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セント・ポール&ザ・ブロークン・ボーンズ初来日記念特集~アラバマ出身ソウル・ロック・バンドを紐解く

St. Paul & The Broken Bones

 音楽チャートにおけるアーバン・ミュージック台頭が進むアメリカの音楽マーケットにおいて、どういったアーティストの新譜が「ロック」チャートで活躍しているのか? 
 メンバーのほとんどが白人、しかしサザン・ソウルの聖地出身でヴィンテージなソウル・サウンドを鳴らしてきたセント・ポール・アンド・ザ・ブロークン・ボーンズは最新作『ヤング・シック・カメリア』で目標にしてきたアラバマ・シェイクス以上にクロスオーヴァーな方向性を打ち出し、存在感を強めている。そんな彼らの待望の初来日公演が2019年4月に開催決定。2014年のデビュー作以降、【コーチェラ】や【グラストンベリー】などの世界的音楽フェスに出演し、高い評価を獲得してきたアラバマ出身ソウル・ロック・バンドについて紐解いていく。

アラバマ出身ソウル・ロック・バンド
セイント・ポール&ザ・ブロークン・ボーンズ

 先日、米・ローリング・ストーン誌に「2018年、メインストリームのロックはなぜ退屈だったのか?」という挑発的な見出しの記事が掲載されたが、米ビルボードのHot Rock Songs、Alternative Songsチャートの年間トップ10の顔触れが変わらず、ロック全体において「オルタナティヴ」が機能しなくなっている、そしていわゆるギター中心のバンド・サウンドで独創性を発揮した楽曲がトップ10には皆無だったと分析している。ニールセンによるアメリカ市場におけるジャンル別売上シェア・データでは2017年にアーバン(ヒップホップ/R&B)がロックを抜いている。アーバン、ロックに次ぐシェアの「ポップス」が纏うサウンドはアーバン、ないしはダンス・オリエンテッドなそれがほとんどであり、いわゆるバンド形態でギターを前面に出した新曲を見出すのは難しくなっているのは「ロック」でさえもそうで、記事ではロック・チャート年間上位を占めたイマジン・ドラゴンズやパニック!アット・ザ・ディスコらを俎上に載せ揶揄している。

 かような、クロスオーヴァーな時代の「ロック」チャートで2018年健闘した作品のひとつとして、2013年のアルバム・デビュー時には関わった人脈や出身地からアラバマ・シェイクスとの比較をされてきたセント・ポール・アンド・ザ・ブロークン・ボーンズによる最新作『ヤング・シック・カメリア』がある。この作品で彼らは、60年代サザン・ソウルをなぞってきたこれまでから「イマのメインストリーム」と言えそうな方向性にシフトしているのだ。

 セント・ポール・アンド・ザ・ブロークン・ボーンズは米南部・アラバマ州を拠点とする人種混成・現在8人構成のバンドで、独特のキャラクターを有するフロントマンでありリード・ヴォーカルのポール・ジェンウェイはアラバマ州最大都市・バーミングハム都市圏に含まれるシェルビー郡に位置する小さな、しかし近年急速に人口が増加し続ける街、チェルシーの出身。一家はカリスマティックな無宗派教会で、ティーンエイジの頃、ポールはギターを弾きながらその教会の管理人をしていたという。



▲St. Paul And The Broken Bones: NPR Music Tiny Desk Concert


 2000年代半ば、ポールが演っていたThe Secret Dangersのベースにジェス・フィリップスを招き入れたのが、セント・ポール・アンド・ザ・ブロークン・ボーンズの始点のようだ。ジェスの回想によればこのバンドは「安っぽいレッド・ツェッペリンかデイヴ・マシューズ」のようなサウンドだったそうで、ポールについて「アル・グリーンのような声にドリュー・キャリー(90年代から活躍するコメディアン/司会者)のようなルックス」という印象を抱いていたジェスは2012年頃、ポールが持つ素養に忠実な音楽を演ろうとポールと共に思案、まったく別のメンバーを呼び寄せ、2013年にEP『Greetings from St. Paul and The Broken Bones』を録音した。ただしポールらはEPが売れると思ってなかったどころか、解散する前の活動証明として家族や友達に配るためにプレスし、解散したらポールは会計士になる勉強をするつもりだったようだ。しかし、このEPがのちのマネージャーとなるトレイシー・トーマスの目にとまり、アラバマ・シェイクスのキーボードを担当し、サザン・ソウルの聖域=フェイム・スタジオのエンジニアでもあったベン・タナーがジョン・ポール・ホワイト(ザ・シヴィル・ウォーズ)、ウィル・トラップと設立したレーベル[Single Lock]に紹介、契約に漕ぎつけ、2014年早々にデビュー・アルバム『ハーフ・ザ・シティ』を発表する。このアルバムはフェイム・スタジオと隣町シェフィールドのナットハウス・レコーディング・スタジオでレコーディング、ベンがプロデュース、60/70年代サザン・ソウル好きが聴けば前述のアルやフェイム・スタジオでのレコーディングで知られるソウル・レジェンド、オーティス・レディングの名が容易に出てきそうなポールの声質と、ルーツに直球なバンド・サウンドがポップに機能した作品と言え、地元のヒーローだったアラバマ・シェイクスと比較されることで10万枚強のセールスを記録した。

 たとえば、SpotifyやYouTubeで彼らの全作品中最も聴かれている曲である「Call Me」はどことなくサム&デイヴ「Hold On, I’m Comin’ 」を彷彿させるアップリフティングなソウル・ナンバーに60年代ファッション+アート・センスの映像がシンクロする。



▲St. Paul & The Broken Bones - Call Me (Official Video)


CD
▲『ハーフ・ザ・シティー』

 ちなみに『ハーフ・ザ・シティ』は、日本ではCDショップ・チェーンが2012年リリースのヴィンテージ・トラブルがロングセラーを記録した前後からロックンロール〜60/70年代ロック、60年代ソウル、あるいは現行形ジャズ・ファンクといったサウンドの交差点上に位置しそうなバンドたちを<ヴィンテージ・ロック>という呼称の下にプッシュしていて、その流れのなかで2014年に日本盤リリースされた。

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60年代サザン・ソウルから
「イマのメインストリーム」へのシフト

 デビュー作を名刺代わりに【コーチェラ】、【グラストンベリー】といった大型フェスへの出演、ローリング・ストーンズのツアーの前座参加などライヴの場数を踏み、ホーンズをパーマネント・メンバーに編入とグレードアップを続けた彼らは、[JIVE/RCA][Universal]でエグゼクティヴを務めたバリー・ウェイスが、故XXXテンタシオン、ザ・ウィークエンド、ディプロ、DJマスタード、ロードら「旬」のアーティストをクラインアントに抱える音楽出版社・SONGS music publishingとのジョイントヴェンチャーで2015年に立ち上げたインディ・レーベル[RECORDS]に移籍、2016年にセカンド『Sea Of Noise』を発表。

 プロデュースを務めたポール・バトラーはイギリスのサイケ/ミクスチュア・ロック・バンド、ザ・ビーズの中心人物だったが、高評価を博したマイケル・キワヌーカ(※)のデビュー作『ホーム・アゲイン』(2012)、セカンド『ラヴ&ヘイト』(2016)などのプロデュース手腕で窺えるようにソウル・ミュージックの調合法を心得ており、『Sea Of Noise』をデビュー作の延長線上のサウンドにまとめつつ、実は多様なバックグラウンドを含んでいる(※※)ことをデビュー作以上に示唆している。

 リード曲にあたる「All I Ever Wonder」はアル・グリーン「Love & Happiness」を彷彿させるコード進行に「Love & Happiness」と対照に人種・思想問題を憂うメッセージ、ロックのラウドネス&ダイナミズムが加わったサビが耳に残る。



▲St. Paul & The Broken Bones - All I Ever Wonder (Official Video)


※マイケル・キワヌーカ来日記念特集記事:http://www.billboard-japan.com/special/detail/1877
※※ポールがSpotifyにアップしたプレイリスト「Paul’s Picks」は時代もジャンルも広範にわたる選曲:スタン・ゲッツからダフト・パンクまであり、バンドのヴィンテージ・ソウル・サウンドの裏にこうしたバックグラウンドが潜んでいることを知る「音の参考書」として要チェックだ。
Spotify「Paul’s Picks」:https://open.spotify.com/playlist/2VdmrdDtWkoCIoDX85KjjZ


 SONGSが2017年末にインディ大手のKobalt Music Publishingに売却されたのち[RECORDS]はSony Music Entertainmentとのジョイントヴェンチャーとなり、そこから2018年に発表された、サードであり最新作の『ヤング・シック・カメリア』はデビュー以来の印象を大幅にアップデイトした。

 地元・アラバマ州花であるカメリアを題に冠した当作はポールのアイロニーが歌詞となって表出している。トランプ政権を支持する父の友人との、政治に対し加熱した議論を通して抱いた怒り、彼らと同じ通りに育ってきた自身の境遇、これらの狭間に置かれることへの苦悩だ。ポールが米『Rolling Stone』誌に語ったところでは、そうした状況においては口をつぐむと言う。「“あいつらは物の言えない田舎者だよ”って言われても構わない、田舎者上等さ! 彼らの行いが自分たちを再び活気づけているんだ」。
しかし、アルバムでの歌詞においてポールは一歩も引き下がっていない。

銃の形の聖書に舌鋒の弾/神が問題でなくても神が始めてしまった
血(統)は逃れられない/DNAに潜んでいる



▲St. Paul & The Broken Bones - GotItBad (Audio)


 ケンドリック・ラマー「Now Or Never」、アリシア・キーズ「Teenage Love Affair」、シーロー・グリーン「The Lady Killer」など、錚々たるアーティストと仕事をしてきたジャック・スプラッシュとの共同作業で制作された当作は、オーセンティックなリズム&ブルーズ/ソウル・コンポジションという「幹」は残しつつ、ジャックとボビー・コールドウェルのコラボ・プロジェクト=クール・アンクルで披露したプロダクション・ワークを大胆に投下、ことリード・カットされた「Apollo」などは四つ打ちに近い打ち込みビート仕立てで「え? これセント・ポール・アンド・ザ・ブロークン・ボーンズだっけ?」という質感の変化だ。

 ジャックとセント・ポール・アンド・ブロークン・ボーンズのケミストリーは、ブレイク・ミルズとアラバマ・シェイクス「Sound & Color」やジョン・レジェンド「Love Me Now」、スターゲイトとサム・スミス「Too Good And Goodbye」「Dancing With A Stranger」、グレッグ・カースティンとアデル「Hello」が起こしたそれのようなもので、つまり本来のフォーマットからより広範なリスナーに向けた「イマのメインストリーム」な方向性である。

 「Apollo」のMVはどことなくアラバマ・シェイクス「Sound & Color」の世界観を想起させるが、MVでのポールを観ていると、先日問題発言で大炎上してしまったお笑い芸人さんと容姿がダブってしまうのは自分だけだろうか…。



▲St. Paul & The Broken Bones - Apollo


 『ヤング・シック・カメリア』は2018年9月22日付の米ビルボード・Rock Albumsチャート7位、Alternative Albumsチャート4位、初週セールス11,000枚相当(フィジカル+ダウンロード+ストリーミング)、リード曲「Apollo」はAdult Alternative Songsチャートで 6位と、過去実績から着実に上積みを果たし、初の来日公演も決まり、来日に合わせて日本盤もリリースされる。もともとライブで評判を上げてきた彼らだけに、デビュー時に獲得した<ヴィンテージ・ロック>フリークのみならず、往年のソウルや現行形ジャズ・ファンクのファン、そして上記「イマのメインストリーム」リスナーをもロックすること必至だ。

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