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2022/12/08

<ライブレポート>鈴木雅之、35周年を飾る充実のオーケストラコンサート

 今年ソロ・デビュー35周年を迎えた鈴木雅之が、5年ぶりとなるオーケストラコンサート【鈴木雅之 Premium Symphonic Concert 2022 featuring 服部隆之 ~DISCOVER JAPAN DX~】を全国5か所で開催。そのセミファイナル、11月29日東京文化会館公演を観た。

 今年2月に発売した、「DISCOVER JAPAN」シリーズ過去3作品から厳選したナンバーに加え、新録音曲+シリーズ以外で歌ってきたカヴァー曲で構成された集大成カヴァーベストアルバム『DISCOVER JAPAN DX』を発売。今回はこのアルバムからさらに厳選した楽曲をもとに、同アルバムのサウンドプロデューサーであり、鈴木の最強のパートナー・服部隆之の指揮によるシンフォニックツアーだ。

 この日の東京地方は夕方から冷たい雨と風が吹きつけるという生憎の天気だったが、会場の東京文化会館に一歩足を踏み入れると、鈴木にとっては2017年にイタリアのオーケストラ・ディ・ローマとのコンサート以来のフルオーケストラでのコンサート、さらに「DISCOVER JAPAN」シリーズの集大成、そんな意味合いを持つコンサートへの期待感から生まれる熱気で満ちていた。

 東京フィルハーモニー交響楽団とバンド、コンサートマスター室屋光一郎が拍手に迎えられステージに。ひと際大きな拍手に迎えられ、指揮の服部隆之が登場。オーケストラの旋律が流れてくる中、オレンジのジャケットで決めた鈴木が颯爽と現れ、オープニングナンバーはYOASOBIの「怪物」だ。

 “ラヴソングの王様”・鈴木が「2020年代のラヴソングという意味で群を抜いていると思う」と語っている令和を代表する一曲だ。ミステリアスで、サスペンスの肌触りが印象的な服部のアレンジが、中毒性のあるメロディをさらに際立たせる。色香が薫る鈴木のヴォーカルと、約70人が奏でるサウンドと手拍子がひとつになり、まるで地響きを立てながら怪物が迫ってくるような迫力だ。一転、「接吻」(オリジナル・ラブ)は甘くて煌びやかなアレンジで、ソウルフルな鈴木の歌声が、曲の中に漂う甘く力強い香りを掬い上げる。

 「オシャレな街・上野にやってきました」。クラシックの殿堂・東京文化会館に立つ鈴木はどこか誇らし気だ。2011年の東日本大震災をきっかけに、多くの人に元気になってもらおうと“今こそ歌う「日本のうた」再発見”をテーマに、オーケストラ・アレンジで制作されたカヴァーアルバム『DISCOVER JAPAN』。「一枚目を作ろうと思った時、一緒にやるのは数々の“日本の歌”を作り上げてきた服部良一さん、克久さんのDNAを受け継ぐ隆之の顔しか思い浮かばなかった」と、シリーズを共に作り上げた盟友・服部隆之を紹介。服部は客席に「芳醇にしてリッチな時間を楽しんでください」とメッセージを贈った。

 鈴木は「デジタルな世の中だからこそ日本の名曲を生のオーケストラで届けることが出来るなんて最高」と語り、この日の会場に足を運んだ、多くの昭和生まれのファンの心に残っている名曲の数々を披露。そういう意味ではやはり令和の名曲「怪物」は“異質”かもしれないが、<強く強くなりたいんだよ 僕が僕でいられるように>という強いメッセージを湛えたこの歌を、今届けるべきだという、鈴木のヴォーカリストとしての強い使命感のようなものを感じる。

 「ラヴ・イズ・オーヴァー」(欧陽菲菲)は昭和歌謡特有の“湿り気”あるメロディが聴き手の心を潤す。鈴木の歌は、この曲のブルースとしての要素にスポットを当てる。「熱き心」(小林旭)は、情熱的なストリングスと金管楽器の雄大な音が重なり、大滝詠一の繊細なメロディを際立たせ、鈴木が丁寧かつ力強く歌う。ピアノが国民的ソングともいえる美空ひばりの「愛燦燦」のメロディを奏でる。温もりのあるジャズアレンジに乗せ、鈴木が切々と歌う。そしてその歌を美しいサウンドがさらに表情豊かにする。誰もが知っている曲を鈴木雅之流にどう歌い、どう感じてもらえるか、DISCOVER=自分を再発見する側面を持つこのシリーズを象徴する一曲でもある。

 鈴木雅之を構成する昭和の音楽のひとつ、フォークソングの話題になり、井上陽水「東へ西へ」の一節をアカペラで歌うシーンも。そしてフォークソング隆盛時代にデビューした、鈴木が敬愛するアーティスト、オフコースの名曲「さよなら」を「シリーズには入っていないギフトです」と語り、披露。アコギのイントロから頭はアカペラで歌う。オーケストラをバックに従えながら、まずは静かにこの曲の空気を伝える。物語性を感じる間奏のアレンジも含めて、長年「オフコース・クラシックス・コンサート」の音楽監督を務めてきた、服部ならではのクリエイティビティがこの曲の世界観と、鈴木の歌の世界観を交差させ、得も言われぬ感動を作りだす。オフコースと共にニューミュージックシーンを牽引したチューリップの「青春の影」も、70年代の青春を生きた鈴木には欠かせない楽曲だ。ダイナミックなアレンジに乗せこの曲が持つ切なさを余すことなく歌に、客席では涙を流している人も。

 鈴木は「旋律の良さ、切れがあって清々しい演奏」と東京フィルとバンドの演奏を称え「ヴォーカリストとして生まれてきてよかった」と、このコンサートへの思いを改めて吐露していた。鈴木のライヴではおなじみのグッズ紹介の時間、“ジャパネット鈴木”のコーナーも服部、楽団を交えて展開する。歌とサウンドで感動させ、MCで笑わせ、エンターテイナーはオーケストラコンサートでもやはりエンターテイナーだった。

 後半はソロ、グループの代表曲をズラリと揃えた。「恋人」は優雅で力強いアレンジに乗せ、歌もいつもに増してさらにリッチな空気を醸し出す。曲がガラッと変わった感触。「め組のひと」は1983年に発売されたラッツ&スターの代表曲の一曲として、鈴木は大切に歌い続けてきた。それはファンも同じだ。イントロが流れてきた瞬間総立ちになる。オーケストラのサウンドが、ノリノリのこの曲のグルーヴをさらにグレードアップさせたような感触だ。
本編ラスト、シャネルズとしてのデビュー曲「ランナウェイ」もそうだ。約70名のオーケストラ+バンドが放つ音は、まるで壁のようなぶ厚く迫力のある、まさに“ウォール・オブ・サウンド”と呼びたくなる豊潤なサウンド。そのサウンドに乗せ、鈴木の歌がこの曲が湛えている切なさを映し出す。

 鳴りやまぬカーテンコールに応え、まず服部隆之が登場しオーケストラが「Overture」を奏でる。鈴木の代表曲を“マーチン組曲”として作り上げた。この曲も含めて、服部のアレンジはポップスの瑞々しさはそのままに、まるでベルベットのような上質な肌触りに仕立てる。「Overture」から、鈴木のソロデビュー曲で、2017年のオーケストラコンサートでも披露した「ガラス越しに消えた夏」のイントロにつながる。鈴木のふくよかな歌がクールでセンチメンタルなアレンジと交差しひとつになり、名曲がまた違った表情を見せる。

 鈴木は、4月から行なった35周年ツアーと、このオーケストラコンサートツアーで「鈴木雅之のヴォーカリストとしての思いを届けられた」と改めてその現在地を客席に向け語り、「心の中で一緒に歌って欲しい」と、ラストの「夢で逢えたら」を披露。名手・古川昌義がアコースティックギターを爪弾き、鈴木のしなやかな歌が乗り、オーケストラのサウンドが徐々に広がっていく。ストリングの音色が静かに、深くメロディと鈴木の歌に寄り添う。

 どんな場所、どんな編成でも鈴木は人を想う心を歌に託し、ひたむきに歌っている。今回、盟友である服部隆之と何度も目を合わせ、オーケストラと息を合わせ、圧倒的なサウンドをバックに歌うスペシャルなステージは、ファンへのギフトでもありヴォーカリスト鈴木雅之へのギフトでもあった。

 “アニソン界の大型新人”鈴木は、これで4作連続となるアニメ『かぐや様は告らせたい』シリーズの新作「かぐや様は告らせたい -ファーストキッスは終わらない-」のオープニング曲「Love is Show」をももいろクローバーZの高城れにとデュエットすることが発表された。そして年末の「第73回NHK紅白歌合戦」への3年連続出場も決定。35周年を迎え、まさに今充実の時を迎えている——そう思わせてくれるオーケストラコンサートだった。

Text: 田中久勝
Photo: MIKKO

◎公演情報 ※ツアー全公演終演
【鈴木雅之 Premium Symphonic Concert 2022 featuring 服部隆之 ~DISCOVER JAPAN DX~】
11月10日(木)北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru
11月16日(水)福岡・福岡サンパレス
11月22日(火)兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
11月29日(火)東京・東京文化会館大ホール
12月1日(木)愛知・愛知県芸術劇場大ホール

全公演 OPEN 17:30 / START 18:30
出演:鈴木雅之
指揮:服部隆之
管弦楽: 札幌交響楽団、京都フィル・ビルボードクラシックスオーケストラ、大阪交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団

https://billboard-cc.com/classics/martin2022/

 

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