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2021/09/08

『マーキュリー - アクト1』イマジン・ドラゴンズ(Album Review)

 音楽の評価はそれぞれの趣味嗜好により様々で、ロック・バンドにおいても何で絶賛されているのか、売れているのかよくわからないケースも多々見受けられる。その一方、イマジン・ドラゴンズにおいては楽曲の完成度と功績からすれば評価せざるを得ない説得力があり、ポップにクロスオーバーしたスタイルでは、マルーン5と2強といっても過言ではない活躍を残してきた。

 米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”では、「レディオアクティヴ」(3位)、「デモンズ」(6位)などのTOP10ヒットを輩出したデビュー作『ナイト・ヴィジョンズ』(2012年)が2位、UKチャートでもNo.1に輝いた2ndアルバム『スモーク・アンド・ミラーズ』(2015年)が1位、「ビリーヴァー」(4位)、「サンダー」(4位)の2大ヒットを生んだ 『エヴォルヴ』(2017年)が2位、そして前作 『オリジンズ』(2018年)も同2位と、いずれのアルバムも2位以上を記録している。これは、期待を裏切らない作品を作り続けてきた賜物だろう。

 本作『マーキュリー - アクト1』は、その『オリジンズ』から約3年ぶり、通算5枚目のスタジオ・アルバム。前作のメインを務めたマットマン&ロビンやジャスティン・トランターに加え、言わずと知れたレジェンド・プロデューサーのリック・ルービンも制作に参加した。

 ドラマティックなミディアム(静)からエレクトロ・ロック(動)に展開する、はじまりを予兆させるオープニング曲「マイ・ライフ」では、昨今問題視されている若者の薬物乱用について、アコースティック・ギターを基としたトゥエンティ・ワン・パイロッツ路線の次曲「ロンリー」では、ライトなヒップホップ感覚のサウンドとは対照にメンタルヘルスなど深刻な内容が綴られた。これまでの作品と違うのは、サウンドよりリアルな感情を絞り出した歌詞にある。

 イマジン・ドラゴンズらしい旋律の「レックド」は、癌で亡くなったダン・レイノルズの義姉について触れたロッカ・バラード。その重い空気を払拭すべく、次の「マンデー」では“週のはじまり”を用いて新しいスタートを切る前向きな気持ちと愛の尊さを歌い上げた。「マンデー」は、2011年までバンド・メンバーだったアンドリュー・トルマンも参加したニューウェーブ調の軽快なポップ・ロックで、故プリンスを連想させるアレンジもみられる。アンドリュー・トルマンが参加した曲では、薬物の危険性を促した薄暗いメロディの「ジャイアンツ」もいい曲。

 5曲目の「#1」は、ブラック・アイド・ピーズの「ホエア・イズ・ラヴ?」(2003年)に似せたミディアム・メロウ。ヒップホップ~R&B、K-POPのアーティストまで幅広く手掛けるStyleがソングライターとして参加している。ここでいうナンバーワンはおそらく自身に向けたもので、いわば肯定ソングだ。

 LGBTQに焦点を当て、生きることの難しさを優しくなだめた60年代風の英国産ロック「イッツ・オーケー」、逆に救いを求める側の想いを歌ったハード・ロック「ダル・ナイヴズ」、ナイン・インチ・ネイルズ風のインダストリアルと、メタル・バンドを彷彿させる強烈なシャウトで圧倒させる「カットスロート」など、ロック・バンドらしいステージ向きの曲も充実。コロナ終息後のツアーでは盛り上がりそうな並びだ。「カットスロート」では、批判的な声や思想を一掃する。

 「カットスロート」と同時にリリースした「フォロー・ユー」は、ダン・レイノルズが妻との離婚を考え直すキッカケを綴った曲。サウンドも光が差し込んできそうなポジティブなエレクトロ・ロックで、前向きな関係性が伝わってくる。形式的なものに縛られずとも愛は変わらない、という現代らしい夫婦の在り方に共感するリスナーも多いようだ。日本盤ボーナス・トラックには「サマー'21・ヴァージョン」も収録される。

 病気と闘っていた学生時代の友人を思い返す、感傷的な歌詞が涙を誘うオーガニック・メロウ「イージー・カム、イージー・ゴー」、JeepのCMソングに起用されたレゲエっぽい雰囲気の「ノー・タイム・フォー・トキシック・ピープル」、人生の尊さと歌ったチルアウト・ソング「ワン・デイ」などこの時季にフィットしたユルめの曲もあり、バラエティにも富んでいる。

 酷評しているメディアもあるが、斬新さには欠けるものの内容がその他のアルバムに劣るかというと、そうは思わない。むしろ自由度が増してやりたいことをやれている、という印象を受けた。感傷的な側面やリアルな体験、それを心のまま表現したバンドの堅実なパフォーマンスもすばらしい。

 ロック・バンドにおけるストリーミングの記録やチャートイン数など、10年代に様々な功績を残してきたイマジン・ドラゴンズだが、20年代は本来のバンドらしい作品をマイペースに制作していく、そんな活動方針でいいような気もする。思えば、マルーン5の最新作『ジョーディ』もそうだったなぁ……。

Text: 本家 一成

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