2016/04/24 12:00
女性ヴォーカルと男性ベースによるデュオ編成。普通だとありえない組み合わせのスタイルと思うだろうが、これがとんでもなく独創的で素晴らしい。けっしてトリッキーではなく、しっかりとポップな音楽として成立しているのだから。
ブラジルのサンパウロを拠点に活動するヴァネッサ・モレーノとフィ・マロスティカ。彼らは公私共にパートナーでもある。もともとはバンド編成で活動していたのだが、音楽祭に出演する際にメンバーが集まらず、仕方なく歌とベースでステージに立つことになった。その結果、逆に目立つことになり賞までもらったという、まるで冗談のようなエピソードとともに正式に活動することになった。
彼らの演奏は、たんなる歌とベースというイメージとはかなり違う。フィのベースはリズムをキープしながらも、縦横無尽にドライヴする。ギターやパーカッションのように響かせる技も繰り出し、音響的にウッドベースの限界に挑戦している。とはいえ、フュージョン的にテクニックに走るのではなく、あくまでも楽曲を引き立てるためのプレイに徹しているのが特徴だ。加えて、ヴァネッサはヴォイス・パーカッションやスキャットを駆使することでサウンドの補強を行い、その上で伸びやかな歌声でメロディを奏でていくのだ。一歩間違えば曲芸的で危うい演奏になりそうだが、なんの無理もなく調和しているのがすごい。
本作『CORES VIVAS』は、ブラジルMPB界のスーパースター、ジルベルト・ジルの楽曲をカヴァーした企画作。バイーアの土着的なリズムを多用したジルの楽曲は、パーカッシヴな味わいが特徴なので、ミニマムな編成だと演奏は難しいはずだ。しかし、原曲の特徴をしっかりとつかみながらも、まるでヴァアネッサとフィのオリジナルのように自然な形でアウトプットしている。ブラジル特有の躍動感を表現しながらも、デュオならではの繊細な味わいも持ち合わせた見事な演奏が続く。フォーマットだけ見るとかなりの異色作ではあるが、ここまでナチュラルに披露されると、この編成自体が当たり前のように思ってしまう。そういう意味でも、かなり画期的な傑作であるといえるだろう。
Text:栗本 斉
◎リリース情報
『CORES VIVAS』
ヴァネッサ・モレーノ&フィ・マロスティカ
2016/03/20 RELEASE
2,570円(tax incl.)
関連記事
バリ島に思いを馳せながら、夢の世界へ…日本屈指のミュージック・トラヴェラーが贈る洗練されたサウンドスケープ(Album Review)
ソフト・サイケデリックな世界に溺れる…これ以上ないほどにドリーミーなジョルジオ・トゥマの最高傑作(Album Review)
アルゼンチンの女性SSWメリー・ムルーアが奏でる牧歌的ながら洗練された音世界(Album Review)
Album Review: コルシカ島の無伴奏コーラス=ア・フィレッタの斬新な世界観を垣間見れる傑作『カスッテリ』
Album Review: マラヴォワの長いキャリアで培われた技とフレンチ・カリビアンの心地よさに身を委ねる『オリウォン』最新News
関連商品
アクセスランキング
1
【ビルボード 2025年 年間Top Lyricists】大森元貴が史上初となる3年連続1位 前年に続き5指標を制する(コメントあり)
2
Billboard JAPAN 2025年年間チャート発表、Mrs. GREEN APPLE/Snow Manが首位
3
【ビルボード 2025年 年間Hot Shot Songs】米津玄師「IRIS OUT」が首位、HANA 5曲入り
4
【ビルボード 2025年 年間Download Albums】Mrs. GREEN APPLE『10』大差で1位、Number_i/サザンが続く
5
【ビルボード 2025年 年間Top Albums Sales】Snow Manがミリオンを2作叩き出し、1位&2位を独占(コメントあり)
インタビュー・タイムマシン







注目の画像