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<インタビュー前編>鈴木雅之×服部隆之、オーケストラと挑む新たな『DISCOVER JAPAN』ツアーを語る

インタビューバナー

 今年ソロ・デビュー35周年を迎えた鈴木雅之が、5年ぶりとなるオーケストラ公演【billboard classics 鈴木雅之 Premium Symphonic Concert 2022 featuring 服部隆之 ~DISCOVER JAPAN DX~】を開催する。2011年の東日本大震災をきっかけに“今こそ歌う「日本のうた」再発見”をテーマに、オーケストラ・アレンジで制作されたカバーアルバム『DISCOVER JAPAN』。その後シリーズ化され、今年2月には、過去3作品から厳選したナンバーに加え、新録音曲+シリーズ以外で歌ってきたカバー曲で構成された集大成カバーベストアルバム『DISCOVER JAPAN DX』を発売。今回はこのアルバムからさらに厳選した楽曲をもとに、同アルバムのサウンドプロデューサーであり、鈴木の最強のパートナー・服部隆之の指揮によるオーケストラ・アレンジでのシンフォニックツアーだ。強い信頼関係で結ばれた二人へのクロスインタビューが実現。シリーズ集大成のアルバムの世界観を、二人はどう表現しようとしているのか。シリーズの成り立ちから、二人がどうやって作っていったのかを知ることで、このコンサートの楽しみ方がまた違ってくるはずだ。(Interview & Text: 田中久勝 / Photo: 三浦憲治)

5年ぶりのシンフォニック・コンサート

――マーチンさんは今年4月から7月までツアーを行い、さらに【フジロック】に初出演し、他もイベントにも出演するなど、かなり精力的に動いている印象です。

鈴木雅之:春からの全国ツアーが終わって、そのまますぐ【フジロック】に突入して、他にもイベントにも出て、忙しくさせていただいています。ここ何年かはコロナ禍の中、なかなか思うように活動もできず、音楽を届けることができなくて悔しい思いをしました。でもまたこうして改めて音楽の楽しみ方を確認できて、それを届けることができて、ありがたい気持ちでいっぱいです。


――ツアーを観させていただいたのですが、お客さんはマスク越しから笑顔が溢れ、みなさん思い切り楽しんでいるのが伝わってきました。

鈴木:ソーシャルディスタンスを守って、新しい時代のルールに則った楽しみ方を去年から模索して、お客さんもみなさんルールを守ってくれて、フルキャパシティで、しかも隆之と3作作ってきた作品の集大成ということで、内容も“デラックス”で楽しんでいただけたと思います。マスク越しにみなさんの笑顔が見えた瞬間に、音楽はやっぱり心のワクチンなんだって思いました。



鈴木雅之

――『DISCOVER JAPAN DX』は集大成的な意味合いが強いと思いますが、このシリーズはこれで一旦終了ということですか。

鈴木:スタートする時に、こういう企画ものは3部作である程度形になるとは思っていました。2017年に『DISCOVER JAPAN III』を作って、そのときにイタリアのオーケストラ・ディ・ローマとコンサートができて、色々な意味で“形”にできました。このシリーズが立ち上がったきっかけは2011年東日本大震災の時、被災地に日本の音楽を届けて元気になってもらって、同時に新たに日本を再発見しようというテーマがありました。その後も災害や地震が起きて被害を受けた方の元に、隆之と一緒に日本がピンチになったときに『DISCOVER JAPAN』というシリーズを作って届け、みんなに本当に口ずさんでもらえるような、そんな時間を作ることができたらという思いでやってきました。だから「いい感じで3部作で完結できたね」っていう話を、隆之やスタッフともしていました。でも今回あえてデラックスという形で、その3部作から厳選して令和、平成、昭和の名曲の数々を1枚にコンプリートしてみようと思って。

服部隆之:このシリーズを、オーケストラ・ディ・ローマのような素晴らしいオーケストラと表現できると思っていなかったので、最高に幸せで、リーダーと一緒にシンフォニック・コンサートもできて、「こんなコンサートもう二度とないだろうな」と思っていたら、今回また一緒にシンフォニック・コンサートができると聞いて、忘れた頃にドカンと大きいのがくるのがリーダーらしいです。


――5年ぶりです。

鈴木:やっぱりオーケストラで歌えるって、これはヴォーカリストにとって特別な、至福の時間なんです。音楽の神様からのギフトだと思っています。僕はマーヴィン・ゲイが大好きで、彼はモータウンで自分なりの音を作り続けたんだけど、60年代の終わり頃は、ジャズアルバムでオーケストラをバックに歌ったりすることもあって。ナット・キング・コールを意識したような楽曲や、スタンダードナンバーを歌っていて、それに影響されている部分もあります。いつかオーケストラをバックに歌ってみたいという思いがずっとあったので、2011年に服部隆之という音楽家と出会うことができて、作り上げることができたプロジェクトです。


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『DISCOVER JAPAN』というプロジェクト

――2011年『DISCOVER JAPAN』をやろうと思った時、すぐに服部隆之さんにお願いしよう、と。

鈴木:彼のおじい様は戦後の日本のポップス界を牽引した作曲家・服部良一さんで、お父様の服部克久さんは、音楽番組で音楽監督をやっていらっしゃる時、僕がグループ時代に出演してお世話になって、その後克久さんが主宰した【日本海夕日コンサート】にも出させていただきました。隆之はそんな服部一族のDNAを受け継いでる人なんです。だから日本の歌を見直して、オーケストラと一緒にやりたいと考えた時、もう隆之の顔しか思い浮かびませんでした。隆之がプロデュースしているちあきなおみさんのアルバムを聴いた時「この人と、いつかやってみたいな」と思っていました。クラシックでもポップスでも素晴らしい才能を見せてくれる、その懐の深さのようなものを感じていました。

服部:最初お話をいただいた時はびっくりしました。まさかリーダーが僕のことを知っているはずがないと思っていたので。「何で鈴木雅之さん僕に頼んできたの? 本当に僕のこと知ってるの?」て何回もスタッフに確認しました。でも実際にお目にかかって話をしてみると、ドラマや映画のサントラも含めて、僕がやった曲をよく聴いてくださっていて。すごく意外で、しかもまず怖そうなイメージがあったので(笑)、怖い人とは、仕事したくないじゃないですか(笑)。だから一緒に仕事をしても一筋縄でいかないだろうなとか、色々なことを想像しながら最初の打合せに臨んだと思います。

鈴木:ドラマ『華麗なる一族』の劇伴もやっているし、だからもう「華麗なる一族」=服部一族みたいな、ね。

服部:リーダーは『DISCOVER JAPAN』シリーズに、祖父の曲を入れてくださっているんです。「胸の振り子」のようなメジャーな曲だけでなく、「ヘイヘイブギ」や「恋は陽気にスィングで」とかコアな曲を選んで下さって。本当に音楽をよく知っていますし、研究していらっしゃるというか。オファーを頂いた時のことで思い出しましたが、レコード会社のプロデューサーの方が間に入っていて、その方が、「マーチンさんは、もし服部さんが受けてくれなかったら、ミッシェル・ルグランかジョン・ウィリアムズに頼むって言ってるんですよ」って。絶対嘘に決まっているのに(笑)、でもそれで少しいい気持ちになってしまって「そうか、ジョン・ウィリアムズやルグランよりも僕の方がプライオリティが高いんだな」と思って、まんまと(笑)。



服部隆之

――『DISCOVER JAPAN I』で取り上げる曲は、マーチンさんの中で、隆之さんと打ち合わせに入る前にもう決めていたのでしょうか。

鈴木:決めていました。当時僕が大好きなアイズレー・ブラザーズの、ロナルド・アイズレーとバート・バカラックが『ヒア・アイ・アム:アイズレー・ミーツ・バカラック』という、スタンダードナンバーをオーケストラ・アレンジで歌うアルバムを聴いて、そのイメージでした。被災者に届けようというメッセージもあったので、森山直太朗の「愛し君へ」をまず最初にカヴァーしたいと思って。隆之が壮大なアンサンブルのバラードにしてくれて、あそこから全てが始まりました。


――鈴木雅之流の歌と、服部隆之流のアレンジが「ぶつかる」ことはなかったのでしょうか?

服部:色々な作り方があって、結構練り上げて、こうしようって決めていく場合もあれば、「ちょっと1回、どんな感じかやってみてよ」っていう感じで、おまかせというパターンもあって。

鈴木:僕も初めてだったし、自分の思いみたいなものは、ある程度伝えておかなければいけないと思って。でも、やっぱり隆之は隆之で、きっと鈴木雅之という一人のヴォーカリストの背景みたいなものを、やりながら感じ取って、掬ってくれるんだろうなっていう気持ちは、ありました。

服部:素晴らしいシンガーとの仕事だと、何もしなくていいんですよ、実は。こちらが仕掛けをたくさん作って、スペシャルなことをしなくても、リーダーのヴォ―カルは何もしなくても歌のパワーや表現力だけで十分成立する。だからこそ逆に色々なことをやりたくなるんです。色々仕掛けをどんどん歌に当てていくというか。ヴォ―カルの芯がブレないので、上から目線かもしれませんが声が伸びるんです。ピッチもリズム感も最高で、表現力もあるので、アレンジャー冥利に尽きます。それで日本の色々なスタンダードナンバーをやらせていただいて、全部が名曲で、やっていて感じたのが、誰がアレンジを手がけて、サウンドプロデューサーとして立っても、みなさん「これ、楽しいな、やりがいがあるな」って思うはずだということです。

鈴木:タイトルが『DISCOVER JAPAN』だから、再発見という意味では自分自身も敢えて再発見できるようなコラボレーションをすることによって、どんどん自分も成長できたところがありました。例えばその昔、うちの母方の祖父が東京湾で海苔を獲る漁師をやっていて、「三橋美智也さんの曲を、祖父が操縦する船に乗って、よく東京湾の沖に出て歌ってた」という話を隆之にして、「星屑の町」という曲にトライしたいと言ったら、隆之のアレンジがものすごくて。


――スウィングジャズっぽい感じになっていました。

鈴木:あれはすごかった。高速ビートというか予想を遥かに超えたものを作ってくれて、目から鱗でした。「一緒に作り上げるって、こういうことなんだな」ということを、あの瞬間わからせてくれたり、本当に発見することが多かった。まさに、お互いにディスカバーしてるような気はしました。

服部:「愛燦燦」(美空ひばり)も、リーダー以外にはあのアレンジはしないと思います。ビル・エヴァンスのピアノで、途中でクリフォード・ブラウンのミュートトランペットが出てくるという掛け合わせをイメージしました。リーダーの“色”が明確に存在しているので、例えば少しクラシカルなアレンジをしたとしても、ロックやR&Bなどをルーツミュージックに色濃く持つリーダーが歌うと、そのケミストリーが楽しいんです。ある意味、全然お互いに寄らないというか。その混ざり合わない感じが、またすごくいい。そこはやっていて堪らないところです。


後編(10月5日公開予定)につづく


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