Billboard JAPAN


Special

音楽プロデューサー 島田昌典 インタビュー

島田昌典 インタビュー

 aiko、いきものがかり、秦 基博、back numberなど、数多くのアーティストの楽曲アレンジおよびプロデュースを手掛ける島田昌典。チャートを通じて感じたこと、そしてヒット曲とは何なのかについて存分に語ってくれた。

シングルセールスだけでは見えない部分も多い

グッバイ・アイザック
▲ 「グッバイ・アイザック」MV / 秦 基博

??島田さんは普段チャートを、ご覧になりますか?

島田昌典:今、音楽の聴き方が配信やストリーミングなど大きく変わってきて、それにあわせて世の中の音楽シーン自体が大きく変わりました。インディーズでも面白いバンドがどんどん増えてきましたし、チャートに入らないけどライブ動員がすごく多いアーティストもいます。そういう意味で、音楽の幅がとても広がってきましたし、シングルセールスだけでは見えない部分も多くなってきたなあと感じています。

??Billboard HOT 100は、ご覧になりますか?

島田:常にチェックしているわけではありませんが、気になるアーティストがいた時、どれだけアメリカで人気があるのか知るために見ることはあります。あと、ジャパンチャートを見ていると、洋楽もたくさんチャートインしているんですね。洋楽ファンとしては、嬉しいです。

喜びの種
▲ 「喜びの種」MV / YUKI

??JAPAN Hot100には、シングルセールス以外に、ダウンロードやラジオ、ルックアップ、ツイート、そして6月3日からはYouTubeとストリーミングも取り入れました。

島田:先日、音楽ストリーミングサービスのAWAがスタートしましたが、日本でももっと増えてくると思いますし、他の国と同様にストリーミングが主流になる時代がくると思います。昨日もAWAのプレイリストを聴いていましたが、今まで出会わなかった曲にも出会えるし、そこから気になるアーティストをまた調べたり…。世界が広がりますよね。今までiTunesの自分のプレイリストの中だけだった世界が、誰かのプレイリストを通じて広がるのは楽しいですね。昔、CDショップで曲を探していたみたいに、ランダムに音楽がレコメンデーションされるのは、とても刺激的だし面白いです。

??新しいサービスの誕生というのは、島田さんのプロデュースの仕方にも影響しますか?

島田:そうですね。これからは売り方も、大きく変わっていくんだろうなと思っています。例えば誰が作ったプレイリストなのか、誰がオススメしている曲なのかが重要視される時代も来るのかもしれません。プレイリストも、どのシチュエーションで聴くためのプレイリストなのかなど、どんどん細分化されていってユーザーが気軽に選ぶような聴き方になるんでしょうね。そうなると、僕らはどうやってユーザーのアンテナに引っかかるかが重要になってきます。飽きられずに最後まで聴かれなくてはいけないわけですから。

花束
▲ 「花束」MV / back number

??作曲の仕方にも、影響がありそうですね。

島田:冒頭で興味を引かないと、どんどんスキップされちゃうだろうし、イントロが長いと早送りされる可能性も増えますよね。Aメロ前にサビを使う“サビ頭”などの手法は昔からありますが、もっとユーザーを意識するような作り方になるんだろうなと思います。そして、また新しいチャートも出てくるでしょうし、世代に合わせたチャートなど細分化されたチャートも出てくるかもしれませんね。

??ビルボードは、日米ともに“売上”=“市場”と考えるのではなく、ラジオやYouTubeなどの音楽との“接触”を通じて、売上に繋がる可能性のあるユーザーも含めて“市場”であると考えています。

島田:そうですね。CDが売れた結果以外にもSNSで今、話題になっている音楽というのは、とてもリアリティのある音楽ですもんね。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. チャートがどれだけプレイリストとして
    説得力があるかというのが重要
  3. Next >
チャートがどれだけプレイリストとして説得力があるかというのが重要

??今はアーティストのコアなファンだけがCDを買っているように感じます。でも、昔は流行っている曲が入っているCDを買うこともあったと思います。なので、ユーザーに共感されるようなソングチャートを作ることで、「このアーティストのことは知らないけど、すごく良い曲だし、買おうかな」っていう人が増えたらいいなって思っています。そんなプレイリストの役割として、チャートが活用されればなと思います。

島田:例えばチャートインしている曲が、ちょっとだけ音源を聴けたりするともっと楽しいんじゃないですか?

??6月3日からスタートしたチャートを解析できるサービスCHART insightでは、公式のYouTube動画を埋め込んでいます。

島田:気になった時に、すぐ聴けるっていうのはとても大事ですよね。

YOU
▲ 「YOU」MV / JUJU

??例えばPerfumeが好きな人が、Perfumeは今週2位だったけど、1位の乃木坂46の曲って、なんだろうって思えば、すぐ聴けます。もっと、みんなが色んな曲と出会えるチャートになればなって思っています。

島田:シングルセールスは多くなくても、武道館でライブができたり、人気のあるバンドもたくさんいます。そういうアーティスト達と、もっと出会える機会が増えると良いですね。CHART insightというサービスは、とても面白いサービスだと思いますが、パソコンを持っていない子も増えているので、スマートフォンやタブレットでの使いやすさが重要になってくるんじゃないかなと思います。さっきも言いましたが、チャートの上位だけでは見えてこないインディーズシーンのムーブメントとかを、SNSなどのデータを取りこむことで、リスナーに紹介していくみたいなことができれば面白いですよね。

??面白いですね。

島田:あとは、チャートをクリックすると、そのアーティストの公式サイトやFacebookに飛ぶなど、そのアーティストについて深掘りできたり、あとはそのアーティストと同じジャンルの別のアーティストの曲がリコメンデーションされたり、というようなプレイリストとしての機能が充実すると面白いかも。そうすると、もっと出会いが広がりますよね。多くの人に使っていただくことを考えると、チャートがどれだけプレイリストとして説得力があるかというのが重要なんじゃないでしょうか。チャートを見ると、チャートインしている様々な曲のことが気になって、聴いてみたいという気持ちになりますよね。その気持ちが冷めないうちに、どんどん深堀りできると面白いなって思います。どれだけ短い導線で、サクサク新しい曲と出会えるのか、そしてそれがスマートフォンで、どれだけ使いやすいのかが鍵になってくるんじゃないですかね。それでこそ、プレイリストだと思います。そして、そのユーザーの動きがチャートにもフィードバックできたら面白いかもしれませんね。

あとひとつ
▲ 「あとひとつ」MV / FUNKY MONKEY BABYS

??なるほど。ユーザーの閲覧履歴をチャートに反映するとなると、チャートハックされる可能性が出てきてしまいますが、個々のプレイリストのために閲覧履歴を活用するのは面白いかもしれませんね。そういうのを、アプリとして出せたら面白そうです。

島田:やっぱりチャートを見てワクワクできないと、単なる業界向けのサービスで終わってしまいます。なので、そういうプレイリストとしての機能が充実できると、よりユーザーが広がると思います。

??そうですね。法人向けのサービスも用意していますが、やっぱりまずはユーザーがこれを見て面白いって思ってくれないと意味がないなと思っています。

島田:あと、曲と曲をグラフで比較できるサービスもとても面白いので、曲どうしが競いあってる感じが、もっと出ると面白いかも。例えばこのグラフのポイントにアーティストの顔を載せるとか(笑)。ユーザー同士が比較できるのも良いと思いますが、ビルボードから見て面白い動きをしている曲どうしを、ピックアップして紹介してもらえれば、見ていて楽しいんじゃないかなって思います。

??面白そうですね。

島田:他には今、アナログレコードも流行っていますから、アナログでは何が流行ってるのかとかも見れると面白いかもしれませんね。ビルボードのサイトを見る人っていうのは、やっぱり洋楽も好きな方って多いと思うので、そのあたりの大人の層が興味のある部分も分かるチャートがあっても面白そうですよね。 今って、アナログを買うと配信のコードもついてきますから、便利ですよね。

??やっぱり、CDで買うよりアナログ買う方が単純にサイズも大きいしかっこいいですよね(笑)私達は、過去の米Billboard HOT100のデータもあるんですが、70年代や80年代のチャートって、とても楽しいですよね。

島田:そうですね。70年代や80年代に出てきた音楽って、全部新しかった。だから、その時代の音楽は今でも聞きますし、あの時代の音楽=ルーツじゃないですが、今でも聞いて参考にしています。非常に大事な年代だと思います。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. 良いものを作りたいという気持ちは、どの作品に対しても同じ
  3. Next >
良いものを作りたいという気持ちは、どの作品に対しても同じ

春夏秋冬
▲ 「春夏秋冬」MV / スガシカオ

??アメリカのチャートディレクターと話すと、「日本は音楽が売れないって暗い話ばかりするけど、こんなに音楽の楽しみ方が増えているのに、なんで?」って言っていました。

島田:アメリカは状況が違うんですね。

??今、アメリカではパッケージの売上は落ちていますが、ストリーミングが持ち上げているので、全体で見ると落ちている感じはしないそうです。ストリーミングが生活に根付いていて、家で聴いていた曲を、車でも会社でも同じものが聴ける。それって素晴らしいですよね。

島田:本当ですね。あとは、きちんとアーティストへフィードバックされるような仕組みを整えることが課題でしょうね。

??あの時代のチャートを見て楽しいと感じるように、私達は今のチャートを見て楽しいと思ってもらえるようなものを作っていけたらいいなと思っています。私たちは、チャートにツイート数も取り入れていますが、毎年3月になるとレミオロメンの「3月9日」が呟かれていたり、クリスマスにはクリスマスソングがツイートされていて、昔の曲もユーザーは忘れていないんだなって実感します。

島田:それは、シングルセールスだけだと見えない動きですね。今、カバー曲をリリースするアーティストがとても多いですが、カバーをきっかけに昔の楽曲が再び注目されて、今また新しいと感じられている。そして、それがTwitterなどのSNSを通じて見えてくるというのは、面白いですね。

??そうなると、ヒット曲とは何なんだろうというのは、常につきまといますね。島田さんがヒットしたなと、判断する基準はなんですか?

島田:やっぱりチャートに入ったり、自分のプロデュースしたアーティストがテレビに出演したりでしょうか。でも、先ほども言いましたが、最近はシングルセールスだけでは、そのアーティストが売れているのかどうかは分からなくなってきましたよね。少ない枚数でも上位に入れたりしますし、逆にチャート圏外だとしてもライブ動員や、それ以外のムーブメントで大きい影響力を持っているアーティストも数多くいます。ユーザーが、どんどん細分化されてきているのを感じます。

フルール
▲ 「フルール」MV / 近藤晃央

??でも、昨年は秦 基博さんの「ひまわりの約束」や、『アナと雪の女王』の「レット・イット・ゴー~ありのままで~」のように、細分化されたユーザーを乗り越えたヒット曲というのも生まれています。作り手として、ヒットを意識することはありますか?

島田:作り手としては、良いものを作りたいという気持ちは、どの作品に対しても同じです。どうやって聴いている人に伝えるかというのを一番意識して作っています。もちろん売れて欲しい、多くの人に聴いてほしいという気持ちで作り続けています。でも、EDMなどの新しいジャンルが生まれたり、若いアーティストたちが80年代のシティポップを逆に新しいと感じたりとかするのを逆に取り入れて作ったり、ということはしていますね。そういう意味で、今、流行っている曲を把握するのはとても重要なことだと思っていますし、流行っているものの半歩先を取り入れながら作っていくというのは意識しています。でも、だからといって振り回されないようにというのも心がけていますし、ブレない部分は常に持っていないといけないなと思っています。

??島田さんがプロデュースなさる時は、アーティストをプロデュースすることを意識されているのか、その楽曲を作ることを意識されているのか、どちらですか?

島田:もちろんケースバイケースですが、やっぱりアーティストが一番何をやりたいのかが大前提です。楽曲にすごく力がある場合は、この楽曲をより良くして、多くの人に伝えたいと考えますが、基本的にはアーティストのやりたいことを手助けすることを考えています。バンドだったら、バンドメンバーの顔が見えるような音作りを心がけたりしています。

関連キーワード

TAG