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FM COCOLO『J-POP レジェンドフォーラム』7月はサザンオールスターズを特集!5代目エンジニア中山佳敬をゲストに迎えた番組トークvol.5を公開



J-POP レジェンドフォーラム

FM COCOLOで毎週月曜日21:00~22:00に放送されている、音楽評論家「田家秀樹」が案内人を務める『J-POP レジェンドフォーラム』。伝説のアーティスト、伝説のアルバム、伝説のライブ、そして伝説のムーブメント。一つのアーティストを1か月にわたって特集する番組で、2018年7月の特集はデビュー40周年を迎えたサザンオールスターズだ。歴代のレコーディング・エンジニアをゲストに迎え、これまでのオリジナル・アルバムを紐解いていく5週間。最終回となる今回は、93年発売『エロティカ・セブン』のアシスタントから始まり、2006年の『DIRTY OLD MAN ~さらば夏よ~』からメインエンジニアを担当、今まさに進行中のパートナーである中山佳敬が、自身の関わったアルバムの中からそれぞれ好きな曲をピックアップしていく。人生の半分をサザンオールスターズと共に過ごしてきた中山ならではの貴重なエピソードが語られた。

『海のOh, Yeah!!』は一つの時代の集大成

田家秀樹:93年から数えると25年! 前回の林さん(4代目エンジニア・林憲一)が16年担当されていましたが、それより長いです。林さんが66年生まれとおっしゃってましたけど、中山さんはそれよりお若い?

中山佳敬:そうですね。69年生まれ、今49です。

田家:その中で25年ですから、半分くらいですか。サザンオールスターズの半分も超えてますしその25年間はどんな時間でしたか?

中山:僕がビクタースタジオに入ってからの年月と一緒なので、自分の人生とリンクしてるなあと思います。

田家:今回の『海のOh, Yeah!!』を終えた心境ってどういうものですか?

中山:自分がスタジオに入ってレコーディングしてっていうのをやり始めてからのベストっていうんですかね。サザンって歴史長いじゃないですか。僕が関わってない名曲もいっぱいあるんですけど、今回は僕と林さんの時代の集大成みたいな感じなので。自分のやってきたこと、携わってきたことが一つのCDになってるっていうのはすごく感慨深いです。

――♪ 「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」


▲「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」

田家:この新曲で思われることは?

中山:久しぶりのサザンっていう感じがしたので気合が入りました。サザンってやっぱり特別だなあって思うことが自分の中でもあって、漠然とはしてるんですけど、サザンのレコーディングってなるとキュッとなります(笑)でもレコーディングが始まるとすごく楽しいんです。

――♪ 「東京サリーちゃん」

田家:90年のアルバム『稲村ジェーン』の中の「東京サリーちゃん」。これは中山さんのお好きな曲ということであげられておりました。

中山:好きなのは好きなんですけど、僕はこの曲を聴いてビクタースタジオに入りたいと思ったし、サザンの現場とかをやってるスタジオに入ろうと思ったきっかけの曲だったので、好きというより思い入れが深い曲なんですよ。

田家:この曲を聴いていた時、中山さんはどういう若者だったんですか?

中山:このアルバムが出た頃には僕もエンジニアを目指そうと思っていて、そういう勉強をしてたんです。どちらかというとメタルとかロックものの音楽ばかり聴いて育ってきたので、エンジニアになっていくにあたって、いろんなものを聴いてかなきゃなって。ロックにしても激しいものばっかりじゃなくて、もうちょっと造詣の深い音楽を聴いてみたいな、聴いていかなきゃなって頃に、ちょうどこの『稲村ジェーン』ってアルバムが出て。エンジニアリング的なものとして聴いたときに、この曲が、僕が今まで聞いたことがないような音像だったんですよね。「わっ、すごい!」って思って、こういうドラムサウンドってどうやって録るんだろうとか思って、アルバムのクレジット見たらビクタースタジオで、3代目の今井(邦彦)さんが録ってたんです。その頃たまたま運良く学校でビクタースタジオを見学に行く機会があって、今の401スタジオができたばっかりだったんですね。プロのスタジオってこんなに違うんだって思ったり、こういうところでこういう音楽ができるんだって思ったら、急に「うわあ、行きたい!」ってなって。この曲にはそういう思い出があります。

――♪ 「DIRTY OLD MAN ~さらば夏よ~」

田家:92年に入社されて、93年にアシスタントとしてシングル『エロティカ・セブン EROTICA SEVEN』に関わっていらっしゃいます。これは歴代の方皆さんそうですけど、割と入社してすぐに、ほとんど翌年とかその年にアシスタントでサザンに関わるケースが多いんですね。

中山:たぶん一回一回アルバムにかける時間がすごく長いので、ある程度長くできる人っていうのが大事な要素なのかもしれないですね。でも僕の場合は“アシアシ”っていうアシスタントの方の後ろにいて、アシスタントの動きをみる研修期間だったんですけど。

田家:研修期間はどのくらいあるんですか?

中山:それは人それぞれなんですけども、僕らの時はだいたい半年くらい。僕はその途中くらいで、この現場に入ったんですよね。アシスタントの動きはとてもできる状態じゃなかったんですけど、ちょうど僕が入った時は『エロティカ・セブン EROTICA SEVEN』で、その時『素敵なバーディー (NO NO BIRDY)』っていうシングルと2枚同時発売で、そのカップリングもやっていて。その頃アシスタントをやってた林さんもエンジニアとしていろんなことをやらなきゃいけない時だったので、その穴埋めみたいな感じでした。

田家:メインとして関わったこの「DIRTY OLD MAN ~さらば夏よ~」の時には、もう俺が作るんだって感じになっていたという。

中山:そうですね。俺が作るんだって感じではないんですけど、ドキドキしながらやってました。

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全てをグッと捨てて別のものにする、こういう変わり方ってあるんだなあって。

――♪ 「I AM YOUR SINGER」


▲「I AM YOUR SINGER」

中山:この曲すごく好きですね。単純にメロディとか曲の雰囲気とか、そういうところすごく好きで聴いちゃう。

田家:この曲はデビュー30周年シングルで、2009年以降の無期限活動休止を発表した時に発売した曲でした。そういうタイミングもあったりして選ばれたのかなって思ったのですが。

中山:その時は活動休止でどうこうっていうのはなかったです。この曲をやり始めた時から最終的にこの完成形に行くまで曲調が意外な方向に転んでいって。元々もっとフィル・スペクターサウンドを目指してやってたんですけど、途中でふと桑田(佳祐)さんが方向転換して、今みたいな打ち込みを交えてのサウンドになったんです。それでシングルとして発売されて、その後30周年のライブがあったんですけど、そのライブの時にメンバーが全員楽器を置いて前に出てきたんですよ。その時に「あ、こうしたかったんだ!」って。このみんなが演奏しているっていうのじゃなくてみんなが前にきて踊るっていうのを制作の時から考えてたんだなって。

田家:それだけ長く関わっていた中山さんもそこまでは考え付かなかった?

中山:まさか前に出てきてみんなで踊るとは思わなかったです。すごく感動的なシーンだったし、こういう全てをグッと捨てて別のものにする、こういう変わり方ってあるんだなあって。さすが桑田さんだなって思いました。

――♪ 「栄光の男」

田家:サザンオールスターズとしての活動を再開した、2013年8月発売の4曲入りシングル『ピースとハイライト』の中の一曲。桑田さんが『葡萄』のライナーノーツに<2013年の活動再開に加えて、斎藤(誠)君、片山(敦夫)君、中山君がレコスタに集合して、最初にリズム録りした曲>という風にお書きになってます。最初リズム録りした時にいらっしゃった?

中山:そうですね。この時も「始まるぞ!」って感じがあった時でした。スタジオにメンバー全員居ると、やっぱりそういう瞬間がくるんですよ。

田家:やっぱりバンドって一人一人じゃなくて全員揃った時にオーラがありますよね。サザンのオーラってなんだろうって風によく思うんですけど、やっぱりあれは積み重ねなのでしょうか?

中山:積み重ねもあるでしょうし、40年間やってきてる人たちが目の前にいるっていうのもあると思います。何度かやってても時々思いますよね、すごいなあって。

田家:小学生の時にテレビで観た人達なんだって、ふと我に返ったり?

中山:しますします。

田家:でもその時にテレビで観ていた人達と、今目の前にいる人達っていうのは変わらないですか?

中山:本当にすごくいい方達なので、普通に話していただけるんです。だからお友達っていうとおこがましいんですけど、普通に仲の良い人達と一緒に話してる感覚になっちゃうんです。でもやっぱりテレビに出てるのを見ると「おっと、違った違った」ってなりますね(笑)

――♪「バラ色の人生」

田家:これはどういうエピソードが?

中山:自分のミックスが上手くいかなくて、桑田さんが色々考えた末に、タイトルを変えたって一曲です。

田家:元は「アナログ人生」っていうタイトルだったとか。

中山:その「アナログ人生」っていうタイトルもすごく好きで、曲もポップでサビもかっこいいし、これはなんとか頑張らなきゃって、逆に肩の力が入りすぎちゃった。それを桑田さんが感じたんでしょうね。そこが上手くいかないのはタイトルがわかりにくいからなんじゃないかって思われたみたいで、「『バラ色の人生』ってタイトルはどう?」って提案があったんです。それもいいなあって思ったんですけど、未だに自分の中で上手くいかなかったってことがちょっと引っかかってて。それが忘れられないっていう意味で、『葡萄』の中では特に好きでもあり、忘れられない曲です。

田家:その上手くいかなかったっていうのは、例えばどういうことが上手くいかなかった?

中山:桑田さん的に、もうちょっとよくなるんじゃないか、もう一声いけるんじゃないかっていう気持ちがあったと思うんですよね。僕も今やってるものが全然上手くいかないって感じではなかったんですけど、もっと良くなるはずって思って、毎日毎日ちょっとしたバランスを変えてみたりとか桑田さんとやり取りして。

田家:何がしっくりいってないんだろうとか探ったりするわけですか?

中山:そうですね。何なのかっていうのがわかればそこをやればいいんですけど、いまいち自分の中でもすっきりしなかった。その匙加減がびしっと来る時と来ない時ってあるんですけど、この曲はなかなか来なかったんですよね。

田家:そのびしっとくる匙加減っていうのをアルバム聴いてる人が「あ、そういうことだったんですか」ってわかる説明の仕方ってありますか?

中山:いやあ、ないと思います(笑)結局、僕も最終的にわかってない。でもこの曲、桑田さんの中ではシングルにしてもいいと思ってたんじゃないのかなあって思うことがあって。この曲と「東京VICTORY」でギターを入れたりする時に、2曲の上がり具合をなんとなくどっちのほうがシングル曲としていけるかってやってたんじゃないかなと。だからその時僕は「東京VICTORY」も好きだったんですけど、この曲がすごく好きだったんで、この曲はシングルでいけるだろうって気負い過ぎたのが空回りしちゃったのかもしれない。上がりが悪くなったってわけじゃないんですけど、そういうところでその場にいる僕らにしかわからないような匙加減があったんですよね。

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サザンと一緒に楽曲を作ることは“誇りの極み”

――♪「TSUNAMI」

田家:8月1日に発売される『海のOh, Yeah!!』に収録されます「TSUNAMI」。5週間サザンオールスターズの話をしているのですが、実は「TSUNAMI」がかかってないんです。それでこれを入れようと思ってかけました。これを今回Disc1の一曲目にしたっていうのは時系列的なこともあると思うんですけど、すごく意味が大きいですよね。

中山:大きいと思います。なんでこれが一曲目にきているかっていうのは、説明というよりかはとにかくこの曲の頭、歌が始まった時点でぞくぞくってくる何かがあるんですよね。そういう意味で一曲目っていいなあって、きっと僕が思ったようにみなさんも思うんじゃないかって。

田家:僕もそう思いました。桑田さんもそれが意図だったのかもしれないですね。ここから40年間の後半のサザンオールスターズが始まってるんでしょうしね。名曲中の名曲です。

――♪「壮年JUMP」


▲「壮年JUMP」

田家:『海のOh, Yeah!!』をご自分がエンジニアとして携わったアルバムとして、世に送り出すわけですが。リマスタリングということで、時間の経ってる曲も全部新しくし直してるわけでしょ?

中山:今的な感じにしようっていうよりかは、当時技術的にできなかったものをもうちょっと現代的にやってみて、より当時の思ってた音像に近付けていくっていう気持ちでやりました。

田家:当時技術的にできなかったことってあるんですか?

中山:機材もだいぶ進歩しているので、あの当時はこのくらいレベルを上げちゃうと音が潰れて歪んじゃったりしていたんですが、今の機材だとそういうことがなくて、より自然に、でも派手に聞こえたりとか。そういうことが特にこの20年の間に技術革新が起きているので、今できることはすごく自由度が広がってます。

田家:2018年の音像というのでしょうか。この曲については?

中山:この曲は、僕のイメージとしては当初、アッパーな曲で来るのかなって思ってたんですよね。桑田さんってスタジオに来る途中にメロディ考え付いたら、とりあえずスケッチで録音することがあるんですけど、この時もメロディ忘れないうちにってサビのメロディーをちょっと歌って。その時のテンポ感がもっと早かったようなイメージがあったんですよね。サビだけみるとポップでさわやかな曲になってるんですけど、もっとアッパーな曲でくるのかと思ったらまたいい意味で意外性があって、最終的には逆にアッパーじゃないんだけどすごく夏っぽくなりました。

田家:ドリーミーな感じもありますしね。

中山:そう。だからその微妙な匙加減っていうのは桑田さんのマジックがあるなって印象です。

田家:『海のOh, Yeah!!』はDisc1が「“Daddy” side」、Disc2が「“Mommy” side」という思いがけない分け方でしたね。

中山:桑田さんやメンバーのみなさん、制作のディレクターのみなさんでいろいろ考えて作ったらしいんですけど、面白いですよね。最初は「何でマミーとダディーなんだろう?」と思っていたんですが、後から『海のOh, Yeah!!』(=生みの親)で「なるほど!」って。意外と気付くのが遅かったです(笑)

――♪エンディング

田家:40年っていうキャリアもすごいんですけど、40年の軌跡というんでしょうかね、下がってないでしょう。普通はデビューしてすぐにぼーんと注目されてなんとなく右肩下がりになっていくのに、サザンはそうじゃない。セールス的なことももちろんあるんでしょうけど、クオリティと言うんでしょうか。

中山:本当に40年って普通に考えても凄いハードだし、これだけ長く一線でやってこられる人たちっていうのはこれから出てくるのかなって思っちゃう。そういう凄みがありますよね。

田家:その40年の中の25年間をスタジオでご覧になってきていて、25年間でより凄くなってるところってどんなところでしょう。

中山:そうですね。やっぱり常に妥協しないし、やってることが古くならないというか、そういうところがすごいなあって思います。

田家:古くならないようにしている?

中山:してますね。桑田さん自体がそういうところに信念がおありですし、そこに向かってみんなが「じゃあ」ってついていく。その形ははっきりとできている気がします。明らかにそういうところに向かっていこうとしてるなっていう感じは40年になってもあるのかな。

田家:サザンはこの先どこに向かっていこうとしてるんでしょう?

中山:いやあ、それはもう桑田さんにしかわからないと思います(笑)

田家:最後に、5人のサザンオールスターズ担当エンジニアを代表して、サザン担当の誇りというのはなんでしょうか?

中山:本当に世界に誇れるバンドですし、こんなバンドもう出てこないと僕は思っています。その中で一緒に名作が作れたというのは誇りの極みだと思うので、それを最後まで汚さぬように頑張っていきたいなと思っております。

田家:それはファンにとっても同じかもしれませんね。ありがとうございました。

中山:ありがとうございました。


サザンオールスターズ「海のOh, Yeah!!」

海のOh, Yeah!!

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