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<インタビュー>アップフロントワークス×NexTone ハロプロ3,219曲「サブスク超解禁」はいかにして実現したか(前編)

インタビューバナー

Interview: 西廣智一
Photo: 筒浦奨太

 2026年2月13日、ついにサブスク全面解禁されたハロー!プロジェクト関連楽曲。「ハロプロサブスク超解禁」と銘打って展開されたこの一連のプロジェクトは、ファンの間ではもちろんのこと、ハロプロファンを公言する著名人たちが作成したプレイリスト公開も手伝い、大きな反響を呼んだ。

 2024年から段階を踏んで解禁された1,841曲に加えて、新たにモーニング娘。などの時代を彩る名曲1,378曲が追加。合計3,219曲の音楽アセットをどのように整備していったのか。仕掛け人である株式会社アップフロントワークス代表取締役の橋本慎氏、解禁に向けた実務を中心となり担当した元レコード事業部の長岡花音氏、そしてデジタルコンテンツのディストリビューション業務を受け持った株式会社NexToneの佐藤礼理氏、近藤郁里氏へのインタビューを交えて、その舞台裏に迫る。

30周年を見据えた一斉解禁というタイミング

――2024年からハロー!プロジェクトの楽曲を、段階的にサブスクで解禁してきましたが、なぜこの2026年のこのタイミングに一斉解禁に踏み切ったのでしょう。

橋本:時代の流れとしては、うちはサブスクリプションに関しては相当遅かったほうなので、「どこかで全解禁をしないと」という思いは常にありました。それが2026年解禁に結びついたのは、やっぱり来年でモーニング娘。が30周年とか、再来年でハロー!プロジェクト自体も30周年を迎えるということ。その大きな節目のタイミングに向けて、やることにしようかとなりました。

――約30年分の楽曲となると、膨大な量になりますよね。

橋本:そうですね。今回の一斉解禁の前、2024年はごく限られた一部を配信し、2025年の1~3月にはハロー!プロジェクトを卒業したメンバーの作品であったり、ハロー!プロジェクトの中でもちょっと昔のものやすでに解散や活動休止をしているグループの作品を、段階的に配信したりと、そこは長い時間をかけて、長岡をはじめとするスタッフが中心となって準備はしてきたので。とはいえ、実際に投入するとなると、それはそれで大変だったと思います。そこもNexToneさんと一緒に取り組んできたので、NexToneさんの作業も膨大だったと思いますよ。

佐藤:いえいえ。こちらこそありがとうございました。


株式会社アップフロントワークス 橋本慎

――橋本さんの耳には、例えばユーザーからのリアクションだったり、それこそハロプロメンバーの皆さんからの反響というのは入ってきていますか?

橋本:ユーザーの皆さんからは、ずいぶん以前から「早く配信して」という声が届いておりましたし、もちろんメンバーも含めた各所からもありました。そういう意味では、今の時代としてはサブスクリプションは必須のものというか、我々も含めて音楽に触れ合うツールとしては当たり前すぎるほど当たり前のもので、かつ人はどんどん便利なものに流れていくというか、サービスのいいものや使いやすいものに移行していくのは必然の流れ。ユーザーの方々もCDとサブスクリプションサービスはまったくの別ものとして捉えていたり、別の使い方で接しているのかなと思いますし、我々もそこはまったく別のものだと考えているので、我々の音源の公式データベースとしてもサブスクは非常にありがたい存在になっている。例えば、打ち合わせのときに過去の曲が必要になったら、わざわざCDからリッピングしてデータにしなくても、サブスクに接続すればいいわけですしね。そういう意味でも、我々もちゃんと提供できるようになってホッとしています。

長岡:だいぶデジタル化が進んでいる今、ハロプロに関してはだいぶお待たせしていた状況なので、想像していた以上にいろんなところで反響があって。ハロプロメンバー自身もファンの皆さんと同じくらい待ち望んでいたので、「やった!」って感じでしたし、ファンの皆さんも「もはや解禁されないんじゃないか」ぐらいの感覚で応援してくれていたので、「ついに解禁するんだ!」と喜びとともに驚きもあったようです。


株式会社アップフロントワークス 長岡花音

佐藤:まさに長岡さんがおっしゃっていただいた通り、タレントの皆さんがたぶん一番嬉しいんじゃないかな、という気がしていて。今ってサブスクでどうのこうのというようなプロモーションも然りですけど、SNSを起点として動かしていくことになったときに、自分の楽曲がそのラインナップにないことって結構つらいと言いますか。

そこでついに解禁ができたことによって、プロモーションや自身を表現する幅が非常に広がったんじゃないかなと、解禁されたあとのアーティストさんの動きからよく見えるので、そういったところはすごく効果的に進んだのかなという気はしています。

――僕も30年来のファンなので、「黒船が来たぞ!」とテンションが上がりました。

佐藤:逆に、ほかのいろいろなアーティストの皆さんが解禁している中で、ハロプロはずっとされなくて、ここで一気に解禁したのもプロモーションとしてはすごく強いなという気はしていて。そこの波が一段落ついてからの解禁というのも、プロモーションとしてはすごく効果的だった気がします。

――全解禁に向けたプロモーションのコンセプトなどは、事前にどのようなことを考えていましたか?

橋本:まずは、タイミングをいつにするかですよね。最初は1月1日にしようかと言っていたんですけど、それは主要サービスの各社から「お正月休みなので、いろいろ対応が難しいかもしれない」という声が上がりました。その後「じゃあ、2月14日のバレンタインデーはどうだろう?」という意見も出たのですが、正月と同じような理由で「できれば土日を避けていただけると」というリクエストもあり、だったら多くのアーティストが配信日に選ぶ金曜にしようということになり、配信日が2月13日に決まりました。

次に、いつから情報告知するか。うちは毎年1月2日からコンサートをやっているので、そこを情報解禁日にしようかという話もありましたが、「こういうデジタルものは告知から配信まで1か月空いてしまうと、みんな忘れてしまうので、直前にしたほうがいいです」と、これも各サービスの皆さんからご指南をいただいて、配信数日前の2月9日に告知することも決まった。で、告知する際に何かインパクトのあるタイトルを打ち出したいなということで、クリエイティブ面でよくご一緒している博報堂ケトルの北野篤さんにこの企画を投げたところ、各ジャケットを並べた画像に「ハロプロサブスク超解禁」というコピーが付いたメインビジュアルが上がってきて。なるほど、これだったらシンプルにわかりやすいよねと。そこから全3,219曲という数字を含めて、バンと打ち出せるというところに行き着いたわけです。

で、特設サイト作成を含めた作業を年末から急ピッチで進めつつ、ハロプロファンを公言する著名人の皆さんやハロプロを卒業したメンバー、現役メンバーにプレイリストを作ってもらう企画も同時に進行させて。結果として100人以上の方のプレイリストが集まるわけですが、一斉解禁以降は新しい情報がなかなか出ないところで連続性を持たせることもできた。これができたのも、約30年にわたる歴史を持つハロプロならではの強みだと思います。


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フィジカルとサブスクは「別もの」――収益構造の考え方


左から、株式会社アップフロントワークス 長岡花音、橋本慎、株式会社NexTone 佐藤礼理、近藤郁里

――配信するということは、収益にも繋げていけないといけないわけですよね。そこについてはどのように考えていましたか?

橋本:収益化は正直言って、長期的に見ないとわからない部分もありますけど、もちろんやらないよりはやったほうが収益になるので。かつ、これは先行してやられている各メーカーさんもそうだし、いろんなところからも話を聞きましたが、基本的にCD、いわゆるフィジカルとサブスクおよびデジタルは競合しない。もちろん、僕ら自身もフィジカルとサブスクは別ものだと思っていて、CDなどのフィジカルは基本的に推し活を収益化するアイテムで、サブスクは単純にファンではない方も含めて楽曲に触れ合うチャンス。1曲あたりの単価は低いですけれど、それが最終的に集合体として収益に繋がるので、構造が全然違うわけです。CDを買っていただくとリリースイベントに参加できるなどの特典があるので、ファンの方々はそこに意義を見出しているし、サブスクでは新曲が先行配信されたらそれを聴くとか用途が異なっていて、どちらでも収益化できる。今はそういう複合的な時代になってきたわけです。

――解禁に向けた準備も相当大変だったかと思います。

長岡:そうですね。プロモーションする上で段階的に解禁してはいましたけど、改めて曲数をカウントしてみると3,000曲を優に超えている事実に、自分でも驚きました(笑)。まず曲のリストアップから始まるわけですが、もちろん社内で管理しているものではあるので、0から1からみたいなことではないですけど、グループによっては正規のグループ以外に派生ユニットもたくさんあるので、それをさらっていくのは大変なところではありましたね。NexToneさんとはダウンロード配信のみでやっていたときから一部をお願いしていたんですけど、すべての素材を納品済みだったわけではないので、そこを納品するところから始まって。だいぶ時間がかかりました。

佐藤:とはいえ、決まってから結構短期間で準備していただきましたよね。

長岡:そうでしたね。こちらからも急ピッチでお願いをして。

佐藤:準備が一番大変だったかもしれません。メタデータの整備というのはすごく重要で。その部分をきれいにまとめていただいたのは本当にありがたかったですし、私たちもそれに対して「こうしたほうがいいんじゃないか?」みたいな提案ができたのが、ひとつよかったかなと思います。

長岡:デジタル化が当たり前になる前の楽曲とか素材が多いので、例えば昔だったらアーティスト写真とかジャケット写真はポジだったので、その頃の画像はデジタル化はしているけどちょっと粗かったり、サイズが小さかったりというのもあって。それを今の時代に合わせた素材にするには、どう準備しようというところもあったりして大変でした。

――そのへんのやり取りだったり調整というのは、どうやって進めていったんですか?

長岡:とりあえず、手元にあるものを一旦投げて、「これはちょっと小さいから、どうにかできますか?」とか「ほかにありますか?」というのを精査していただいて、そこから「じゃあどういうふうにしようか」と社内でまた確認して、それをまたNexToneさん側で確認してもらうということを繰り返しました。

――NexToneさん側としては、いただいたデータを整理する際、普段のやり方とは違った取り組み方もしたんでしょうか?

近藤:先ほど長岡さんがおっしゃったように、母体になるユニットと派生ユニットがあるので、CDだと好きなように文字で表現ができるんです。でも、デジタルだとデジタルなりの表現の仕方があって。アーティスト名をきれいに揃えて表示させるために、楽曲名にそのユニットで歌っている方のお名前を入れるというのは、今デジタルだけでやっている方たちの中にはあまりないんですね。なので、そのユニットがあって、CDがあって、着うたとかそういう時代も含めてメタデータを整備するとなると、どういう形でお名前をきれいに表現するべきかとか、そこは結構気にしていました。


株式会社NexTone 近藤郁里

長岡:例えば、タンポポとかミニモニ。とかは、派生ユニットの中でもリリースが多かったので、単独のアーティストページを作ろうということになりましたけど、あか組4などの1回限りのシャッフルユニットは1曲しか出していないので、そこまで細かくアーティストページを作ってしまうと数がありすぎて、ファンの人が探しに行くのは大変かなというのもあって。そこはアーティストページをハロー!プロジェクトという形にして、トラック名の後ろに参加メンバーとか派生ユニット名とかを書く形にしようという案にたどり着くまでが、結構大変でした。

佐藤:いろんなパターンありますからね。これは配信サービスの都合によるところもありますけど、配信サービスによってレギュレーションが全然違っていて、我々が「こういうふうにしたい」と言っても、こっちのサービスはダメ、あっちのサービスはOKとかそういう中で、じゃあどれが正解なのかをすごく考えていただいて。そこはうまくできたかなとは思います。中でも、特に意識したのは、モーニング娘。の年号表記についてですね。

――2014年以降、モーニング娘。は年号が変わるのに合わせて「モーニング娘。'14」「モーニング娘。'15」とグループ名末尾の年表記が変わりますものね。

佐藤:はい、年号が違えば中の人たちにも変化が生じるので、アーティストイメージにどの写真を使うのか、その擦り合わせもありました。また、「モーニング娘。」の歴代楽曲を一つにまとめる為にどのような登録をするのが、ファンの皆様により良い形になるのかを一番に検討した結果が今の表示方法だと思ってます。

――アンジュルムの前身グループ、スマイレージの扱いについてはどのように考えたのでしょう。

長岡:同じグループとしてカウントして表示させるべきか、そこはもうしっかり区分けをするべきか、いろいろ考えたんですけど、別ものとは言わないものの、今のアンジュルムの活動の方向性を考えるとそこは分けておいたほうがいいのかなと思い、あえて分けさせてもらいました。

――30年分の活動を振り返ると、派生ユニットの数も膨大になるはずなので、素人ながらに本当に大変な作業だったんだろうなと想像します。

長岡:単純な派生ユニットだけならまだいいんですけど、たまに2人だけで歌っているとか、そういう曲もあるので、アーティスト名だけで考えると本当にすごいですよ(笑)。


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ユーザーが楽曲にたどり着くための工夫


株式会社NexTone 佐藤礼理

――マーケティング上、ユーザーがどう探しに行くかは一番重要になりますよね。

佐藤:そうなんです。コアなファンの方々なら検索の仕方を理解してたどり着けると思うんですけど、そうではないライト層を取り込みたいと考えたときに、「曲名は覚えてないんだけど」という求める1曲を探すために何をしたらいいのか。そこは今回の解禁において、一番意識したところでもあります。

長岡:それこそ曲数が多いので、例えば「LOVEマシーン」とか「恋愛レボリューション21」とか皆さんが知っているような曲ではなく、当時聴いていた記憶はうっすらあるけど、曲名もユニット名もわからない。そういう場合に芋づる式でいろいろな曲へとたどり着けるのは、とても便利じゃないかと思います。

――素人目線の考えなんですけど、グループによっては本当に人数が多いから、例えばメンバー名で検索してしまう人も中にはいると思うんです。そういう場合には、どういうイメージを持ってますか?

佐藤:それでいうと、まさにトラック名の後ろにアーティスト名をしっかりと入れて、検索にも引っかかるようにするというような形で対応しています。

長岡:それこそソロ曲だったり、ちょっとしたユニット曲にメンバー名が入っていたら、それだけを覚えていた人が母体のアーティストにたどり着けば、「あっ、そうだ。このグループだった!」と思い出せるのかなと。

――段階を踏んで解禁していく過程で、まず活動が止まっているグループやソロアーティストの配信を先にやっていたと思うのですが、そのことが今回の一斉解禁の何かヒントになったり、作業する際に役立ったりしたことはありましたか。

佐藤:プロモーション的なところでいうと、OGの方々がいらっしゃるM-line Musicの楽曲を解禁させていただいたときに、やっぱりサービス側の反応がすごく良くて。そこの展開を前向きにやらせていただきたいというようなお話は、すごくいただいたので、そこからサービス側から「現役の方々(の楽曲)はいつ出るんですか?」みたいなご相談をたくさんいただきました。そこで重要だったのが、私たちもいつ解禁かわからなかったんですけど、「今回出たってことはいずれあるかもしれないですね」という話をしていく中で、サービス側も準備を進めるわけですね。「じゃあ、本解禁のときにこういうふうにしていこう」みたいに検討していただける準備期間ができたのは、すごく大きいかなと思いますし、前段階を通じてサービス側全体に周知しつつ、心の準備ができていたというのが非常に良かったのかなとは感じました。


株式会社アップフロントワークス 長岡花音

これだったらなんかでわかりやすいよね

――あと、こういうケースに対応する際の、NexToneさん側での特殊なノウハウみたいなものってあるんでしょうか。

佐藤:いただいた情報をどれだけ早く、的確にサービス側に流すのか。そこで私たちができることというのはまさにメタの整備で、私たちができるプロモーションは正直そこまで大きい話ではないと思うんですね。ただ、それをどれだけ広められるかというのは、アップフロントワークスさんもそうですしサービス側もそうですし、そこが連携して動いていくことが重要で。世の中を動かすと言ったらちょっと変ですけれども、そういったところに向かっていく橋渡しがすごく重要かなと思っています。そういう意味で言うと、「こうしたほうがいいんじゃないか」という私たちの考えをちゃんとサービスに伝えて、時にはアップフロントワークスさんに提案させていただいて進める。これまで解禁してきたアップフロントさんの楽曲以外のところで培ったノウハウを、すべて集約してご案内していくというところが当社としての強みにはなっているのかなという気はしています。

長岡:我々としては、サブスクを遅ればせながら始めるはいいけど、初めて過ぎてルールとか、それこそ他社さんがどのようにプロモーションを展開しているのかもわからなかったので、いろんな意見を聞かせてもらいながら、良き方向に誘導してもらいましたし、すごく勉強になりました。

――後編は11月6日(金)18:00に公開


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