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<インタビュー>「データの向こう側には、人の心がある」——BookLive福田執行役員が語る、電子書籍のマーケティング【WITH BOOKS】

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Interview & text: 高嶋直子
Photo: 筒浦奨太

 電子書籍市場はこの10年で6,846億円規模まで拡大し、同時に競合が乱立する飽和状態を迎えた。広告費を投下すれば勝てる時代は終わり、各社は「なぜそのストアに来るのか」という理由づくりを迫られている。2011年のサービス開始から15周年を迎えた「ブックライブ」。昨年、博報堂・オラクル・JTB・学研を経てBookLiveに参画した執行役員マーケティング本部長の福田晃仁氏は、この一年で顧客データの基盤をいちから立ち上げ、読者1人ひとりの「買い方」に目を向ける体制を築いてきた。生成AIによって企画開発のコストと時間が劇的に圧縮されるなか、それでも最後に残るものは何か。データの向こう側にある「人の心」について聞いた。

BookLiveグループ電子書籍事業、22年間の変化について

――BookLiveグループの電子書籍事業は昨年12月で22周年を迎えました。この22年での変化について、お伺いできますでしょうか。

福田晃仁:22年を振り返ると黎明期があって、成長期があって、今に至るという形ですが、特にここ10年は電子書籍業界全体が大きく成長しました。十数年前からすると、予想できていなかったほどです。10数年前は紙が主体でしたから、インターネットで本や書籍を読み続けるということ自体に、まだ現実味がありませんでした。音楽業界も同じ変化を辿られたと思いますが、著作権周りをどうするのか、ビジネススキームをどうするのかという議論からスタートした状態でした。そこからの、急激な発展を遂げたマーケットになります。

――福田さんは2025年にご入社されました。これまでのご経歴と、BookLiveが期待した役割についてお聞かせください。

福田:もともとは博報堂グループに所属し、ECサイトの立ち上げと分析に携わってきました。ECサイトを使うことって今でこそ当たり前ですが、20年ほど前は、車と洋服と本はインターネットで買われることはないというのが社会一般の通念だったんです。

私が所属していた頃は、ちょうどインターネット広告の予算が新聞やテレビを上回るクロスポイントの時期でもありました。インターネットになると、いくらかけていくらリターンになったのかがクリアになってしまう。そこで、業界に集まる人たちのバックグラウンドや専門性が一気に変わりました。計測可能な時代になり、ECサイトをちゃんとやらねば、CRM(Customer Relationship Management)もやらねば、データをどう扱うんだ、という機運が生まれた。世界で一番データを持っている会社はオラクルで、博報堂としてオラクルのサービスを担ぐ交渉役をになった縁で、最終的にオラクルに移りました。

その後、JTBでは「データサイエンスセントラル」という横ぐし組織を立ち上げ、「データドリブン・サークル」という概念を構築し、その後学研に入りました。学研ではCMOとCDOを務めましたが、これまでずっと「システム」と「マーケティングコミュニケーション」の両面をやることをテーマにしていました。

ブックライブではこれまでの施策が、一言で言えば広告寄り、獲得寄りだったので、コミュニケーションやCRM、データで何かを見るという領域を強化していきたい、という理由でお声がけをいただきました。

――入社されて、まず何から着手されたのでしょうか。

福田:まず、入社当初はCDP(Customer Data Platform)、BI(Business Intelligence)、MA(Marketing Automation)という、モダンマーケティングの三種の神器と言われるしくみの整備から取り掛りました。2025年の後半期から、わずか半年の間で三種類の実装を垂直立ち上げしています。

CDPには、いつ、どんな漫画を何時に買って、何時に開いて、何時に読み終えているのかというデータが入っています。当然、具体的に誰かはわかりませんが行動情報が全部溜まっていく。たとえば、ある漫画を読み始めて、途中で止まっている人がいる。21巻で止まっている人と、25巻の人に異なるアプローチを人力でやるなんて、不可能ですよね。状況に応じたメールを送って、リンクをタッチしてくれたら次はこう、してくれなかったら広告で追いかける。中身も価格訴求とキャンペーン訴求で出し分けて、反応が良かったほうを残りのユーザーにも送る。これらを自動でやる仕組みがMAです。これはいわゆる読了状況に応じた個別施策と言いますが、こうした条件分岐を、数百シナリオ分つくっていきます。

――なぜ、広告投下による獲得競争から抜け出す必要があったのでしょうか。

福田:それまでは、広告の高度化によって顧客を獲得していくというのが基本でした。広告の高度化と、出版の血を引いたプロダクトアウトのビジネススキーム、このセットで成り立ってきたんです。ただ、広告は投下費用で戦うところがあるので、費用を投下した分が当然有利になる。その投下金額競争からどうやったら逃れられるのか、を考えなければいけなかったのです。

ひとつは獲得効率を変えずに広告投下額を下げること。もうひとつは一度獲得した人たちとコミュニケーションを始めよう、となる。誕生日にお礼を伝えるといった接点を積み重ねることで、1回きりで終わっていた人が3回、4回と使ってくれるようになる。このおもてなしの領域が手薄だったんです。課題感としては社内でも持たれていたのですが、そこに手をつけられる専門家がいませんでした。

――データを見ることで、これまで見えていなかった読者像が見えてきた、と。

福田:これまで、当社はプロダクトアウトの視点でリアルの本屋さんの気分があった。定番の作品や週刊誌をお店に置いて、来てくださった方に買っていただく。ただ、これは売る側の論理で、購入者側には購入者を主語にした論理があります。いつ頃になるとこういうものが読みたくなって、過去にこういうものを読んでいたからこれが好きで、世代的にこういう環境で育ったからこれが見たくなる。その時期も、読み方も、お客様によって全然違うわけです。


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  1. 「異世界読者のリアルな買い方と、AI時代のマーケティング哲学」
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異世界読者のリアルな買い方と、AI時代のマーケティング哲学

――具体的に、どのような読者像が浮かび上がってきたのでしょうか。

福田:売上で大きなものでいうと、異世界というジャンルですね。このジャンルに限っては非常に特徴的な買い方をされていて、異世界が好きな方は、ほぼ異世界モノを中心に買い続ける。こういう特定のジャンルのファンの方と、王道マンガのタイトルを買う方は全く購入する理由が違います。であれば、お客様にあったコミュニケーションを設計するべきだよね、と。これまでのプロダクトアウトとは逆のマーケットインという思想です。それを両立させるのが、方針のひとつでした。

――そこから生まれたのが「異世界コンプリートマップ」ですね。

福田:特徴的な買い方をされる方たちに向けて、異世界のガジェットを提供しようというものです。異世界モノは、月の新刊/続巻を合わせると数百タイトルになり、さらにカテゴリは、「成り上がり」「無双チート」「スローライフ」「王道」といったかたちに大きく分かれます。これらを大量に買い続けるコアファン層は、もはや読み切れない量を購入している。であれば、どのくらい読んでいて、まだ読んでいない本がどのくらいあるかを可視化することにしました。

さらに一定数を超えると、これが実はレベルゲージになっていて、「物語の果てを見しもの」など20種類ほどある称号を獲得できます。コンプリートすると称号がどんどんすごい名前になっていく。これをガジェットとして提供することで、数あるブックストアの中でブックライブに来る理由を作りました。

――今年はAIを業務に取り入れる企業が一気に増えました。御社ではこうした企画開発に、AIをどのように使われていますか。

福田:いくつかありますが、一番大きいのは企画開発です。従来のやり方だと、「異世界コンプリートマップ」のようなものを1個作るのに、企画から開発まで半年ほどかかっていました。それが今は、ディスカッションしながら開発していくという形まで昇華させています。コストはほとんど削減できましたし、企画が会議中にモックとして出来上がっていくというスピードでAI開発をしています。当然、AIで作ったものはそのままリリースできませんが、以前と比べれば企画検討の工程が格段にスピードアップしました。

だからこそデータから捉えた顧客像、顧客心理のインサイトに対して、どんなコミュニケーションを仕掛けるか?その重要性がものすごく高まってきていて、そこを固めていこうというのが今、取り組んでいることです。

市場が数千億円規模になると、競合も乱立して、一定の飽和状態を迎えます。そうすると今度はシェア争いになる。世の中にたくさんのスーパーがあり一見品ぞろえは同じですが、それでも流行るスーパーはありますよね。そこには、行く理由がある。広告をたくさん打てば勝てる時代ではなくなったので、その理由を作ろう、と。そのためにデータとAIを活用しています。

――我々は音楽チャートを出していますが、電子書籍業界には、各社のデータを横断した業界全体のチャートが今のところありません。あったほうが、外側からお客さんに来ていただけると思われますか。

福田:チャートが音楽業界でどこまでの役割を果たしているかは存じ上げませんが、我々が顧客として捉えているセグメントは今、おそらく100前後になるのではないかと考えています。この中に、チャートを重視する層と、重視しないセグメントがあると思います。

たとえば、「女性だけれども男性向け漫画を買う比率のほうが高い」、という方たちがいます。その人たちには、メジャー化する少し前の作品を知りたいというインサイトがあって、そういうチャートがあったら見たい、となる。ですから、一般的な売れ筋ランキングがあったとしても、響かないでしょう。売れ筋ではなく、自分の買い方に合っているチャートであれば、ものすごく求められる層がいる。つまり、セグメントによって求められるチャートが異なる、ということかと思います。

――最後に、こうした時代の中で、読者のデータやデジタルマーケティングはどういう役割を果たすとお考えでしょうか。

福田:私は、「データの向こう側」という言い方をしています。データの向こう側には、それを生成している人がいて、その人の心がデータに落ちている。データの向こう側には人の心がある、と考えていて。データを分析するのではなくデータを解釈し、その人の心と企業体がどうやってコミュニケーションするか?が、テーマです。

生成AIが進化していく中で、手段や戦術の部分はすでに自動化されています。今は戦略すら考えてくれるものが出てきています。ですが最後に残るのは、企業体が、そういう心を持っている人たちに対して何を仕掛けるかという判断です。だからこそ、企業のフィロソフィーが、すごく重要だなと。ブックライブの持つ、「クリエイターの価値向上とファンコミュニティの醸成、そしてグローバル・デジタル・エンターテイメントカンパニーへの飛躍」という、自分たちのビジョンは何だったんだっけというところに立ち返らないといけない。安く売りたい、新しいジャンルを教えてあげたい、といった個別の話は当然あるのですが、その前に、我々のフィロソフィーは何かということに、常に立ち返るようにしています。

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