さんへの質問になるかもしれないですが、日常生活や音楽活動において、女性であることは何か影響はあったと思いますか?

塩塚:最近の私たちのライブではないですけれど、キャパの小さなライブハウスでは特に、「女性のバンドや女性アーティストにフィーチャーした企画には、男性ファンがつく」という構図が顕著に見られる状態があるとは思います。そのバンドの音楽を好きでいることに男女の差や制限はもちろんないはずですが、「本当に音楽を評価しているのかな?」と疑問に思うことは確かにあって……。


河西:モエカが言っていること、よくわかるなぁ。純粋に音楽を楽しんでほしいのに、異性のファンが求めていることがわからなくなって「自分たちがどう見えているか」が必要以上に気になってしまったりして。


塩塚:あと音楽とは離れるかもしれないけれど、女性が性的に消費されるイメージが世の中に氾濫しているのは感じますよね。「交通事故に気をつけましょう」という注意喚起のポスターでも、警察の制服を着て胸を強調されたキャラクターが描かれていて「なんで?」と思ったり……バンドをやっていても、私は女性だけれど、“女性のしとやかさ”みたいなイメージを、外から押し付けられるのは嫌だなって思ってしまいます。衣装もこれまではワンピースにしていたけれど、今年はパンツスタイルにしてみたんですよ。そうしたらバンドで表現したいものとも合致した気がして、すごくしっくりきているんです。


河西:あとは、ライブなどの現場のスタッフさんも、やっぱり男性がすごく多いですよね。力仕事も多いから仕方のない部分もあるかもしれないけれど、ツアーで各地を回る時にも女性って少ないよね。


塩塚:そうそう。お弁当がずっと“パワー系”だったりね(笑)。揚げ物が続いたりして、自分たちは「野菜が食べたいなぁ」と思ったりするときもあります(笑)。


ライフステージが変化することも、受け入れていきたい

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――この連載でも、音楽業界のスタッフ側でも女性がマイノリティである、というお話は度々出てきます。組織の上層部に女性が少ないのは顕著で、それが全体に影響している問題点はありますよね。話は変わりますが、塩塚さんが過去のインタビューで、「音楽を長く続けていくために考えた」というお話をされていたのを拝見しました。そのときは、「自分がずっと好きでいられる音楽を作りたい」という楽曲の話に帰結していたのですが、“女性アーティストが音楽を長く続けるために”、もっとこうだったらいいのに、と思うことはありますか。

塩塚:女性が活動を続けていくためには、妊娠・出産といったライフステージの変化の影響は避けられないですよね。私も今27歳で、少しずつリアリティが出てきました。例えば、「子供が欲しいかもしれない」と思ったとしても、来年のスケジュールまで決まっていたりすると、「妊娠しちゃったらツアーが飛んじゃうな」という思いは絶対によぎるだろうし。でも現場に子供を連れてきている女性ミュージシャンの仲間もいるし、みんながサポートしてくれるのもわかっているから、自分が気にしすぎないでも良いのかもしれないけれど。


河西:「レコーディングの間、ちょっとフクダ、子供見ておいて」って言ったら、面倒見てくれそうだよね。


フクダ:(笑)


塩塚:フクダは面倒見てくれそう!(笑) これは性別関係なく、ミュージシャンでいる前に、一人の人間であることも大切にしたい。仕事と人生が一致しているときは良いけれど、一致しない部分が出てきたときに生活を後回しにしちゃうことも多いけれど、自分の人生を優先するのを忘れないようにしたいんです。


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