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SWAY『Stay Wild And Young』インタビュー



SWAY『Stay Wild And Young』インタビュー

「いや、出来ないでしょ」みたいな概念をぶっ壊したい

 夢の日本武道館やアリーナツアーを実現させたDOBERMAN INFINITY。そのメンバーであるSWAYがソロとしての夢も叶えていくべく、激動の人生をこの上ない純度で音楽化してみせたニューアルバム『Stay Wild And Young』をリリースする。今回のインタビューでは、前作からの約3年半どんな日々を送ってきたのか。その結果どんな作品を完成させたのか。今や完全に市民権を勝ち取った日本のヒップホップシーンでどんな存在にならんとしているのか。アルバム同様にその人生を赤裸々に語ってもらった。全ヒップホップファン、必読。

人生の大転機「2020年は本当にたくさんのことに気付かされました」

--前回のインタビューから約3年半、満を持してニューアルバム『Stay Wild And Young』がリリースされるわけですが、ここに至るまでどんな日々を送ってきたのか。聞かせてもらえますか?

SWAY:ソロとしては3年半ぶりになるんですけど、DOBERMAN INFINITYや他のプロジェクトで結構過密に活動していました。DOBERMAN INFINITYとしては長年の夢だった日本武道館に立たせてもらったり、アリーナツアーもまわらせてもらったりして。プライベートでは、母親が亡くなったり、自分の子供が生まれたり、そういう出逢いも別れもあったし。その中でもずっと楽曲を続けられたというのはすごく有り難かったし……本当にいろいろありましたね。

--公私ともに人生の分岐点になるような出来事がたくさんあったんですね。

SWAY:ただ、夢を叶えて最高な瞬間があっても、その次の日からまた違う仕事があったり、母親が亡くなってすごく悲しいはずなんだけど、その次の日にも仕事があったりして、上がりきることもできなければ、下がりきることもできなくて。それぐらい、常に何かが詰まっていた毎日だったんですけど、2020年のコロナ禍でツアーも止まって、活動自体もすごくスローになって、基本的にステイホームだったので、そこで自分と向き合う時間ができたんです。ようやく振り返ることができたんですよね。そのときに思ったことがあって。

--どんなことを思ったんでしょう?

SWAY:武道館が決まった。アリーナツアーも決まった。アルバムリリースします。ベスト盤も出します。曲作りましょう。ライブしましょう。役者の仕事も入りました。デザインの仕事も入りました。プライベートでもいろいろ起きました。そのすべてを当たり前に来るモノとして受け止めていたというか、すべてに対応することは出来たんですけど、それってどうなんだろうなと。もうちょっと自分の感情ってないのかなって。これで良かったのかな?と思ったんですよね。常に本気でやっていたつもりでいたんですけど、もっと自分の内側のエグいところを掘り返せていたら良かったのに、いろいろ削り慣れてしまって、すっかり丸くなっちゃっていたなって。

--自分を見つめなおしたことで「このままじゃダメだ」と思えたと。

SWAY:コロナ禍によるダメージはデカかったし、キツかった部分はあったんですけど、35歳という区切りの良いところで立ち止まって、自分を見つめなおせて良かったです。凄い経験をたくさんしていたはずなのに、何も感じない自分になってしまっていたので。でも、ステイホームになったことによって、例えば、初めて自分の家のちいさなベランダにヨガマットを敷いてオリオンビールを呑んでいるときに「こんなに楽しいんだ」と思ったり(笑)。そのときに初めてちゃんとレゲエを聴いたんですよ。パーティーチューンでもなければ、ニューヨークの新しいヒップホップでもなく、ボブ・マーリィを聴きながらオリオンビールを呑んで、いつもリビングから何も感じず見ていただけの外の光景をゆっくり眺めていたら「ここにヒントがたくさんあったじゃん!」みたいな。我が家にまだまだたくさん掘れるモノがあったんだなって。それに気付けないぐらい、すげぇ浅く過ごしちゃっていたんだなと思いました。

SWAY『Stay Wild And Young』インタビュー
アルバム『Stay Wild And Young』通常盤

--でも、そこで気付くことができたんですね。

SWAY:2020年は本当にたくさんのことに気付かされました。家族を持とうと思えたのも2020年でしたし、自分のことを見つめなおしたことで、音楽を改めてすげぇ好きになりました。以前は「音楽をやっているから」という理由で新譜をチェックしなきゃと思って聴いていたんですけど、今は「音楽が好きだから」いろんな音楽を聴くようになったんですよね。好奇心を持って、聴きたいから聴く感覚になっていて。

--それもまた大きな変化ですね。インプットの仕方が変われば、アウトプットされるモノも変わっていくわけで。

SWAY:そうなんですよね。変化と言えば、2021年にツアーを再開できたんですけど、それまで自分はイヤモニをずっとしていて。イヤモニって音を聴き逃さなかったり、タイミングを逃さなかったりする為の安心材料になるんですよ。でも、それをぜんぶ取っ払おうと思って「イヤモニしない」と決めたんです。何故なら、ちゃんと音楽を空間の中で感じたかったから。余韻とかも含めて。以前の自分は「余韻なんて別にいらないし、絶対に完璧なライブをする」という考えに特化していたんですけど、2020年のいろんな気付きによって「ツアーをまわれるって凄いことなんだな。有り難いことなんだよな。だから、ひとつひとつのライブをしっかり体感したい」と思えたんですよね。

--ここまでの話を聞いていて思ったんですけど、きっと自由になれたんでしょうね。

SWAY:そうですね! 自由になれた感覚はあります! ゆえに不自由さも楽しめるようになれたというか、エアモニがあればぜんぶ完璧に聴こえるし、自分のやるべきことに集中できるし、声を張りすぎないで済むし、プラスの要素がたくさんあるんですよ。でも、エアモニを外すことで、いろいろ不自由にはなるんですけど、生きている実感を得ることができる。また何かきっかけがあってエアモニするようになるかもしれないですけど、今は「こうじゃなきゃいけない」という考えに捕われなくなった。ミスしたとしても、それが味になったりするだろうし、あんまり恐れないようになりましたね。

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2021年のツアーでファンと再会「涙が出るほど嬉しかったです!」

--不自由さすらも楽しめる自由を手に入れたんですね。

SWAY:ただ、不自由さで言ったら、本当に無観客ライブは嫌いですね(笑)。無観客ほど緊張するものはないです。目の前にひとりでもファンの人がいてくれる。極端に言えば、誰でもいいから音楽を聴きに来ている人がいるだけで全然違うんですよ。オンラインでもレンズの向こう側に聴いてくれる人はいるんですけど、お客さんと目と目をちゃんと合わせられることが何より重要で。なので、今までがどれだけ有り難い環境だったか。それは痛感しました。無観客の配信ライブは何をやっているのかよく分かんないし、そもそも正解が分からない。だって、リハーサルと本番とまったく環境が変わらないんですよ? なのに、すごく緊張するんです。5秒前のカウントがあんなに怖いのかって。もうやりたくないです(笑)。

--では、2021年のツアーでファンと再会できたときは……

SWAY:涙が出るほど嬉しかったです! 心の底から「ありがとう!」と思いましたよ。この1,2年は本当にいろんなことを考えさせられましたし、いろんなことに気付かされましたね。

--SWAYさんは「人生はヒップホップでありたい」と思いながら活動しているわけですけど、それだけ濃厚な人生を体験してから放たれるニューアルバム『Stay Wild And Young』が傑作じゃないわけがない。

SWAY:ハハハハ!

--自身では、どんな作品になったなと感じていますか?

SWAY:家族を持ったことによって第二の人生が始まって。普通に考えたらディフェンスにまわりそうなタイミングだと思うんですけど、表現者として、ひとりのアーティストとしてはこれからも攻めの姿勢でいたいし、息子ができたことによって、父親としての背中を見せていく上でもオフェンスでありたいなと。この歳になって家族ができた今だからこそ、改めてアルバムに込めたい想いがたくさんあるなとも思ったし、引き続きワイルドであり、ヤングであり、超オフェンスモードで攻めていく。それが今回のアルバム『Stay Wild And Young』のテーマ。

SWAY『Stay Wild And Young』インタビュー
アルバム『Stay Wild And Young』初回限定盤

--守るべきものができたからこそ、さらに攻めていくと。

SWAY:いくつになっても格好良い先輩がたくさんいて、そういう先輩に憧れてきた自分としては、やがて今の先輩たちの年代になったときに「自分はもっと上に行っていたい」という気持ちもありますし、年上や同世代のファンの人たちが自分の音楽を聴いて「ヤバい。自分もまだまだやんなきゃいけない」と思ってくれたら嬉しいですし、「こういう大人になりたいな」と思ってもらえたらなって。僕自身もまだまだ子供ではあるんですけど、そういう影響を与えられるアルバムになっていたらいいなと思いますね。

--SWAYさんの人生を乗せたアルバムですからね。

SWAY:例えば「Angels」という曲は亡くなった母親のことを歌っているんですけど、僕はひとりっこで、きっとお医者さんになるよりも難しい、音楽で夢を追い続ける人生を歩ませてくれた親に感謝しているんです。やりたいことをやらせてあげるって簡単なことじゃないと思うんですよね。自分にも息子ができて、毎日お風呂に入れたり、ミルクをあげたりして育てている上で「俺もこうしてもらっていたんだな。子供ってこんなにかわいい存在なんだな。自分の母親もこんな風に思っていたんだろうな」と分かってきたことによって、ここまで育ててもらったことへの感謝の気持ちが今すごく溢れていて。なので、これからツアーでも「Angels」は披露していくと思うんですけど、冷静には歌えないだろうなって。オンラインライブでもやったんですけど、キツかったんですよ。それだけ母親の偉大さに気付いてしまったので。なので、涙腺をトレーニングしないとダメですね(笑)。

--「Angels」はもちろん、今回のアルバム『Stay Wild And Young』は純度がとてつもなく高いので、人生そのものを本作を携えたツアー【SWAY LIVE TOUR 2022 ”Stay Wild And Young”】では体現していくことになるわけじゃないですか。とんでもないライブになりそうだなって。

SWAY:今度のツアーに対して今考えていることは、前回のツアーが「DOBERMAN INFINITYにないモノをやる」というコンセプトだったんですよね。なので、DOBERMAN INFINITYではやらないダンスを取り入れたりしたんですけど、今回のアルバムのツアーはそういう考えは取っ払って、シンプルに音楽に特化したいなと。生の音楽、生きている音楽をどんどん届けたいから、ソロのときは一緒にやらせてもらっているDJ KEKKEくんと1MC1DJで臨もうと思っているんです。KEKKEくんがミスしたらライブも止まっちゃう、そんなシビアな状態でチャレンジしたいなって。

--アルバム同様にツアーも攻めの姿勢でお届けするんですね。

SWAY:今回のアルバムでも新しい夢について書いているんですけど、当面の僕の目標は、10代からクラブシーンで一緒に活動してきたKEKKEくんとふたりでいろんなところを回ることなんですよ。今や日本でトップクラスに呼ばれるDJになったKEKKEくんと、2枚目のアルバム『Stay Wild And Young』で伝えたいことをしっかり表現できた自分とで、DJとMCという違うジャンルではあるんですけど、同じヒップホップアーティストとして、ふたりで日本中の小さいライブハウスでもクラブでも絶え間なくライブしていきたいんですよね。

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--DOBERMAN INFINITYで武道館公演やアリーナツアーが実現できたこそ、芽生えた夢でもあるんですかね?

SWAY:武道館もアリーナツアーもDOBERMAN INFINITYで達成した夢なので、そこからソロとしてもKEKKEくんと自分たちの音楽を磨き上げて、もうひとつふたつステップアップして「このセットリスト、最強じゃない?」というライブを創り上げたときに武道館とか目指せられたらと思っています。。

--では、良い意味で、DOBERMAN INFINITYとソロのSWAYはライバル関係にあったりもする?

SWAY:常に牙は剥きたいですよね。アルバム『Stay Wild And Young』にもそういう意思は込められているので、DOBERMAN INFINITYのメンバーに「お、咆えとんな!」と思ってもらえたら嬉しいですね。これまでは、DOBERMAN INFINITYは捲くれないなと自然と思っちゃっていたんですけど、今は「捲くりたい」と思うようになった。ずっと5人の夢として武道館とアリーナがあったんですけど、それはもう叶えさせてもらったんで、「中途半端にソロやってないですよ」というところをメンバーにも見せつけたいし、「アイツ、やったな」って言われるようになりたいですね。

--良い関係性ですね。あと、今回のアルバム『Stay Wild And Young』が完成するまでの3年半は、SWAYさんにとっても激動だったと思うのですが、日本のヒップホップシーンにとっても激動だったじゃないですか。劇的にリスナーが増えて、完全に市民権を勝ち取りましたよね。

SWAY:本当に急成長ぶりが凄いですし、リスナーの耳も欲しているじゃないですか。その中でいろんなスタイルも増えてきて、フリースタイル的なヒップホップもあれば、US感ある楽曲をしっかり聴かせるヒップホップもあれば、BAD HOPや舐達麻みたいに本当に厳つい人たちも台頭してきているし、ライフスタイルと音楽の両方がリスペクトされて上がってきている人たちもいるし。ただ、そうなってくると「じゃあ、自分はどうなんだろう?」ということは常に考えるようになりますよね。DOBERMAN INFINITYは5人で作っているものですけど、ソロのSWAYは自分でちゃんと色付けしたいと思いますし。なので、なおさら今回のアルバムにどういう反響があるのか気になりますね。

SWAY『Stay Wild And Young』インタビュー

--本人的には『Stay Wild And Young』でどんなヒップホップが提示できたなと思っていますか?

SWAY:僕は出立てのカニエ・ウェストやザ・ネプチューンズ、ルーペ・フィアスコの音楽を聴いて「こういうヒップホップなら、俺のライフスタイルにもフィットするな」と思ってキャリアをスタートさせたので、その影響は今回のアルバムにも根付いているし、やっぱりこういうヒップホップが日本でもメインストリームになってくれたら嬉しいなと思っていて。

--なるほど。

SWAY:先日、Netflixにカニエ・ウェストのドキュメンタリーがアップされましたけど、ギャングスターや刑務所上がりじゃないとラッパーとして売れないと言われていた時代にカニエは出てきて、元々ちゃんとしていた子がヒップホップスターの一員になったわけで。そういう生き様を見ていると「こうじゃなきゃいけない」という概念をどんどん壊していくことがヒップホップなんじゃないかなと思うんです。僕の場合は、DOBERMAN INFINITYだったり、LDHだったり、いろんな印象があった上で聴く人たちもいると思うし、どんなフィルターを通して今回のアルバムが聴かれるか分からないんですけど、いずれにしても、メインストリームの一員になれたらなって思いますね。これが僕にとってのヒップホップのど真ん中なので。

--今回のインタビューを通して、今回のアルバム『Stay Wild And Young』はあらゆる面で大きなターニングポイントになりそうだなと思いました。そこで伺いたいのですが、これからどんなヒップホップ人生を歩んでいきたいと思っていますか?

SWAY:音楽シーンにSWAYという一本の柱を立てること。これが目標であることは大前提なんですけど、今までタブーと思われてきたことや「いや、出来ないでしょ」と言われてきたこと。それをひとつでも壊せたらなと思っています。先駆者とまでは言わないですけど、自分は役者もやって、デザインもやって、もちろんラップもやっていて、そんな日本のヒップホップアーティストはなかなかいないと思っているんで、役者としても、デザイナーやクリエイターとしても柱を立てていく。これは誰もやれていないことかなと思うんで、そこはクリアしたいですね。実現できたら、それがまた誰かの夢になっていくと思うし。

--新しい道を開拓することになるわけですからね。

SWAY:今まで「おまえ、何がやりたいの? そんな中途半端じゃ何も成し遂げられねぇよ」みたいなことを散々言われてきて。でも、その度に「俺は全部やりたい」と答えて来たんです。だからどれも中途半端では終わらせないし、しっかり3本の柱を立てて「いや、出来ないでしょ」みたいな概念をぶっ壊したいですね。

Interviewer:平賀哲雄

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