Billboard JAPAN


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<わたしたちと音楽 Vol.1>あらゆる枠組みからの開放をラップに乗せて伝える、あっこゴリラが今思うこと

インタビューバナー

 米ビルボードが2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。2022年はオリヴィア・ロドリゴが、過去にはビヨンセやマドンナなど錚々たるメンバーが受賞した名誉ある賞だ。Billboard JAPANでは、これまでニュースでアメリカの受賞者を発信してきたが、今年はついに、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足。女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』がスタートした。

 今回のゲストは、ラッパーのあっこゴリラ。2018年に発表した1stアルバム『GRRRLISM』のタイトルは「Riot Grrrl」へのオマージュであり、「GIRL」と「ISM」から成る造語で、「“女の子代表”というイメージを超えていく」という想いが込められている。また2022年6月に発表したミニアルバム『マグマ I』のテーマは、「誰にも触れないもの/誰にでもあるもの」。常にジェンダーや年齢、国籍など様々なカテゴリーを越境するメッセージを発信してきた彼女が、今見つめている世界とは。(Interview & Text:Rio Hirai(SOW SWEET PUBLISHING) / Photo:Kae Homma)

※Riot Grrrl(ライオット・ガール)1990年代初頭、アメリカのパンクシーンに登場したフェミニストによる運動

自分自身が、「女の子」とラベリングされることが嫌だった

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――これまであらゆるアプローチで“カテゴライズやバイアスからの開放”をメッセージとして伝えてきたあっこゴリラさんですが、いつからその必要性を感じるようになったのですか。

あっこゴリラ:私自身が音楽を始める前から、自分を「女の子」という枠にはめられることに違和感があったんです。中学生の頃に当時流行っていたドラマ『池袋ウエストゲートパーク』で描かれていた、オーバーサイズのスウェットなどを着ている男性たちを見て、「めっちゃ好き!」と思っていました。恋愛対象としてではなくて、「自分もこんな風になりたい」という”好き”です。あとはアニメ『ルパン三世』も大好きだったのですが、憧れたのは峰不二子ではなくルパン三世の方。でも「女子力」、「モテ服」といったルッキズムが普通にメディアに蔓延している時代。私はファッション雑誌も好きだったのでそういう価値観にも冒されていて、がんじがらめでしたね。


――どうやってその状態から脱することができたのでしょうか。

あっこゴリラ:今も、ぐちゃぐちゃだとは思うんですけれど(笑)。そのときからがんじがらめになっているのと同時に、どこかで「好きにやっちゃえば良いじゃん!」という気持ちがあったんですよ。そんななか高校1年生くらいのときにライブハウスに通うようになり、あふりらんぽと出会いました。ライブを見て「かっけー!」と興奮して、なんというかすごく自分にとって“しっくりきた”。さらに色々な音楽を聴くようになって、スリッツとも出会います。アルバム『インスタント・ヒット』は、上半身裸のメンバーが立って並んでいるジャケットなのですが、求められて脱いでいるのではなく、好きにやっちゃっている感じ。「こっち側の世界もあるんだ」という思いでした。それらの影響もあってバンドを始めて、ドラムを叩いていました。でもステージで演奏して全力で自我を開放している自分については「可愛くないから、彼氏に見られたらフラれちゃうだろうな」とも思っていて……。


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――まだ混沌としたなかにいたのですね。そこからラッパーに転じて、あっこゴリラを名乗るまでにはどんな経緯があったのでしょう。

あっこゴリラ:その前にHAPPY BIRTHDAYというバンドでドラムを叩いていたのですが、もしもそのバンドが解散してそのあとも音楽を続けたいのならば、「スタジオミュージシャンになるしかないのかな、そんなに器用じゃないな」と思って、ソロでの活動を考え始めたんです。とりあえず、自分が好きなものを確認する作業として、カウンセリングのように声を出すところから始めて、いつの間にかラップを始めていました。もともとドラマーですから、自分の気持ちを大きい声で発声するというだけで自分にとってはカウンターだったんですよ。その当時は、“フィメールラッパー”と呼ばれる人たちも今よりずっと少なかった。「なんで突然ラップ始めたの?」と周囲にも聞かれたけど、自分自身が一番ワケがわかっていなかったですね(笑)。


MCバトルがきっかけで、違和感を言語化して発信するように

――そこからジェンダーバイアスやジェンダーギャップを意識するようになったのは、何かきっかけがあったのですか。

あっこゴリラ:それは完全に、MCバトルに出場するようになってからですね。オーディエンスがたくさんいるなかで、「枕営業だろ」とか「ブス」とかディスられるわけです。男同士であればディテールを揶揄したバトルになるのに、相手が女というだけで少数派だし、ただ「女性であること」がフックになってしまう。それに対してアンサーしているうちに、徐々に自分の中にもともと持っていた違和感を言葉にするようになったんですね。でもその時は、自分のことを「フェミニスト」とは言いたくなかったんです。何の勉強もせずに、“フェミニスト”という言葉に勝手に“イケてないもの”だというイメージを持っていました。


――今では、ご自身がフェミニストであることを発信されていますが、それまでにどんな気持ちの変化があったのでしょうか。

あっこゴリラ:今は、自分のことをフェミニストだと思っていますよ。そう認めるまでは、自分の違和感をオリジナルの言語で表現するために「ウルトラジェンダー」という曲を作ったり、“GRRRLISM”という造語を作って表現したりしました。でも、バイアスをかけていたのも中途半端な知識からだったので、一度その言葉の意味を自分の頭で考えて捉え直す作業をちゃんとしようと思って。そうして、ちゃんと向き合ってみたら「私ってフェミニストじゃん」と腑に落ちた。自分の頭で考える、自分になるということが、私にとっての“ヒップホップ”なので、フェミニストだと公言するようになったことは、自分にとっては真面目にヒップホップした、という感覚なんです。


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――自身がフェミニストであると公言するようになって、周囲の反応は何か変わりましたか。

あっこゴリラ:色々な反応がありましたね。「ラップは好きなのに、ヤバい方向にいってるね」と言われたり……。知らない人にどう言われようが良いんですけど、近い距離感の人に理解してもらえないのは辛かったですね。


――それにはどう対処したんですか?

あっこゴリラ:超向き合いました! そうやって伝わった相手もいるし、伝わらなかった相手もいる。けれどここ数年で風向きが大きく変わって、ライブハウスで会う自分より若い世代の人たちの間では、私が『GRRRLISM』で発信していたような内容も「当たり前」という感覚だったりして。もう、受け入れられなかったときのことは正直忘れちゃってますね。でも今だに私の前で、無知に他人のセクシャリティを嘲笑っている人なんかがいると、ガンガン向き合って話しますけど。


――時代が変わってきている流れも感じる一方で、価値観が変わらない部分もありますし、まだ音楽業界では女性比率が少ないのが現状です。何がハードルになっているのだと思いますか。

あっこゴリラ:マイノリティがマイノリティでなくなるために大切なのは、当事者じゃない人たちがどう動くかということだと思います。ジェンダーギャップやマイノリティ差別に対して当事者ではない人が「これは間違っている」と発言すると、いきなりうるさい学級委員みたいな扱いになって、当事者しか発言しちゃいけないというムードが蔓延しているけれど、そんなことない。当事者じゃない人が頑張らないと、世界って変わらないですよ。


――あっこゴリラさん自身が活動をしていくうえで、支えにしていることはありますか。

あっこゴリラ:私にとっては、ライブをすることが一番自分のケアになっています。感情が爆発する瞬間が大好きなんですよ。感情が爆発している人を見るのも好き。だからライブが一番好きですね。


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