2012/09/11 23:50
数々の名曲を共作した盟友の作詞家、ハル・デイヴィッドの死去(享年91歳)という悲しいニュースが届いてからわずか一週間余。バート・バカラックにとって初めてとなるこの夜のライヴは、彼自身による追悼の言葉と「このステージをハルに捧げる」というMCで幕を開けた。
ステージ中央にはバカラックとグランドピアノ。それを取り囲むように、女性ヴァイオリニスト、2人のホーンとキーボードにドラムとベース、男性1人、女性2人のヴォーカリストという総勢11人で繰り広げるゴージャスなショーは、3人が交互にワンコーラスずつ代表曲を歌い継ぎながらテンポ良く進んでいった。とりわけ前半は「小さな願い」(アレサ・フランクリン)、「恋よさようなら」「サンホセへの道」(共にディオンヌ・ワーウィック)「遙かなる影」(カーペンターズ)といったハル・デイヴィッド時代のヒット名曲をメドレーで演奏し、一気にバカラック・ワールドに引き込んでしまう構成が鮮やかだった。中でも感心したのはバカラック・サウンドの要であるオーケストラ・パートを、サンプリング・キーボードによるストリングスを交えながら過不足なくスマートに再現していたのが聴きものだった。
そしてライヴの後半は、バカラックのもう一つの功績“映画音楽メドレー”で、ここではもうかつての美声こそ聴けないものの、年輪を感じさせるしゃがれ声が胸に染みた「ザ・ルック・オブ・ラヴ」、「アルフィー」等、滋味溢れる歌声が強く印象に残った。またそんな演奏の合間のMCに続き、客席に語るように即興で歌詞を付けて歌ったりする茶目っ気も見せれば、ライヴ終盤には80年代に数々のヒット曲を共作(映画『ミスター・アーサー』の主題歌「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」等)した元妻のキャロル・ベイヤー・セイガーについてその才能を褒め称えるなど、小粋なジェントルマン振りはいかにもバカラックらしかった。
そんな演奏を聴きながら今回改めて気付いたのは、彼が生み出したメロディには共通する人間的な温もりと聴き手の感情に直接訴えかける静かなエモーションがあり、また20世紀後半という時代の中で生まれた曲ならではの幸福なノスタルジアと共に、永遠に古びることのない洗練されたモダンニズムも兼ね備えているということだった。そしてそれこそが20世紀を代表するアメリカの偉大な作曲家として、コール・ポーターやジョージ・ガーシュウインと共に、バート・バカラックが並び称される最大の理由なのだろう。
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