Billboard JAPAN


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2026/07/16 18:00

<ライブレポート>“ネオ・ソウル”の女王エリカ・バドゥ、ミニマム編成で魅せた【An Intimate Night with Erykah Badu】

 2026年7月6日、エリカ・バドゥのビルボードライブ・ツアー最終日となる【An Intimate Night with Erykah Badu】東京公演が終了し、ライブレポートが到着した。

「あ、これは300人でやっているショーだね(oh, it’s 300 human show)」。

 7月6日、ビルボードライブ東京。ショーの終盤、ゲストD.R.A.M.を迎えての「Other Side OF The Game」を披露したあと、「4human showから3human showに戻ったね」と言ってから、ボソッとエリカ・バドゥが言った言葉だ。『One Human Show(ひとりの人間のショー)』と銘打った新しいセットは、盟友のキーボーディスト、RC・ウィリアムズとのデュオの予定だった。前日になってパーカッションでKanの参加が決定。オーダーメイドのようにぴったり寄り添うRC・ウィリアムズの鍵盤の音と、繊細なKanのパーカッション、そしてエリカ本人による電子ドラムとカウベルという、ミニマムな構成になったのだ。だからこそ、すべての音と要素がきわ立っていた。2日前の【SOUL CAMP】ではバンドらしい迫力のあるショーだったし、レジェンド・プロデューサーのアルケミストを迎え、【Erykah Badu presents “Abi & Alan” Featuring The Alchemist】と名づけた昨年は、当然、ヒップホップ色が強かった。エリカ・バドゥのコンサートは細部まで丁寧に目配せしつつ、毎回、何かしらのアップデートがあり、予測不可能なジャムセッションの要素もある。この日のセカンド・ショーに訪れていたファンも、そのあたりをよく心得ているようで、だからこそ観客を含めた「300人が参加した」ショーになったのだ。

 20時40分過ぎ、朱色の鳥にも見えるボリュームのある衣装と、白いアフロ風のヘッドピースを身につけたエリカが登場。1曲目は『New Amerykah Pt.2 Return of The Ankh』(2010)の「Out My Mind, Just in Time」。10分近くあるジャジーなナンバーだ。規格外に長い曲を作るアーティストはほかにもいるけれど、ライブの1曲目に持ってくる人はまず、いないだろう。「I'm a recovering undercover over-lover Recovering from a love I can't get over,(こっそりつき合っていたもう終わった恋人から立ち直っているところ まだ整理がつかない恋から立ち直っているところ)」という、見事な韻を踏むリリックが生で聴けて、最初からごほうび感が強い。続いて、「Echos」。延期でファンをやきもきさせている、アルケミストとのアルバム『Abi & Alan』の1曲目に予定されている曲で、いまのところストリーミング・サービスではAmazon Musicだけで聴ける。規模が大きい会場ではなかなか披露しない曲が続いたところで、『Mama’s Gun』から「Time’s A Wastin」。母になったばかりだったエリカが、「このおかしな世界で漂えばいいよ」ととくに若い黒人男性に歌いかけた、四半世紀前に新しいララバイ(子守唄)と響いた曲である。Kanのブラシドラムの音色が奥行きを出していた。エリカは小ぶりの楽器もいくつか持ち込み、カウベルを叩いてリズムを取るのが様になっている。

 場が温まったところで、RCが「タ、タ、タタ、タタ」と音を奏でた。会場から「オー」という、ため息に近い感嘆の声が漏れた。「On & On」だ。世界にエリカを紹介した曲は、本人がアナウンスしたようにデビューアルバムともども来年、30周年を迎える。観客席からの「オー」はそれぞれの、この曲を聴き続けた年月の長さ、もしくは深さを物語っていた。「On & On」は、その続編である『Mama’s Gun』の「... & On」をマッシュアップすることが多く、この夜もそうだった。「... & On」のコーラスは有名だ。

「What good do your words do if they can't understand you? Don't go talkin' that shit Badu, Badu/相手が理解できないのなら君の言葉なんて意味ないよね? そんな話なんかするなよ バドゥ バドゥ」

 突然、第三者からの言葉になるのは、理由がある。デビュー当時から、哲学や歴史、詩的な言葉遣い、スピリチュアリティがこもった彼女の歌詞が深すぎる、わかりづらいと言われてしまった経験を曲全体でやんわり言い返しているのだ。26年前に初めて聴いたとき、別の言語を使うリスナーにはちがう意味に響いてしまうかも、と思った記憶がある。だが、杞憂だった。この夜が示したように、みんな彼女が何を伝えたいのか、しっかり受け止めている。本人が「私、新しいことを東京で試すクセがあるんだよね」と言ってくれたほど、日本のファンのエリカ・バドゥのアートへの理解度は深く、つながりは強いのだ。

 次の「Afro」は、デビュー作『Baduizm』ではほとんど音がないスキットだった。「ねぇ、ウータン(・クラン)を見に連れて言ってくれるって言ったよね、だから髪を編んだのに」というラインがあり、2か月前に「最後の来日」と触れ込みでウータン・クランが来日したばかりだったので、ニヤリとしてしまった。『Baduizm』の隠れ名曲、「No Love」もライブでは披露するのは珍しい。原曲よりもボサノバのようなゆったりしたアレンジが良かった。続いてセットリストの鉄板、「Love Of My Life (An Ode To Hip Hop)」。サブタイトルに「ヒップホップへのオード(頌歌)」とついているように、ヒップホップを擬人化して「初恋だった」と語る。映画『ブラウン・シュガー』(2002)のサウンドトラック用の曲で、エリカの3rdアルバム『Worldwide Underground』にも収録された。「I Used to Love H.E.R.」(1994)でヒップホップの擬人化シリーズを始めたコモン本人をフィーチャー、トラックを作ったラファエル・サディークの手腕が光る隙のない曲だが、この夜はスキャットを強くした、ヒップホップを離れたアレンジが新鮮だった。裸足のままステージを縦横に歩くエリカ。音楽への想い、音楽を仕事にする喜びを語りながら、ミュージック・セラピーのようなライブを見せるのだから、天職を全うしている人だ。

 次がビリー・ホリデイの「B God Bless The Child」のカバー。声質が似ていることから、デビュー当時から「ビリー・ホリデイの再来」と言われてきた。80年前のジャズ・ナンバーを現代に蘇らせつつ、自分の知恵をりんごの実に喩えた「Appletree」へ。ボリュームのある衣装の下は、斜めのストライプの軽やかなワンピースで、金髪のウィッグとよく似合っていた。照明も含めて視覚で楽しませてくれるあたり、さすがファッション・アイコンだ。RC・ウィリアムズの語りかけるようなピアノから入る「Drama」も、大人っぽいベニューの雰囲気にハマった。デビューアルバム『Baduizum』からの曲が多めなのは、2027年に30周年を迎える名盤のアニバーサリーに向けての準備を兼ねていたのかもしれない。「次の曲は、『Baduizum』の最後に作った曲で……何か足りない、と思ったからフィラデルフィアまで行って、そこまで知られていなかったザ・ルーツに参加してもらったの」と、「Other Side Of The Game」の誕生秘話を語った。ここで、ゲストが登場。エリカが「ビッグ・ベイビー・ドラム!」と紹介したので、「あれ?」と思ったら、2016年にリル・ヨッティをフィーチャーした「Broccoli」でスマッシュ・ヒットを放ち、グラミー賞の最優秀ラップ/サング・コラボレーション部門にもノミネートされたD.R.A.M.だった。スツールに腰をかけてのデュエットは即興だった様子だが、どちらも声が伸びるので力強い「Other Side Of The Game」が聴けた。

 最後は、彼女の瞳の色がテーマの「Green Eyes」。原曲がもともとジャズのスタンダードっぽい曲だが、年月を経て声量が増しているエリカの美声をじっくり聴かせてから、ほぼ叫ぶように締めくくるのが近年のハイライトだ。なかなか難しいらしく、この夜は喉の調子を整える場面をくり返し、笑いを誘った。強烈なカリスマ性と、このお茶目なところのギャップが愛らしい。代表曲をきちんと聴かせながら、アレンジを施してどんどん進化させるエリカは、ノスタルジーを売りにしない。盟友RC・ウィリアムズの安定した演奏もさることながら、助っ人のKanのきちんと空気を読みつつ、パズルのピースを一つずつはめていくようなパーカッションもすばらしかった。本人の感想が、こちら。「初共演でしたが、お二人のグルーヴが生み出す世界と、その圧倒的なエネルギーに引き込まれました。メンバーとしてあの場に居させていただけたことに、心から感謝しています」。この「圧倒的なエネルギー」こそ、エリカ最大の魅力だろう。観客との距離がとても近い、特別なショーであった。『Baduizm』の30周年でも、日本に戻ってきてほしい。

Text by 池城美菜子
Photos by Kohei Kawashima


◎公演情報
【An Intimate Night with Erykah Badu】
2026年7月1日(水)神奈川・ビルボードライブ横浜
2026年7月6日(月)東京・ビルボードライブ東京
2026年7月8日(水)大阪・ビルボードライブ大阪
※全公演終了

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