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2017/11/29

鍵盤男子(大井健/中村匡宏)『The future of piano』インタビュー ~UKロックの名曲もカバーする連弾デュオのメジャー初作に迫る

 ピアニストの大井健と作曲家/ピアニストの中村匡宏による異色のピアノ連弾ユニット、鍵盤男子が11月29日にメジャーデビューアルバム『The future of piano』をリリースする。中村によるオリジナル曲や、クラシックの曲に加えて、彼らのルーツでもあるオアシス、レディオヘッド、コールドプレイという“UKロック”のカバーも収録されたバラエティに富んだ内容は、メジャーという産業音楽シーンのど真ん中に飛び込んでいく彼らの意気込みが、そのまま反映されたかのよう。ガチのクラシック勢であり、クラシック・オタクでもある二人に、まずはその出会いから話を聞いた。初々しくも自信と希望に溢れた二人の言葉をぜひ読んでみて欲しい。

<鍵盤男子インタビュー>

――初歩的な質問になりますが、お二人の出会いはどのような形だったのでしょうか?

大井:もともと僕と彼は同じ音楽大学の先輩後輩なんですけど、僕が学校を卒業すると同時にレジェンドというオペラユニットのバックミュージシャンの仕事をはじめて、彼が途中から入ってきたんです。彼とは出会った時からウマが合うというか惹かれる部分があって、二人で弾き始めた時から「二人だけの音楽にも可能性があるな」と思ってました。

――ウマが合うと感じた部分を、もう少し具体的に言うと?

大井:僕は自他ともに認めるクラシック・マニアなんですけど(笑)、音大や音楽高校にいた時期もそれを分かち合うことが出来るひとがいなくて。それを求めていたところに彼が来たんです。

中村:大学でも、食堂の端っこの方でブラックな空気を出している人っているじゃないですか?(笑) 二人とも性格的に、大学ではそういう風には見られていなかったんですけど、ふとCDとかを聴いてる時に出る一言が「…!分かってるね!」みたいな(笑)。

――オタクの仲間を見つけた、みたいな(笑)。音大の人たちは精鋭揃いで、みんなクラシック・オタクなのかなというイメージもありますが。

中村:いやー…オタクはいるかも知れないんですけど、それも段階があって、僕たちはかなり“重たい”部類なんですね(笑)。もちろん、細かく言えば種類は違うんだけど、同じように音楽に愛着があって。同じような観点で音楽を見ることができる、というか。

――単に気が合うということではなくて、お互いにリスペクトできる関係性だったんですね。クラシックの場合、過去に膨大、かつ偉大なアーカイブがありますが、新しく作品を作る時に、それがプレッシャーになることはありますか?

中村:まず大前提として、いまのクラシックの作曲家は自分たちが一番だと思っています。それを言うと「ふざけるな!お前たちがモーツァルトより天才ってことか?」っていう人が必ずいるんですけど、その時にはよく医者の例えを話すんです。「じゃあ仮に、あなたが病気になったとして、200年前の超一流の医者と、現代の二流の医者、どちらに診て欲しいですか?」って。普段は意識しないけど、みんなが聴いているクラシックの曲って、実は200年も300年も昔の曲なんです。いまの作曲家は、みんなかなりの勉強量を経験しているので、自分たちの音楽には基本的にすごく自信を持ってます。僕はその中でも、かなり調子に乗った人なので、いつかはベートーヴェンやモーツァルトより優れた作曲家だって思われないといけないなと思ってます。やっぱり、ベートーヴェンの曲を全曲知っていて全曲分析して自分の中に入れ込んで、他の作曲家の曲も知ってるのに、「ベートーヴェンより良くないね」って言われたら恥ずかしいですよね。

――なるほど。ピアニスト、演奏家の目線だとどうですか?

大井:ピアニストの話で言うと、フィギュアスケートに例えると分かりやすいんですけど、50年前より今の方が明らかに回転のスピードとかは上がってますよね? あるいは100m走とかもそうで、過去を経験してフィジカルの面は格段に進化しています。でも、一方で芸術性って面白くて、僕は50年前のピアニストの演奏も好きで、よく聴くんです。その人が経験した、その時代の全ての先端のものを、命をかけて演奏している。その“強さ”みたいなものに、いま聴いても、すごい圧力や情熱を感じるんですね。自分も現代のピアニストとして、過去の人に比べればテクニカルな意味での流暢さ、みたいなものは自信を持ってます。でも、音楽性とか芸術性は、時代ごとに良いものはあるっていう考え方ですね。

中村:あとは圧倒的に聴衆の側も、色んな音楽を聴く機会が身近にあるじゃないですか?そういう意味では、我々の方が“戦い慣れ”してると思いますね。

大井:一昔前だったら、なかなか観られなかったような演奏とかも、今は1クリックで観られて、小さい子とかもそれを観て練習するから、クラシックは世界的にすごくレベルが上がってますね。

中村:悪い意味で言うと、多くの人に好かれる演奏が求められる中で、突き詰めたものとか、尖ったものとかは生まれづらくなっているかも知れません。そこが難しいところですよね。

――なるほど、よく分かりました。では、少しずつアルバムの話にも移りましょう。新作は、お二人の熱意のこもった非常にテクニカルなアルバムですが、作曲のプロセスはどのような形になっているのかすごく気になりました。最初に譜面は全部書くんですか?

中村:そうなんです。そこは僕たちの強みで、楽譜を細部まで作って読むことができるので、まずは全ての音符を書いて再現して、そこからインプロビゼーションの香りを入れていくというか。指の動きとかに合わせて、その人の音楽をどんどん足していく感じなんです。この間、「The future of piano」の、プロジェクション・マッピングとピアノ演奏を組み合わせたMVが公開されたんですけど、普通のピアニストは毎回ちがうプレイをするので、プロジェクション・マッピングと指が合わないんですよね。押したところが光るわけじゃないので。そういう意味では、こういう畑から出てきたユニットならではのMVなのなのかなと思いました。

大井:そういう意味では、すごくクラシカルなプロセスだよね。ちゃんと楽譜を作って、まずは100%再現して、そこから崩す。

中村:そういうことが出来るのも、お互いに作曲とピアノが専門っていう、このユニットのちょっとした新しさなのかな、と思いますね。

――カバー曲では「bolero」や「威風堂々(pomp and circumstance)」のようなクラシック曲の思い切ったアレンジも印象的でしたが、やはりレディオヘッドやオアシスのUKロック勢のカバーに驚きました。

中村:アレンジって原曲より良くないと意味ないですよね。原曲を聴けば良いので(笑)。歌がない楽器だけで、どうやってそれをやるのか、というのが重要で、そのために日本的な情感を加えてみたりとか色々と工夫をしました。「creep」もそうですね。僕はレディオヘッドの音楽を聴いていると、環境音というか、ものすごく色んなギザギザした音が聴こえるんですね。その音楽の渦みたいなものを、ピアノというすごく整音された楽器でどこまで表現して、なおかつ、あの美しい旋律を引き立てるのか、っていうのは、すごく意識しましたね。後は、この人がすごく好きなので……

大井:僕はレディオヘッドが大好きなんですよ(笑)。「creep」ってファンからしたら「よりによってこの曲? あれは手がつけられないだろ」みたいな曲ですよね。でも、単純に自分がすごく好きな曲だったし、ピアノカバーもあんまり見たことがなかったし。何より、単純にあの曲の世界でピアノを弾いてみたいな、と思って提案しました。

――(笑)。実際に弾いてみて、どうでしたか?

大井:いやー、ライブだったら昇天しますね(笑)。

一同:(笑)

中村:後は「creep」の良さも改めて分かったよね。もちろん歌詞とか旋律とか歌声も良いんだけど、音楽の持ってる精神性みたいなものがすごく価値があるんですよね。音とかそれだけじゃなくて。だからこそ、違う楽器でも再現できるだろうなって。

――今作は中村さんのオリジナル曲も多く収録されていますよね。大井さんは好きな曲はありますか?

大井:純粋に快感だったのは二番の「power toccata」ですね。フィジカル的な意味ですごく気持ちよく弾けました。他のピアニストの人たちも、弾いたら楽しいと思います。

中村:これはすごいよね!

――アルバムの二曲目という曲順がピッタリの曲ですよね。あと、個人的には「言わなきゃよかった、なんてちっとも思ってないくせに・・・」がすごく良いなと思いました。この曲はJ-POP的というか、街で流れていても違和感なく風景に溶け込みそうな曲ですね。

中村:嬉しいです! はじめて言われた…

大井:僕は評価してたよ?(笑)

一同:(笑)

中村:いや、楽曲も青春チックだし、タイトルもタイトルなので(笑)、自分でも「良いでしょ?」って言いづらかったんですよね。でも、実は家でヘビロテしています。クラシック的な話で言うと、優れた作曲家とそうじゃない人の差って、引き出しの数って言われているんですね。で、あれば僕も、現代の作曲家として、それぞれの曲に色んなキャラクターを分けて書きたいなと思っていて。この曲は思いっきりJ-POPに挑戦みたいな感じで、かつ、かなり“人間っぽく”書きましたね。

――頭で書くのではなく?

中村:そうですね。あとは歌詞とかが載っても良いだろうなっていうメロディーで書きましたね。いつか誰かに歌って欲しいんですよねぇ…。


◎リリース情報
アルバム『The future of piano』
2017/11/29 RELEASE
WPCS-13739 3,024円 (tax in.)

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