2016/05/29 12:00
まるで風物詩のように、夏になると聴こえてくるジョイスの歌声。ブラジルを代表するシンガー、ジョイス・モレーノは、芸歴50年を数えるほどのベテランだ。しかし、今もなお誰もが認める現役であると同時に、常に新しい作品に挑戦していることでも知られている。しかも、コンスタントにニュー・アルバムを発表することもあって、目が離せない存在なのだ。
そしてこの度発表された新作『ポエジア』でも、新しいトライを行っている。本作は、ジャズ・ピアニストのケニー・ワーナーとの完全デュオ作。ケニー・ワーナーは、ニューヨーク出身で、ジョー・ロバーノやマーク・ジョンソンなどとの共演でその名を轟かせた凄腕だ。ジョイスとは90年代初頭に共演し、家族ぐるみの親交をあたためてきたという。しかし、がっつりと四つに組んだ作品は今回が初。まさに、熟練同士で息をぴったりと合わせた親密な作品なのだ。
聴きどころは、リリカルな表現が見事なピアノと艶やかな歌声の融合だろう。歌とピアノ以外の楽器は一切入っていないだけに、呼吸や間合いまでも音楽へと昇華されている。そして、オリジナル、ブラジルの名曲、世界中のスタンダードといったバラエティに富んだ選曲ながら、すべてが同じトーンでしっとりと聴かせてくれるのだ。ブラジルの楽曲は、アントニオ・カルロス・ジョビンの「オーリャ・マリア」やエドゥ・ロボ「さよならを言うために」といった通好みのナンバーが中心。もちろん、いずれもジョイスらしいクールな雰囲気で歌い上げていく。
しかし、さらに興味深いのはよく知られたスタンダードだ。「マッド・アバウト・ザ・ボーイ」や「サム・アザー・タイム」といったジャジーな作品はケニーのピアノが安定の輝きを見せるし、ジョアン・ジルベルトのヴァージョンでお馴染みの「エスターテ」のノスタルジックな世界観も絶品。そして、誰もが知っているチャップリンの名曲「スマイル」やスコットランド民謡の「ザ・ウォーター・イズ・ワイド」といったメロディを、デュオで奏でることによって新鮮な響きを作り上げている。ブラジルらしいリズミカルなジョイスもいいが、ピアノと真正面から向き合ったダイアローグもまた格別で、いつもとは違う彼女の魅力に気付く美しい逸品だ。
Text:栗本 斉
◎リリース情報
『ポエジア』
ジョイス・モレーノ&ケニー・ワーナー
2016/05/25 RELEASE
2,592円(tax incl.)
関連記事
魅惑のハーピスト=メアリー・ラティモアが紡ぐ、“マジカルでファンタスティック”な音世界(Album Review)
アディティア・ソフィアン ベッドルームから飛び出した新たな一歩『シルヴァー・ペインティッド・レイディエンス』(Album Review)
ブラジル特有の躍動感とデュオならではの繊細な味わいを持ち合わせた画期的な傑作『CORES VIVAS』(Album Review)
ソフト・サイケデリックな世界に溺れる…これ以上ないほどにドリーミーなジョルジオ・トゥマの最高傑作(Album Review)
時代を超えて普遍的な響きを保ち続けたジュリエット・グレコからの“メルシー”(Album Review)最新News
関連商品
アクセスランキング
1
【ビルボード 2025年 年間Top Lyricists】大森元貴が史上初となる3年連続1位 前年に続き5指標を制する(コメントあり)
2
Billboard JAPAN 2025年年間チャート発表、Mrs. GREEN APPLE/Snow Manが首位
3
【ビルボード 2025年 年間Top Albums Sales】Snow Manがミリオンを2作叩き出し、1位&2位を独占(コメントあり)
4
【ビルボード 2025年 年間Download Albums】Mrs. GREEN APPLE『10』大差で1位、Number_i/サザンが続く
5
【ビルボード 2025年 年間Hot Shot Songs】米津玄師「IRIS OUT」が首位、HANA 5曲入り
インタビュー・タイムマシン







注目の画像














