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ハワード・ジョーンズ 最新アルバム『トランスフォーム』発売直前インタビュー 「誰と競うのでもなく、若いアーティストと競うのでもなく、自分が一番得意なことをやるだけだ」



 様々なジャンルが花開いた80年代において、エポックメイキングな作品となったハワード・ジョーンズの『かくれんぼ』。カラフルなシンセサイザー・サウンドが織り成す、フックのあるメロディは瞬く間に多くの人たちの心を捉えた。それから35年。まさにその80年代のフレイヴァーを2019年にアップデートしたアルバム『トランスフォーム』が完成し、5月29日(水)にリリース。ハワードをリスペクトするエレクトロニカ界の気鋭BTをフィーチャーした3曲をはじめ、ハワードのトレードマークであるシンセを前面に押し出したメロディアスなポップ・サウンドに回帰している。その待望の新作と共に7月31日(水)にビルボードライブ大阪、8月2日(金)、3日(土)にビルボードライブ東京で公演を行なうハワードにインタヴューを敢行、新作と来日公演について語ってもらった。

誰と競うのでもなく、若いアーティストと競うのでもなく、自分が一番得意なことをやるだけだ

―新作はファンが待ち望んでいたシンセを使ったメロディアスなアルバムになりましたね。


▲『トランスフォーム』

ハワード・ジョーンズ(以下:ハワード):こういうアルバムになったのにはいくつかのきっかけがあったんだ。ひとつは『イーグル・ジャンプ』という映画のための音楽をテイク・ザットのゲイリー・バーロウから頼まれて2曲書いたこと。映画の設定が80年代なので、その時代の音楽の“言語”が反映された新曲を書いてほしいとゲイリーから言われて、当時の自分に戻って、その頃のソングライティングへのアプローチを思い出しながら曲を書いていったんだ。その作業はとても楽しいものになったよ。もうひとつのきっかけは、シンセを全面に出したアルバムをぜひ作ってほしい、というファンからの要望があったこと。そのふたつがきっかけとなって、こういう方向にアルバムが向かったんだと思う。


―いいタイミングだったということですか?

ハワード:そうだね。再びエレクトロニック・アルバムを作る時期が来ていた。つまり機が熟していたんじゃないかな。当然、今の音楽としてアップデートしつつ。でも今はより一層思うんだ。「ぼくはハワード・ジョーンズにしかできないアルバムを作らなきゃダメだ。誰と競うのでもなく、若いアーティストと競うのでもなく、自分が一番得意なことをやるだけだ」ってね。それを何よりもこのアルバムは反映しているのだと思うよ。

―80年代を思い出しつつも、ソングライティングやアレンジは今の感覚で行なったということでしょうか?

ハワード:そう、昔のような曲をイメージしながら、アップデートさせていったんだ。そもそもぼくは楽曲、つまりポップ・ソングが好きなんだ。ポップ・ソングってきっちりと型が決まった建築物みたいでそれが良い点ではあるのだけど、ぼくは少しいじり回すのが好きなので、トラディショナルなフォルムの中にちょっとした奇抜なアイディアを放り込んでみたりする。聴く人にとって、どこか聴きなじみがあるくせに、予想もしないようなことが待ち受けている曲。ぼく自身、そういう曲を書くソングライターがいれば、間違いなく好きになるんだ。


―おっしゃる意味はよくわかります。あなたの曲にはどこかよじれたセンスがありますよね。

ハワード:そうなんだ。それがぼくの音楽にみんなが関心を持ってくれる要因だと思う。



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―で今回、3曲参加しているBT(ブライアン・トランソー)はクラシックの素養もあるエレクトロ・ミュージシャン/プロデューサーですが、まさにあなたと同じバックグラウンドを持つと言えます。彼とはどのように出会い、意気投合したんでしょうか?

ハワード:ずっと彼の音楽のファンだったんだ。エレクトロニックの先駆者という意味で、かつての自分にダブる部分もあるなぁ、と思って見てきた。当然、彼とぼくとでは世代が違うわけだけど、彼の作品、そしてサウンドに対する先駆的なアイディアには共感できる部分がたくさんある。ちょうどツアーでアメリカにいた時、BTがマイアミでオーケストラとのショウをやると知った。ぼくはバンドの連中に「絶対見にいかなきゃダメだ。これは重要なミッションだからね」と言い、ツアーを終えたその足でマイアミに飛んだんだ。ぼくが会場に来ていることがBTの耳に入ったらしく、ステージの上から名前を呼ばれたのは照れくさかったけど、とてもうれしかったね。ショウが終わったあとに会ったBTとはすぐに打ち解けたよ。後日、スタジオに招待されて、彼のユーロラック・モデュラー・シンセを使って色々やったりしたんだ。ぼくから何か一緒にやろうと提案したら、彼もすごく乗り気になってくれた。そういう話って、その場の盛り上がりで終わることもあるけれど、ぼくらは実際に実行したんだ。

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お互いのいい部分がひとつになった、音楽における最高の結婚だと思う

―BTにとって、あなたは憧れの存在だったからすごく喜んだのではないですか?

ハワード:光栄なことだよね。彼の人生で初めてのライヴ体験は、ぼくのライヴだったそうなんだ。当時14歳の彼にとって、『かくれんぼ』と『ドリーム・イントゥ・アクション』の存在は大きかったらしい。そんな風に、彼もぼくのことをリスペクトしてくれるし、ぼくも彼を大いにリスペクトしていたので、これ以上ないほどぴったりの相性だったんだ。ふたりで共作した曲からは、ハワード・ジョーンズとBT、その両方の要素が感じられる。お互いのいい部分がひとつになった、音楽における最高の結婚だと思うよ。


―そんなBTからあなたもインスピレーションを受けました?

ハワード:もちろん。ファンなら知っていると思うけど、ぼくは滅多に他人とコラボレートしない。一緒に仕事をするのはぼくが心からリスペクトできる相手でなければダメだし、お互いが同じだけを持ち込むことが出来なければそのプロジェクトは成立しないと思っている。その意味で、今回はごく稀なケースながらも、とてもうまく行った例になったね。

―あなた自身、BTと同じくらい先端のテクノロジーを深く理解して駆使していると思います。一方でヴィンテージのアナログ・シンセも使っていますよね。アナログ・シンセに求めたことは何ですか?

ハワード:ぼくもBTもこの点に関しては意見は一緒なんだけど、とにかくあるものの中で最高のものを使うのが好きだ。アナログ・シンセのパワフルで効果的なサウンドも大好きだけど、ソフトウェアもなくてはならない。そしてアナログ・シンセとソフトウェア・シンセを組み合わせて使うことも。こういう時代に生まれて生きている以上、出回っている素晴らしいギアを使わない手はないと思うんだ。だからぼくはヴィンテージ機材もいっぱい使うけど、同じくらいソフトウェアのパワーを利用すべきだと考えている。音楽を始めた当時から、その姿勢は変わっていない。つまりぼくは、自分が生きている時代のミュージシャンでいたいのであって、過去に誰かがやったことを模倣するミュージシャンになりたいわけじゃない。その時代のテクノロジーに真っ向から取り組み、クリエイティヴな方法で利用できるミュージシャンでありたいんだ。BTも同じ考え方だと思うよ。


▲Howard Jones & BT The One To Love You

―『トランスフォーム』を聴いていると、チャーチズをはじめとする現在のシーンの最前線で活躍するアーティストが思い浮かびました。彼らもまた最新のテクノロジーを駆使しながら、アナログ・シンセの音色もうまく使うアーティストたちです。あなたが定義したと言えるサウンドを今のアーティストたちが新しいサウンドとして捉えているとも言えますが、彼らから刺激や共感を覚えますか?

ハワード:Chvrchesは大好きだよ。彼らの最新アルバムはとても良かった。よく聴いたよ。若いバンドやアーティストがエレクトロニック・ポップというジャンルを先に進めてくれているのは素晴らしいことだと思う。もっとそういうのを聴きたいね。だからこそ、『トランスフォーム』は彼らのような若いバンドとうまくフィットするのだろう。おそらくぼくも彼らも同じような影響を受けてきているからね。

―待望の来日公演が発表になっています。ニュー・アルバムのリリースした記念でもありますし、『かくれんぼ』35周年記念の公演でもありますが、どのようなショウ/構成になりそうでしょうか?

ハワード:その両方をミックスしたセットにするつもりだよ。ニュー・アルバムからの曲は8曲ほどやるつもりだけど、まとめて演奏するのではなく、かつてのヒット曲と交互にやろうと思っている。『トランスフォーム』との曲とのバランスが取れるよう、BT以外の曲を共同プロデュース/ミックスしたロビー・ブロニマンと、昔の曲にほんの少し手を入れ、新たなサウンドを加えて調整して、途切れることないセットを組み立てたんだ。突然、昔の曲になってびっくりされる、っていうんじゃなくね(笑)。新旧が隣り合わせで、引き立て合う形になれば……とぼく自身、また日本で演奏できるのがとても楽しみなんだ。もちろん、ファンのみんなに会えるのもね。

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