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2026/06/24 18:00

<ライブレポート>FINLANDSが7都市を巡った【一生涯TOUR】完結、あたたかな慈愛に包まれた一夜

 一生涯の中で、ひとりの人間が無数の愛を一身に受けている瞬間を目撃する機会は滅多にない。6月13日の東京・LIQUIDROOMで行われたFINLANDSのツアーファイナルは、その光景に立ち会うことができた稀有な機会であった。

 愛や恋には分類できない祈りのような慈しみを歌った「月にロケット」から、反骨心を叩きつける「バラード」まで、感情の振れ幅が凄まじい夜だった。その一方で印象的だったのは、塩入冬湖が終始、安心感に包まれていたことだ。FINLANDSの楽曲とは塩入の記憶の断片であり、彼女が生きるなかで得た実感を元に作られたドキュメンタリーである。そこに刻まれている思いや出来事は、塩入の歌と豊かなバンドアンサンブルに乗ることで、再び生きた感情として立ち上がっていく。そうして、披露された全21曲には健やかに生命が宿っていった。演奏されるなかで、楽曲は無邪気に表情を変えていく。「ラヴソング」の<ひとりドラマチック楽しんでいてね>という皮肉めいた一節も、突き放す言葉としてではなく「あなたはあなたで楽しめますように」というあたたかな願いとして聴こえてくる。この夜に鳴らされた1曲1曲は、ステージの中心に立つ彼女自身を慈愛で包み込んでいた。

 そして、この【一生涯TOUR】において、前述したような光景が見られたのはなぜか。その根拠は、ライヴ後半の「エンドロールタイマー」演奏前のMCに明確に表れていた。

 「私たちはもう、自分の親だったり子供だったり、周りにいる人だったり恋人だったり、何かを守っていく側の人間になったんだなって思うんです。子どもと一緒にいるとより思います。この子がいつか誰かのことを守る側の存在になったときに、じゃあこの子を守ってくれるものは何なんだろうなって思うんです。私にとってそれは何だったっけと思い返したとき、私は『記憶』だなと思いました」

 塩入を守る記憶は、FINLANDSの楽曲を通して確かにステージ上で鳴っていた。その音に包まれる空間は、塩入自身にとっても、場を共有する私たちにとっても非常に心地よいものだった。記憶とは本来、完全に同じ形では再現できないものだ。故に、他人とすべてを共有することは難しい。ただ、記憶をパッケージした曲をステージ上で歌い鳴らすことで、この記憶は確かにあったのだと言い張ることができる。観客はその様子をしっかりと見届けるように、一人ひとり地に足をつけてステージを見つめている。大人たちが大半を占めるフロアは、曲に想いを馳せては、これは塩入の話なのだと立ち返ることを繰り返す。精一杯の慈愛を目撃した私たちは、これから自分が何に守られて生きていくべきかを考える。そこにいる観客とFINLANDSが対話をするような夜だった。

 時刻は18時過ぎ。ノイズを帯びた電子音が少しずつ暗闇に混じり、そこに集うように音が重なっていく。FINLANDSの楽曲はとても豊かな色彩で溢れているからこそ、この日の照明は1曲1曲のイメージを忠実に再現したカラフルなステージを作り上げていたが、登場はシンプルなホワイトのフラッシュライトだ。ここから色づいていく予感を漂わせながら、ライヴは未発表の新曲で幕を開ける。続く2曲目でも別の新曲を畳み掛け、冒頭から先の読めない展開で観客を驚かせる。その流れには、予定調和を好まないFINLANDSの芯が貫かれていた。以前、「歌詞には気に入った言葉しか置いておきたくない」と話してくれた塩入の歌詞には、一聴で印象を焼きつける強度がある。鮮烈なギターロックが一瞬止んだ隙間に、芯の通った歌がまっすぐに響く。フロアを一気に掴んだところで、「COME」の重たいビートへ流れ込んでいく。

 「自分を救えるのは自分だけです。どんなに救われたいと願っていても、手を伸ばさなければ救われません。救われたいんだったら、助けて欲しいんだったら、手を伸ばさないと。救いは自分の中にしかありません。今夜は全員で救われにいきましょう」

 予測のできない展開でツアーファイナルがスタートしたなか、前に向かって手を伸ばすフロアはまさに「COME」に含まれるメッセージを体現しているようだ。4カウントから「HEAT」が始まり、会場は体温のあたたかさを思わせるオレンジの光に包まれる。Cメロ終わりで塩入の歌は歪みを上げ、それを受け止めるように彩(Ba)が塩入の目を見て音を鳴らす。FINLANDSは現サポートメンバーの体制になって約7年が経つが、こうして生まれる一体感も、冒頭で述べた塩入を包む安心感が生まれている理由のひとつだろう。

 「全員が楽しいと思える夜を作れるんじゃないかって、私は私に期待しています」と自分にプレッシャーをかけたうえで、余裕綽々で「割れないハート」のタイトルコール。その姿勢から<期待はやめないさ 正当な明日の先で/あなたにわたしはもう傷ついてあげない>という歌詞に説得力が宿り、塩入のブレない軸が浮かび上がる。ここからの5曲では、曲の世界観を彩るMCが演奏前に配置されることで、さらに没入感を高めていく。「ろくでもない、でも大切な思い出の歌」という言葉を合図にして鳴らされたポップなギターロック「しょせんの二人」、言葉にできなくても心がときめくなら<なんか いい だけが理由でいいじゃない>と歌う「ナイトシンク」。今回のツアータイトルにもなっている一生涯には、うれしいことや悲しいことだけではなく、自分にしかわからない形容し難い感情も含まれている。それを「私の場合はこうだった」と、ここまでの2曲を通じて自己開示し、観客もそれを受容する。そうして心の隙間を覗いた後に鳴るエッジの効いたロックナンバーの「ラヴソング」で、場の空気は一気に打ち解けていく。

 続く「あそぶ」のアウトロで深く潜った後、波紋のように反響するギターリフの中で「夜にテーマソング」の背景を語る塩入の声はストーリーテリングのようだ。曲の表情に合わせてグッと抑えた鈴木(Dr)のたおやかなビートが、恋の果てにある少しの絶望が表れた世界観を大切に守っている。曲が終わるとそこから一転、メンバー全員でこの約1か月間の【一生涯TOUR】の振り返りへ。その一部を抜粋する。

「本当にぎゅぎゅっと最高な時間だったと思うんですけど、どうでした?」(塩入)
「あっという間すぎてちょっと記憶ないぐらいかな。野球も行ったし」(彩)
「そうだね、野球行ったね。けっこういろんなことしたんじゃない? このツアー」(塩入)
「……………………」(彩)
「野球行ったぐらいだ?(笑)」(塩入)
「あと、一生懸命ライヴしてた」(彩)
「何かねえ……楽しかったなあ……覚えてねえなあ…………」(澤井/Gt)
「みんな年もあってかあんまり覚えてない(笑)。じゃあ私が何があったんだって言われたら本当にライブ以外何も思い出せないんですけど、それぐらいすごい楽しいツアーだったなと思います」(塩入)
「俺、けっこういろいろ行きましたよ。小樽行った。なんかね、鳥の唐揚げが食べれるんですよ」(鈴木/Dr)
「それ聞いた瞬間に『どこでも食えるじゃん!』って言っちゃったもん。そんなこと言ったら元も子もないよね」(塩入)
「有名なヤツがあるんですよ。すごい美味しかったです。あとは、武道館2があった」(鈴木)
「武道館1が九段下ってこと? で、武道館2が小樽にあったってこと?」(塩入)
「そう、看板が出てて。全部英語でBUDO-KAN2って。行けてうれしかった」(鈴木)

 ゆるやかなサポートメンバーと塩入の掛け合いで親近感が生まれるのもFINLANDSの魅力だ。「ライヴがしたいっていう気持ちが、ステージ上に立っていてもずっとある」という塩入の話から、その熱量を増幅させるように「Silver」へ。塩入は髪を振り乱してギターを掻き鳴らし、澤井のギターは中盤のソロで叫びを上げる。この曲でエネルギーを限界まで貯め、<不快な世界>への憤りを込めた「Balk」を最大出力で鳴らす。あふれた勢いは止まることなく、唸るギターの余韻からそのまま疾走感いっぱいに「UNDER SONIC」が生まれていく。ここまでの3曲の流れは、コロナ渦の葛藤を経てリリースされた2021年のフルアルバム『FLASH』の曲順をそのまま引き継いでいることもあり、当時の空気感が重たくステージに顕現していた。

 その後、静寂を経てから塩入は両手を広げ、「私は、ツムツムをやってるの。みんなはツムツムを知ってる?」と呼びかける。あまりに不意打ちの告白にフロアでは笑いが起こり、先ほどまでの緊迫感が解けていく。ツムツムのランキングに塩入の元恋人が急にランクインしてきた話から、根源的な慈しみを歌う「月にロケット」につなぐトークには塩入の論が通っていて、会場は気づけば切なくもあたたかい空気に包まれている。生活の中にある小さな出来事から、ふと生まれる想いを掬い上げるところにもファンは惹きつけられるのだと思う。<幸せだったな>という言葉は、同じ時間を共有したという事実をただ抱きしめるように響き、<あなたが涙に愛されることなく/生きれるように>と歌う塩入の姿には、まるで子どものような無垢な祈りが感じられた。続く「オーバーナイト」ではその祈りを共有するようにやわらかなシンガロングが巻き起こり、「エンドロールタイマー」へとバトンが渡される。スポットライトの中で<あなたにいつか触れられなくなってしまうわ>と歌われた後は、ホワイトのライトが淡く差し込み、フロア全体が徐々に光に満ちていく。

 その景色は、続く<それでも美しい日々はくる>という言葉に説得力を与えていた。そこに「リピート」が続き、<愛していたい><意味はなくていい>と歌われることで、「月にロケット」からここまでの祈りの始点にあるのは、あくまで自分自身なのだとわかる。誰かに捧げることを目的とせず、意味がなくとも自分の中にある気持ちから自然にあふれ出たその祈りは、どこまでも純度が高い。音が止んだ瞬間に、客席からはあたたかい拍手が上がる。この夜を象徴する神聖な時間だった。

 その後、今年の秋に東名阪で行われる企画ライヴ【娯楽'26】の開催を宣言し、東京編ではZepp Shinjukuでのワンマンライヴ、名古屋/大阪編では彩がBaとして所属する、再始動したWHITE ASHとの対バンを行うことを発表。まさかの共演に歓声が上がったところで、ライヴはラストに向けて一気に加速していく。

 「私たち自身が自分の心に似合った心で過ごしていければ、また一生涯のうちのたった一瞬の最高の夜は訪れると思います」というMCに続いて鳴った、抜けのいいギターリフと、粒立ちがはっきりとしたスネアの音が「ピース」を軽快に走らせ、このツアーの最後の時間を噛み締めるように塩入は力一杯叫びを上げる。そこから「新迷宮」へと傾れ込むと、塩入特有の空を割くような高音が幾度も突き抜ける。その熱を引き継ぐように、真っ赤なライトの中でライヴアンセム「バラード」の心踊るビートとギターリフが鳴り、FINLANDSの初期衝動を呼び覚ましていく。澤井の荒々しいギターソロでフロアは熱量を臨界点まで上げ、塩入は今日この熱量が生まれたことへの喜びを表すように、笑顔で観客の元へ駆け寄っていく。

 このとき会場に満ちていた空気は、塩入が自分にかけた「全員が楽しいと思える夜を作れるんじゃないか」という期待が、確かに実を結んだことを表していた。さらに、「バラード」の一番の見どころは、ギターソロ後に訪れる、感情が決壊するようなカタルシスにある。<お次はあんたでしょ>というセリフとともに塩入が片手で手招きすると、それに応えるように澤井がジャンプし、鈴木の豪快なシンバルとキメを合わせる。普段のライヴではなかなか見られないその躍動感と、塩入が最後にマイクを通さず「ありがとう」と零したこと。そのふたつが、この夜が特別なものであったことを顕著に物語っていた。そして、このツアーの最後を飾るのは、澄んだ空気を纏うバラード「まどか」だ。FINLANDSのライヴにはアンコールがない分、塩入の最後の言葉にはより重みが宿る。

 「どんなに景気が悪くても、どんなに楽しいことがなくても、明日が最悪でも、明日の授業が楽しくなくても、会社が最悪でも。どんなにぐちゃぐちゃの中でも、今日、どんなに汚い部屋の中でも、あなたと眠りにつくことができるんだったら、私にとってそれ以上に最愛の日もないと思う。そういう穏やかで当たり前で、そこらじゅうにある、まどかなる日々を私たちはかき集めて必死に生きていきます。あなたたちもきっとそう。またその先で、まどかなる日々の先で会いましょう」

 「まどか」演奏後、FINLANDSは静かに去っていく。徐々に音の波が引いていき、フロアには祝福のような拍手があふれる。言葉にできない感情や悲しみや怒り、ろくでもない出来事から根源的な愛情まで、一生涯に含まれるものはあまりにも多い。たとえ一貫性がなくても、ぐちゃぐちゃであっても、一つひとつの記憶は私たちの中に確かに存在している。その記憶を携えて、私たちは何に救いを求め、何を最愛として生きていくのか。そんなテーマをもとに、「塩入冬湖の場合」を鮮明に観ることができた夜だった。

Text:小野朝美
Photo:endo rika、小野正博


◎公演情報
【一生涯TOUR】
2026年6月13日(土)
東京・LIQUIDROOM

◎公演情報
【娯楽'26】
2026年11月4日(水)
愛知・ell.FITS ALL
GUEST:WHITE ASH

2026年11月5日(木)
大阪・Live House ANIMA
GUEST:WHITE ASH

2026年11月22日(日)
東京・Zepp Shinjuku
※ONEMAN LIVE

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