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<インタビュー> “怒り”をなかったことにしたくない Homecomingsなりのエモ/パンク「Shadow Boxer」



インタビューバナー

 国産ギター・ポップの至宝。筆者はデビュー当時のHomecomings(以下、ホムカミ)についてそう語ったことがある。ホムカミは初期は歌詞が英語だったこともあり、フリッパーズ・ギター『海へ行くつもりじゃなかった』の隔世遺伝か?と思ったこともあった。だが、英語が中心だった歌詞は徐々に日本語詞にシフトし、最新アルバム『Moving Days』では英語詞は1曲のみに。サウンド的にもデビュー当時より幅広いジャンルを貫通するようなになり、『Moving Days』にはソウルのフィーリングも滲ませていた。

 『Moving Days』発売後は、カラーの異なるデジタル・シングルを2枚発表しており、この度3曲目のデジタル・シングル「Shadow Boxer」をリリースした。甘酸っぱいメロディや畳野彩加の溌溂としたヴォーカルは不変ながら、歌詞には社会的なメッセージも込められており、ひとつひとつの音の密度と強度が高まっている印象だ。

 また、昨今ホムカミは、『リズと青い鳥』、『愛がなんだ』といった映画の主題歌を担当したり、ドラマ『ソロ活女子』のEDテーマを手掛けたりと、活躍の場を広げている。ソングライターの畳野が、くるりやASIAN KUNG-FU GNERATIONの楽曲にゲスト・ヴォーカルしたのも大きなトピックだろう。シングルの話を中心に、作詞を担当するギタリストの福冨優樹、ソングライターでヴォーカル/ギターの畳野彩加に話を訊いた。(Interview & Text:土佐有明 / Photo:堀内彩香)

エモへの回帰、ストレートになったメッセージ

――「Shadow Boxer」の発売から少し経ったので、リスナーの反応や感想が耳に入ることもあると思います。何か嬉しい言葉などはありましたか?

福富:今回のシングルの「Shadow Boxer」は、もともと自分たちのルーツでもあるエモとかUSインディー的な要素を久しぶりに前面に出した楽曲なんです。だから、「びっくりしている」という人もいれば「久しぶりにこういう感じの曲で嬉しい」という声もありますね。

「Shadow Boxer」MV

――「Herge」だったらソウルぽいものとか、「アルペジオ」だったらギター・ポップ回帰とか、ホムカミはその時々で音楽的モードが変わると思うのですが、その意味で言うと、今回の共通言語はエモとかUSインディーですか?

福富:そうですね、あとポップ・パンク・リバイバル的な感じもあって。僕らの世代だと、洋楽を聴き始めた頃って80‘sリバイバルが流行っていて。でも、最近は、時が経ってついに2000年代のリバイバルがきたって感覚があったんです。その影響もあったと思います。ELLEGARDENとかBEAT CRUSADERSがきっかけで、blink182やSUM 41を聴いたりしましたね。 あと大学生になってハードコアやエモを聴いていく中で、ポップパンクも体系的に知りたくなってDescendentsとかBuzzcocksにまで遡ったりもしました。なので個々のメンバーのルーツと言える音楽が含まれていて。Homecomingsとしては『SALE OF BROKEN DREAMS』というアルバムで一度形にしたエモやポップ・パンク的なニュアンスが、また盛り上がってきたっていう感じですね。

――今、アーティスト名やバンド名が出ましたけど、それはメンバー全員で共有していたんですか?

畳野:そうですね。Homecomingsは「RUSHMORE SUNDAY」というラジオ番組をα-STATIONでやっているんですけど、そこで個々が好きな音楽をかけているので、メンバー間でずっと共有はしていました。それらの曲は制作の時のヒントになったりもします。例えば、Death Cab for Cutieは元々みんな好きだったけど、ラジオがきっかけで改めて聴き直したり、刺激を受けたりしました。

福富:聴き直す中で色々発見があるんですよね。チャットモンチーのファーストを聴き返したら「これ、めっちゃエモやな」って思ったり。

――他に参照したものはなんでしょう?

福富:作り始めた時のイメージで言うと、nothing,nowhere.っていうエモ・ラップの人ですね。彼は作品を出すにつれて、どんどんエモ感が増していって、ラップの要素が薄まっていっていくんです。それは参照しましたね。ポップ・パンクで言うとMachine Gun Kellyもそう。あとは、メンバー皆がすごく好きなSnail Mailとか、Phoebe Bridgersとか。色々なものを混ぜあわせて凝縮した感じはあったと思います。

nothing,nowhere.「Pieces of You」MV

――「Shadow Boxer」の歌詞にはどんな思いが込められていますか?

福富:「Shadow Boxer」はテーマがフェミニズムなんです。きっかけは、去年8月に小田急線内であった「勝ち組っぽい女性を狙った」という男性による事件です。モチーフとしては「ガラスの天井」(※資質・実績があっても女性やマイノリティを一定の職位以上には昇進させようとしない組織内の障壁)を使ったんですけど、あの事件のことは常に念頭にありました。韓国で同じような事件があったときに書かれた『私たちにはことばが必要だ』という本からも影響を受けていると思います。

――あの事件の背景には「女性であることを理由に男性が女性を殺害する」、いわゆるフェミサイドが横たわっていました。そして、フェミサイドはミソジニー(女性に対する憎悪・嫌悪・差別意識)と結びついていますね。

福富:今、反フェミニズム的な流れがSNSなどで大きくなってきていて、性差間の格差もないことになってきているけど、そういう問題に声を上げると「窮屈だ」とか「いきすぎたポリコレだ」と反論される場面を何度も見てきました。もちろん、男女間だけにとどまらず、色々な差別が念頭にはありましたけど。


著 イ・ミンギョン『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』

――畳野さんは福冨さんの歌詞をご覧になって、どんな印象を持ちましたか?

畳野:これまでもフェミニズム的なメッセージは曲に込められていたんですけど、今回はそれがいっそう強く出ていると思いました。怒り、と言ったら言い過ぎかもしれないけど、それぐらいストレートな伝え方だなって。ホムカミは「優しさ」をテーマにして活動してきたんですけど、今回はそれよりも、ダイレクトなメッセージが前面に出ていると思います。

福富:フェミニズムの問題は僕だけが考えているわけではなくて、4人で均等に共有していて。4人のステイトメントを集めたような歌詞になっていると思います。音楽だけを共有しているわけじゃないっていうのが大きいです。特に日本語詞になった『WHALE LIVING』以来は、社会的なことをちゃんと伝えようと思うようになりました。「Cakes」ではジェンダーのことだったり「Here」では社会からこぼれ落ちてしまう構造のことだったり、「i care」だったらシスターフッドだったりと、メッセージもより具体的になってきている感覚はありますね。


Photo:堀内彩香

――フェミニズムに興味を持ったきっかけって何だったんですか?

福富:チョ・ナムジュという韓国の作家の『82年生まれ、キム・ジヨン』というフェミニズム文学を読んだことですね。そこからは、テーマが近い映像作品などもNetflixで観るようになって。それはマイブームとかではなくて、作品名などをメンバー間で共有しています。いわば、バンドをやるうえでの土台になっているんです。これからも社会的なことをどんどん歌にしていきたい、みたいな話はメンバーともよくしていましたし。

――韓国の文学はジェンダー差別や経済格差、家父長制などを真正面から取り扱ったものが多いですね。国は違うけど、日本にいても同様のリアリティを感じられることが多いと思います。

福富:日本の問題と照らし合わせることもできる作品が多いですよね。国は違っても、起こっていることはあまり変わらないというか、自分たちが日本で暮らしている中であてはまることも多いと思います。その辺は「Shadow Boxer」の歌詞には通じているところかもしれないです。

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今がいちばんちょうどいいバランス


Photo:堀内彩香

――ホムカミはライブがすごくいい印象があるんですが、「Shadow Boxer」はライブ映えしそうな曲ですね。

畳野:今年の序盤に久々にツアーをやったんですけど、後半からセットリストをちょっと変えてやっていたんです。「PAINFUL」という初期の曲をツアーの途中からやり始めたり、セットリストを変えたりしていて。「Shadow Boxer」もその辺の時期には断片はできていて、あの曲に向けて気持ちが高まっていく感じがあったんです。だから、ライブでのテンションを持ち込んだことで、「Shadow Boxer」もできあがっていった、というのはありますね。

――昨年の渋谷クアトロのライブの時、畳野さんがエレキ・ギターやアコースティック・ギターやキーボードなどをかわるがわる使い分けていましたね。この曲はギターで作るとか、キーボードで作るとかっていうのは、どういうふうに決まっているんですか?

畳野:福冨君が作詞が終わった段階で「こういう曲だから今回はピアノで作ってみたら?」とか言ってくれる時は、その通りにしてみています。ただ、「Shadow Boxer」に関しては、ツアーを経たことで、こういうテンションの曲を作りたいっていうのが既にあって。ツアーが終わった時のハイな状態が残っているモードで作るなら、やっぱりギター・サウンドだなって思いました。この勢いならエレキ・ギターで作ろうって。


Photo:堀内彩香

――ちなみに、ホムカミは事務所がカクバリズムで、レコード会社がポニーキャニオンですけど、これってスカートと一緒ですよね。そういう意味での安心感じゃないけど、既に同じルートを辿った成功例があるっていう想いもあったのでは?

福富:そうですね。(スカートの)澤部さんは、すごい昔からよくしてくれたちょっと上の先輩って感じでもありました。対バンもしていて、以前から憧れでもありましたね。あと、僕ら的にはカクバリズムにはユアソン(YOUR SONG IS GOOD)がいるってことがすごく重要で。中学生の頃からの憧れのバンドだし、特に、ソウルっぽい作品を目指しましょうって「Moving Days」という曲を作る時に、ユアソンのサイトウ"JxJx"ジュンさんにプロデュースをお願いしたのも大きかったですね。あの曲はもうジュンさんにオルガンを弾いてもらいたい!っていうのがはじめからあったし、カクバリズムっていうのをある意味意識した楽曲でもあったと思います。だから成功例に対する安心感というよりは、良い音楽を作っている人たちの集まっている場所に対する安心感かもしれませんね。

――ジュンさんのミュージシャンとしてのスペシャリティはどんなところですか?

福富:ジュンさんって得意とする音楽の幅が広くて、ソウルとかダンスミュージックはもちろん、それこそポップ・パンクからエモ、ポスト・ロックまで網羅しているんです。だからジュンさんにプロデュースしてもらった時の体験は、すごく大きくて。カクバリさんもそうなんですけど、そういう音楽に関しての幅の広さが心強いですね。

畳野:私もユアソンのライブには高校生の時とから何度も行っていて。カクバリズムだとceroも京都の大学に住んでいた時はライブに来るたびに大阪まで行っていました。(カクバリズムに所属していた)星野源さんの初期のアルバムもすごく聴いていたので、昔から好きなアーティストが多いですね。


Photo:堀内彩香

――デジタル・シングルが3曲出ましたが、その先にあるアルバムの青写真ってどの程度ありますか?

福富:漠然とですけど、カラフルな物にしたいなというのが大きいテーマとしてあって。これまではひとつのカラーでアルバムを統一していたんですけど、次作では色々なタイプの曲が入ったものになりそうです。歌詞も含めて、バリエーションが豊かなものになるかなって。あとは、「最高傑作と言えるようなものを作ろうという」という気合いはありますよね。そこは気持ちが違うかもしれません。

――気持ちが違うというと?

福富:ホムカミを10年やってきて、色々なことを試してきたけれど、自分たちが今やりたいこととできることのバランスが、いちばんちょうどいい気がしていて。

畳野:そうですね。制作していてもすごく楽しいし。

福富:新しいことをやりつつ無理はしていないというか、自由な感じがありますね。

――ホムカミ節は確実にありますよね。それがベースになったうえでの試行錯誤をしている。

福富:だと思います。僕が歌詞を書いて、(畳野)彩加さんが歌って、4人で演奏したら、自然にホムカミ節になるやろ、ぐらいのつもりではいますね。


Photo:堀内彩香

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