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<コラム>文化遺産=東京文化会館にて、小室哲哉による数々のヒット曲が東京フィルハーモニー交響楽団によって拡張される歴史的フルオーケストラ公演開催



コラム

Text:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

音楽生活の到達点としてのオーケストラコンサート

 日本を代表する稀代のヒットメーカーである音楽家、小室哲哉が自身のヒット曲をオーケストラをバックに披露するフルオーケストラ公演【小室哲哉 Premium Symphonic Concert 2023 -HISTORIA Encore-】を、東京文化会館 大ホールにて、2023年4月23日(開場 16:00 / 開演 17:00)に開催する。

 管弦楽は、日本最古に結成された世界へ誇る東京フィルハーモニー交響楽団であり、指揮は小室と同い年の藤原いくろう。ラテンパーカッションには小野かほりが参加。ゲストボーカルにBeverly、そしてゲスト奏者に浅倉大介が集まるなど、小室によるユニットPANDORAのリユニオンも。TKヒッツとともに、歴史的公演になることは間違いない。

 オーケストラアレンジで届けられる楽曲は、誰もが知るヒット曲ばかりの選曲だ。自身のユニットTM NETWORKはもちろん、渡辺美里、trf、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、globe、中森明菜など数多のアーティストに楽曲を提供してきた“小室哲哉の歴史”をオーケストラの響きによって紐解いていく。

「ずっとやりたかったことなんです。心の奥底で、フルオーケストラでのコンサートは気になっていて。死ぬまでに一度はやってみたかったんですよ。僕は歌う人ではないので、楽団の方々にはシンセサイザーとの共演をよくやってくれたなと思っています。感慨深いですね。」(小室)

 小室哲哉は、自らの音楽人生を完成させるために自身が夢見たフルオーケストラでのコンサートというフィールドへ足を踏み入れた。そもそも、小室はオーケストラ的な表現とは真逆のシンセサイザーによる音色によって日本中を躍らせたダンスミュージックのパイオニアとして知られる表現者だ。しかしながら、小室がこれら名曲の作曲時には頭の中でオーケストラのサウンドが鳴っていたという。小室は、TM NETWORKのデビュー以降、シンセサイザーという、ひとりでフルオーケストラをデジタライズしたスタイルでクリエイティブ表現する方法論を選んだ音楽家だ。だが、そのルーツにはシンセサイザーを世に知らしめた音楽家、冨田勲が1975年にリリースしたアルバム『展覧会の絵』、そしてロックとクラシックが融合したプログレッシブ・ロックがある。プログレ界の代表的なバンドに、エマーソン・レイク・アンド・パーマーがいた。本公演はいかに小室がクラシック音楽から影響を受けたかが発見できる一夜でもある。

 言うならば、作品のリリースから時と経験を経て、ようやくルーツであるフルオーケストラ・バージョンでの完成へと至った公演なのである。

「オーケストラという楽団によるサウンド=大海原の波を漕いでいく感覚でしたね。ピアノで奏でるメロディーによって突き刺していくというか、切り裂いていくというか。」(小室)

 本公演は、昨年、2022年11月27日Bunkamuraオーチャードホール、2022年12月9日兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールで開催されたコンサートのアンコール公演である。会場の東京文化会館は、芸術の森である上野公園の一角に所在する東京都立のホールだ。世界的に誇れる音響の良さ、そのクラシカルかつアートな佇まいなど、文化遺産とも呼べる空間で繰り広げられるプレミアムなステージなのである。

 1984年、小室哲哉がリーダーとなり結成されたTM NETWORKがメジャーデビュー。80年代を駆け抜け、90年代には小室は日本を代表する音楽プロデューサーとして“小室ブーム / TKブーム”を席巻。挑戦し続けたことで生まれた個性、そして未来を切り開いてきたヴィジョン。変わらぬアートへの探求こそが、時代を席巻したヒット曲を生み出し、そして次世代へ継承するべくフルオーケストラ表現へと帰結した。そこに残ったのは小室哲哉が類稀なるメロディー・メーカーであることの証明なのである。


小室哲哉作品の持つ可能性

 小室哲哉の作品は、誰もの心に突き刺さるメロディーの太さが魅力である。ゆえに、自由度は高く、オーケストラ・アレンジしがいのある世界観を創出する。小室ソングには、オスティナートというメロディーを繰り返す技法がとられている作品が多い。クラシックなアレンジと相性がよいことは実証済みだ。小室らしさである転調がよきスパイスとなり、メロディーの美しさが活き活きと輝きだすのである。

「振り返ると、和音やアンサンブルを大切にしてきたつもりでも、単音=モノフォニックで構成されたメロディーの強さ。単音のメロディーが主となっているんだなということをあらためて自分でも思いましたね。」(小室)

 昨年行われた公演のオープニングナンバーはTM NETWORK「Get Wild」だった。アニメ『シティーハンター』エンディング曲としても知られる、海外人気も高い作品だ。オーケストレーションに施されたアレンジは、よりプログレ色強めの重厚感でいっぱいな新感覚の「Get Wild」となった。途中、エマーソン・レイク・アンド・パーマーの代表作である1971年にリリースした、19世紀のロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキーが1874年に作曲したピアノ組曲『展覧会の絵』における「プロムナード」のフレーズが鳴り響いた。1曲目から予想を上回る感動だ。そう、本公演は“ただヒット曲をオーケストラでカバーするだけ”のようなものではなく、小室哲哉による誰もが知る歴代の作品をヒストリカルかつクリエイティブに再構築した芸術的な攻めのライブ表現となった。

「完全に自慢ですね(笑)。1曲目に『Get Wild』を持ってこれるんだよという。ヒット曲って、大事に、ここぞというラストに持ってくることって多いと思うんです。でも、自分の場合、聴きたい曲がたくさんあるという状況は恵まれているなと思っています。アレンジは、エマーソン・レイク・アンド・パーマーの影響はありますね。時代としてもウクライナ侵攻もあって、『展覧会の絵』(編注:同組曲中の楽曲「キエフの大門」を指す)を通じて心を寄せています。それと『Get Wild』という。まさに象徴的ですね。」(小室)

 自身が生み出したヒット曲とクラシックの名曲の融合。大胆に小室ヒストリーをアップデートする試みに鳥肌がたった。なお、ステージの小室の周りにはピアノと並んでシンセサイザーMemmorymoogが設置されていた。moogの響きは、オーケストラ・サウンドに似合う。さらに、近年の愛機Montageなどシンセサイズ・プレイがホール空間に響き渡る。そう、繰り返すが“ただヒット曲をオーケストラでカバーするだけ”ではなかったのだ。

「今回の選曲はセールスした順。いや、ちょっと違うかな。もっと探れば、深掘りすればオーケストラに合う曲、ヒット曲のカテゴリーだとしても自分のキーボードプレイが活きる曲が他にもあるはずなんだけどね。でも、そんな形であっても(自分の曲と、影響を受けてきたサウンドとの)ミクスチャーになっていると思います。オーケストラの代わりでシンセサイザーだけでは出来ないことを、今回はあえてやりたかったので。鍵盤だけではやりきれなかった表現になったと思います。」(小室)

 自らが生み出してきた我が子のように大切な作品たち。昨年のコンサートでは、「My Revolution」(渡辺美里)、「BEYOND THE TIME –メビウスの宇宙を越えて-」(TM NETWORK)、そして「寒い夜だから・・・」(trf)、「恋しさとせつなさと心強さと」(篠原涼子)と、まるで宇宙空間に吸い込まれそうな壮大なサウンドを奏でるヒット曲が続きながらも、1993年に中森明菜へ提供した「愛撫」から醸し出される芳醇なるメロディーには、観客も新鮮な驚きを隠せなかった。さらに、globe「DEPARTURES」、「FACES PLACES」、華原朋美「I’m proud」、安室奈美恵の「CAN YOU CELEBRATE?」が、華麗なアレンジメントで鳴り響いた。オーディエンスそれぞれのメモリーに着火することで可視化される記憶と記録、瞬間の美学。そして、優しく大きな海を感じる「NEVER END」(安室奈美恵)。近年、再評価の声も大きなglobeによるせつなきバラード「PRECIOUS MEMORIES」が奏でられていった。2023年の今聴いてもまったく古びることないエバーグリーンな名曲たちだ。

 小室ソングのサステナブル(持続可能)な可能性を体現するモーメントとなったのである。

 そして、今春開催される【小室哲哉 Premium Symphonic Concert 2023 -HISTORIA Encore-】では、昨年の公演では選曲されなかった“あの曲”が披露されるという。音楽ファン必聴、奇跡の一夜をお見逃しなく!!!

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